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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
71/126

第七十一話 遠いパートナーに永遠を感じた③

「俺と阿南輝明さんの二人で、オンライン対戦?」

「ああ」

カケルの部屋にて、当夜から思いもよらない言葉を告げられて、春斗達はただただぽかんと口を開けるよりほかなかった。

「その、違うチーム同士なのに、一緒に対戦しても大丈夫なのか?」

当夜からの突然の懇願に、春斗は思わず唖然として首を傾げた。

「オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ4』で新しくできた対戦方式、『エキシビションマッチ』なら、別のチームメンバー同士で組んで、二対二で対戦しても大丈夫ーー」

「当夜、カケル。僕は、雅山春斗と一緒に対戦なんかしないからな」

そう告げる前に先んじて言葉が飛んできて、説明していたカケルは口にしかけた言葉を呑み込む。

首を一度横に振ると、代わりにカケルは不思議そうに輝明に訊いた。

「輝明は、『ラ・ピュセル』のこと、気にならないのか?」

「でも、輝明、もう一つの必殺の連携技、前の公式大会で、初めて『ラ・ピュセル』に披露した」

「うるさい!」

苛立ちの混じった輝明の声にも、花菜は淡々と表情一つ変えずに言う。

そこで、花菜は小首を傾げると、ふっとあかりと優香に視線を向けた。

「雅山あかりと天羽優香は、輝明と雅山春斗の二人が一緒にオンライン対戦するところ、見たくない?」

「うん、見たい!」

花菜が大した問題ではないように至って真面目にそう言ってのけると、あかりは両拳を前に出して話に飛びついた。

わくわくと間一髪入れずに答えるあかりに、春斗は困惑した表情でおもむろに口を開く。

「はあっ…‥…‥。優香も、あかりと同じ意見なのか?」

「はい、春斗さん、申し訳ありません。私も、春斗さんと阿南輝明さんが一緒に組んで対戦しているところが見てみたいです」

呆れた大胆さに嘆息する春斗に、優香は少し恥ずかしそうにもじもじと手をこすり合わせるようにして俯く。

渋い顔の春斗と幾分真剣な顔のあかりと優香がしばらく視線を合わせる。

先に折れたのは春斗の方だった。

身じろぎもせず、じっと春斗を見つめ続けるあかりと優香に、春斗は重く息をつくと肩を落とした。

「…‥…‥分かった。だけど、俺と阿南輝明さんじゃ実力に差があるから、あまり期待はするなよな」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

「春斗さん、ありがとうございます」

苦虫を噛み潰したような顔でしぶしぶ応じる春斗に、あかりと優香はきょとんとしてから弾けるように手を合わせて喜び合った。

「輝明もいいよな?」

「分かった」

当夜の即座の切り返しに、輝明は仕方なさげにーーだが、確かに笑みを浮かべてみせる。

いそいそとゲーム機に歩み寄り、ゲームを起動させながら、カケルが嬉しそうに言う。

「今日はすごい日だな。俺の家に輝明達と雅山春斗さん達が来ただけではなく、輝明と雅山春斗さんが一緒に組んでオンライン対戦をするなんて」

カケルは視線を落とすと、どこか昔を懐かしむようにそうつぶやいた。


『エキシビションマッチが選択されました!』


テレビ画面に響き渡ったシステム音声に、春斗はコントローラーを手にしてモニター画面を見据えた。

観戦していたあかり達も、期待に満ちた表情でなりふりかまっていられなくなったように身を乗り出す。

隣で同じくコントローラーを持ち、メニュー画面を呼び出してバトル形式を選択し終えた輝明も、今ばかりは目を見開いて事の成り行きを見据えていた。

『挑戦者が現れました!』

「あっ…‥…‥」

少し間を置いた後、テレビ画面に再び、響き渡ったシステム音声に、コントローラーをじっと凝視していた春斗の声が震えた。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ4』。

