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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
98/126

第九十八話 あなたと見る世界

「…‥…‥このままじゃやばいな」

「…‥…‥はい」

戦局を見据えた春斗の言葉に、カケルのキャラの攻撃を避けた優香は動揺を伝えないように努めて平静を装う。

「今生の固有スキル、『ヴァリアブルストライク』をあえて使わないことで、『クライン・ラビリンス』を撹乱させることができるはずだった」

春斗は咄嗟にそう言ってため息を吐くと、困ったように輝明達に視線を向けた。

「だけど、実際は逆に、『クライン・ラビリンス』に裏をかかれてしまったな」

「そうですね。『ラグナロック』と違って、チームメンバーの人数が同じ分、りこさんの固有スキルに対しての対応が円滑でした。恐らく、りこさんの固有スキルを使っていたら、硬直状態の時を狙われて状況はもっと悪化していたかもしれません」

問いかけるような声でそう言った春斗に、優香は軽く頷いてみせる。

「はあ…‥…‥。『クライン・ラビリンス』の方は、問題が山積みだな」

コントローラーを握りしめた春斗は、額に手を当てて困ったように肩をすくめてみせる。

三対三とはいえ、俺達はあかりのーー宮迫さんの固有スキルしか残っていない。

そして、俺のキャラの体力ゲージは極少まで減っている。

「この不利な状況から脱するには、何か作戦を立てる必要があるな」

春斗は感情を抑えた声で淡々と言う。

しかし、思い悩んでも、なかなかいい作戦が思いつかなかった。

春斗が焦ったように肩を震わせたーーその時だった。


「優香、春斗くん、あかりさん、頑張って!」


りこの強い気概が、春斗達の耳朶を叩く。

「今生」

「ーーっ」

「りこさん」

りこからの思わぬ声援に、振り返った春斗とあかりと優香がそれぞれ驚きの表情を浮かべる。

そのタイミングで、コントローラーを置いたりこが、躊躇いがちに春斗達に声をかけてきた。

「優香、春斗くん、あかりさん。その、ごめんね」

「何がだ?」

りこの意外な言葉に、春斗は思わず、不思議そうに首を傾げる。

だが、あっさりと告げられた春斗の言葉に対して、りこは不満そうにむっと眉をひそめた。

「むうー。だから、りこ、最初に負けてしまってごめんね」

「いえ、りこさんが『クライン・ラビリンス』の注意を引き付けてくれましたから、私は今回のバトルでは、春斗さんの援護に回ることができました」

その場で屈みこみ、唇を尖らせるという子供っぽいりこの仕草に、優香はくすりと笑みを浮かべた。

「ああ、すごく助かった」

「ありがとうな、今生」

「…‥…‥う、うん」

優香に続いて告げられた、春斗とあかりの言葉に、立ち上がったりこは面喰らったように目を見開いた後、徐々に赤くなる顔を誤魔化すかのように俯く。

「優香、春斗くん、あかりさん、ありがとう」

春斗達の賞賛の言葉に、りこはほんの少しくすぐったそうな顔をしてから、幸せそうにはにかんだ。

だが、すぐに状況を思い出して、顔を上げたりこは表情を引きしめる。

「春斗くん、『クライン・ラビリンス』はしっかりとした連携が取れたチームだよ。かなり安定した強さを発揮しているから」

「いや、それは分かっているけれど」

りこの意外な助言に、春斗は困ったように眉をひそめる。

「けれど、『ラグナロック』には二度、負けているんだからね」

「…‥…‥あっ」

りこの思惑に気づいた優香の瞳が見開かれる。

「それも分かっているけれどな」

しかし、りこの意図が分からなかった春斗が困ったように頭を悩ませる。

その様子を見て、優香はため息をつくと、朗らかにこう言った。

「春斗さん。『クライン・ラビリンス』は最強のチームと言われていますが、『ラグナロック』と同じように対抗することができます」

「なっ?」

狼狽える春斗をよそに、優香は率直に続ける。

「『ラグナロック』が、麻白さんの固有スキルで『クライン・ラビリンス』の牙城を崩したのなら、私達は別のことで対策を練っていきましょう」

優香の言葉を引き継いで、りこは人懐っこそうな笑みを浮かべて告げた。

「そうそう。例えば、あかりさんの固有スキルで必殺の連携技を連続で放つ、とかねー」

「な、なるほどな」

「確かに、その手はありかもな」

りこの思いもよらない提案に、春斗とあかりは不意をうたれように目を瞬く。

「この作戦のポイントは、あかりさんの固有スキルを使った上で、確実に相手に必殺の連携技を連続で当てられるかにかかっているよ」

「なら、連続で必殺の連携技を放つ相手はやっぱり、花菜さんか、カケルさんだな」

「輝明には避けられそうだよな」

意外だが、どこまでもりこらしいまっすぐな作戦に、春斗とあかりは困ったように苦笑する。

「はい。そうすれば、この不利な状況から脱することができるはずです。あかりさんは今、花菜さんと戦っています。でしたらーー」

「あかりには、まず花菜さんに対して必殺の連携技と固有スキルを使ってもらう方がいいな。そして、もし、最初の必殺の連携技で、花菜さんを倒したのなら、次はカケルさんに必殺の連携技を放ってほしい」

