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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
77/126

第七十七話 彼の用事は彼女のようで①

優香と別れた後、車椅子に乗ったあかりを連れて、自分の家に戻った春斗は思い詰めたような表情で深くため息をついた。

「ああっ…‥…‥何やってるんだよ、俺」

そう言うと、春斗は不服そうに唇を噛みしめる。

「正直、分からない、分からないんだ。俺は、宮迫さんが好きなんだと思う。だけど、あかりも優香も、同じくらい大切で大好きなんだ」

「うん、私もお兄ちゃん、大好きだよ」

春斗が二律背反にさいなまれ、頭を悩ませていると、あかりは花咲くようにほんわかと笑ってみせた。

「だから、お兄ちゃん、頑張って!」

「ーーっ!あ、あかり、いたのか!」

呆気に取られる春斗をよそに、車椅子に乗っていたあかりは信じられないと言わんばかりに両手を広げて目を見開いた。

「さっきから、ずっといるよ!ねえ、お母さん!」

「そうね」

「ーーっ」

玄関にいる春斗の母親の声を聞いた瞬間、思わず心臓が跳ねるのを春斗は感じた。驚きのあまり、知らず知らずのうちにあかりと顔を見合わせてしまう。

どうやら、先程までの春斗の独り言は、あかりと春斗の母親に筒抜けだったらしい。

戸惑っている春斗をよそに、春斗の母親は目を輝かせて言った。

「春斗、あかり。今度のオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦、お父さんとお母さんも観に行くわね」

「ーーか、母さん達も来るのか!」

「ええ。あかりが戻って来たら、家族でお出かけしたかったのよね。でも、なかなか難しいみたいだから、ゲームの大会に一緒について行こうと思ったの」

振り返った春斗が目にしたのは、いつもどおりの彼の様子を見て、くすりと笑みをこぼす春斗の母親の姿だった。

「ーーっ!」

不意打ちを食らった春斗はただうろたえるしかなくて、あまりにも唐突で想像だにしなかった家族旅行に、顔が赤くなるのを押さえることができなかった。






紆余曲折を得て、夕食を終えた春斗達は、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦に向けて特訓するために春斗の部屋に上がった。

いそいそとゲーム機に歩み寄り、ゲームを起動させながらあかりが嬉しそうに言う。

「お兄ちゃん。もうすぐ、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦だね」

あかりは視線を落とすと、どこか懐かしむようにそうつぶやいた。

春斗があかりの視線を追うと、ゲーム機の近くに、琴音の大好きなペンギンのぬいぐるみと優香の大好きなラビラビのぬいぐるみが置かれていることに気づく。

テレビのスピーカーからは、ゲームのオープニングジングルが鳴り響いていた。

春斗は何気ない口調で訊いた。

「嬉しそうだな」

「うん。嬉しんだもの」

春斗の言葉に、あかりは嬉しそうに笑ってみせた。

「だって、今度のオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦は、りこさんがチームに入ってくれたおかげで、本当に優勝できるかもしれない」

