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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
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第四十二話 妖精姫の戦術模索①

りこ達とゲームセンターで対戦をする約束をした後、あかりを連れてくるため、自分の家に戻った春斗は思い詰めたような表情で深くため息をついた。

ーー昨日から、本当にいろいろなことが立て続けにあるな。

優香も一度、自分の家に戻っている。

春斗があかりに今回のことを話した後、りこ達が待っているゲームセンターで再び、合流する手筈になっていた。

「…‥…‥はあ~、ただいま」

「おかえり、春斗」

母親の出迎えとともに、おぼつかない仕草で靴を脱ぎ、玄関に足を踏み出した春斗は真っ先に疑問に思っていたことを口にした。

「なあ、母さん。あかりは今、部屋にいるのか?」

「…‥…‥え、ええ」

ぎこちなくそう応じる春斗の母親の様子に目を瞬き、少しだけ首を傾げながら、春斗は先を続ける。

「今から、あかりと優香と一緒にゲームセンターで対戦をしたいんだけど、あかりはもうすぐ宮迫さんに変わるよな」

「それがね、春斗。今日から、あかりの中学校も授業が始まったんだけど、あかり、特別支援学級の授業内容についていけなかったみたいなの」

春斗があくまでも真剣な眼差しで聞くと、春斗の母親は少し言いづらそうに顎に手を当てると、とつとつとそう語る。

「あかり、勉強のことで悩んでいるのか?」

「ええ。先生とお友達の優希くんっていう子にいろいろと教えてもらったみたいなんだけど、それでもよく分からなかったみたいなの」

やや驚いたように声をかけた春斗に、母親は少し逡巡してから答えた。

「でも、宮迫さんにーーもう一人のあかりに変わったら、もう一度、勉強を教えてもらうって張りきっていたけれどね」

「…‥…‥そうか。その様子だと、あかり、落ち込んではなさそうだな」

口調こそ、重たかったものの、どこか晴れやかな表情を浮かべて言う母親の言葉に、春斗はほっとしたように安堵の表情を浮かべる。

それからしばらく、母親と差し障りのない会話をした後、春斗は自分の部屋へと入っていった。

そして着替えを済ませた後、ノックしてあかりの部屋へと入る。

「あっ、お兄ちゃん」

オーバーオール姿のあかりはベットから起き上がると、持っていた琴音との交換ノートを掲げてみせた。

「あかり、昨日の始業式はずっと宮迫さんだったんだよな。その、母さんから話を聞いたんだけど、今日が実際、初めての学校だったせいか、いろいろと大変だったみたいだな」

「う、うん。そのことなんだけど」

春斗のその問いに、あかりは交換ノートを膝に置くと、ベットのシーツをぎゅっと握りしめたまま、恥ずかしそうに顔を俯かせる。

しかし、このままでは話が先に進まないと思ったのだろう。

あかりは顔を上げて交換ノートを握りしめると、意を決して話し始めた。

「ねえ、お兄ちゃん。明日は、私バージョンの宮迫さんが、ずっと中学校で授業を受けるんだよね」

「ああ」

春斗が少し考え込むように頷くと、あかりは信じられないと言わんばかりに両手を広げて目を見開いた。

「すごいの。私、宮迫さんになったら、字はうまく書けるし、お勉強もできるようになるんだよ」

言いたかった言葉を見つけたらしいあかりは一気にそう言うと、表情を輝かせながら春斗を見つめた。

まっすぐに視線を合わせてくるその眼差しに、春斗は思わずどきりとした。

こぼれ落ちそうなほど大きな瞳は、明るい色を宿している。

思えば、あかりはあの少年の魔術で生き返ってから、ずっと朝の光のような微笑みを春斗達に向けていた。

つい数ヵ月前まで、その身体に死の気配を漂わせていたなんて、とても信じられなかった。

「そうだな。宮迫さんはすごいよな」

「うん、すごいよね」

春斗の照れくさそうな言葉に、あかりは嬉しそうに笑ってみせた。

「私、宮迫さんと一緒なら、よく分からないお勉強も頑張りたいって思うの」

「そ、そうなのか」

