表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
89/126

第八十九話 嵐のように駆け巡る

『ラグナロック』は、『クライン・ラビリンス』に匹敵する力を持った、最強と称されているチームである。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式サイト上で散々、噂されていたことは、結果的に事実となった。

玄のキャラと攻防を繰り広げた後、春斗のキャラの正面から、大輝のキャラが大鉈を振るってくる。

反射的に春斗は自身のキャラの武器である短剣で、『ラグナロック』のさらなる猛攻を迎え撃とうとして、その瞬間、再び接近してきた玄のキャラに受けようとした短剣ごと深く刻まれた。

斬りつけられた春斗のキャラは、少なくないダメージエフェクトを放出していた。

「…‥…‥強い」

直前の動揺を残らず消し飛ばして、春斗がつぶやく。

コントローラーを持ち、ゲーム画面を睨みつけながら、春斗は不意に不思議な感慨に襲われているのを感じていた。

ーーさすがに手強いな。

ーーでも、面白い。

言い知れない充足感と高揚感に、春斗は喜びを噛みしめると挑戦的に唇をつりあげた。

「これが、第ニ回、第三回公式トーナメント大会、チーム戦の優勝チームの実力なんだな」

答えを求めるように、春斗のキャラが一瞬で間合いを詰めて、玄のキャラへと斬りかかる。

「ーーっ」

迷いのない一閃とともに、春斗のキャラの強烈な一撃を受けて、玄のキャラはわずかにたたらを踏んだ。

「春斗さん!」

「春斗くん、ここはりこにおまかせ!」

春斗にとって、予想外な彼女達の声は遅れて聞こえてきた。

「ああ」

春斗の了承に、絶妙な間合いを保ったまま、優香とりこのキャラは間断なく攻撃を繋いでくる。

「玄!」

「大輝、ありがとう」

優香とりこの波状攻撃を前に、大輝のキャラが横から割り入って玄のキャラをフォローした。

その練度の高い連携に、春斗は驚愕の眼差しを送る。

「三対二でのバトルだというのに、あの時と同じように全く歯が立たないな」

言いたかった言葉を見つけた春斗はそう言うと、真剣な眼差しで玄達を見つめた。

一方、麻白と対峙していたあかりも苦戦を強いられていた。

あかりのキャラが地面を蹴って、麻白のキャラとの距離を詰める。

迷いなく突っ込んできたあかりのキャラに合わせ、麻白のキャラはあえて下がらず、自身の武器であるロッドを振る舞った。

「ーーっ!」

ロッドから放たれた一撃を、上体をそらすことでかわしたあかりのキャラは、視界を遮る風圧に剣による反撃の手を止めた。

「やるな、麻白」

「あかりもすごく強いよ」

あかりが態度で褒めてくると、麻白は当然というばかりにきっぱりと告げた。

彼女らしい反応に、あかりはふっと息を抜くような笑みを浮かべるとさらに言葉を続ける。

「でも、勝つのは俺達だからな!」

「ううん、勝つのはあたし達だよ!」

あかりと麻白は互いに向かい合うと、不敵な表情を浮かべながら、しばし睨み合った。

「春斗くん、優香、何かいい作戦とかある?」

「ないな」

「ないですね」

りこの問いかけに、春斗と優香は玄と大輝による再三の緊密な連携を避けながら即答する。

「麻白の固有スキルを使わせることには成功したけれど、まだ玄と大輝の固有スキルが残っている。逆に、俺達は俺の固有スキルのみだ」

「そうですね」

問いかけるような声でそう言った春斗に、優香は軽く頷いてみせた。

頭を悩ませる春斗達をよそに、りこは人懐っこそうな笑みを浮かべて続ける。

「なら、りこが考えた作戦、実行に移してもいい?」

「何かいい方法があるのか?」

「そうそう」

春斗がかろうじてそう聞くと、りこは吹っ切れた言葉とともに不敵な笑みを浮かべた。

「名付けて、陽動作戦!」

「そのままだな」

「むう。りこ、これでも一生懸命、考えたんだからね~」

春斗から指摘されると、りこはそれまでの明るい笑顔から一転して頬をむっと膨らませる。

その場で屈みこみ、唇を尖らせるという子供っぽいりこの仕草に、優香はくすりと笑みを浮かべた。

「なら、陽動はーー」

「でしたら、私が玄さんを誘い寄せます」

なら、陽動は俺がする。

そう告げる前に先じんで言葉が飛んできて、春斗は口にしかけた言葉を呑み込む。

首を一度横に振ると、代わりに春斗は焦ったように優香に言った。

「おい、優香!」

