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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
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第四十六話 絡み合う運命の歌②

異変のきっかけは、ささやかなものだった。

春斗達、『ラ・ピュセル』と玄達、『ラグナロック』のバトルは、徐々に玄達、『ラグナロック』が押し始めてきたのだ。

自身の固有スキル、『テレポーター』を使用して、玄のキャラから大きく距離を取っていた優香のキャラは、追撃を入れようと踏み込んできた玄のキャラに再度、メイスの一撃を放とうとする。

だが、苦し紛れに繰り出した優香のキャラの一撃は、ぎりぎりのところで、玄のキャラに回避されてしまう。

「…‥…‥っ」

次の瞬間、優香は息をのんだ。

対峙していたはずの玄のキャラが、自身のキャラに対して、大上段から大剣を振り落とす姿を目の当たりにしたからだ。

カウンターのカウンター。

体勢を立て直し、大上段から振り下ろされた玄のキャラの一閃が、わずかに残っていた優香のキャラの体力ゲージを根こそぎ刈り取った。

体力ゲージを散らした優香のキャラは、ゆっくりと玄のキャラの足元へと倒れ伏す。

「…‥…‥くっ、強い」

独りごちた春斗は、決定的変化に瞳を細める。

今生が新たに俺達のチームに加入したことによって、確実に戦力アップに繋がっているはずなのに、玄達、『ラグナロック』は徐々に、春斗達、『ラ・ピュセル』を押し始めてきていた。

…‥…‥どうする。

どう動けば、圧倒的な実力の持ち主である玄達から体力を削りとることができるんだーー?

ぴりっと張り詰めた緊張感が溢れる中、不意に優香の声が聞こえた。

「玄さんと大輝さんの実力もさることながら、麻白さんが今まで以上の実力を発揮されて、あかりさんと互角に渡り合っていることが、この不利な状況に繋がっているのだと思います」

