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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
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第七十六話 自覚から始まる幼なじみの恋物語④ ☆

「お兄ちゃん、すごいね!」

遊園地の入口ゲートを前にして、いそいそと車椅子を動かして手を伸ばしかけたあかりが嬉しそうに言う。

春斗達はあの後、落ち着きを取り戻した大輝とともに遊園地へとやってきていた。

春斗が見る先には、ゆっくりと回転する巨大な星のオブジェがあり、その横には入場ゲートがある。遊園地には、趣向を凝らしたライブショーや『ラビラビ』といった大人気ゲームのキャラクターの特設ブース、様々なアトラクションが楽しめる施設などが見受けられた。

「玄、大輝、たっくん、友樹、最初のアトラクションはどうする?」

遊園地の入口ゲートを通った後、玄達の元へと慌てて駆けよってきた麻白は、少し不安そうにはにかんでみせた。

玄達の話によると、何でも麻白は拓のことを『たっくん』と呼んでいるらしい。

「麻白が行きたい場所に行こう」

「まあ、俺は最後に観覧車に乗れればいいからな」

「ああ、そうだな」

「俺達も、麻白が行きたい場所でいいと思う」

玄と大輝、そして、拓と友樹がそれぞれの言葉でそう答えると、麻白は花咲くようににっこりと笑ってみせた。そして、嬉しさを噛みしめるように持っている荷物をぎゅっと握りしめる。

「うーん。行きたい場所、行きたい場所」

麻白が目を細め、更なる思考に耽ろうとした矢先、不意に、あかりはぽつりとこうつぶやいた。

「ねえ、麻白」

「えっ?」

麻白のその問いかけに、あかりは車椅子の肘掛けをぎゅっと握りしめたまま、恥ずかしそうにそうつぶやくと顔を俯かせる。

しかし、このままでは話が先に進まないと思ったのだろう。

あかりは顔を上げると、意を決して口を開いた。

「あのね、私、お父さんからアトラクションには乗らないように、って言われているの」

「だったら、ゲームのキャラクターの特設ブースに行こう。最新作のオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ4』、『ラ・ピュセル』などのキャラクターのグッズがたくさんあるみたいだよ」