「玄さん達に対抗できるのは、春斗さん達だけです」

目を見開く春斗に、優香は当然のことのように続ける。

「私は、春斗さん達の力を信じていますから」

「優香…‥…‥」

春斗が呆れた大胆さに嘆息すると、優香は祈るようにコントローラーを握りしめて穏やかに笑ってみせた。

「陽動は、りこがするつもりだったのに…‥…‥」

「そ、そうだったんだな」

「そうだったんですね」

りこが不満そうに肩をすくめてみせると、春斗と優香は顔を見合せて困ったように苦笑したのだった。






「春斗さん、りこさん、後はお願いします」

言葉と同時に、優香のキャラは方向転換して、あかりのキャラがいる場所へと走り出しそうとする。

「見るのはそちらか?」

「玄さん!」

だが、言葉とともに、一瞬で接近してきた玄のキャラが間隙を穿つ。

瞬間の隙を突いた玄の一閃に、ターゲットとなった優香のキャラはダメージエフェクトを散らしながらも、ここぞとばかりにメイスを振りかざして、必殺の連携技を発動させる。

『ーーメイス・フレイム!!』

だが、優香の必殺の連携技による反撃は、ぎりぎりのところで、玄のキャラに回避されてしまう。

「…‥…‥あっ」

次の瞬間、優香は息をのんだ。

対峙していた玄のキャラが、不意に弛緩したように大剣をあっさりと下ろしてきたからだ。

優香が戸惑う中、玄のキャラはそこから一歩踏み込むと、硬直状態に入った優香のキャラに向かって高速の突きを放った。

優香は何も出来ないまま、大剣の刃先が届いていないのにも関わらず、自身のキャラが斬りつけられるのを目の当たりにする。

何の障害もないように大剣に斬りつけられ、体力ゲージを減らした優香のキャラは、硬直状態が解除された後、反射的にメイスで反撃しようとして、その出先を大剣の柄に押さえられた。

たまらず、バッグステップで距離を取ると、優香のキャラが後退した分だけきっちり踏み込んだ下段斬り上げを見舞わされる。

斬りつけられた優香のキャラは、少なくないダメージエフェクトを放出していた。

「りこさんの作戦どおり、玄さんの固有スキルーー相手に風の刃を放つ、烈風斬を使用させることには成功しましたが、これ以上は厳しいですね…‥…‥」

自身のキャラの体力ゲージを見て、優香が辛そうにぽつりとつぶやく。

「優香!」

優香のキャラの体力ゲージが、危機的なレベルに達していることに気づいたのだろう。

焦ったりこのキャラが、優香のキャラがいる場所へと走り出しそうとする前にーー、一瞬で大輝のキャラに近接されてしまう。

「悪いけれど、りこの相手は俺だからな」

「むう!りこは急いでいるんです!」

あっさりと告げられた大輝の言葉に対して、りこは不満そうにむっと眉をひそめた。

「なら、それを止めるのは俺の役目だな」

「やったー!りこの作戦、大成功だよ!」

「はあ?どういう意味だよ?」

少しも動じないりこに、大輝は不服そうに冷めた視線を送る。

すると、りこは当然というばかりにきっぱりとこう答えた。

「りこ達が勝つっていう意味!ねえ、春斗くん!」

「今生らしいな」

「なっーー」

大輝にとって、予想外な彼の声は遅れて聞こえてきた。

驚きとともに振り返った大輝のキャラに、春斗は再度、とっておきの技を合わせる。

『ーー弧月斬・閃牙!!』

「ーーっ!」

『短剣』から持ち替えた『刀』という予想外の武器での一撃に、大輝は思わず目の色を変えた。

春斗の固有スキル、武器セレクト。

それは、自身の武器を一度だけ、自由に変えることができる。

『ラ・ピュセル』のチームリーダーである春斗が、ここぞという時に放った土壇場での必殺の連携技を前にして、大輝は完全に虚を突かれた。

「なっ!」

しかし、驚愕する大輝を穿つ春斗のキャラの一撃は、ぎりぎりのところで体力ゲージを残した。

大輝の固有スキル、コルネリア・オート。

致命的なダメージを受けた際、コントローラーを操作することで自身の体力ゲージをぎりぎりのところまでで押さえることができる。

それを確認すると同時に、大輝は春斗のキャラの必殺の連携技の終息に合わせて、必殺の連携技を発動させる。

『ネフェルティティ・ブレイク!!』

「ーーっ」

連携技の大技後のーーさらなる大技。

大輝の必殺の連携技の発動に、キャラが硬直状態になった春斗は驚愕の表情を浮かべたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