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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
95/126

第九十五話 最強のチームを目指して③

「兄さん、姉さん、すごい人だね」

当夜に車椅子を押されて、ゲームセンターにたどり着いた優希は、感慨深げに周りを見渡しながらつぶやいた。

当夜に連れられて訪れたのは、大型のショッピングモール内にあるゲームセンターだった。

元プロゲーマーのチームによる模擬戦があるということで、『チェイン・リンケージ』のプレイヤーの参加者達はもとより、各地から集まった観客の数も半端なかった。

「本当、すごい人だよな」

優希の言葉に、当夜は頷き、こともなげに言う。

そんな彼らのあちらこちらから、他の参加者達と観客達の声がひっきりなしに飛び込んでくる。

その様子をよそに、花菜は周囲を窺うようにしてから、こそっと小声で輝明に尋ねた。

「輝明は、ゲームセンターには来たりする?」

「ああ、たまにな」

「…‥…‥デート先、ゲームセンター、大丈夫」

輝明の言葉に、花菜はほとんど表情を変えずに持っていたノートにそのことを記載する。

「それ、書く必要あるのか?」

「大事なデート先。いざという時に役に立つ」

当夜のつぶやきを、花菜は耳聡く拾い上げた。

反射的にこれ以上、突っ込まない方がいい判断した当夜は、周囲を伺っていた優希に話を振る。

「そ、そうなんだな。なあ、優希。確か、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会は、個人戦か、チーム戦、どちらかしか出られないんだよな?」

「うん。少しでも多くのプレイヤーが参加できるようにするための運営側の配慮らしいよ」

じっと考え込んだ当夜に、車椅子を動かしていた優希は表情を引き締める。

「その配慮のせいで、布施尚之、阿南輝明、強いプレイヤーはみんな、個人戦への参加を決めてしまっているんだよな」

「そうだね」

察しろと言わんばかりの眼差しを突き刺してきた当夜に、優希は困ったようにため息を吐いた。

「黒峯玄に関しては、自らチームを結成しているらしいからな」

「黒峯玄…‥…‥」

当夜が発した何気ない言葉に、輝明が反応する。

「知っているのか?」

「前に一度、オンライン対戦をしたことがある」

「オンライン対戦!」

予想外の言葉を聞いた影響で、当夜はやたら鼓動の早い胸を無意識に押さえる。

「ああ。黒峯玄から対戦の申し込みをしたいというダイレクトメッセージをもらったからな」

当夜の驚きに応えるように、輝明が独り言のようにそう答えた。

「そ、そうなんだな」

輝明が、玄とオンライン対戦をしていた。

その当たり前のように告げられた事実に、当夜は今まで知らなかったことを悔やむように、ぐっと辛そうに言葉を詰まらせる。

「くっ…‥…‥。阿南輝明と黒峯玄のバトル、見たかった」

「さあ、お待たせしました!ただいまから、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の模擬戦を開始します!」