「う、うん!私、ラビラビさんのグッズが置いている、ゲームのキャラクターの特設ブースに行ってみたい!」

麻白がそう告げた瞬間、あかりはぱあっと顔を輝かせて言った。 頬をふわりと上気させて嬉しそうに笑う。

「遊園地にも、ゲームのキャラクターの特設ブースがあるんだな」

「はい。すごく幸せです」

春斗が何気ない口調でそう告げると、優香は嬉しそうに、前のゲームフェスタで購入したラビラビのキャンバストートをぎゅっと抱きしめる。

「麻白、楽しみだね」

「うん。あたしが歌った主題歌のCDもあったらいいな」

これから訪れるゲームのキャラクターの特設ブースに心踊らせて、あかりと麻白は花咲くようにほんわかと笑ってみせた。

「それにしても、あかりがアトラクションに乗れないとなると、俺達もアトラクションには乗れないな」

「そうですね」

問いかけるような声でそう言った春斗に、優香は軽く頷いてみせる。

「でも、アトラクションは見ているだけでも楽しめます」

「そうかもな」

どこまでも春斗らしいまっすぐな答えに、優香はことさらもなく苦笑した。

「お兄ちゃん、優香さん、そろそろ行こう」

春斗と優香が語り合っていると、あかりは車椅子を動かしてうずうずとした顔で声をかけた。

春斗は顔を片手で覆い、深いため息をつくと、状況の苛烈さに参ってきた神経を奮い立たせるようにして口を開いた。

「ああ。あかり、行くか」

「うん」

春斗の言葉に、あかりは明るく弾けるような笑顔を浮かべてみせた。

日だまりのようなその笑顔に、春斗はほっと安心したように優しげに目を細めてあかりを見やる。

そして、春斗達はゲームのキャラクターの特設ブースへと向かったのだった。






「お兄ちゃん、優香さん。イベントライブショー、すごかったね」

あの後、ゲームのキャラクターの特設ブースでグッズを購入し、華やかなイベントライブショーを観覧することができて、あかりは幸せそうにはにかんだ。

また、玄達がアトラクションに乗った時は、春斗達はアトラクションの近くで玄達を探したりして楽しんでいた。

時刻はそろそろ、小腹も空き始める午後三時であった。

遊園地館内にあるダイニングレストランはイベントライブショーに出演したキャラクターの一人が遊びに来るという、まるで夢のような場所だった。

レストランに遊びに来たキャラクターの挨拶を聞きながら、あかりと麻白は至福の表情で目を輝かせる。

頼んでいたスパゲッティーを食べる麻白に、大輝はあくまでも真剣な表情を浮かべて言った。

「…‥…‥なあ、麻白。この後、二人で観覧車に乗らないか?」

「観覧車?」

大輝にそう問われて、麻白は不思議そうに小首を傾げる。

「大輝、みんなで乗らないの?」

「その、麻白と二人っきりで乗りたいんだよ」

「えっ?」

麻白が意味を計りかねて大輝を見ると、何故か焦れたように大輝は顔を赤らめて腕を組んだ。

意を決したように両拳を突き出して身を乗り出すと、すべての勇気を増員して大輝はさらに告げる。

「とにかく、観覧車だけは、麻白と二人っきりで乗りたい気分なんだ!」

「大輝、意味不明すぎ」

大輝のよく分からない宣言に、麻白は不満そうに頬を膨らませてみせる。

「そんなことないだろう。とにかく、これは確定事項だからな」

麻白のふて腐れたような表情を受けて、大輝は不服そうに目を細めてから両拳をぎゅっと握りしめた。

食事を終え、携帯を眺めながらこっそりとため息をつくと、拓と友樹は吹っ切れたように麻白に話しかけてきた。

「なあ、麻白」

「これから観覧車に行くんだろう?なら、俺達と一緒に乗らないか?」

「なっーー」

その言葉に、大輝は思わず絶句する。

そして視線を転じると、拓と友樹に向かって声をかけた。

「拓、友樹。麻白とは、俺が乗るからな」

そう言って大輝が非難の眼差しを向けてきても、友樹は気にせずにさらにこう口にする。

「前にみんなで、別のテーマパークに行ったことがあっただろう。あの時ほどではないけれど、ここの観覧車も近くの山脈が見渡せたりと、すげえ絶景が堪能できるらしいんだよな!」

「そうなんだ」

感慨深げに、麻白はレストランの窓から見える観覧車を見つめながらそうつぶやいた。

「なあ、麻白。一緒に乗らないか?」

有無を言わさず、にんまりとした笑みを浮かべてきた友樹の姿に、大輝は苦々しく眉を寄せる。

大輝は首を横に振ると、きっぱりとこう告げた。

「だから、麻白は俺と一緒に乗るって言っているだろう!」

「あ、その…‥…‥」

麻白が窮地に立たされた気分で息を詰めていると、有無を言わせず、大輝は麻白の手を取った。そして立ち上がると、拓と友樹の返事を聞かずに、レストランを出て観覧車へと強引に連れだそうとする。