「そうだな」

てきぱきと手を動かしながら、周囲に光を撒き散らすような笑みを浮かべるあかりを、春斗は眩しそうに見つめる。

「う、う~ん」

その時、立派な寝癖がついた髪をかき上げながら、ゲームの準備をしていたあかりが一つあくびをする。

「お兄ちゃん。そろそろ、宮迫さんに変わるみたい…‥…‥」

「そうか」

隣に座っている春斗にそう答えると、あかりはすぐにゲーム機から離れた。だがすぐに、うーん、と眠たそうに目をこすり始めてしまう。

眠気を振り払うようにふるふると首を振ったものの効果はなかったらしく、結局、あかりはいつものように、春斗にぽすんと寄りかかって目を閉じてしまった。

そのうち、先程より少し大人びた表情をさらしたあかりが、すやすやと寝息を立て始める。

その様子を見て、春斗はほっと安心したように優しげに目を細めてあかりを見遣る。

「あかり…‥…‥」

「ーーっ」

横向きに寄りかかっているため、床に落ちそうになっているあかりの華奢な体を、春斗はそっと元の姿勢に戻そうとした。

だが、春斗はあかりを元の姿勢に戻すことはできなかった。

その前に、不意に目を覚ましたあかりがあわてふためいたように両手を床に伸ばして、春斗の肩から落ちそうになるのを自ら、食い止めたからだ。

「あかり、大丈夫か?」

「…‥…‥春斗」

春斗に声をかけられたことにより、あかりはーー琴音はあかりに憑依したことを察したようだった。

あかりはきょろきょろと周囲を見渡し、自分の置かれている状況に気づくと、呆然とした表情で目を丸くした。

「今から、オンライン対戦をするんだな」

驚きの表情を浮かべるあかりの様子に、春斗は額に手を当ててため息をつくと朗らかにこう言った。

「ああ。これから、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦に向けて特訓しようと思っている」

「そうなんだな」

春斗がざっくりと付け加えるように言うと、あかりはきょとんとした顔で目を瞬かせる。

「その、宮迫さんはあかりに憑依したばかりだから、先に俺からオンライン対戦をするな」

「ああ」

気を取り直した春斗の強い気概に、春斗に支えられて、ベットに座り直したあかりが嬉しそうに笑ってみせた。

『メッセージが届きました!』

「あっ…‥…‥」

少し間を置いた後、テレビ画面に響き渡ったシステム音声に、コントローラーをじっと凝視していた春斗の声が震えた。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ4』。

しかし、そのゲームで、対戦を申し込んできた相手を見て、春斗は思わず眉をひそめる。


『我は、あかりちゃんを生き返させた魔術を使う少年だ。あかりちゃんの兄上、我からの挑戦を再び、受けてほしい』


「「ーーっ」」

それは何の前触れもなく、唐突に春斗達に布告された。

対戦相手であるーー彼が発した強烈な檄は、春斗達を震撼させるに至ったのである。

『再度、言っておくが、我は決して、モーションランキングシステム内で、あかりちゃんの兄上にランキングを越えられてしまったことをひがんでいるわけではない。そして、我が何者なのかという詮索というものもしてはならぬ。もし、我が警察に捕まるなどということが起これば、我の魔術で生き返させているあかりちゃんとは今後一切、会えなくなるのだからな!』

「こ、これって、あの、あかりを生き返させてくれた魔術を使う少年からのメッセージなのか?」

予想外な魔術を使う少年からのメッセージに、春斗は思わず愕然とする。

「…‥…‥あのな」

だが、あかりは苦々しい顔で吐き捨てるように言う。

「だけど、どうして、魔術を使う少年は、また俺に対戦の申し込みをしてきたんだろう?」

「多分、リベンジするつもりなんだと思うな」

問いかけるような声でそう言った春斗に、あかりはきっぱりと告げた。

「宮迫さん。それってやっぱり、魔術を使う少年は、モーションランキングシステム内で、上位にランキング入りしている人なのか?」

「…‥…‥やばっ」

不思議そうに首を傾げた春斗に、あかりはしまったというように顔を押さえ、困り果てたようにため息をつく。

「宮迫さんは、魔術を使う少年と対戦したことがあるんだよな」

「あっ、その…‥…‥」

春斗は言い淀むあかりに向き直ると、厳かな口調で続けた。

「あっ、宮迫さん、ごめん。話せないことなら、無理に話さなくてもいいからな。俺と優香はどんなことがあっても、あかりのーー宮迫さんの味方だ」

「…‥…‥春斗、ありがとうな」

春斗の強い言葉に、あかりは嬉しそうに頷いてみせる。

『挑戦者が現れました!』

「あっ…‥…‥」

春斗が自嘲するように片手で顔を押さえていると、不意に、ゲーム画面にオンライン対戦の申し込みを知らせるシステム音声が響き渡った。

そのオンライン対戦で、対戦を申し込んできた相手のキャラを見て、春斗は再度、訝しげに眉をひそめる。

スタンダードな草原のフィールドに立つのは、一人の侍風の男性。

鎧武者のような衣装を身に纏った侍風のキャラが、伸ばした右手に刀を翻らせ、この上ない闘志をみなぎらせている。

「…‥…‥やっぱり、魔術を使う少年のキャラだな」

「ああ」

春斗のつぶやきに、あかりがそう答えたと同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けたのだった。

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