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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
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第六十六話 透き通る家族の夢を見ていた②

総合病院から帰ったその夜、春斗は夢を見た。

それはまだ、春斗が小学校に入学したばかりの幼い頃の想い出。

家族と一緒に出かけた旅行の帰り道、偶然、見つけた大きな公園。

春斗とあかりはブランコに座りながら、広場ではしゃぐ同じ年頃の子供達を眺めていた。

公園の中心にあるのは、トンネルの滑り台や噴水が複合された給水塔みたいな大型遊具。

そこは、地元でも有名な公園だった。

「ねえ、お兄ちゃん、押して!」

幼いあかりがブランコを小さく揺らす。

「ああ」

春斗は立ち上がると、あかりが乗っているブランコをゆっくりと揺らし始める。

「あのね、お兄ちゃん。私、また、この公園で遊びたい!」

「うーん。遠いから、難しいな」

「遠いって、家からどのくらい?」

春斗をじっと凝視していたあかりの声が震えた。期待に満ちた表情で、あかりはなりふりかまっていられなくなったように上半身を乗り出す。

そんな彼女に、揺らすのを止めた春斗は両手を大きく広げると、てらいもなく告げた。

「家からは、こんなに遠いんだ」

「春斗、もっと遠いと思うぞ」

春斗の全く根拠のないーーだけど、力強い言葉に、なんと答えていいのか分からず、傍観していた春斗の父親はもやもやしたものを押さえ込むように頭を抱える。

「春斗らしいわね」

そんな中、春斗の父親の隣で、笑みを堪えきれなくてたまらないとばかりに、きゅっと目を細めて頬に手を当てる春斗の母親を見て、春斗の父親はすでに残り少ない気力がぐんぐん目減りしていくのを感じていた。






「…‥…‥と、春斗、ご飯よ」

不意に、春斗の母親から名前を呼ばれて、 春斗は突っ伏していた机から勢いよく顔を上げた。

視界に映るのは、見慣れた自分の部屋だ。

総合病院から帰った後、春斗は、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦が開催されるまでの間のゲームの特訓スケジュールを考えていたのだが、なかなか良いアイデアが思いつかず、そのまま、机で眠ってしまっていた。