わくわくと誇らしげにそう告げられた意味深なあかりの言葉に、春斗の反応はワンテンポどころか、かなり遅れた。

得心したように頷きながら、あかりは言った。

「あはっ、だって、私が宮迫さんの時は、お兄ちゃんよりお勉強できるって、お母さんが教えてくれたもの。私も、宮迫さんみたいになれるように頑張りたい」

勉強ができるという単語を耳にした瞬間、春斗は戸惑っていた表情を収め、両拳を突き出すと激昂(げっこう)したように叫んだ。

「ーーっ、分かっているよ!」

「私、これからも学校に通えるんだね。それに私と宮迫さんが入れ替わる間隔も分かっているから、テストがあっても何の問題もないかもしれない」

そう告げるあかりの瞳はどこまでも澄んでおり、真剣な色を宿していた。

そのことが、春斗を安堵させる。

あかりは生きている。

あの時、確かに死んだはずの妹が、今では中学校に通えるほどまでになっている。

今はまだ授業についていけていないみたいだけど、いつか、楽しく学べる日が来るかもしれない。

「ああ、そうだな」

内心の喜びを隠しつつ、春斗は微かに笑みを浮かべた。

だがすぐに、りこ達をゲームセンターに待たせていることを思い出すと、春斗は幾分、真剣な表情でこう言った。

「あかり、これからゲームセンターに来てくれないか?」

「ゲームセンターに?」

「今生達から、今から対戦をしないかって誘われたんだ。そしてーー」

軽く呼吸を整えるように、春斗は短く息を吐いて続ける。

「もしかしたら、今生が俺達のチームに加入するかもしれない」

「えっ?」

春斗の意外な言葉に、あかりは不思議そうに小首を傾げた。

「りこさんが、私達のチームに入るの」

「詳しい経緯は分からないけれど、今生達の『ゼノグラシア』は、大会運営の人達から名誉チームとして認定されているらしい。そして、名誉チームになった特典の一つとして、第四回公式トーナメント大会のチーム戦から、二チームに所属してもいいという条件が付加されたみたいなんだ」

「そうなんだ。りこさん達って、すごい人達だったんだね」

春斗が戸惑いながらも至って真面目にそう言ってのけると、あかりもたじろぎながら率直な感想を述べる。

「雨が降っているから、ゲームセンターまで行くのが大変かもしれないけれど、今から今生達の挑戦を受けられそうか?」

「うん!」

春斗の問いに、あかりは交換ノートをぎゅっと握りしめると明るく弾けるような笑顔を浮かべてみせた。

日だまりのようなその笑顔に、春斗はほっと安心したように優しげに目を細めてあかりを見遣る。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』ーー。

その、第四回公式トーナメント大会のチーム戦が、どんな戦いになるのかは予測できない。

だけど、第四回公式トーナメント大会のチーム戦では、今度こそ、絶対に俺達が優勝してみせる。

やり場のない震えるような高揚感を少しでも発散させるために、春斗は拳を強く握りしめる。

「でも、お兄ちゃん。りこさんが『ラ・ピュセル』に入るっていうことは、りこさん達に宮迫さんのことを話すの」

「うーん。いや、今生達には、あかりは病気の影響で時々、性格が変わったりすることがあるっていうことくらいで留めようと思っている」

「そうなんだね」

春斗の少し困ったようなその笑みに、あかりは思わず、吹っ切れたように笑ったのだった。






途中で優香と合流した春斗達は、ゲームセンターにたどり着くと、すぐ近くのゲームスペースを貸し出す部屋に入った。

団体客用のゲームスペースは、巨大なモニター画面と、対面にソファー型の椅子が置かれた広い部屋だ。

部屋のドアを開くと、春斗達が前もって呼びよせていた人物達は、すでにそこで待っていた。

「優香、春斗くん、あかりさん、来てくれてありがとう!」

「今生」

「うーん。今生、遅くなってごめんな」

「りこさん、お待たせしてしまってすみません」

春斗達の姿を見るなり、楽しげに軽く敬礼するような仕草を見せたりこと『ゼノグラシア』のメンバー達に、春斗と琴音に変わったばかりのあかり、そして優香は顔を見合わせると、ひそかに口元を緩めてみせる。

