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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
45/126

第四十五話 絡み合う運命の歌①

『ラグナロック』は、『クライン・ラビリンス』に匹敵する力を持った、最強と称されているチームである。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式サイト上で散々、噂されていたことは、結果的に事実となった。

春斗のキャラの正面から、大輝のキャラが大鉈(おおなた)を振るってくる。

反射的に春斗は自身のキャラの武器である短剣で、『ラグナロック』のさらなる猛攻を迎え撃とうとして、その瞬間、接近してきた玄のキャラに受けようとした短剣ごと深く刻まれた。

斬りつけられた春斗のキャラは、少なくないダメージエフェクトを放出していた。

「…‥…‥強い」

直前の動揺を残らず消し飛ばして、春斗がつぶやく。

コントローラーを持ち、ゲーム画面を睨みつけながら、春斗は不意に不思議な感慨に襲われているのを感じていた。

ーーさすがに手強いな。

ーーでも、面白い。

言い知れない充足感と高揚感に、春斗は喜びを噛みしめると挑戦的に唇をつりあげた。

「これが、第ニ回、第三回公式トーナメント大会、チーム戦の優勝チームの実力なんだな」

答えを求めるように、春斗のキャラが一瞬で間合いを詰めて、玄のキャラへと斬りかかる。

迷いのない一閃とともに、春斗のキャラの強烈な一撃を受けて、玄のキャラは 今回の対戦で初めて、わずかにたたらを踏んだ。

「…‥…‥あの、『クライン・ラビリンス』と互角に渡り合っただけのことはあるな」

「ーーっ」

言葉とともに、玄のキャラが間隙を穿つ。

瞬間の隙を突いた玄のキャラの斬り上げに、ターゲットとなった春斗のキャラはダメージエフェクトを散らしながらも、ここぞとばかりに必殺の連携技を発動させる。

『ーー弧月斬・閃牙!!』

「ーーっ!」

『短剣』から持ち替えた『刀』という予想外の武器での一撃に、玄は一瞬、目の色を変えた。

春斗の固有スキル、武器セレクト。

それは、自身の武器を一度だけ、自由に変えることができる。

『ラ・ピュセル』のチームリーダーである春斗が、ここぞという時に放った土壇場での必殺の連携技。

それを、最強チームの一角であるチームリーダーはわずかにダメージを受けながらも正面から弾き、避け、そして相殺して凌ぎきった。

「なっーー」

『ーー焔華(えんか)鳳凰翔(ほうおうしょう)!!』

春斗が驚きを口にしようとした瞬間、玄は超反応で硬直状態に入った春斗のキャラに乾坤一擲のカウンター技を放つ。

「春斗!」

春斗のキャラが硬直状態に入ったことで、バトルの終わりが予測された連携技の大技は、しかし、乱入してきたあかりのキャラの固有スキルにより、春斗のキャラはぎりぎりのところで体力ゲージを残した。

あかりの固有スキル、『オーバー・チャージ』。

自身、または仲間キャラの状態異常を解除する固有スキルだ。

それにより、春斗は必殺の連携技を放った反動である硬直状態を解除したことで、玄のキャラの必殺の連携技の嵐から、何とか逃れることができたのだった。

「ーーっ」

驚きとともに大振りの技を誘導された玄のキャラに、春斗は再度、とっておきの技を合わせる。

「春斗、今だ!」

「春斗さん!」

「春斗くん!」

あかりと優香とりこが続けざまにそう口にした瞬間、春斗は硬直状態に入った玄のキャラに、乾坤一擲のカウンター技を放つ。

『ーー弧月斬・閃牙!!』

互いの連携技の大技後のーーさらなる大技。

春斗のキャラの繰り出した必殺の連携技が、硬直状態に入った玄のキャラに放たれようとしてーー刹那、春斗は大輝のキャラがこちらに接近していることに気づいた。

玄のキャラに必殺の連携技を放とうとしていた春斗のキャラは、大輝のキャラが接近したその瞬間、幾重もの斬撃によってそれを阻まれてしまう。

「悪いな、春斗」

「ーーくっ、大輝!」

音もなく放たれた斬撃が、なすすべもなく春斗の操作するキャラを切り裂いた。

致命的な特大ダメージエフェクト。

体力ゲージを散らした春斗のキャラは、ゆっくりと玄と大輝のキャラの足元へと倒れ伏す。

ーー負けた。

ーーだけど、まだ、チームとしては負けてはいない。

大輝のキャラに倒されながらもーー春斗は何かを見定めるために息を吐く。

「春斗!」

「春斗さん!」

「春斗くん!」

あかりと優香とりこはそう叫ぶと、玄と大輝のキャラの下へ駆けつけようとして、こちらの行く手を阻むように美しくも禍々しい天使の羽根がついたロッドを構えた麻白のキャラに眉をひそめる。