そして、その間に、翌日を迎えてしまったらしい。


ーー懐かしい夢を見たな。

あの時は、あかりと一緒に、公園の中を駆け回っていたな。


春斗はうつろな目をこすると、微睡みを邪魔してきた春斗の母親がいるリビングに行くため、ドアの方へとゆっくりと立ち上がった。そして、階段を降りて、リビングへと入る。

「おはよう、母さん」

「おはよう、春斗」

春斗のその声に反応して、キッチンにいた春斗の母親がリビングの方を振り向く。

エプロンを外すと、春斗の母親は穏やかな表情で春斗に声をかけてきた。

「春斗、今からあかりを迎えにいってくるから、先に朝ご飯を食べていてね」

「ああ。あかり、今日、退院できるんだな」

「ええ」

春斗があくまでも真剣な眼差しで聞くと、春斗の母親は嬉しそうに顎に手を当てて、とつとつとそう語る。

「あかりが戻って来たら、家族でお出かけしたかったのだけど、なかなか難しいわね。こうなったら、あかりが通院している総合病院の近くでお出かけしようかしら」

言いたかった言葉を見つけたらしい春斗の母親は一気にそう言うと、表情を輝かせながら春斗を見つめた。

「はははっ。そういうのもありかもな」

両手を握りしめて言い募る春斗の母親に熱い心意気を感じて、春斗は少し困ったように頬を撫でてみせる。

テーブルには、所狭しと朝食の料理が置かれていた。

スープにサラダ。紅茶が入ったポットとコップ。そして、メインディッシュとして、目玉焼きが乗ったトーストが置かれてある。

だが、メインデニッシュとはいっても、普通に目玉焼きが乗っただけのトーストだ。

春斗がトーストを頬張っていると、支度を終えた春斗の母親は、あかりが待っている総合病院に行くために、足早に家を後にした。

残された春斗は速やかに朝食を終えると、階段を上がり、自分の部屋に戻る。

そして、愛用のヘッドホンを装着してゲームの曲を脳内にリピートさせながら、春斗はまるで頓着せずにゲームを起動させた。

『チェイン・リンケージ4』。

その眼前のタイトル表記が消えると同時に、春斗はメニュー画面を呼び出してバトル形式の画面を表示させる。

「ーーさて、今日もやるか」

春斗はそう告げると、真剣な表情でゲーム画面を見据えた。

ふと脳裏に、ツーサイドアップに結わえた銀色の髪の少女ーー琴音の姿がよぎる。

気持ちを切り替えるように何度か息を吐き、まっすぐにゲーム画面を見つめた春斗は思ったとおりの言葉を口にした。

「『チェイン・リンケージ』。ーーもう一度、彼女と繋がるために」

春斗がそうつぶやいたと同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けた。


ーーバトル開始。


ぴりっとした緊張感とともに、バトルが開始される。

春斗は自分だけの世界に埋没するように、ゲームにのめり込んでいった。


そして、春斗がゲームを始めてから、二時間後ーー。


不意に、春斗の携帯が鳴った。

春斗が携帯を確認すると、りこからのメールの着信があった。

春斗はゲームを一旦、停止するとコントローラーを置き、早速、そのメールを読み上げる。


『春斗くん、昨日はありがとう』


そのメールの内容に一瞬、りこが楽しげに軽く敬礼するような仕草を見せた様子を思い浮かべてしまい、春斗は思わず苦笑する。

そして、あらゆる思いをない交ぜにしながら、春斗は何気なくメールの続きを読んだ。

「ーーっ」

次の瞬間、春斗は目を見開き、思わず言葉を失う。


『今度、春斗くん達、『ラ・ピュセル』とりこ達、『ゼノグラシア』で対戦しない?』


「対戦…‥…‥」

春斗がたまらず、そうつぶやくと、再び、りこからのメールの着信が来る。


『りこの固有スキルは、条件があって使いづらいんだよね~。普通に対戦してもなかなか出しづらいから、春斗くん達に協力してもらって、お披露目したいなと思ってー』


「ーーっ」

そのメールの内容に、春斗は目を見開いた。

春斗は思わず、そのまま、立ち上がりそうになって、自分で自分の手を掴むことで抑え込む。

「…‥…‥た、確かに、『ゼノグラシア』に協力してもらったら、今生の固有スキル、『ヴァリアブルストライク』がどんな技なのか分かるな」

春斗は、りこが必死にチームメンバーに頼んでくれている様子を想像し、途方もなく心が沸き立つのを感じた。


『でも、上手くいけば、連撃を放った相手の体力ゲージを半分まで減らせるよ』


ふと、春斗の脳裏に、昨日の真剣な眼差しで言い募るりこの姿がよぎる。

春斗は拳を握りしめると、沸き上がる思いを押さえ、あくまでも自然な口調でこう告げた。

「な、なら、まずは、あかりが帰ってきたら、今生達、『ゼノグラシア』 との対戦についてのことを考えるか」

「ただいま、春斗。ちょっといいかしら?あかりがそろそろ、もう一人のあかりに変わるみたいだから、春斗のところに行きたいみたいなの」

熱意に燃える春斗の様子をよそに、あかりを連れて、総合病院から帰ってきた春斗の母親の声が聞こえてきた。


俺はーー俺達は絶対に、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会のチーム戦に優勝してみせる。

みんなの夢を叶えるためにーー。

そして、なによりーー誰よりも愛しい彼女のために。


だが、何度呼んでも応えない春斗に、業を煮やした春斗の母親が部屋に入ってきても、止めどない春斗の想いのスパイラルは終わることはなかった。






「えっ?お兄ちゃん、今度、りこさん達、『ゼノグラシア』と対戦するの」

「ああ」

春斗の話を聞き終えると、春斗の部屋のベットに座っていたあかりは不思議そうに訊いた。

「りこさん、すぐに対戦してくれるように頼んでくれたんだね」

「ーーっ」

図星をさされたように黙った春斗を見て、あかりは嬉しそうに続ける。

「お兄ちゃん。もうすぐ宮迫さんにーーもう一人の私に変わるけれど、絶対に負けないからね」

「ああ。俺も負けないからな」

コントローラーを持ったあかりが態度で勝ちを認めてくると、春斗は当然というばかりにきっぱりと告げた。

兄らしい反応に、あかりは俯くと不満そうに頬を膨らませてみせる。

「絶対に負けないもの」

「いや、俺が勝ってみせる」

あかりの言葉に春斗がそう答えたと同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けた。

そして、春斗とあかりの対戦が開始される。

その対戦の途中で、あかりから琴音に代わったことにより、二人のバトルはより一層、激しさを増すのだった。

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