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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
85/126

第八十五話 いつまでもそこにいてほしかった

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマー。

その実力を、春斗達は今回のバトルで否応なしに目の当たりした。

春斗では対応できない速度で繰り出された鋭い剣閃。

「ーーっ」

「春斗さん!」

その一閃を、春斗のキャラは優香のキャラのサポートによって何とか防ぐ。

「春斗、天羽ーーっ!?」

超速の乱舞を繰り出すありさの父親のキャラに、後方から戦闘に加わってきたあかりのキャラも春斗達のキャラと一緒に吹き飛ばされてしまった。

「それならーー」

春斗も負けじと勢いもそのままに半回転し、自身のキャラの武器である短剣を叩き込んだ。

しかし、電光石火の一突きは、ありさの父親のキャラの剣にあっさりと弾かれてしまう。

「くっーー」

春斗のキャラがありさの父親のキャラの迎撃によって直撃を受けると、優香のキャラのサポートを受けたあかりのキャラが斬撃を繰り出す。

『ーー弧月斬・閃牙!!』

しかし、あかりの攻撃に続くように、春斗が直前で、短剣から刀に変化したことによって速度を変えた必殺の連携技は、ありさの父親のキャラの剣さばきによって防がれてしまう。

その強さに、春斗は途方もなく心が沸き立つのを感じた。

ーー三対一でのバトルだというのに、まるで玄や布施尚之さんと対戦した時と同じように歯が立たない。

やり場のない震えるような高揚感を少しでも発散させるために、春斗は拳を強く握りしめる。

「…‥…‥強いですね」

直前の動揺を残らず消し飛ばして、優香がつぶやく。

コントローラーを持ち、ゲーム画面を睨みつけながら、春斗は不意に不思議な感慨に襲われているのを感じていた。

ーーさすがに手強い。

ーーでも、面白い。

言い知れない充足感と高揚感に、春斗は喜びを噛みしめると挑戦的に唇をつりあげた。

「これが、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーの実力なんだな」

答えを求めるように、春斗のキャラが一瞬で間合いを詰めて、ありさの父親のキャラへと斬りかかる。

春斗のキャラが繰り出した斬撃を、ありさの父親のキャラは剣で凌ごうとしてーー刹那、ありさの父親は春斗が頬を緩めていることに気づいた。

「優香!」

「ーーそれを待っていました」

そう口にした春斗のキャラの背中から現れたのは、メイスを振り上げた優香のキャラだった。

「ーーっ」

しかし、完全に虚を突いた二人の攻撃を前にして、ありさの父親はあえて下がらずに前に出た。

「なっーー」

春斗が眉をひそめる中、ありさの父親のキャラはそこからさらに一歩踏み込むと、春斗と優香のキャラに向かって連携技を放った。

ダメージエフェクトを散らした春斗達のキャラに対して、ありさの父親はさらに必殺の連携技へと繋げる。

『エンゼル・プレセイル!』

先程の連携技の終息に合わせて、ありさの父親のキャラは跳び上がった。

回転しながらの高速斬り上げが、青いエフェクトをまといながら円の形をとる。

エフェクトはありさの父親の父親のキャラが着地すると同時に消えたが、その間にエフェクトをまとったありさの父親のキャラは縦方向に蹂躙しながら、春斗達のキャラを軒並み吹き飛ばす。

それぞれ別の場所へと吹き飛んだ春斗達のキャラは、少なくないダメージエフェクトを放出していた。

『ーーアースブレイカー!!』

硬直状態に入ったありさの父親のキャラに対して、背後に回り込んだあかりのキャラは必殺の連携技を繰り出す。

「ーー!」

音もなく放たれた一閃が、ありさの父親の操作するキャラを切り裂いた。

特大ダメージエフェクト。

しかし、体力ゲージぎりぎりのところまでで何とか凌ぎきられてしまう。

「春斗さん!」

吹き飛ばされたことで、がくんと体勢を崩した春斗のキャラに、硬直が解除されたありさの父親のキャラがさらに追撃を入れようと踏み込んだところで、優香はありさの父親のキャラに一撃を放とうとする。

