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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
78/126

第七十八話 彼の用事は彼女のようで②

「…‥…‥っ」

対戦開始とともに、魔術を使う少年のキャラに一気に距離を詰められた春斗は後退する間もなく無防備なまま、一撃を浴びせられる。

しかし、春斗も負けじと勢いもそのままに半回転し、自身のキャラの武器である短剣を叩き込んだ。

しかし、電光石火の一突きは、魔術を使う少年のキャラにあっさりと避けられてしまう。

ステージの真ん中で再度、ぶつかりあった二人のキャラは一合、二合と斬り結んだのち、いったん距離をとった。

魔術を使う少年は自身の侍風のキャラの武器である刀を片手に持ち替えると、たん、と音が響くほど強く地面を蹴る。

次の瞬間、春斗が認識したのは大上段から刀を振り落とす魔術を使う少年のキャラの姿だった。

「っ!?」

反射的に、春斗のキャラは短剣で受けようとしーー刀の刀先が短剣を通り抜けるのを目の当たりにする。

透視化の固有スキルかーー。

何の障害もないように刀に斬りつけられ、体力ゲージを減らした春斗のキャラは反射的に反撃しようとして、その出先を刀の柄に押さえられた。

たまらず、バッグステップで距離を取ると、春斗のキャラが後退した分だけきっちり踏み込んだ下段斬り上げを見舞わされる。

斬りつけられた春斗のキャラは、少なくないダメージエフェクトを放出していた。

「…‥…‥やっぱり、強いな」

直前の動揺を残らず消し飛ばして、春斗がつぶやく。

コントローラーを持ち、ゲーム画面を睨みつけながら、春斗は不意に不思議な感慨に襲われているのを感じていた。

ーーさすがに手強い。

ーーでも、面白い。

言い知れない充足感と高揚感に、春斗は喜びを噛みしめると挑戦的に唇をつりあげた。

「こういう時、こーーいや、魔術を使う少年はいつも無類の力を発揮するんだよな」

「そうなんだな」

あかりの説明に、春斗は目を丸くし、驚きの表情を浮かべた。

戸惑う春斗をよそに、あかりは先を続ける。

「ああ。だから、かなり手強いと思う」

「宮迫さん、アドバイス、ありがとう」

屈託のない笑顔でやる気を全身にみなぎらせたあかりを見て、春斗は胸に滲みるように安堵の表情を浮かべる。

「魔術を使う少年が何者なのかは分からないけれど、宮迫さんの言うとおり、かなり手強い相手なのは確かだな」

答えを求めるように、春斗のキャラが一瞬で間合いを詰めて魔術を使う少年のキャラへと斬りかかる。

迷いのない一閃とともに、春斗のキャラの強烈な一撃を受けて、魔術を使う少年のキャラは数メートル後方に吹き飛んだ。

弾き飛ばされた魔術を使う少年のキャラは、春斗のキャラと同様に、少なくはないダメージエフェクトを放出する。

だが、春斗の追撃はそれで終わらなかった。

右上段からの斬撃から、左下段からのさらなる回転斬撃。

超速の乱舞を繰り出す春斗のキャラに、魔術を使う少年のキャラはあえて下がらず、前に出た。

「くっーー」

嵐を穿つ楔の一突き。

魔術を使う少年のキャラが突き入れた刀が、春斗のキャラが振るう短剣を押しとどめた。

刀を振り払おうとする春斗のキャラの短剣の動きに合わせ、魔術を使う少年は絶妙な力加減で、さらに春斗のキャラへ肉薄する。

短剣と刀のつばぜり合い。

極めて近いーーまさに至近距離で、息もつかせぬ激しい攻防を展開する。

そんな中、あかりは春斗に視線を向けながら謝罪した。

「あと、春斗、ごめんな。俺、あかりに憑依する前にーー魔術を使う少年から、春斗のキャラについてのことを教えてほしいと頼まれたんだ」

「俺のキャラのことを?」

思いもよらない言葉は、春斗の隣に座っているあかりから発せられた。

目を見開く春斗に、あかりは戸惑うように言う。

「ああ。春斗のキャラのことを教えてもらう代わりに、魔術を使う少年のキャラが、必殺の連携技を使えない代わりに固有スキルを何度でも使えることを教えても構わないという交換条件を出されたんだよな」

「なっーー」

唐突なあかりの謝罪。

だが、それは謝罪だけではなかった。

春斗が応える前に、急加速した魔術を使う少年のキャラが固有スキルを使用して連携技の一撃を浴びせようと仕掛けてきたからだ。

「透視化の固有スキルを何度も使えるのか」

春斗のキャラは、魔術を使う少年のキャラの刀が伸びた分だけ距離を作って、ぎりぎりのところで刀を回避した。

「ーーっ」

予想外の春斗の反応に、魔術を使う少年のキャラは驚愕する。

しかし、魔術を使う少年のキャラはすぐに体勢を立て直すと、超反応で追撃とばかりに斬撃を繰り出してきた。

春斗は、魔術を使う少年のキャラの斬撃を受けながらも翻した短剣を握りしめて叫ぶ。

『ーー弧月斬・閃牙!!』

急加速した春斗のキャラが『短剣』から持ち替えた『刀』で、魔術を使う少年のキャラに正面から一刀を浴びせた。

春斗の固有スキル、武器セレクト。

それは、自身の武器を一度だけ、自由に変えることができる固有スキルだった。

「くっ…‥…‥」

だが、春斗のキャラの必殺の連携技の一撃を受けながらも、魔術を使う少年のキャラはぎりぎりのところで体力ゲージを残した。

「やっぱり、魔術を使う少年は手強いな」

春斗は硬直解除後、さらなる追撃を行おうとして、対戦中断のシステム音声とともに受信されてきたメッセージにぴくりと反応する。


『あかりちゃんの兄上、続きは今度にしてほしい!すすーー否、琴音ちゃん、頼む!今すぐ、答えを教えてほしいのだ!母上の話だと、先生が今から一ヶ月前に出された課題集の答え合わせに来るらしいのだ!しかし、我は何もしておらぬ。琴音ちゃん、助けてほしいのだーー!!』


「どういうことなんだ?」

あまりにも意味不明なメッセージに、春斗は思わず唖然としてしまう。

「一ヶ月前に出された課題集の答え合わせ?魔術を使う少年に何かあったのか?」

「…‥…‥あったんだろうな。対戦を中断にしてまで、わざわざメッセージを送ってくるあたり、俺があかりに憑依していることも気づいているみたいだ」

切羽詰まったようなあかりの声に、春斗はあくまでも真剣な表情で言った。

「…‥…‥魔術を使う少年、一体、何者なんだろう?」

そのとらえどころのない意味深なメッセージが、魔術を使う少年のキャラであるーー侍風のキャラの最後の行動とともに、妙に春斗の頭に残る。

その後、春斗は何故か、あかりと一緒に魔術を使う少年に勉強を教える羽目になったのだった。

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