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はじまり
ああ、お腹が空いた。
死ぬ前にあの人に会いたい。
目の前に置かれた魚を見ながら思うのは、空腹とあの人に会いたいことだけ。
痛い思いをしてでも生き残ろうと思ったのは、あの人に会いたかったから。
肉を噛んで噛まれて、骨を砕いて砕かれて、最後の一匹にまで生き残ったのはあの人に会いたかったから。
あの人は”はな”と名付けてくれた。
”はな”は鳥を獲って、”はな”は水が顔に跳ねるのが嫌いだったからあの人が魚を獲って、分け合って生きてきた。
あの頃はお腹を空かせていても幸せだった。
あの人がいるから幸せだった。
あの人は大丈夫だろうか?
”はな”が連れて行かれる時、あの人の悲鳴と血の匂いがした。
忘れるもんか。
あの人を忘れたりするもんか。
あの人のところに帰るんだ。
跳ね返された日の光が目を射る。
あの人に会いたい。