だが、苦し紛れに繰り出した優香の反撃は、ぎりぎりのところで、ありさの父親のキャラに回避されてしまう。

「…‥…‥っ」

次の瞬間、優香は息をのんだ。

春斗のキャラと対峙していたはずのありさの父親のキャラが、自身のキャラに対して、大上段から大剣を振り落とす姿を目の当たりにしたからだ。

カウンターのカウンター。

体勢を立て直し、大上段から振り下ろされたありさの父親のキャラの一閃が、わずかに残っていた優香のキャラの体力ゲージを根こそぎ刈り取った。

「くっ…‥…‥!」

瞬間の隙を突いたありさの父親のキャラの一撃に、ターゲットとなった優香のキャラが体力ゲージを散らすのを目の当たりにしながらも、春斗は咄嗟に必殺の連携技を発動させる。

『ーー弧月斬・閃牙!!』

「ーーっ!」

真正面から一人で挑んできた春斗のキャラに、ありさの父親は目の色を変えた。

『ラ・ピュセル』のチームリーダーである春斗が、ここぞという時に放った土壇場での必殺の連携技。

『エンゼル・プレセイル!』

春斗の繰り出した必殺の連携技に対抗するように、迎撃体勢に入ったありさの父親は必殺技の連携技を再度、放つ。

互いの必殺技の連携技がまさにぶつかりあおうとしてーー刹那、ありさの父親はあかりのキャラがこちらに接近していることに気づいた。

『ーーアースブレイカー!!』

春斗のキャラの必殺の連携技に合わせて、あかりの起死回生の必殺の連携技が同時に放たれる。

音もなく放たれた二人の剣閃が、ありさの父親の操作するキャラを切り裂いた。

必殺の連携技を同時に受けるという、致命的な特大ダメージエフェクト。

体力ゲージを散らしたありさの父親のキャラは、ゆっくりと春斗とあかりのキャラの足元へと倒れ伏す。


『YOU WIN』


システム音声がそう告げるとともに、春斗達の勝利が表示される。

一瞬の静寂の後、認識に追いついた観客達の歓声が一気に爆発した。

「よしっ!」

「やりましたね!」

「やったね!」

あかりと優香とりこの三人が、それぞれ同時に別の言葉を発する。

「…‥…‥勝った」

春斗は噛みしめるようにつぶやくと、胸の奥の火が急速に消えていくような気がした。

同時にフル回転していた思考がゆるみ、強ばっていた全身から力がぬけていく。

「春斗くん」

「霜月さん」

名前を呼ばれてそちらに振り返った春斗は、コントローラーを置いたありさが必死の表情で春斗達を見つめていることに気づいた。

ありさは既に、麻白の姿から元の姿に戻っていた。

「お父さん、すごかったよね」

「ああ。正直、圧倒されたな」

「うん。お父さんのように強くなることが、私の目標だから」

春斗の同意が得られて、ありさはほっとしたような、でもそのことが寂しいような、複雑な表情を浮かべる。

「とにかく今度、対戦する時はもっと強くなってみせるから!」

「俺達も負けないからな!」

春斗とありさは互いに向かい合うと、不敵な表情を浮かべながら、しばし睨み合った。

「ありさ、すまない」

「ううん、お父さん、すごくかっこよかった」

「ありがとう」

ありさの父親の言葉に、ありさの頬はとある期待を抱くように紅潮している。


『…‥…‥ねえ、お父さん。私、お父さんのような、かっこいいオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーになりたい。だけど、全然勝てないの』

『そうか。なら、一緒に特訓するか?』

『…‥…‥うん』


思い出すのは、ありさの父親からアドバイスしてもらった時の会話。

ありさは意を決したように、あの時と同じーーだけど、別の言葉を口にした。

「…‥…‥ねえ、お父さん。私、お父さんのような、かっこいいオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーになりたい。だから、お父さんも諦めないで」

それは予感なんて優しいものじゃなかった。

ありさの父親が浮かべているのは、あの時と何も変わらない決意に満ちあふれた笑顔。

きっとそれは、ありさが待ち望んでいたもの。

ありさの父親がプロゲーマーを解雇させられてから、ずっと待っていた言葉。


「望むところだ。オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーになって、春斗くん達、『ラ・ピュセル』とは『エキシビションマッチ戦』でリベンジしてみせるな」


「うん。お父さんなら、絶対になれるよ」

ありさの父親が幾分、真剣な表情で言うと、ありさはきょとんとしてから弾けるように手を合わせて笑った。

まるでまた、あの少年の魔術にかかったみたいだった。

絶対に叶う夢がないように、絶対に叶わない夢もない。

それは、いつか家族が思い描いた夢の果てで、夢の出発点だった。

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