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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
60/126

第六十話 そして、彼はいなくなった

『姿を変えた人物の能力をコピーする魔術』。

ありさが口にした言葉は、結果的に事実となった。

ぴりっとした緊張感とともに、春斗のキャラがまっすぐ、ありさのキャラをまるで睨んでいるようにして短剣を構える。

対するありさのキャラは軽く首を傾げると、春斗のキャラを静かに見つめた。

まさに、一触即発の状態ーー。

そんな中、先に動いたのは、春斗のキャラだった。

春斗のキャラが地面を蹴って、ありさのキャラとの距離を詰める。

「ーーっ」

迷いなく突っ込んできた春斗のキャラに、ありさのキャラは後退する間もなく無防備なまま、一撃を浴びせられた。

春斗のキャラに一撃を浴びせられたことにより一旦、その場を退こうとしたありさのキャラの出鼻をくじくような形で、春斗は相手の背後を取ると、ありさのキャラが振り返る間も与えずに続けて斬撃を放ってみせる。

ーーまるで、あかりと対戦しているみたいだな。

いつものあかりと同じ、ありさのバトルスタイルに戸惑いながらも、春斗はありさのキャラを追いつめていく。

「ーーくっ!?」

「結構、きついけれど、避けられないほどじゃない!」

続く春斗のキャラの追撃に対応が遅れるも、ありさはその斬撃を間一髪のところで回避してみせる。

しかし、春斗の追撃はそれで終わらなかった。

春斗のキャラはすかさず、ありさのキャラの懐に入り込むと、二度目の斬撃をありさのキャラに見舞わせた。

ガクンと体勢を崩したありさのキャラに春斗のキャラがさらに追撃を入れようと踏み込んだところで、ありさは剣で下段から斬り上げを入れようとするが、それは彼に読み切られていた。

