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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
84/126

第八十四話 太陽のような彼女に後押しされて②

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦、本選二回戦のAブロック。

春斗達、『ラ・ピュセル』とありさ達、『囚われの錬金術士』のバトルは今や、最高潮になっていた。そろそろ優越がはっきりする頃である。

「はあっ!」

ありさの父親が裂帛の気合いを込めて連撃を放つ。

「くっ!」

閃光のような速さの連撃。

春斗のキャラは全てを捌ききれず、体力ゲージを減らしていく。

肉斬骨断とばかりに波状攻撃を繰り出してくるありさの父親のキャラに、春斗は表向き、焦りを見せつつ、虎視眈々と一発逆転の機会を窺っていた。

「あかり、今だ!」

直前の動揺を残らず吹き飛ばして、春斗は叫ぶ。

「ああ!」

「ーーっ」

「あかりさん!」

言葉と同時に、あかりのキャラは牽制で放った連撃技でありさの父親のキャラを翻弄した後、そのままありさのキャラに攻撃を仕掛けた。

その隙に、春斗のキャラは、右手一本で器用に逆手に持ち替えた短剣を、ありさの父親のキャラに対して絶妙な力加減で振る。

「ーーっ」

春斗のキャラの一撃は、防御姿勢が取れていなかったありさの父親のキャラを完全に打ち据えた。

少なくはないダメージエフェクトを撒き散らしながらも後方に下がり、何とか体勢を立て直すと、ありさの父親のキャラは再び、春斗のキャラと対峙する。

「一気にいくよ!」

「ーーっ」

そんな中、りこのキャラが地面を蹴って、ありさの母親のキャラを追い詰めていく。

「ーーっ!」

反射的に、ありさの母親は自身のキャラの武器である剣斧で迎え撃とうとして、その瞬間、背後に移動したりこのキャラに受けようとした剣斧ごと深く刻まれた。

致命的な特大ダメージエフェクト。

体力ゲージを散らしたありさの母親のキャラは、ゆっくりとりこのキャラの足元へと倒れ伏す。

「お母さん!」

先程の違和感がある固定キャラの固有スキルであることに勘づいたありさは、咄嗟に優香のキャラがいる方向へと振り向く。

そこには、優香のキャラが自身の武器であるメイスを構えて立っていた。

優香の固有スキル、テレポーターー。

一瞬で自身、または仲間キャラを移動させる固有スキルだ。

しかし、一般のプレイヤーは移動させられる距離は短く、また、使用した際の隙も大きくなるため、滅多には使わない。

だが、優香は『ラ・ピュセル』に出てくるマスコットキャラ、ラビラビが使う瞬間移動のように、精密度をかなり上げたため、不可能とされた長距離の移動を可能にしていた。

「待ってて!すぐに回復させるから!」

ありさはそう告げると、麻白の固有スキルを発動させる。

『リィンカーネーション!』

ロッドを掲げたありさのキャラから、ありさの母親のキャラに対してまばゆい光が降り注がれた。

麻白の固有スキル、リィンカーネーション。

それは、一度だけ自身、またはチームメイトのキャラを蘇生させることができる固有スキルだった。

「させない!」

「ーーっ。あかりさん!」

しかし、急加速したあかりのキャラが、固有スキルを使用中で無防備なありさのキャラに正面から一撃を浴びせる。

麻白の固有スキルによって、ありさの母親のキャラを蘇生させることに成功したものの、ありさのキャラは大エフェクトを撒き散らしながらその場に膝をつく。

そんなありさのキャラに対して、あかりのキャラはさらに一振り、二振りと追撃を入れてから離れた。

ありさは半分近くまで減った自身のキャラの体力ゲージを見ながら、愕然とつぶやく。

「あかりさん。まるで、麻白さんの戦闘スタイルを知り尽くしているみたい」

『姿を変えた人物の能力をコピーする魔術』を使っても、コピーした相手の戦闘スタイルを知り尽くしている相手には上手く立ち回れてしまうーー。

ゲームセンターのイベントステージで対戦したカケルとのバトルを思い返しながら、ありさは苦々しくつぶやいた。

「でも、負けないから!」

「ーーっ」

決意の宣言と同時に、ありさのキャラは麻白のキャラの武器であるロッドを、あかりのキャラに振りかざしてきた。

ありさのキャラと対峙していたあかりのキャラは、手にした剣で一撃を受け止めるも、予想以上の衝撃によろめく。

「ーーあかりさんの猛攻を受けながらも、固有スキルを発動させるなんて、さすがだね、霜月さん」

不意に、りこが微笑んだ。

夜空を切り裂く月光が照らし出された巨大な宮殿を舞台にしながらも、その穏やかな笑顔は太陽のようにどこまでも眩しい。

ありさの母親のキャラの横切りを受けながらも、りこのキャラはここぞとばかりに執拗に槍を突き上げた。

「ーーっ」

予測に反した動きに、ありさの母親のキャラは一撃を甘んじて受けてしまう。

油断したーー。

そう思った時には、りこは必殺の連携技を発動していた。

『無双雷神槍!!』

槍の最上位乱舞の必殺の連携技。

その場で舞い踊るように繰り出される槍の七連突き、そして締めとばかりに振るわれる横薙ぎ三連閃。

致命的な特大ダメージエフェクト。

体力ゲージを散らしたありさの母親のキャラは再び、りこのキャラの足元へと倒れ伏す。

「ありさ、せっかく回復してもらったのにごめんね」