当然のことながら、拓と友樹は動揺をあらわにして叫んだ。

「大輝、まだ、話は終わっていないだろう!」

「おい、大輝!」

「拓、友樹、頼む!麻白と二人っきりで観覧車に乗りたいんだ!」

拓と友樹の抗議に、大輝は振り返ると視線を床に落としながら請う。

拓は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いをにじませる。

「何か事情があるのか?」

「ああ。麻白に伝えたいことがあるんだよ」

大輝の最後の言葉は、麻白に向けられたものだった。

友樹が軽く息を吐いて問う。

「伝えたいことは、俺達がいたら言えないことなのか?」

「それはーー」

幾分真剣な顔の大輝と困り顔の拓と友樹が、しばらく視線を合わせる。

先に折れたのは大輝の方だった。

身じろぎもせず、じっと大輝を見つめ続ける拓と友樹に、大輝は重く息をつくと肩を落とした。

「…‥…‥分かった。確かに、おまえらにも伝えておいた方がいいかもな。でも、ここでは人目があるから観覧車の裏側でもいいか?」

「ああ」

「ありがとうな、大輝」

苦虫を噛み潰したような顔でしぶしぶ応じる大輝に、拓と友樹は屈託なく笑ってみせた。

夕闇色の観覧車の裏側にたどり着くと、大輝は麻白と向き合った。

物陰に隠れて、様子を窺っていた春斗達にも緊張が走る。

「大輝、頑張れ」

「大輝さん、頑張って」

「大輝さん、頑張って下さい」

そんな彼らの様子を、しばらく見守っていた春斗とあかり、そして優香は祈るように大輝を応援した。

「…‥…‥麻白、大輝」

緊張した面持ちで見守る春斗達をよそに、唯一、玄だけが複雑な表情をにじませる。

だが、それも、大輝の告白を聞くまでだった。

「麻白」

「大輝、どうしたの?」

麻白が不思議そうに小首を傾げると、大輝は肺に息を吸い込んだ。

ためらいも恐れも感じてしまう前に、大輝は声と一緒にそれを吐き出した。


「俺は、おまえが好きなんだ!大好きなんだよ!拓にも友樹にも、絶対に渡したくない!」


「…‥…‥ううっ」

「なっーー」

「ーーっ」

大輝の思わぬ告白に、麻白が輪をかけて動揺し、拓と友樹は目を見開いて狼狽する。

挿絵(By みてみん)

何度、その言葉を口にする場面を想像の中で繰り返してきただろう。

麻白が自分のその言葉を聞いて、ひどく困惑した顔をすることは目に見えていた。

麻白は友樹の彼女だ。

友樹の彼女ーー。

喉が引き裂かれそうなほどそう思いながら、大輝は不安と苛立ちで気が変になりそうだった。

「大輝、悪いけれど、俺と麻白は付き合っているんだ」

「…‥…‥友樹」

だが、押さえに押さえてきた最後の感情の砦は、麻白を背に、大輝の行く手を阻むようにして立ち塞がった友樹を見た途端、全て崩壊した。

しかし、一連の出来事で動揺していた大輝は、次に友樹がとった行動に虚を突かれることになる。

「…‥…‥ふわわっ、友樹」

どうしたらいいのか分からず、滑らかな頬を淡く染め、たまらず悲しげにうつむいた麻白を、友樹は愛おしそうにそっと抱き寄せた。

「なっーー」

「ーーっ」

そして、拓と大輝が咎めるより先に、友樹は麻白の唇に自分の唇を重ねる。

矢継ぎ早の展開。それも唐突すぎる流れに、麻白は一瞬で顔が桜色に染まってしまう。

「おい、友樹!」

「ま、麻白が友樹と付き合っていたとしても、俺は諦めるつもりなんてないからな!」

「絶対に負けないからな」

苛立たしそうに叫んだ拓と大輝に、友樹ははっきりとそう告げたのだった。





「はあっ…‥…‥」

観覧車の入口に戻りながらも、春斗の頭の中は真っ白に塗りつぶされ、思考は少しもまとまらなかった。

何もかも現実味が欠けた世界で、先程、目撃した大輝と麻白、そして麻白のサポート役である拓と友樹の一連の騒動だけが確かだった。

フラッシュバックのように、春斗の脳裏に映像が流れていく。


『私、このまま、死んじゃうのかな』


真っ白なベットに横たわるあかりが涙を潤ませて、小刻みに震えながらささやくような声で言う姿。


『…‥…‥でも、私は、両親に離婚してほしくないです』


雨に打たれ、透きとおった涙をぽろぽろとこぼす幼い優香の姿。


『俺、こうして、春斗達に会えてよかった』


夏祭りの際、目元を拭い、前を見つめながら言葉をこぼす琴音バージョンのあかりの姿。

夏祭りの時から、ずっと抱えていた春斗の疑問が頭をもたげた。

ーー俺は誰が好きなんだろう。

いつか答えを出さないといけないはずなのに、思考がまるで追いつかない。

夢ではない。

夢ではないのだ。

大輝が、麻白に告白したこと。

友樹さんが、麻白の彼氏であること。

そして、優香が俺に告白したこともーー。


秋空を背景に、観覧車のイルミネーションが輝き始めていたーー。

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