半身そらしただけで回避した春斗のキャラが、斬り下ろしの一撃をありさのキャラに見舞わせる。

「だったら、これならどう?」

「ーーくっ」

反撃とばかりに、春斗のキャラに連撃を見舞っていたありさのキャラの技の終息に合わせて、春斗は必殺の連携技を発動させる。

『ーー弧月斬・閃牙!!』

「ーーっ!」

急加速した春斗のキャラが『短剣』から持ち替えた『刀』で、ありさのキャラに正面から一刀を浴びせた。

「ここで固有スキルを用いた、必殺の連携技!?」

予想外の武器での一撃に、ありさは驚愕の表情を浮かべる。

春斗の固有スキル、武器セレクト。

それは、自身の武器を一度だけ、自由に変えることができる固有スキルだった。

音もなく放たれた一閃が、なすすべもなくありさの操作するキャラを切り裂いた。

致命的な特大ダメージエフェクト。

体力ゲージを散らしたありさのキャラは、ゆっくりと春斗のキャラの足元へと倒れ伏す。


『YOU WIN』


システム音声がそう告げるとともに、イベントステージのモニター画面に、春斗の勝利が表示される。

「…‥…‥勝った」

春斗は噛みしめるようにつぶやくと、胸の奥の火が急速に消えていくような気がした。

同時にフル回転していた思考がゆるみ、強ばっていた全身から力がぬけていく。

「春斗くん」

「霜月さん」

名前を呼ばれて、そちらに振り返った春斗は、先程、コントローラーを置いたばかりのありさを見た。

ありさは既に、あかりの姿から元の姿に戻っていた。

「あかりさんの姿でバトルしたら、動揺して調子が狂うかなと思っていたけれど、あかりさん相手でも容赦なかったね」

「あかりとは、いつも真剣勝負しているからな。あかりはどんどん、強くなってきているから、手加減なんてしている暇はない」

「うん。本来のあかりさんも結構、強かったね」

春斗の同意が得られて、ありさはほっとしたような、でもそのことが寂しいような、複雑な表情を浮かべる。

「あの、霜月さん、聞いてもいいかな?」

「えっ?」

一旦、言葉を途切ると横に流れ始めた話の手綱をとって、春斗が鋭く目を細めて告げた。

「霜月さんは、魔術を使う少年について、何か知っているのか?」

「ーーっ」

核心を突く春斗の言葉に、ありさは思わず目を見開く。

恐らくそれが、この場で最も重要なことだろう。

魔術を使う少年の手によって、あかりと麻白は、魔術で生き返ることができた。

そして、霜月さんは、魔術を使う少年の魔術によって、半年間だけ、『姿を変えた人物の能力をコピーする魔術』を使えるようになった。

どちらも、共通点は『魔術を使う少年』だ。

なら、霜月さんに聞いたら、魔術を使う少年について、何か分かるかもしれない。

ありさは複雑そうな表情で視線を落とすと熟考するように口を閉じる。

だが、その問いに答えたのは、ありさではなかった。

「霜月さん。春斗さんと対戦をする前に、魔術を使う少年が願いを叶えてくれたと言っていましたよね。魔術を使う少年と、今も会っているのでしょうか?」

「…‥…‥ううん。魔術を使う少年が、私の家に居候していたのは、夏休みが始まった頃だけだから」

「い、居候!?」

「えっ?ありささんの家に、居候していたの?」

意外な事実に目を見張る春斗とあかりをよそに、優香は居住まいを正して、真剣な表情で続ける。

「分かりました。では、霜月さん。せめて、お話できることだけをお聞かせ頂くことはできませんでしょうか?」

優香の重ねての問いかけに、ありさは観念したようにため息を吐いた。

「…‥…‥別の場所で、話しても大丈夫?」

「ああ。なら、ゲームフェスタから出よう」

「うん」

「そうですね」

春斗とあかりと優香は顔を見合わせてそう答えると、そのまま、ありさとともにイベントステージから踵を返し、足早にゲームフェスタから出るため、人込みの中を歩いていく。

ゲームフェスタの近くにあるベンチにたどり着くと、春斗は一度、警戒するように辺りを見渡した後、ありさの方へと向き直る。そして、率直にこう告げた。

「ここなら、人はあまり、いないみたいだな」

「…‥…‥ええ。ありがとう」

吹っ切れたような言葉とともに、ありさは春斗達を見つめる。

「私、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を始めてから、ずっと負け続けていたの。だから、もっと強くなりたかった」

「ーーっ」

聞いた瞬間、思わず心臓が跳ねるのを春斗は感じた。知らず知らずのうちに、拳を強く握りしめてしまう。

もっと強くなりたいーー。

それは、『ラグナロック』と『クライン・ラビリンス』に連敗してから、春斗がずっと抱き続けていた想いと同じだったからだ。

「そんな時、魔術を使う少年と出会った。彼はこう言ったの。『ビックマックセット』をおごってくれたら、魔術を使って強くしてあげてもいいって」

「『ビックマックセット』!?」

「そ、そうなんですね」

ベンチに座って、肘かけの上に置いた手を握りしめていたありさが、隣に立っている春斗と優香の言葉でさらに縮こまる。

「でも、魔術を使う少年が求めてきたのは、それだけじゃなかったの。しばらく、かくまってほしいからって、私の家まで押しかけてきたり、お金を一銭も持ってきていないからといって、魔術を使うために必要なものの費用、そして、今まで無銭飲食などをした代金の一部を払わされたりしたの」

ありさの話を聞き終えると、あかりは不思議そうにありさに訊いた。

「あの男の子、お金を持っていなかったの?」

「ええ。後で、魔術を使う少年の母親らしい人から、謝罪とその分の代金は払ってもらえたけれどね。もし、『姿を変えた人物の能力をコピーする魔術』を使えるようにしてもらえなかったら、警察に訴えないといけないレベルだった」

「…‥…‥そうなのか」

ありさが深刻な問題であるように至って真面目にそう言ってのけると、春斗はたじろぎながらも率直な感想を述べる。

ありさは、苦虫を噛み潰したような顔でさらに続けた。

「そして、魔術を使う少年は、私に『姿を変えた人物の能力をコピーする魔術』を授けた後、すぐに姿をくらましたの」

「何だか、あかりを生き返させてくれた後の状況と似ているな」

「うん。お父さん、突然、魔術を使う少年と連絡が取れなくなったって困っていたもの」

春斗が幾分、真剣な表情で言うと、車椅子に乗ったあかりは振り返り、それに応えるようにこくりと頷いてみせる。

「とにかく、私はこの『姿を変えた人物の能力をコピーする魔術』を半年間、使うことで、もっと強くなってみせるから!」

「そうか」

「えっ?春斗くんのことだから、てっきり、魔術を使うことを止めさせようとするのかなと思っていたんだけど」

思わぬ言葉を聞いたありさは、春斗の顔を見つめたまま、瞬きをした。

ありさと同じように、不思議そうに小首を傾げているあかりをじっと見つめた後、春斗は少し照れくさそうにこう言った。

「俺達も、宮迫さんの力を借りているからな。でも、俺は、いつか、本来の霜月さんともバトルしてみたい」

「…‥…‥春斗くん、ありがとう」

どこまでも熱く語る春斗に、ありさはきょとんとしてから弾けるように手を合わせて笑ったのだった。

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