当夜が悔しそうに物思いに耽っていると、突如、イベントステージに立っている実況の声が、ゲームセンター内に響き渡る。

実況の模擬戦開幕の言葉に、観客達はヒートアップし、万雷の歓声が巻き起こった。

「この模擬戦は、今話題になっている元プロゲーマーのチームと対戦することができます!」

「おおっ!」

「すげえ!」

盛り上がる客席に、実況がスタッフ達に、照明をステージで控えていたチームに対して照らすように指示する。

「以前、プロゲーマーとしての経験を持つ方がリーダーのチームです。さあ、我こそはというチームは是非、挙手をお願いします!」

「俺達のチーム、挑戦したい!」

「私達のチームも挑戦したいです!」

場を盛り上げる実況の声と紛糾する参加者達の甲高い声を背景に、当夜はまっすぐ前を見据えた。

元プロゲーマーが、リーダーのチーム。

そして、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦で戦うことになるかもしれないチームか。

「かなり手強そうだな」

「輝明の方が強い」

不合理と不調和に苛まれた混乱の極致の中で、当夜はまじまじと元プロゲーマー達と挑戦者達のバトルを見つめる。

しかし、固まったようにじっと一点を見つめる花菜はゆっくりと瞬きをした。

「ーー実力は分かった。もういい」

ステージ上のバトルを観戦していた輝明は苦々しい顔で、当夜達を睥睨して言う。

「おい!」

「布施尚之を倒したことがある元プロゲーマーと聞いていたが、大したことはなさそうだ」

当夜の言葉を無視して、輝明は踵を返すとその場から立ち去ろうとした。

「ま、待て!俺達もーー俺達、『クライン・ラビリンス』も挑戦する!で、チームリーダーはこいつな!」

「なっーー」

当夜は咄嗟に挙手をすると、間一髪入れずに輝明をリーダーへと任命する。

「僕は、こんなイベントには参加しない」

「そうか」

輝明がふてぶてしい態度でそう答えると、当夜は意味ありげな表情で花菜と優希を見た。

「なら、おまえは元プロゲーマーには勝てないって認めるんだな。なあ、姉さん、優希」

「輝明なら、勝てると思っていたのに」

「僕、輝明さんのバトル、見たかった」

「ーーっ」

姉弟間で行われる不可解なやり取りに、輝明は虚を突かれたように瞬く。

「うるさい!」

「私、輝明と一緒にゲームがしたい」

苛立ちの混じった輝明の声にも、花菜は淡々と表情一つ変えずに請う。

「阿南輝明ーーいや、輝明もいいよな?」

「…‥…‥分かった。ただし、今回だけだ」

当夜の即座の切り返しに、輝明は仕方なさげにため息をついた。

ざわつく観客達を背景に、実況が輝明達、『クライン・ラビリンス』と元プロゲーマー達のチームの紹介をしていく。

「姉さんから聞いているかもしれないけれど、俺は高野当夜。よろしくな」

「僕は高野優希です」

「…‥…ああ」

身じろぎもせず、じっと輝明を見つめ続ける当夜と優希に、輝明は重く息をつくと肩を落とした。

ステージに立った輝明はステージ上のモニター画面に視線を向けて、コントローラーを手に取った。

遅れて、当夜と花菜もコントローラーを手に取って正面を見据える。

「では、レギュレーションは一本先取。最後まで残っていたチームが勝者となります」

「今回限りで終わらせたりはしない」

決意のこもった当夜の言葉が、場を盛り上げた実況の言葉と重なる。

「絶対にチーム戦に移行させてやる」

当夜の言葉と同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けた。


ーーバトル開始。


対戦開始とともに、先に動いたのは当夜達だった。

当夜のキャラが地面を蹴って、元プロゲーマー達との距離を詰める。

迷いもなく突っ込んできた当夜のキャラを視界に収めた瞬間、元プロゲーマーは早くも連携技を発動させた。

ほぼタイムラグなしで発動させた連携技。

逆手に持った斧にのせて放った一閃が、当夜が操作しているキャラを襲う。

「…‥…‥くっ」

間一髪で難を逃れた当夜は、元プロゲーマーが操作しているキャラへとさらなる追撃を放とうとした。

「ーーっ!」