優香の言葉を引き継いで、春斗はきっぱりと言った。

「あかり、頼むな」

「あかりさん、お願いします」

「りこ、頑張って応援するね」

「ああ」

春斗達の期待に応えるように、あかりのキャラは一気に花菜のキャラへと距離を詰める。

「ーーっ」

接近してきたあかりのキャラに対して、花菜のキャラは手にした大鎌を迷いなく振り下ろす。

花菜のキャラの大鎌によって、剣を弾かれたあかりは静かに視線を巡らせた。

花菜は戦姫の名を冠した、モーションランキングシステム内で四位という実力者だ。

その相手に必殺の連携技を二度、放つ。

もしくは必殺の連携技を放った後、離れた場所にいるカケルのキャラにも必殺の連携技を放つ。

そして、その全てを相手に確実に当てる必要がある。

かなりの難題だが、何とかするしかないなーー。

なら、次に花菜が仕掛けてきた時に、上手く奇襲をかけるしかない。

完全な自然体のまま、そう画策したあかりは油断なく、花菜のキャラを見据えた。

「これで終わらせる」

「ーーっ」

短い言葉とともに、大鎌を構えた花菜のキャラが近接する。

しかし、最短で繰り出した上段からの一振りはーーあかりのキャラを捉えなかった。

「ああ、そうだな」

代わりに、あかりのキャラの斬撃が、背後から襲いかかってきた。

花菜のキャラは手にした大鎌で斬撃を受け止めると、あかりのキャラをぐいと押し出した。

「くっーー」

予想外の行動に態勢を崩したあかりのキャラに合わせて、花菜は必殺の連携技を発動させる。

『ーー冥星のプレリュード!!』

「ーーっ!」

大鎌の最上位ランクの必殺の連携技。

半径を描くように上段から斬り下ろし、下段からの斬り上げを経て、花菜のキャラは踊るように、左右からあかりのキャラを斬り刻む。

「必殺の連携技!?」

必殺の連携技による大技に、あかりは驚愕の表情を浮かべる。

だが、体力ゲージがぎりぎりのところで踏み止まったことを確認すると、あかりは硬直状態に入った花菜のキャラに乾坤一擲のカウンター技を放つ。

『ーーアースブレイカー!!』

あかりのーーあかり達の起死回生の必殺の連携技が放たれる。

「ーーっ、あかり、負けないから!」

「俺も負けない!」

音もなく放たれた一閃が、硬直状態が解除された途端、剣を押しとどめようとしていた大鎌ごと、花菜の操作するキャラを切り裂いた。

致命的な特大ダメージエフェクト。

体力ゲージを散らした花菜のキャラは、ゆっくりとあかりのキャラの足元へと倒れ伏す。

「あかり、今だ!」

カケルに攻撃を避けられたことへの動揺を残らず吹き飛ばして、春斗は叫ぶ。

「ああ!」

春斗の声に応えるように、あかりはすかさず、自身の固有スキルを発動させる。

あかりの固有スキル、『オーバー・チャージ』。

自身、または仲間キャラの状態異常を解除する固有スキルだ。

「させない!」

「ーーっ」

それにより、あかりは必殺の連携技を放った反動である硬直状態を解除すると、春斗のキャラに連携技を放とうとしていたカケルのキャラに正面から一撃を浴びせた。

『ーーアースブレイカー!!』

言葉とともに、あかりが間隙を穿つ。

瞬間の隙を突いたあかりのキャラの必殺の連携技に、ターゲットとなったカケルのキャラもまた、まっすぐに攻撃を繰り出した。

『フローライト・セイバー!!』

あかりのキャラの必殺の連携技に合わせるように、カケルのキャラの刀が振るわれる。

連携技の大技と連携技の大技。

一進一退の中、あかりとカケルの必殺の連携技が同時に放たれた。

しかし、先程の花菜とのバトルの影響で、あかりのキャラは体力ゲージを先に散らしてしまう。

逆に、カケルのキャラはぎりぎりのところで体力ゲージを残した。

「二対二か」

「ここが正念場ですね」

春斗と優香はそう言い合うと、弾かれたように輝明とカケルのキャラへと向かっていったのだった。

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