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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
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第七十五話 自覚から始まる幼なじみの恋物語③

「今度の休日に、麻白とデートする?」

「いや、その、デートっていうか、みんなで遊園地に行こうと思っているんだよ」

翌日、放課後の渡り廊下にて、大輝から思いもよらない言葉を告げられて、春斗と優香はただただぽかんと口を開けるよりほかなかった。

予想外の出来事に驚愕する春斗と優香に、玄は無表情のまま、言葉を続ける。

「春斗、優香、驚かせてすまない」

玄はそこまで告げると、視線を床に落としながら謝罪した。

「ーーっ」

やや驚いたように言葉を詰まらせた春斗に、顔を上げた玄はあくまでも真剣な表情でこう続ける。

「急な話ですまないが、一緒に来てもらえないだろうか?」

「まあ、俺達も麻白も、おまえらがいた方が楽しめるからな」

「…‥…‥そ、そうなんだな」

「そうなんですね」

そう言ってひらひらと手を振る大輝に、春斗と優香は呆然とした表情で言葉を返すことしかできなかった。

そんな中、玄はため息とともにこう切り出してきた。

「…‥…‥実は最近、いろいろと立て込んでしまって、麻白と会う機会がなかったんだ」

「玄達も、麻白と会っていなかったのか?」

春斗は顎に手を当てて、玄の言葉を反芻する。

あえて意味を図りかねて、春斗が玄を見ると、玄はなし崩し的に言葉を続けた。

「ああ。この間のテレビ出演の際にも、父さんから引き留められてしまって、麻白とは会わせてもらえなかったからな」

「ほら、ゲーム対談情報ラジオ『プレラジ』っていうラジオ番組に、麻白があの個人戦の覇者である布施尚之と一緒に出演したことがあっただろう。その時に会ったくらいで、俺も玄も麻白に会うのは久しぶりなんだよな」

「そうなんですね」

玄と大輝が苦々しい顔で目を伏せると、優香はたじろぎながらも率直な感想を述べる。

ゲーム対談情報ラジオ『プレラジ』ーー。

毎回、違う有名ゲームプレイヤーが、パーソナリティーを務めているゲーム情報ラジオ番組である。

ゲーム音楽をBGMに、雑談やリスナーからの質問に対する回答、さらに最新ゲーム情報などをお届けしており、また、パーソナリティーを努める本人を含めて、三人までならゲスト出演することができた。

そのラジオ番組で、麻白は個人戦の覇者である尚之とともにパーソナリティーを務めたことがあった。

不意に春斗は、麻白がそのラジオ番組に出演した際、あかりから琴音との交換ノートに書いてほしいと頼まれた内容を思い出す。


『こんにちは、宮迫さん。今日は、お兄ちゃんに頼んで書いてもらっています。あのね今日、麻白があの布施尚之さんと一緒に、ラジオ番組に出演したの。いつか、私達のチームも、こんな風にラジオ番組に出演できたらいいな』