しかし、元プロゲーマーのキャラが突き入れた斧が、当夜のキャラが振るう剣をあっさりと押し止めてしまう。

剣を振り下ろそうとする当夜のキャラの剣の動きに合わせ、元プロゲーマーは絶妙な力加減でさらに当夜のキャラへ肉薄する。

剣と斧のつばぜり合い。

当夜と元プロゲーマーのバトルは、元プロゲーマーが優勢に事を運んでいるようにも思えた。

だが、状況は、割って入ってきた輝明のキャラが、元プロゲーマーの操作するキャラを弾き飛ばしたことで一転する。

「輝明、すまない」

率直に感謝の意を述べた当夜を見て、輝明はため息とともにこう切り出してきた。

「元プロゲーマーは、僕一人で倒す。当夜、花菜、おまえ達は他のチームメンバーがバトルに参戦してこないように徹底的に叩き潰してこい」

「わ、分かった」

「…‥…‥うん。後のことは、輝明に任せる」

静かな言葉に込められた有無を言わせぬ強い意思。

輝明の凛とした声に、当夜と花菜はたじろぐように退く。

「当夜、花菜、後の二人は任せた。そしてーー」

輝明の真剣な表情が、一瞬でみなぎる闘志に変わる。


「元プロゲーマー。おまえ達のチームに、僕がーー僕達が勝ってみせる!」

「くっ!」


赤い焔と紫紺の炎が、西洋風の雰囲気を全面に醸し出した巨大な宮殿の中央でぶつかる。

同時に、当夜と花菜も仕掛け、遅れて参戦してきた他のチームメンバー達のキャラと対峙した。

ステージの中央でぶつかり合った輝明と元プロゲーマーは、一合二合と斬り結び、一旦、距離を取る。

「ーーっ」

だが、すぐに答えを求めるように、輝明のキャラが一瞬で間合いを詰めて、元プロゲーマーのキャラへと斬りかかる。

輝明のキャラが繰り出した斬撃を前にして、元プロゲーマーのキャラはあっさりと切り裂かれてしまう。

輝明の立ち回りに、元プロゲーマーは次第に追い詰められていった。

「あいつ、やっぱりすごい奴だったんだな」

当夜は、そんな輝明のバトルを見て心を踊らせる。

そこにいるのは、ただのプレイヤーではない。

どんな状況からでも決して負けない最強の剣豪。

当夜達が羨望の眼差しで見た『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で二位のプレイヤーだった。

「姉さん」

「当夜?」

表情一つ変えずに振り返った花菜に、当夜は意図して笑みを浮かべてみせた。

「後の二人には余計な真似はさせない。今度こそ、徹底的に叩き潰す」

当夜がきっぱりとそう言い放つと、花菜は一瞬、表情を緩ませたように見えた。

無表情に走った、わずかな揺らぎ。

そして、無言の時間をたゆたわせた後で、花菜はゆっくりと頷いた。

「…‥…‥分かっている。今回の私達の相手は、元プロゲーマー以外の人達だから」

「やれやれ。姉さんらしいな」

そんな花菜のリアクションに、花菜の隣に立った当夜はため息をつくと愉快そうに言った。

当夜のキャラの攻撃に対して、絶妙な間合いを保ったまま、花菜のキャラは間断なく攻撃を繋いでいく。

当夜と花菜の波状攻撃によって、元プロゲーマーと同様に他のチームメンバー達も押されていった。

「くっ、これならどうだ!」

「ーーっ」

輝明のキャラがさらに追撃を入れようと踏み込んだところで、元プロゲーマーは輝明のキャラに必殺の連携技を放とうとした。

だが、苦し紛れに繰り出した元プロゲーマーの反撃は、ぎりぎりのところで、輝明のキャラに回避されてしまう。

「なっーー」

元プロゲーマーが驚きを口にしようとした瞬間、輝明は超反応で、硬直状態になった元プロゲーマーのキャラに乾坤一擲のカウンター技を放つ。

『竜牙無双斬!!』

「ーーっ!?」

音もなく放たれた輝明のキャラの必殺の連携技が、元プロゲーマーのキャラを切り裂き、わずかに残っていた体力ゲージを根こそぎ刈り取った。


『YOU WIN』


システム音声がそう告げるとともに、巨大モニターに『クライン・ラビリンス』の勝利が表示される。

「つ、ついに決着だ!なんと勝ったのは、『クライン・ラビリンス』!!」

興奮さめやらない実況がそう告げると、一瞬の静寂の後、認識に追いついた観客達の歓声が一気に爆発した。

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