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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
81/126

第八十一話 彼女の憧れの人①

『チェイン・リンケージ』。

今や知らぬ人がいないのではないかというほど、有名なオンラインバトルゲームだ。

十代をメインに、幅広い年代に愛されている。

だが、公式大会、非公式大会、そして公式トーナメント大会には、十代から二十代がメインに出場していた。

その理由は、二十代以上のプレイヤーが、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーとして活躍しているためだった。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーは、大会などに出場できない代わりに大会の進行役や模擬戦などをおこなったり、初心者にゲームを教えたりして収入を得ていた。

また、公式トーナメント大会の個人戦の優勝者、準優勝者、チーム戦の優勝チーム、準優勝チームが挑戦できる『エキシビションマッチ戦』の対戦相手としても活躍している。

ただ、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のプロゲーマーは、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式トーナメント大会の第一回、第二回と同様に不正が相次いだため、『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で正式にランキング入りを果たし、スポンサーであるゲーム会社からスカウトされた者だけがなれる仕組みになっていた。

だが、条件さえ満たせば、どの年齢層からでもなることができたため、プロゲーマーだけで生計を立てている家庭も存在していた。

「じゃあ、ゲームセンターの公式大会に行ってくるな!」

「あなた、頑張って」

「お父さん、頑張ってね」

ありさとありさの母親に見送られて、ありさの父親はいつものようにプロゲーマーとしての仕事に向かう。

ありさの家庭も、父親がプロゲーマーとして活躍していた。

だが、全てが順風満帆とはいかなかった。

ありさの父親は度重なるミスにより、契約していたスポンサーのゲーム会社から突如、解約を言い渡されてしまい、解雇になってしまったのだ。

しかし、プロゲーマーとしての道を諦めきれなかったありさの父親は再起をかけて、妻と娘とともに公式トーナメント大会の上位に入賞するためにチームを結成する。

それが、ありさ達のチーム、『囚われの錬金術士』の発端だったーー。






「さあ、これより、予選を勝ち上がってきた十四組のチームによる第四回公式トーナメント大会、チーム戦本選を開始するぞ!」

実況を甲高い声を背景に、予選を難なく、勝ち越した春斗達は前を見据えた。

実況の本選開幕の言葉に、観客達はヒートアップし、万雷の歓声が巻き起こった。

「ついに本選だな」

「はい。私達はこのまま、勝ち進めば、本選の二回戦で霜月さん達、『囚われの錬金術士』と、そして準決勝で玄さん達、『ラグナロック』と対戦することになります」

本選Bブロックのステージに立つと、問いかけるような声でそう言った春斗に、優香は軽く頷いてみせる。

ーーその時だった。

「う、う~ん」

立派な寝癖がついた髪をかき上げながら、車椅子を動かしていたあかりが一つあくびをする。

「お兄ちゃん、優香さん。そろそろ、宮迫さんに変わるみたい…‥…‥」

「そうか」

「そうですか」

隣に立っている春斗達にそう答えると、あかりは一度、人目のない場所に移動するために車椅子を動かし、くるりと半回転してみせた。だがすぐに、うーん、と眠たそうに目をこすり始めてしまう。

