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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
72/126

第七十二話 遠いパートナーに永遠を感じた④

「お兄ちゃん、すごい!」

「春斗さん、すごいです!」

一拍遅れて爆発するあかりと優香のリアクションを尻目に、当夜は目を細める。

「まあ、当然だな」

満足そうな当夜の言葉に、隣に座っていた花菜は一瞬、表情を緩ませたように見えた。

無表情に走った、わずかな揺らぎ。

そして、無言の時間をたゆたわせた後で、花菜はゆっくりと頷いた。

「輝明が負けるはずがない」

それとなく、視線をそらした花菜は、まるで照れているかのようにうつむいた。

「阿南輝明さんのもう一つの必殺の連携技、すごいな」

「うん」

「はい、すごいです」

どこまでも熱く語る春斗をちらりと見て、あかりと優香は穏やかに微笑んだ。

そして一呼吸置いて、春斗は淡々と続ける。

「あの、阿南輝明さん。また、いつか、俺と一緒に組んでオンライン対戦をして頂けませんか?」

「そうだな」

静かにーーそして、どこまでも決意を込めた春斗の言葉に、コントローラーを置いた輝明は思わず、ふっと息を抜くような笑みを浮かべたのだった。






「ねえ、お兄ちゃん」

カケルの家から出た後、車椅子に乗ったあかりがぽつりとつぶやいた。

「…‥…‥どうした、あかり」

「あ、あのね」

春斗のその問いに、あかりは車椅子の肘掛けをぎゅっと握りしめたまま、恥ずかしそうにそうつぶやくと顔を俯かせる。

しかし、このままでは話が先に進まないと思ったのだろう。

あかりは顔を上げると、意を決して口を開いた。

「私、また、三崎カケルさん達に会いたい」

「三崎カケルさん達と?」

意外な言葉に、春斗は思わず唖然として首を傾げた。

あかりは嬉しそうに頷くと、さらに先を続ける。

「うん。私、これからも三崎カケルさん達に、麻白のことを伝えたいの」

あかりがぱあっと顔を輝かせるのを見て、春斗は思わず苦笑してしまう。

「嬉しそうだな」

「うん。大会の時以外で、三崎カケルさん達に会えて嬉しんだもの」

春斗の何気ない言葉に、あかりは嬉しそうに笑ってみせた。

「大会の時は、阿南輝明さん達とあまり話したりすることがなかったから、どんな人達なのか分からなかった。だけど今回、みんなで話したり、お兄ちゃん達のオンライン対戦を見ることができて、阿南輝明さん達のことが少し分かったような気がするの。だから今度、会ったら、私と友達になってくれたらいいな」

「あかり、違うだろう」

「えっ?」

突然の春斗からの指摘に、あかりは呆気に取られたように首を傾げた。

春斗の代わりに、優香が優しげな笑みを浮かべて答える。

「私ではなくて、私達です」

「う、うん!」

優香の言葉に、あかりは顔を上げると明るく弾けるような笑顔を浮かべてみせた。

日だまりのようなその笑顔に、春斗はほっと安心したように優しげに目を細めてあかりを見遣る。

玄達ーーいや、少なくとも、玄のおじさんと三崎カケルさん達の溝は深いのかもしれない。

でも、あかりが麻白と友達になったように、そして、俺達が阿南輝明さん達と友達になりたいと願ったように、いつか玄のおじさんも三崎カケルさん達と和解してくれたらいいな、と願ってしまう。

春斗はあかりと優香を横目に見ながら、少し照れくさそうに頬を撫でる。

「でも、あかり。友達になるのに、いつまでもフルネームのままっていうのは、まずいよな」

「うーん。年上だけど、輝明さん、当夜さん、花菜さん、カケルさんって、名前で呼んでも大丈夫かな」

「そうですね」

あかりと優香の少し困ったようなその笑みに、春斗は思わず、吹っ切れたように笑ったのだった。






春斗達が、カケル達と邂逅したその日の夜。

大輝は玄の家に泊まりに来ていた。

玄の部屋のカーテンから射し込む月の光は、普段より眩しく思えた。

「あ、あなたに降り注ぐ光の先には~!遠く果てない未来がいくつも交差している~!」

テレビ画面の中で、マイクを握りしめた麻白が少し緊張した様子で歌声を上げる。

それは、この間、テレビで生放送されていた特別番組『麻白の歌のお披露目会』を録画したものだ。

ちなみに名目上、『麻白の歌のお披露目会』ということになっているが、実際の番組のタイトルは別のものになっている。

否応なしに流れる麻白の歌を聞きながら、大輝は玄の部屋のベットに横たわるとぽつりとつぶやいた。

「なあ、玄。今日のオンライン対戦、すごかったよな」

「…‥…‥ああ」

どこか辛辣そうな玄の言葉を受けて、大輝は不服そうに眉をひそめる。

「春斗にしてやられたな。それに阿南輝明、あいつ、厄介だよな。俺、まだ、一対一だとあいつに勝ったことがない」

「…‥…‥阿南輝明は、オールラウンドの強さを誇っている。一対一の戦いにも、複数のチームと同時に戦う乱戦状態の中でも、遺憾なくその強さを発揮している。だが、俺は少なくとも、チーム戦より一対一での戦いの方が厄介だと感じた」

「一対一はまさに、あいつの独擅場(どくせんじょう)だからな」

怪訝そうな顔をする玄に、大輝はベットから起き上がるとふっと表情を消した。

「正直言って、一対一であいつに勝てるのは、あの地形効果を変動させる固有スキルの使い手で、個人戦の覇者である布施尚之しかいないんじゃないのか」

腕を頭の後ろに組んで玄の部屋の壁にもたれかかった大輝は一度、目を閉じてから、ゆっくりと開いて言う。

「まあ、少なくともチーム戦の一対一なら、麻白の固有スキルもあるし、俺にもワンチャンスがあるかもな」

「大輝らしいな」

笑ったような、困ったような。

あらゆる感情の混ざった声が、玄の口からこぼれ落ちる。

「なあ、玄。春斗と阿南輝明は、三崎カケルのこと、何か言っていたのか?」

「今日、春斗達が、麻白には会わせられない事情などを阿南輝明達に話したそうだ」

「そうか」

玄の意外な言葉に、大輝は少し躊躇うようにため息を吐くと、複雑な想いをにじませる。

だが、すぐに大輝は表情を緩めると軽く肩をすくめてみせた。

「まあ、いつかはバレることだから仕方ないか。とりあえず、春斗達が先に阿南輝明達に話してくれて助かったな」

「そうだな」

内心の喜びを隠しつつ、玄は微かに笑みを浮かべるのだった。

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