そのオンライン対戦で、対戦を申し込んできた相手のキャラの一人を見て、春斗は思わず目を見開く。

スタンダードな草原のフィールドに立つのは、一人の黒騎士風の男性。

大きなヘルムを被り、重装備の黒騎士風のキャラが、伸ばした右手に無骨な大剣を翻らせ、この上ない闘志をみなぎらせている。

その姿を見た瞬間、春斗は息をのんだ。

それは、あの玄のキャラだったからだ。

そして、玄のキャラと一緒に組んでいるのは大輝のキャラである。

「玄とのオンライン対戦は、すごく久しぶりだな。それに、大輝とオンライン対戦をするのは初めてだ」

感情を抑えた声で、春斗は淡々と言う。

偶然なのだろうか。

それとも必然だったのか。

春斗と輝明vs玄と大輝。

春斗達がカケルの家に行かなければ、決して起こり得なかった対戦が今、始まろうとしている。

「優香さん、すごいね」

「はい」

「黒峯玄と浅野大輝」

驚愕するあかりと優香をよそに、淡々と言葉を紡ぐ戦姫の名を冠した少女ーー花菜は、髪をかきあげて決定的な事実を口にした。

「…‥…‥だけど、輝明には勝てない」

「まあ、俺達のリーダーが負けるはずないしな」

冗談でも、虚言でもなく、ただの願望を口にした当夜に、春斗は穏やかな表情で胸を撫で下ろすと口元に手を当てて考え始める。

まさか、玄と大輝とオンライン対戦することになるなんてな。

阿南輝明さんと組んでいるとはいえ、かなり苦戦を強いられそうだ。

春斗が目を細め、更なる思考に耽ろうとした矢先、キャラのスタートアップの硬直が解けた。


ーーバトル開始。


「…‥…‥っ」

対戦開始とともに、玄のキャラに一気に距離を詰められた春斗は後退する間もなく無防備なまま、一撃を浴びせられる。

しかし、春斗も負けじと勢いもそのままに半回転し、自身のキャラの武器である短剣を叩き込んだ。

しかし、電光石火の一突きは、玄のキャラの大剣にあっさりと弾かれてしまう。

「なっーー」

続く玄の追撃に反応が遅れ、春斗のその先に続く言葉が形をなす前に、玄のキャラは春斗のキャラに対して斬り下ろしの一撃を見舞わせる。

同時に息も吹きかかるような至近距離で放たれた連携技は、春斗のキャラの体力ゲージをごっそりと奪った。

まだ対戦は始まったばかりというのに、予測に反した動きで春斗を追いつめていく玄に、春斗は思わず歯噛みする。

「あっ…‥…‥」

「ーーっ」

だが、死角からの大輝のキャラの大鉈による一撃は、輝明の絶妙なフォローによって何とか凌ぎきる。

「阿南輝明さん、ありがとう」

率直に感謝の意を述べた春斗を見て、輝明はため息とともにこう切り出してきた。

「黒峯玄は、僕一人で倒す。雅山春斗、おまえは浅野大輝がバトルに参戦してこないように徹底的に叩き潰してこい」

「わ、分かった」

静かな言葉に込められた有無を言わせぬ強い意思。

輝明の凛とした声に、春斗は戸惑いながらも頷いた。

「雅山春斗、浅野大輝は任せた。そしてーー」

輝明の真剣な表情が、一瞬でみなぎる闘志に変わる。


「黒峯玄。チーム戦はしてやられたが、今回は僕がーー僕達が勝ってみせる!」


赤い焔と黒い風が、草原のフィールドの中央でぶつかる。

同時に、春斗も仕掛け、遅れて参戦してきた大輝のキャラと対峙した。

迷いもなく突っ込んできた春斗のキャラを視界に収めた瞬間、大輝のキャラは早くも連携技を発動させる。

ほぼタイムラグなしで発動させた連携技。

逆手に持った大鉈にのせて放った一閃が、春斗のキャラを襲う。

「…‥…‥くっ」

間一髪で難を逃れた春斗は、大輝のキャラへとさらなる追撃を放とうとした。

「ーーっ!」

しかし、大輝のキャラが突き入れた大鉈が、春斗のキャラが振るう短剣をあっさりと押しとどめてしまう。

短剣を振り下ろそうとする春斗のキャラの動きに合わせ、大輝のキャラは絶妙な力加減でさらに春斗のキャラへ肉薄する。

剣と大鉈のつばぜり合い。

春斗と大輝。

ゲームセンターでおこなった一度目のチーム戦でのバトル、そして輝明と組んでおこなった二度目のオンライン対戦でのバトルも、玄と大輝が優勢に事を運んでいるようにも思えた。