『ああ、そうだな』


あかりからのメッセージの後に書かれていた、琴音からの返事は拍子抜けするくらい、あっさりとした内容だった。

そして、その字は女子が書いたような字ではなく、男子が書いたような少し雑な字だ。

その交換ノートのやり取りを思い出して、春斗は思わず、笑みをこぼす。

「ーーなあ、春斗、優香」

一旦、言葉を途切ると横に流れ始めた話の手綱をとって、大輝が鋭く目を細めて告げた。

「話を戻すけど、遊園地で麻白に告白するとしたら、どこがいいと思う?」

「はあ?」

大輝のどこか気さくな感じの問いかけに、春斗は不思議そうに目をぱちくりとさせる。恐らく、優香も同様だろう。何か言いたげな表情が、彼らの気持ちを雄弁に語っていた。

しかし、そんな視線に気づいた様子もなく、大輝は必死な表情でさらに言い募った。

「多分、友樹達も、麻白と一緒に遊園地に来ると思うんだよな。だから、その、告白のシチュエーションを少し考えてみようと思ったんだよ」

切羽詰まったような大輝の態度に感じるものがあったのだろう。

見慣れた大輝のその表情に、何かが揺れ、ざわめき始める。

しばらくの間、沈黙が続いた。

あくまでも真剣な表情でこちらを見つめてくる玄と大輝に、春斗と優香は無言でその玄達の視線を受け止めていた。

そんな時間がどれほど続いたことだろうか。

春斗と優香は顔を見合わせるとふっと息を吐き出した。そして引き締めていた口元を少し緩めると、さもありなんといった表情で言った。

「…‥…‥やっぱり、観覧車の中かな」

「はい。観覧車から見渡せる景色は綺麗だと思います」

「ありがとうな、春斗、優香」

少し照れくさそうに応じる春斗と優香に、大輝は屈託なく笑った。

そして、大輝は考え込むように腕を組むと、玄と一緒に遊園地のデートプランについて試行錯誤する。

「それにしても、遊園地に行くのはすごく久しぶりだな」

「…‥…‥春斗さんと一緒に、遊園地に行くのは初めてです」

感傷に浸る春斗をよそに、優香は少し恥ずかしそうにもじもじと手をこすり合わせるようにして俯くのだった。






玄達と一緒に遊園地に行く当日ーー。

バスを乗り継ぎ、玄達との待ち合わせの遊園地に着いた春斗と優香は、あかりの乗った車椅子を押しながら、足早に人込みの中を歩き、遊園地の電光板の時刻に目をやった。

見れば、玄と大輝と待ち合わせの約束をした時間の少し前だ。

咄嗟に、あかりが焦ったように口を開いた。

「お兄ちゃん、優香さん、待ち合わせの時間、もうすぐだよ!」

「仕方ないだろう。初めて行く遊園地だったから、場所がよく分からなかったんだ。玄達に少し遅くなるかもしれないとメールで連絡しておいたから、多分、大丈夫だとは思うけど」

「おい、春斗、あかり、優香!」

「あかり、春斗くん、優香さん」

春斗がそう言って、遊園地の入口ゲートに行こうとした矢先、不意に大輝と麻白の声が聞こえた。

声がした方向に振り向くと、少しばかり離れた道沿いに、大輝と麻白が春斗達の姿を見とめて何気なく手を振っている。その隣には、玄が穏やかな表情で春斗達を見つめていた。

春斗達の元へと駆けよってきた大輝が、少し不満そうに言った。

「おまえら、遅いぞ」

「大輝、ごめんな」

「ごめんなさい」

「大輝さん、申し訳ありません」

春斗とあかりと優香がそれぞれの言葉で謝罪すると、大輝はどこか照れくさそうな笑みを浮かべる。

「…‥…‥いや、その。俺の方こそ、今日、付き合わせてしまってごめん」

春斗達の謝罪を受けて、大輝は少しばつが悪そうにゆっくりと首を横に振った。

「春斗、あかり、優香。麻白の隣にいるのが拓と友樹ーー、麻白のサポート役だ」

大輝はそう言って空笑いを響かせると、ほんの一瞬、複雑そうな表情を浮かべる。

大輝の視線を追った先には、春斗達と同じくらいの年齢のーー帽子を目深まで被り、眼鏡をかけた二人の少年の姿があった。

「あの人達が、麻白のサポート役なんだな」

「うん」

「でも、何だか、宮迫さんのチームメイトの方に似ていますね」

根が真面目そうな茶髪の少年と、彼よりも身長は高く、爽やかな顔立ちで何よりも性格が気さくな感じの明るい色の茶髪の少年を見て、春斗とあかり、そして優香は目を丸くし、驚きの表情を浮かべた。

戸惑う春斗達をよそに、大輝は先を続ける。

「あの身長の高い奴が友樹だ」

「あの人が、友樹さんなのか」

大輝に促されて、春斗は友樹と呼ばれた少年をまじまじと見つめた。

175センチ近い長身に、何事にも動じなさそうな風格を漂わせている。

大輝の情報によると、何でも陸上部に入っているためか、運動神経は大輝顔負けの実力者らしい。

もし、春斗達の高校にいたら、さぞかし女子生徒に人気だっただろう。

思わぬ大輝の恋のライバルに、春斗は困ったように眉をひそめる。

「何て言うか、すごくかっこいい人だな」

「うん。でも、私はお兄ちゃんの方がかっこいいと思うの」

「はい。春斗さんはかっこいいです」

だがすぐに、まっすぐに向けられたあかりと優香の視線に、春斗は慌てて身体ごと向きを変えた。

春斗は無性に顔が熱いような気がして、その熱を逃がすように口を開く。

「いや、そんなことないだろう」

「ううん。お兄ちゃん、いつも私達のために頑張ってくれて、すごくかっこいいもの」

「はい。春斗さんのおかげで、私はお父さんとお母さんに本当の気持ちを伝えることができました」

子供のように無邪気に笑い合うあかりと優香に、春斗の顔が輪をかけて赤くなった。

「…‥…‥なあ、春斗。いい加減、遊園地に行こうぜ」

「あっ、その、大輝、ごめん」

大輝が不服そうに投げやりな言葉を返すと、春斗は焦ったように粛々と頭を下げるのだった。

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