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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
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第五話 どうして不確かな今があるんだろう

『挑戦者が現れました!』

「あっ…‥…‥」

テレビ画面に響き渡ったシステム音声に、コントローラーをじっと凝視していた春斗の声が震えた。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ3』。

そのオンライン対戦で、対戦を申し込んできた相手のキャラを見て、春斗は思わず眉をひそめる。

スタンダードな草原のフィールドに立つのは、一人の黒騎士風の男性。

大きなヘルムを被り、重装備の黒騎士風のキャラが、伸ばした右手に無骨な大剣を翻らせ、この上ない闘志をみなぎらせている。

その姿を見た瞬間、春斗は息をのんだ。

それは、モーションランキングシステム内で、自分より上位を占めるプレイヤーである『黒峯(くろみね)(げん)』のキャラだったからだ。

そしてーー

「…‥…‥オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第二回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームのメンバー」

春斗がそうつぶやいたと同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けた。


ーーバトル開始。


「…‥…‥っ」

対戦開始とともに、玄のキャラに一気に距離を詰められた春斗は後退する間もなく無防備なまま、一撃を浴びせられる。

しかし、春斗も負けじと勢いもそのままに半回転し、自身のキャラの武器である短剣を叩き込んだ。

しかし、電光石火の一突きは、玄のキャラの大剣にあっさりと弾かれてしまう。

ステージの真ん中で再度、ぶつかりあった二人のキャラは一合、二合と斬り結んだのち、いったん距離をとる。

一触即発、張り詰めた緊張感の中、玄のキャラは不意に弛緩したように大剣をあっさりと下ろしてきた。

「なっーー」

春斗が眉をひそめる中、玄のキャラはそこから一歩踏み込むと、春斗のキャラに向かって高速の突きを放った。

春斗はそれを反射的に短剣で受け止めようとして、大剣の刃先が届いていないのにも関わらず、自身のキャラが斬りつけられるのを目の当たりにする。

相手に風の刃を放つ、烈風斬(れっふうざん)の固有スキルかーー。

何の障害もないように大剣に斬りつけられ、体力ゲージを減らした春斗は反射的に反撃しようとして、その出先を大剣の柄に押さえられた。

たまらず、バッグステップで距離を取ると、春斗が後退した分だけきっちり踏み込んだ下段斬り上げを見舞わされる。

斬りつけられた春斗のキャラは、少なくないダメージエフェクトを放出していた。

「…‥…‥強い」

直前の動揺を残らず消し飛ばして、春斗がつぶやく。

コントローラーを持ち、ゲーム画面を睨みつけながら、春斗は不意に不思議な感慨に襲われているのを感じていた。

ーーさすがに手強い。

ーーでも、面白い。

言い知れない充足感と高揚感に、春斗は喜びを噛みしめると挑戦的に唇をつりあげた。

「これが、いずれ戦わなくてはいけないチームの一人なんだな」

答えを求めるように、春斗のキャラが一瞬で間合いを詰めて玄のキャラへと斬りかかる。

迷いのない一閃とともに、春斗のキャラの強烈な一撃を受けて、玄のキャラは 初めて、わずかにたたらを踏んだ。

しかし、玄のキャラはすぐに立ち直ると超反応で追撃とばかりに斬撃を繰り出し、わずかに残っていた春斗のキャラの体力ゲージを根こそぎ刈り取った。


『YOU LOST』


春斗の視界に、不意に紫色の文字がポップアップし、システム音声が春斗の負けを宣告する。

ーー負けた。

そう確認するや否や、春斗は何かに急きたてられるように、玄に再戦を申し込もうとして、受信されてきたメッセージにぴくりと反応する。


『来週、ゲームセンターで行われる非公式の大会に出場する』


そのとらえどころのない意味深なメッセージが、重装備の黒騎士風のキャラの最後の行動とともに、妙に春斗の頭に残った。






「…‥…‥黒峯玄?」

「…‥…‥確か、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第二回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームのメンバーの一人ですね」

翌日、あかりの病室で、春斗は昨日の出来事をあかりと優香に相談していた。

春斗の話を聞き終えると、あかりは不思議そうに春斗に訊いた。

「お兄ちゃん、昨日、その人と対戦したの?」

「あ、ああ」

ベットのシーツをぎゅっと握りしめて興奮気味にそう話すあかりに、春斗は困ったように肩を落とした。

春休みに入ったことで、母方の従姉妹である優香とともにあかりのお見舞いに行ったのだが、一度死んだとは思えないくらいの元気いっぱいなあかりの姿に、春斗は改めて魔術の効力のすごさを思い知らされてしまう。