だが、状況は輝明が操作する剣豪のような風貌の男性が玄の操作する黒騎士風の男性を弾き飛ばしたことで一転する。

迷いのない斬り上げとともに、輝明のキャラの強烈な一撃を受けて、玄のキャラは数メートル後方に吹き飛んだ。

弾き飛ばされた玄のキャラは、少なくはないダメージエフェクトを放出する。

だが、輝明の追撃はそれで終わらなかった。

右上段からの斬撃から、左下段からのさらなる回転斬撃。

超速の乱舞を繰り出す輝明のキャラに、玄のキャラはあえて下がらず、前に出た。

「…‥…‥あっ」

次の瞬間、春斗は息をのんだ。

対峙していた玄のキャラが、不意に弛緩したように大剣をあっさりと下ろしてきたからだ。

玄の固有スキル、相手に風の刃を放つ『烈風斬』かーー。

春斗が戸惑う中、玄のキャラはそこから一歩踏み込むと、輝明のキャラに向かって高速の突きを放った。

だが、輝明は超反応でその一撃を避けると、逆にカウンターのかたちで、斬り下ろしの一撃を玄のキャラに見舞う。

そして同時に放たれた連携技の連続は、春斗のキャラの隣に立っていた大輝のキャラの体力ゲージをもごっそりと奪った。

「阿南輝明さん、ありがとう」

「…‥…‥雅山春斗、苦戦しているのなら、全てを覆せばいい」

「あ、ああ」

春斗との短い会話の後、輝明は距離をとり、急加速して玄のキャラに再度、向かっていく。

「玄の固有スキルを、あんなにあっさりと防ぐなんてすごいな」

コントローラーを持ち、ゲーム画面を睨みつけながら、春斗は不意に不思議な感慨に襲われているのを感じていた。

ーーやっぱり、阿南輝明さんは強い。

ーーだけど、一緒に組んでオンライン対戦をしたことで、初めて分かったことがある。

チーム戦で戦った時はかなり苦戦を強いられたけれど、味方の時は力強く感じてしまう。

まさに、心強いパートナーの強さに、春斗は驚愕の眼差しを送る。

「俺も負けていられないな」

答えを求めるように、春斗のキャラが一瞬で間合いを詰めて大輝のキャラへと斬りかかる。

迷いのない一閃とともに、春斗のキャラの強烈な一撃を受けて、大輝のキャラはわずかにたたらを踏んだ。

しかし、大輝のキャラはすぐに立ち直ると、追撃とばかりに斬撃を繰り出してくる。

それらを弾き凌ぎ、体力ゲージが危険域に達しながらも、春斗は表向き、焦りを見せつつ、虎視眈々と一発逆転の機会を窺っていた。

「お兄ちゃん、頑張って!」

「春斗さん、頑張って下さい!」

「ああ!」

あかりと優香の声援を受けた春斗は再度、対峙した大輝のキャラを弾き飛ばすと、翻した短剣を握りしめて叫ぶ。

『ーー弧月斬・閃牙!!』

急加速した春斗のキャラが『短剣』から持ち替えた『刀』で、大輝のキャラに正面から一刀を浴びせた。

「ーーっ」

予想外の武器での一撃に、大輝のキャラは驚愕する。

春斗の固有スキル、武器セレクト。

それは、自身の武器を一度だけ、自由に変えることができる固有スキルだった。

音もなく放たれた一閃が、なすすべもなく大輝のキャラを切り裂いた。

致命的な特大ダメージエフェクト。

体力ゲージを散らした大輝のキャラは、ゆっくりと春斗のキャラの足元へと倒れ伏す。

