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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
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第八十ニ話 彼女の憧れの人②

「玉の輿って、何か事情があるのか?」

春斗のつぶやきに、ありさは幾分、真剣な表情で答えた。

「…‥…‥うん。私のお父さんは以前、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーとして活躍していたんだけど、度重なるミスで解雇されてしまったの」

「プロゲーマー」

聞いた瞬間、思わず心臓が跳ねるのを春斗は感じた。知らず知らずのうちに、拳を強く握りしめてしまう。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーになりたいーー。

それは、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を始めてから、春斗がずっと抱き続けていた願いだったからだ。

「お父さんが再就職に向けて仕事を探したりしている間、お母さんはパートに出て生計を立てていたの。でも、なかなかお父さんの再就職先が見つからなくて苦しんでいた時、私は魔術を使う少年と出会ってしまった。そして、魔術を使う少年が居候をし始めた影響で、家の家計ーー特に食費はさらに火の車になったの」

「…‥…‥そうなのか」

ありさが深刻な問題であるように至って真面目にそう言ってのけると、春斗はたじろぎながらも率直な感想を述べる。

ありさは、苦虫を噛み潰したような顔でさらに続けた。

「後で、魔術を使う少年の母親らしい人から、謝罪とその分の代金は払ってもらえたけれどね。もし、『姿を変えた人物の能力をコピーする魔術』を使えるようにしてもらえなかったら、警察に訴えないといけないレベルだった。魔術の暴発で、家は半壊してしまったから」

「家が半壊!?」

「そんなに、重い事情を背負っていたんですね」

予想外な出来事に、春斗と優香は思わず愕然とする。

「…‥…‥後でもう一度、おばさんに事情を話しておかないとな」

だが、あかりは苦々しい顔で吐き捨てるように言った。

「建て直すのも厳しかったから、魔術を使う少年の母親が銀行に振り込んでくれたお金を使って、新しい家を新築した。でも、その時、お父さんとお母さんは気づいてしまったの。魔術を使う少年が居候をした際の代金と慰謝料にしては、家を新築しても余裕があるくらい、あまりにも膨大な金額が振り込まれていたことに」

「魔術を使う少年の家庭はすごいんだな」

「は、はい」

「きっと、おばさんじゃなくて、おじさんが振り込んだろうな」

その当たり前のように告げられた事実に、春斗と優香が驚愕し、あかりは呆れたように嘆息する。

ありさは一息つくと、困ったように続けた。

「それからだと思う。お父さんとお母さんが、私に『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で二位のプレイヤーであり、阿南総務大臣の息子である阿南輝明さんと、三位のプレイヤーであり、超一流大手会社の黒峯社長の息子である黒峯玄さんとの交際を求めてくるようになったのは」

「玄の家庭がすごいのは知っていたけれど、輝明さんの家庭もすごかったんだな」

「何の話かよく分からないけど、黒峯玄さんとの交際だけはダメだから!」

「りこさん、相変わらずですね」

春斗とありさの会話にひょっこりと割り込んできたりこに、優香は噛みしめるようにくすくすと笑う。

「優香、春斗くん、あかりさん。遅くなってごめんね」

「さあ、お待たせしました!ただいまから、本選Bブロックを開始します!」

謝罪を述べようとしたりこの言葉をかき消すように、実況の声が春斗達の耳に響き渡る。

実況の本選Bブロック開幕の言葉に、観客達はさらにヒートアップし、万雷の歓声が巻き起こった。

ざわつく観客達を背景に、実況が春斗達、『ラ・ピュセル』と対戦することになるチームの紹介をしていく。

気を取り直した春斗はステージ上のモニター画面に視線を戻して、コントローラーを手に取った。

遅れて、あかり達もコントローラーを手に取って正面を見据える。

「では、レギュレーションは一本先取。最後まで残っていたチームが勝者となります」

「いずれにしても、やるしかないか」

決意のこもった春斗の言葉が、場を盛り上げた実況の言葉と重なった。

「ああ」

「はい」

「うん」

春斗の言葉にあかりと優香とりこが頷いたと同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けた。


ーーバトル開始。


対戦開始とともに、先に動いたのは春斗達だった。

春斗のキャラが地面を蹴って、本選一回戦の対戦相手達との距離を詰める。

迷いなく突っ込んできた春斗のキャラに合わせ、対戦相手のキャラは迎え打つために前に出た。

対戦相手のキャラの動きを確認すると同時に、あかりのキャラは急加速して対戦相手達へと向かってくる。

「ーーっ!」

反射的に、対戦相手は自身のキャラの武器である斧で迎え撃とうとして、その瞬間、背後に移動したあかりのキャラに受けようとした斧ごと深く刻まれた。

先程のあかりのキャラの移動がある固定キャラの固有スキルによるものであることに気がついたりこは、咄嗟に優香のキャラがいる方向へと振り向く。

そこには、優香のキャラが自身の武器であるメイスを構えて立っていた。

優香の固有スキル、テレポーターー。

一瞬で自身、または仲間キャラを移動させる固有スキルだ。

しかし、一般のプレイヤーは移動させられる距離は短く、また、使用した際の隙も大きくなるため、滅多には使わない。

だが、優香は『ラ・ピュセル』に出てくるマスコットキャラ、ラビラビが使う瞬間移動のように、精密度をかなり上げたため、不可能とされた長距離の移動を可能にしていた。

「りこも負けていられないよね」

「ーーっ」

決意の宣言と同時に、りこのキャラは自身の武器である槍を、対戦相手のキャラに振りかざしてきた。

電光石火の一撃に、対戦相手は少なくはないダメージを受けてしまう。

「お父さん、お母さん。春斗くん達、かなり手強そうだね」

目の前で繰り広げられる春斗達のバトルに、ありさは嬉しそうに笑うと、ありさの両親へと視線を向けた。

「そうだな」

「ありさのお友達は強いわね」

先程まで言い争いをしていたはずのありさの両親は、いつの間にか真剣な眼差しで春斗達のバトルを見ている。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を始めてから、ずっと負け越しだったありさが、それでもゲームを続けていたのには理由があった。

春斗達のバトルを見て、つい思い出してしまう。

ずっと負け続けていたオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を続けた理由をーー。

あの時の出来事が、不意にありさの脳裏によぎる。


「…‥…‥ねえ、お父さん。私、お父さんのような、かっこいいオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーになりたい。だけど、全然勝てないの」

「そうか。なら、一緒に特訓するか?」

「…‥…‥うん」


ありさの父親は俯くと、ありさの目をじっと覗き込んだ。そして、負け続けたことで、涙を浮かべているありさの頭を優しく撫でてやる。

本選一回戦に勝ったことよりも、私の交際相手のことでお父さんとお母さんがもめたことよりも、いつかまた、お父さんがプロゲーマーとして活躍するように、それだけをありさは心から願い続けていた。

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