「…‥…‥確かにな」

どこか確かめるような物言いに、春斗は戸惑いながらも頷いてみせる。

優香はコントローラーを置くと、居住まいを正して真剣な表情で続けた。

「もしかしたら、麻白さんが強くなったのは、あの魔術を使う少年と麻白さんのサポート役の人達のおかげなのかもしれませんね」

「麻白のサポート役の人達か。一体、どんな人達なんだろう?」

ぽつりとつぶやかれた春斗の言葉は、確認する響きを帯びていた。

優香は春斗の手を取ると、淡々としかし、はっきりと言葉を続ける。

「きっと、麻白さんにとって、大切な方々なんだと思います」

「そ、そうだな」

そう言うや否や、春斗は顔を赤らめて、優香から視線をそらす。

そして、春斗は手に感じたぬくもりを意識しながらも、今もなお、バトルを続けているあかりとりこを脳裏によぎらせた。

春斗達、『ラ・ピュセル』というチーム。

誰かと共にあるという意識は、負けてもなお、決して自分達のチームが負けることはないという不屈の確信をかきたてるものだと春斗は感じた。

あかりのキャラが地面を蹴って、麻白のキャラとの距離を詰める。

迷いなく突っ込んできたあかりのキャラに合わせ、麻白のキャラはあえて下がらず、自身の武器であるロッドを振る舞った。

「ーーっ!」

ロッドから放たれた一撃を、上体をそらすことでかわしたあかりのキャラは、視界を遮る風圧に剣による反撃の手を止めた。

「やるな、麻白」

「あかりもすごく強いよ」

あかりが態度で褒めてくると、麻白は当然というばかりにきっぱりと告げた。

彼女らしい反応に、あかりはふっと息を抜くような笑みを浮かべるとさらに言葉を続ける。

「でも、勝つのは俺達だからな!」

「ううん、勝つのはあたし達だよ!」

あかりと麻白は互いに向かい合うと、不敵な表情を浮かべながら、しばし睨み合った。

「…‥…‥麻白、下がっていろ」

「うん」

「ーーっ!」

唐突な玄の声と斬撃は、背後から襲いかかってきた。

麻白が応える中、あかりのキャラはあえて振り返らず、反射的にその場に屈みこむ。

玄のキャラの大剣は空を斬ったが、代わりに一瞬前までは後退していたはずの麻白のキャラに受け身を取った先を狙われ、二振りの連撃が入る。

だが、あかりのキャラはダメージエフェクトを散らしながらも、反撃とばかりにあえて下がらず、前に出た。

「ううっ…‥…‥」

あかりのキャラが突き入れた剣が、再度、振るおうとしていた麻白のキャラのロッドを押しとどめた。

剣を振り払おうとするロッドの動きに合わせ、あかりは絶妙な力加減で麻白のキャラを肉薄する。

剣とロッドのつばぜり合い。

徐々に押し始め、あかりのキャラが優位に傾くと思われたそれは、割って入ってきた玄のキャラによって均衡が崩されてしまう。

『ーー焔華・鳳凰翔!!』

音もなく放たれた玄のキャラの必殺の連携技が、ロッドを押しとどめていた剣ごと、あかりのキャラを切り裂き、わずかに残っていた体力ゲージを根こそぎ刈り取った。

「なっ、みやーーあかりまで!?」

「あとは、りこさんだけですね」

やや驚いたように言葉を詰まらせた春斗に、優香は祈るように胸元で指を組み合わせると、モニター画面に視線を向ける。

「あとは、りこだけだな」

「うーん。三対一は、さすがにりこも少し厳しいかな」

冗談でも、虚言でもなく、ただの事実を口にした大輝に、りこは口元に手を当てて考えるような仕草をする。

「なら、降参するのか?」

「冗談、りこのおかげで勝つっていう理屈が、ますます生きてくるじゃん」

「…‥…‥はあっ?なんだよ、それ?」

何気ない口調で告げられたりこの言葉に、大輝は頭を抱えたくなった。

その時、大輝の隣に座っていた玄と麻白の声が聞こえた。

「大輝」

「大輝、遅くなってごめん」

「玄、麻白、遅いぞ」

玄と麻白がそれぞれの言葉でそう答えると、大輝は頭をかきながらとりなすように言う。

「てゆーか、いくら何でもいきなり、三対一は厳しいよ!」

「あのな、玄と麻白と合流しないとは言っていないだろう!」

玄と麻白のキャラが、大輝のキャラと合流するのを見て、りこはそれまでの明るい笑顔から一転して頬をむっと膨らませる。

その場で屈みこみ、唇を尖らせるという子供っぽいりこの仕草に、大輝は思わず、呆気に取られてしまう。

「でも、絶対に負けないからね!」

「今生らしいな」

「ああ」

「はい、りこさんらしいですね」

立ち上がったりこが、片手を掲げていつものように嬉々とした表情で興奮気味に話すのを見て、春斗とあかりと優香は互いに顔を見合わせると思わず、苦笑した。

「ーーあっという間に、浅野大輝さんのもとにたどり着くなんて、さすがだね、黒峯玄さん、黒峯麻白さん」

不意に、りこが微笑んだ。

神聖な雰囲気を全面に醸し出した巨大な遺跡を舞台にしながらもなお、その穏やかな笑顔は太陽のようにどこまでも眩しい。

一瞬前までは背後にいなかったはずの玄のキャラの横切りを受けながら、りこのキャラはここぞとばかりに執拗に槍を突き上げた。

「くっーー」

「ふわわっ!」

予測に反した動きに、接近してきた大輝と麻白のキャラは一撃を甘んじて受けてしまう。

油断したーー。

そう思った時には、りこは大輝と麻白のキャラに対して、必殺の連携技を発動していた。

『無双雷神槍!!』

槍の最上位乱舞の必殺の連携技。

その場で舞い踊るように繰り出される槍の七連突き、そして締めとばかりに振るわれる横薙ぎ三連閃ーーしかし、先程のあかりとのバトルの影響で、体力ゲージを先に散らした麻白のキャラをよそに、大輝のキャラはあえて下がらずに前に出た。

「ーーっ!」

大輝のキャラはそれを正面から喰らい、ぎりぎりのところまで体力ゲージを減らしながらも、りこのキャラの必殺の連携技の終息に合わせて、大輝もまた、必殺の連携技を発動させる。

『ネフェルティティ・ブレイク!!』

「ここで、浅野大輝さんの必殺の連携技!?」

予想外な大輝の必殺の連携技の発動に、キャラが硬直状態になったりこは驚愕の表情を浮かべる。

音もなく放たれた互いの必殺の連携技が、なすすべもなくりこと麻白の操作するキャラを切り裂いた。

致命的な特大ダメージエフェクト。

それぞれ、体力ゲージを散らしたりこと麻白のキャラは、ゆっくりとその場に倒れ伏す。


『YOU LOST』


春斗の視界に、不意に紫色の文字がポップアップし、システム音声が春斗達の負けを宣告する。

ーー負けた。

そう確認するや否や、春斗は何かに急きたてられるように、少し声のトーンを落として言った。

「…‥…‥今回も、前回の対戦の時と同じく、全くかなわなかったな」

「…‥…‥意外だった」

「えっ?」

淡々と告げられる玄の言葉に、春斗は疑惑の表情に憂いと躊躇をよぎらせる。

玄は真剣な表情のまま、こう続けた。

「『ラ・ピュセル』。まさか、ここまで強くなっているとは思わなかった」

「いや、玄。あれは単に、体力ゲージが少なかったのに、麻白が無謀にも飛び出していっただけだろう?」

「大輝は冷たすぎ」

大輝に指摘されて、麻白は振り返ると不満そうに頬を膨らませてみせる。

「麻白、俺は冷たくないぞ。ただ、事実を口にしただけだ」

麻白のふて腐れたような表情を受けて、大輝は不服そうに目を細めてから両拳をぎゅっと握りしめた。

「玄、大輝、麻白。今日は対戦してくれてありがとうな」

春斗は立ち上がり、そこまで告げると、視線を床に落としながら感謝の意を伝える。

「玄さん、大輝さん、麻白さん、ありがとうございます」

「ありがとうな」

「黒峯玄さん、浅野大輝さん、黒峯麻白さん、ありがとうございます」

「ああ」

春斗に相次いで、優香とあかりとりこも立ち上がり、粛々と頭を下げる。

玄が幾分、真剣な表情で頷くと、顔を上げた春斗は両手を握りしめて一息に言い切った。

「今度は、俺がーーいや、俺達、『ラ・ピュセル』が勝ってみせる!」

「出来るのならな」

内心の喜びを隠しつつ、玄は立ち上がり、微かに笑みを浮かべると、大輝と麻白とともに踵を返して、その場から立ち去っていったのだった。

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