「…‥…‥大輝に勝った」

春斗は噛みしめるようにつぶやくと、胸の奥の火が急速に消えていくような気がした。

だが、すぐに状況を思い出して、春斗は表情を引きしめる。

「そうだ。玄はーー」

次の瞬間、春斗は息をのんだ。

輝明のキャラと対峙していたはずの玄のキャラが、自身のキャラに対して、大上段から大剣を振り落とす姿を目の当たりにしたからだ。

大輝を倒したことで気が緩んでいた春斗は、完全に虚を突かれてしまう。

とっさにできたのは剣をはね上げることぐらいで、振り下ろされる高速の斬撃には対応できない。

当たるーーそう思った刹那。

輝明のキャラが春斗のキャラの眼前に割り込み、玄のキャラの致命的な一撃を弾いた。

「阿南輝明さん!」

春斗の声には反応せず、輝明は自身のキャラに小さな音を響かせて刀を下段に構えさせる。

「黒峯玄。僕にここまでダメージを与えたこと、今すぐ後悔させてやる」

「ーーっ」

静かな言葉に込められた有無を言わせぬ強い意思。

輝明の凛とした声に、春斗は思わず、目を見開く。

「お兄ちゃん、阿南輝明さん」

「これってーー」

「おっ、輝明、やる気満々だな」

緊張した面持ちでモニター画面を見つめるあかりと優香をよそに、当夜は余裕の表情をみせる。

だが、それも、輝明のキャラの固有スキルーー『真なる力の解放』によって放された、もう一つの必殺の連携技を見るまでだった。


「ーー『始祖・魔炎斬刃』!!」


その声は、否応なく、春斗達の全身を総毛立たせる。

次の瞬間、何が起こったのか、一緒に組んで対戦していた春斗にも分からなかった。

ほんの一瞬前まで、輝明のキャラと対峙していた玄のキャラは、次の瞬間、見えない刃によって切り刻まれ、叩きつけられ、焼きつくされた後、そのまま、数メートル先まで吹き飛ばされていた。

その必殺の連携技ーーそれだけで、残っていた玄のキャラの体力ゲージすべては根こそぎ刈り取られていた。

驚愕する暇もない、一瞬とも呼べない、ごくごく短い時間。

常識ではあり得ない現象。

不条理そのものの現象は、けれど、『最強のチーム』のリーダーである、目の前の少年には、これ以上なくふさわしい。

草原のバトルフィールドに春斗のキャラとともに立っているのは、一人の剣豪のような風貌の男性。

白と青を基調にした軽装の鎧のような衣装を身に纏ったーー輝明のキャラが、伸ばした右手に刀を翻らせ、この上ない闘志をみなぎらせている。

輝明の固有スキル、真なる力の解放。

それは、固有スキルを使用することで一度だけ、別の必殺の連携技を使うことができる固有スキルだった。

「ーーなっ」

「言ったはずだ。全てを覆せばいいと」

何かを告げようとした春斗の言葉をかき消すように、輝明はこの上なく、不敵な笑みを浮かべた。


『YOU WIN』


システム音声がそう告げるとともに、春斗達の勝利が表示される。

「輝明のもう一つの必殺の連携技、何度見てもすごいな!」

興奮さめやらないカケルがそう告げると、一瞬の静寂の後、認識に追いついたあかり達の歓声が一気に爆発した。

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