「自分ーーじゃなくて、あ、あかりには悪いけれど、玄達の邪魔はさせないよ」

「ーーっ」

決意の宣言と同時に、麻白のキャラは、ロッドをあかりのキャラに振りかざしてきた。

麻白のキャラと対峙することになったあかりのキャラは、手にした剣でロッドのの再撃を受け止めるも、予想以上の衝撃によろめく。

「…‥…‥みやーーいえ、あかりさん!」

言葉と同時に、優香のキャラは方向転換して、あかりのキャラがいる場所へと走り出しそうとする。

「見るのはそちらか?」

「玄さん!」

だが、言葉とともに、一瞬で接近してきた玄のキャラが間隙を穿つ。

瞬間の隙を突いた玄の一閃に、ターゲットとなった優香のキャラはダメージエフェクトを散らしながらも、ここぞとばかりにメイスを振りかざして、必殺の連携技を発動させる。

『ーーメイス・フレイム!!』

だが、優香の必殺の連携技による反撃は、ぎりぎりのところで、玄のキャラに回避されてしまう。

「…‥…‥あっ」

次の瞬間、優香は息をのんだ。

対峙していた玄のキャラが、不意に弛緩(しかん)したように大剣をあっさりと下ろしてきたからだ。

優香が戸惑う中、玄のキャラはそこから一歩踏み込むと、硬直状態に入った優香のキャラに向かって高速の突きを放った。

優香は何も出来ないまま、大剣の刃先が届いていないのにも関わらず、自身のキャラが斬りつけられるのを目の当たりにする。

これが、玄さんの固有スキルーー相手に風の刃を放つ、烈風斬なんですね…‥…‥。

何の障害もないように大剣に斬りつけられ、体力ゲージを減らした優香のキャラは、硬直状態が解除された後、反射的にメイスで反撃しようとして、その出先を大剣の柄に押さえられた。

たまらず、バッグステップで距離を取ると、優香のキャラが後退した分だけきっちり踏み込んだ下段斬り上げを見舞わされる。

斬りつけられた優香のキャラは、少なくないダメージエフェクトを放出していた。

「…‥…‥っ」

優香はたまらず、自身の固有スキル、『テレポーター』を使用して、玄のキャラから大きく距離を取る。

だが、固有スキルを使ってまで、逃げに徹した優香を、玄のキャラは追ってこなかった。

その冷静さに、観戦していた春斗は驚愕の眼差しを送る。

「優香!」

優香のキャラの体力ゲージが、危機的なレベルに達していることに気づいたのだろう。

焦ったりこのキャラが、優香のキャラがいる場所へと走り出しそうとする前にーー、一瞬で大輝のキャラに近接されてしまう。

「悪いけれど、おまえの相手は俺だからな」

「むう!おまえじゃなくて、今生りこです!」

あっさりと告げられた大輝の言葉に対して、りこは不満そうにむっと眉をひそめた。

「なら、りこの相手は俺だからな」

「えっ!もしかして今、浅野大輝さんが、りこのことを名前で呼んだ?りこ、ついに黒峯玄さん達に認められたよ!」

「はあ?どういう理屈だよ?」

少しも動じないりこに、大輝は不服そうに冷めた視線を送る。

すると、りこは当然というばかりにきっぱりとこう答えた。

「りこ達が勝つっていう理屈!」

「今生らしいな」

彼女らしい反応に、春斗がふっと息を抜くような笑みを浮かべる。そして、モニター画面に視線を向けた。

りこのキャラはまっすぐ、大輝のキャラを睨んでいる。

対する大輝のキャラは、伸ばした右手に大鉈を翻らせて、この上ない闘志をみなぎらせていた。

大輝のキャラから戦闘の気概を投げつけられたりこのキャラは、嬉々として槍を突き出してきた。

それらを大鉈でさばきながら、大輝はりこのキャラの隙を見て、下段から斬り上げを入れようとする。

だが、りこのキャラはそれを正面から喰らい、金色のダメージエフェクトを撒き散らしながら、なおも執拗に槍を突き上げた。

「ーーっ」

予測に反した動きに、大輝のキャラは一撃を甘んじて受けてしまう。

油断したーー。

そう思った時には、既にりこは連携技を発動させていた。

その場で舞い踊るように繰り出される槍の七連突きにーーしかし、大輝はあえて下がらずに前に出た。

「ーーっ!」

大輝のキャラの突き入れた大鉈が、りこのキャラが振る舞おうとした槍を押しとどめた。

大鉈を振り払おうとするりこのキャラの槍の動きに合わせ、大輝は絶妙な力加減でさらにりこのキャラへ肉薄する。

大鉈と槍のつばぜり合い。

いったん距離を取った後、あっという間に接戦した大輝のキャラとりこのキャラが、神聖な雰囲気を全面に醸し出した巨大な遺跡の中央で再度、ぶつかる。

同時に、玄と麻白も仕掛け、遅れて参戦してきた優香とあかりのキャラと対峙した。

優香vs玄。

今生vs大輝。

そして、宮迫さんvs麻白か。

観戦していた春斗は思わず、驚嘆のため息を吐く。

初めて玄とバトルしたーーあのオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ3』のオンライン対戦での時のことを思い出し、春斗は途方もなく心が沸き立つのを感じた。

ーー出来るのなら、俺ももう一度、このバトルに参戦したい。

そして、今度こそ、この最強だと称されているチームに勝ちたいーー。

やり場のない震えるような高揚感を少しでも発散させるために、春斗は拳を強く強く握りしめるのだった。

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