眠気を振り払うようにふるふると首を振ったものの効果はなかったらしく、結局、あかりは車椅子にぽすんと寄りかかって目を閉じてしまった。

そのうち、先程より少し大人びた表情をさらしたあかりが、すやすやと寝息を立て始める。

その様子を見て、春斗はほっと安心したように優しげに目を細めてあかりを見遣る。

「あかり…‥…‥」

「ーーっ」

横向きに寄りかかっているため、車椅子から落ちそうになっているあかりの華奢な体を、春斗はそっと元の姿勢に戻そうとした。

だが、春斗はあかりを元の姿勢に戻すことはできなかった。

その前に、不意に目を覚ましたあかりがあわてふためいたように両手を左右の肘かけに伸ばして、車椅子から落ちそうになるのを自ら、食い止めたからだ。

「あかり、大丈夫か?」

「…‥…‥春斗」

春斗に声をかけられたことにより、あかりはーー琴音はあかりに憑依したことを察したようだった。

あかりはきょろきょろと周囲を見渡し、自分の置かれている状況に気づくと、呆然とした表情で目を丸くした。

「今から、大会なんだな」

驚きの表情を浮かべるあかりの様子に、春斗は額に手を当ててため息をつくと朗らかにこう言った。

「ああ。今から、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦の本選が始まるんだ」

「そうなんだな」

春斗がざっくりと付け加えるように言うと、あかりはきょとんとした顔で目を瞬かせる。

そして、あかりはドームのモニター画面に表示されている本選のトーナメント表を見ると、不思議そうに小首を傾げた。

「俺達はこのまま勝ち進めば、準決勝で『ラグナロック』と対戦することになるんだな」

「そうですね。でも、りこさん達、『ゼノグラシア』も、予選Fブロックで勝利していますので、このまま勝ち進めば、恐らく本選の準決勝で、輝明さん達、『クライン・ラビリンス』とりこさん達、『ゼノグラシア』が対戦することになります」

「そうなのか?」

優香の言葉に、あかりは目を丸くし、驚きの表情を浮かべた。

戸惑うあかりをよそに、優香は先を続ける。

「はい。それに恐らく、私達は本選の二回戦で霜月さん達、『囚われの錬金術士』と対戦することになります」

「そうなんだな。オンライン対戦の時は負けたけれど、今度は俺達が勝ってみせる!」

「ああ」

屈託のない笑顔でやる気を全身にみなぎらせたあかりを見て、春斗は胸に滲みるように安堵の表情を浮かべる。

そして、モニター画面に表示されている本選のトーナメント表をまじまじと見つめた。

予選Aブロックの勝者である玄達、『ラグナロック』は、本選二回戦からのシード。

予選Bブロックの勝者は、霜月さん達、『囚われの錬金術士』。

予選Dブロックの勝者は、俺達、『ラ・ピュセル』。

予選Fブロックの勝者は今生達、『ゼノグラシア』。

予選Gブロックの勝者は倉持さん達、『アライブファクター』。

そして、予選Hブロックの勝者である輝明さん達、『クライン・ラビリンス』も、本選二回戦からのシードか。

「…‥…‥玄達とは、準決勝で対戦することになるのか」

沈みかけた思考から顔を上げ、現実につぶやいた春斗は、改めて盛り上がる周囲の様子を見渡す。

ドームに集まった少なくはない観客達が、みな大会用に設置された春斗達のいる本選ステージへと注目している。

見れば、もうまもなく本選Bブロックのバトルが始まろうとしていた。

「…‥…‥そういえば、霜月さん以外の『囚われの錬金術士』のチームメンバーはどんな人達なんだろう」

「ありさは、超一流大手会社の黒峯社長の息子である黒峯玄さんとお付き合いするべきだ!」

「いいえ、ありさは、阿南総務大臣の息子である阿南輝明さんとお付き合いするべきだわ!」

「お父さん、お母さん、落ち着いて!」

独り言じみた春斗のつぶやきにはっきりと答えたのは、あかりでも優香でもなく、本選二回戦で対戦することになる『囚われの錬金術士』のチームメンバーだった。

振り返った春斗達が目にしたのは、ありさと、その背後で言い争っているありさの両親の姿だった。

「春斗くん、あかりさん、優香さん」

「霜月さん」

名前を呼ばれて、そちらに振り返った春斗達は、先程、コントローラーを置いたばかりのありさを見た。

ありさは、先程まで姿を変えていた麻白の姿から元の姿に戻っていた。

「驚かせてごめんね」

「霜月さん、何かあったのか?」

「実は本選一回戦に勝った後、お父さんとお母さんが私のお付き合いするべき相手について言い争いを始めてしまったの」

静かにーーそして、どこか悲しそうにつぶやいたありさの言葉に、春斗達はわずかに目を見開いた後、神妙な表情で言う。

「本選一回戦に勝った後って、もしかして霜月さんのチームは家族全員で出場しているのか?」

「お付き合いするべき相手?」

「どういうことでしょうか?」

春斗とあかりと優香が立て続けにそう聞くと、ありさは少し迷った後、観念したようにため息を吐いた。

「…‥…‥うん。『囚われの錬金術士』は、私とお父さんとお母さんの三人で結成したチームなの。それに私のお父さんとお母さん、その、玉の輿を狙っているから」

「玉の輿!?」

予想もしていなかった彼女の言葉に、春斗達は虚を突かれたように呆然とするしかなかった。

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