「おかあーーっ!?」

「あかりさん」

ありさの母親の謝罪に、思わず叫びかけたありさは次の瞬間、息をのんだ。

嬉々とした声とともに、ありさの母親のキャラと対峙していたりこのキャラが戦闘に加わってきたからだ。

「ねえねえ、りこも参戦してもいい?」

「あ、ああ」

どこか確かめるような、りこの物言いに、あかりは戸惑いながらも頷く。

「よーし、りことあかりさんのタッグで行くよ!」

「ーーっ」

あかりから了承を得た途端、りこのキャラは嬉々としてありさのキャラに槍を突き出してきた。さらにそのまま、超速の乱舞へと繋げる。

完全に虚を突いたりこのキャラの乱舞を前にして、ありさのキャラは次第に体力ゲージを減らしていく。

「…‥…‥タッグ。なるほどな」

先程の意味深なりこの言葉を理解したあかりは、一気にありさのキャラとの距離を詰める。

だが、迷いなく突っ込んできたあかりのキャラに合わせ、ありさのキャラはあえて下がらず、麻白のキャラの武器であるロッドを振る舞った。

「ーーっ!」

ロッドから放たれた一撃を、上体をそらすことでかわしたあかりのキャラは、視界を遮る風圧に剣による反撃の手を止めた。

「やるな」

「あかりさんもすごく強いよ」

あかりが態度で褒めてくると、ありさは当然というばかりにきっぱりと告げた。

彼女らしい反応に、あかりはふっと息を抜くような笑みを浮かべるとさらに言葉を続ける。

「でも、勝つのは俺達だからな!」

「ううん、勝つのは私達だから!」

あかりとありさは互いに向かい合うと、不敵な表情を浮かべながら、しばし睨み合った。

「あかりさん、下がって!」

「ああ!」

唐突なりこの声と斬撃は、背後から襲いかかってきた。

あかりが応える中、ありさのキャラはあえて振り返らず、反射的にその場に屈みこむ。

りこのキャラの槍は空を斬ったが、代わりに一瞬前までは後退していたはずのあかりのキャラに受け身を取った先を狙われ、二振りの連撃が入る。

だが、ありさのキャラはダメージエフェクトを散らしながらも、反撃とばかりにあえて下がらず、前に出た。

「…‥…‥っ」

ありさのキャラが突き入れたロッドが、再度、振るおうとしていたあかりのキャラの剣を押しとどめた。

ロッドを振り払おうとする剣の動きに合わせ、ありさは絶妙な力加減であかりのキャラを肉薄する。

剣とロッドのつばぜり合い。

徐々に押し始め、ありさのキャラが優位に傾くと思われたそれは、割って入ってきたりこのキャラによって均衡が崩されてしまう。

『無双雷神槍!!』

音もなく放たれたりこのキャラの必殺の連携技が、剣を押しとどめていたロッドごと、ありさのキャラを切り裂き、わずかに残っていた体力ゲージを根こそぎ刈り取った。

体力ゲージを散らしたありさのキャラは、りこのキャラの足元へと倒れ伏す。

「今回、りこ、大活躍だね!」

「そうだな」

何気ない口調で告げられたりこの言葉に、あかりは少し呆れたようにため息をつく。

すると、りこは当然というばかりにきっぱりとこう答えた。

「これって、今回も、りこ達が勝つっていう理屈!」

「今生らしいな」

彼女らしい反応に、あかりがふっと息を抜くような笑みを浮かべる。

「はあっ!」

だが、その言葉が合図だったーー。

一瞬前までその場にいなかったありさの父親のキャラが、ありさのキャラを倒したりこのキャラめがけて直上から連携技を放ってきたのだ。

致命的な特大ダメージエフェクト。

体力ゲージを散らしたりこのキャラは、ありさの父親のキャラの足元へと倒れ伏す。

「あ~!りこの絶好調が、あっさり終わったよ!」

「そ、そうかもな」

自身のキャラが倒された途端、りこはそれまでの明るい笑顔から一転して頬をむっと膨らませる。

その場で屈みこみ、唇を尖らせるという子供っぽいりこの仕草に、あかりは思わず、呆気に取られてしまう。

その時、あかりの隣に立っていた春斗と優香の声が聞こえた。

「あかり」

「あかりさん」

「春斗、天羽!」

春斗と優香のキャラが、自身のキャラと合流するのを見て、あかりは日だまりのような笑顔で笑ってみせる。

その不意打ちのような笑顔に、春斗は思わず、見入ってしまい、慌てて目をそらす。

「…‥…‥あ、あかり。その、霜月さんのおじさんはオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーだった人だ。正直言って、かなり手強い」

「はい。本来なら私達の方で足止めしたかったのですが、不意を突かれてしまいました」

ごまかすように人差し指で頬を撫でる春斗に、優香も続けてそう言った。

「今生、間に合わなくてごめんな」

「りこさん、ごめんなさい」

春斗と優香の謝罪に、りこはどこか照れくさそうな笑みを浮かべる。

「その、りこも油断していたからごめんね」

りこはそう言って空笑いを響かせると、ほんの一瞬、複雑そうな表情を浮かべた。

「りこのとっておきの固有スキルは『ラグナロック』戦でお披露目するから、優香、春斗くん、あかりさん」

少し間を置いてから、りこは大きく息を吸い、切り出した。

「絶対に勝ってね!」

「ああ。絶対に、俺達が勝ってみせる!」

ふわふわのストロベリーブロンドの髪を撫でながらとりなすように言うりこに、春斗は穏やかな表情で胸を撫で下ろしたのだった。

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