真っ白なベットに身を乗り出したあかりは、朝の光のような微笑みを春斗に向けていた。

つい先日まで、その身体に死の気配を漂わせていたなんて、とても信じられなかった。

春斗が笑みの隙間から感嘆の吐息を漏らしていると、隣に立っていた優香は静かに告げる。

「来週、ゲームセンターで行われる非公式の大会というと、今度、この近くのゲームセンターで行われる大会しかないと思います」

優香は真剣な表情で、まっすぐ前を見ながら言う。

「でも、大会のエントリー期間はもう過ぎていますよね?」

「ああ。どういうことなんだろう」

春斗は苦悩するように軽く肩をすくめて一息つくと、昨日から疑問に思っていたことを口にした。

「それにしても、黒峯玄はどうして今週、ゲームセンターで行われる非公式の大会に出場することを、俺に伝えてきたんだ」

「もしかしたら、最後に放った春斗さんの一撃が意外だったのかもしれません。黒峯玄さんは、自分より上位を占めるプレイヤーにしかダメージを受けたことがないとの噂ですし」

「そうか」

思案するように視線を逸らした春斗は、横目で春斗達の会話をじっと見守っているあかりの方を窺い見る。

その視線に気づき、振り返ったあかりは、人差し指を立てるときょとんとした表情で首を傾げてみせた。

「お兄ちゃん、どうしたの?」

「あっ、いや、何でもない」

あかりの言葉に、ほのかに頬を赤らめた春斗はうつむくと、たまらずそのまま、視線をそらした。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第二回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームのメンバーの一人である黒峯玄。

そしてーー、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回、第二回ともに個人戦、優勝者で、『現最強』との呼び声の高い布施尚之。

そんな彼らと、俺と優香、そしてーー宮迫さんバージョンのあかりは、どこまで太刀打ちできるのだろうか。

これから始まる、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会の個人戦、チーム戦の優勝をかけた最強のバトルに心踊らせて、春斗は思わずほくそ笑んでしまう。

チームのために。

そして、なによりーー誰よりも愛しい彼女のために。

春斗は胸に灯った炎を大きく吹き上がらせた。

それでも、どうしても漏れてしまう笑みを我慢しながら、自嘲するでもなく、吹っ切るように春斗はがりがりと頭をかいて、

「まあ、それでも、俺達のチームが優勝するけどな」

と、一息に言った。

あくまでも屈託なく笑ってみせる春斗に、あかりは不思議そうな表情で目を瞬かせてから、とつとつと語る。

「ねえ、お兄ちゃん」

「…‥…‥どうした、あかり」

「あ、あのね」

その問いに、あかりはベットのシーツをぎゅっと握りしめたまま、恥ずかしそうにそうつぶやくと顔を俯かせる。

しかし、このままでは話が先に進まないと思ったのだろう。

あかりは顔を上げると、意を決して口を開いた。

「今週から週に一度、お父さんが家に帰ってもいいって言ってくれたの。だから、私もお兄ちゃん達と一緒に、ゲームセンターの大会を見に行きたい」

「ゲームセンターの大会に?」

「うん」

呆れた大胆さに嘆息する春斗に、あかりは花咲くようにほんわかと笑ってみせる。

しばらく視線をさまよわせた後、あかりは意を決して話し始めた。

「宮迫さんが私に度々、憑依してくれて、それにリハビリを手伝ってくれたおかげで、上半身だけなんだけど、無理しなくても自由に動かせるようになったの」

「…‥…‥そうなのか?い、いや、でもーー」

「なら、外を出歩くための車椅子の練習をしないといけませんね」

言い淀む春斗の台詞を遮って、優香が先回りするようにさらりとした口調で言った。

その、まるで当たり前のように飛び出した意外な発言に、春斗は微かに目を見開き、ぐっと言葉に詰まらせた。

だが、次の思いもよらない優香の言葉によって、春斗とーーそしてあかりはさらに不意を打たれ、驚きで目を瞬くことになる。

あっけらかんとした表情を浮かべた春斗とあかりに対して、優香は至って真面目にこう言ってのけたのだ。

「あかりさん。これから大会までに間に合うように、私と春斗さん、それに宮迫さんの力を借りて車椅子の練習をしましょう」

「…‥…‥うん」

「おい、優香!」

嬉しそうに頷くあかりをよそに、春斗は焦ったように言う。

何気ない口調で言う優香の言葉に、春斗は頭を抱えたくなった。

「いくらなんでも、急すぎるだろう。それにあかりの体調と、あかりと宮迫さんが入れ替わる間隔がまだ、不明瞭だっていうのに」

「でも、お兄ちゃん。私が宮迫さんに変わっても、みんな、気がつかないんじゃないかな?」

不似合いに明るく、可愛らしささえ感じさせるようなあかりの声に、春斗は苦り切った顔をして額に手を当てた。

「それは、そうかもしれないけど」

春斗は咄嗟にそう言ってため息を吐くと、困ったようにあかりに視線を向ける。

「お願い、お兄ちゃん。私も連れていってほしいの」

「はあっ…‥…‥」

あかりの懇願に、春斗はしばらく考えた後、俯いていた顔を上げるとあかりに言った。

「…‥…‥分かった」

その言葉に、あかりは驚いたように目を見開いてこちらを見た。

春斗はあかりの手を取ると、淡々としかし、はっきりと言葉を続ける。

「だけど、絶対に無理はするな。あかりの体調が無理だと判断した時点で、俺達はすぐに病院に戻るからな」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

苦虫を噛み潰したような顔でしぶしぶ応じる春斗に、あかりはきょとんとしてから弾けるように手を合わせて笑ったのだった。

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