「さあ、みんな、お待たせ!対戦相手も揃ったことだし、今日のメインイベントを始めるね!」

「はい、リーダー!」

「待ってました!」

場をとりなすりこの声とざわめく『ゼノグラシア』のメンバー達の声を背景に、春斗はまっすぐモニターを見据えた。

今から戦うことになるプレイヤー。

そのうちの一人のプレイヤーのキャラを見た瞬間、春斗は息を呑んだ。

今生かーー。

最近、話題になっている『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で上位を占めるプレイヤーの一人。

『ゼノグラシア』と対戦する時は、かなり不利な状況になってしまうかもしれないが、それでも今生が俺達のチームに入ってくれたら、戦力的には申し分ないだろう。

不合理と不調和に苛まれた混乱の極致の中で、まじまじとりこのキャラを見つめていた春斗に、りこは人懐っこそうな笑みを浮かべて言った。

「ねえねえ、春斗くん。りこ達、かなり強くなったんだから覚悟してね」

「俺達だって、かなり強くなってきているからな」

春斗の言葉に、満足そうに頷いたりこ はモニター画面に視線を戻して、テーブルに置いてあるコントローラーを手に取った。 遅れて、『ゼノグラシア』のメンバー達も、コントローラーを手に取って正面を見据える。

「優香、今回は、絶対に負けないからね!」

「はい。でも、私達も負けません」

片手を掲げて、りこがいつものように嬉々とした表情で興奮気味に話すのを見て、優香は思わず、苦笑した。

春斗達も軽くため息を吐き、右手を伸ばした。そして、テーブルに置いてあるコントローラーを手に取って、正面のゲーム画面を見据える。

「レギュレーションは、いつものように一本先取でいいのか?」

「うん」

春斗の言葉にりこが頷いたと同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けた。


ーーバトル開始。


ぴりっとした緊張感とともに、りこのキャラがまっすぐ、春斗のキャラを睨んでくる。

対する春斗のキャラは、伸ばした右手に短剣を翻らせて、この上ない闘志をみなぎらせた。

春斗のキャラから戦闘の気概を投げつけられたりこのキャラは、嬉々として槍を突き出してきた。

それらを短剣でさばきながら、春斗はりこのキャラの隙を見て、下段から斬り上げを入れようとする。

だが、りこのキャラはそれを正面から喰らい、金色のダメージエフェクトを撒き散らしながら、なおも執拗に槍を突き上げた。

「ーーっ」

予測に反した動きに、春斗のキャラは一撃を甘んじて受けてしまう。

油断したーー。

そう思った時には、既にりこは連携技を発動させていた。

その場で舞い踊るように繰り出される槍の七連突きにーーしかし、春斗はあえて下がらずに前に出た。

「ーーっ!」

春斗のキャラの突き入れた短剣が、りこのキャラが振る舞おうとした槍を押しとどめた。

短剣を振り払おうとするりこのキャラの槍の動きに合わせ、春斗は絶妙な力加減でさらにりこのキャラへ肉薄する。

短剣と槍のつばぜり合い。

いったん距離を取った後、あっという間に接戦した春斗のキャラとりこのキャラは、息もつかせぬ激しい攻防を展開する。

「春斗!」

「春斗さん!」

りこのキャラの動きを確認すると同時に、あかりと優香は春斗のキャラの下へ駆けつけようとして、こちらの行く手を阻むように、いっせいにそれぞれの武器を構えた『ゼノグラシア』のメンバー達のキャラに眉をひそめる。

「春斗くんー」

変わらぬ気楽さで声をかけてきたりこは、ふわふわしたストロベリーブロンドの髪をかきあげて言う。

「今度こそ、りこ達が勝つからね!」

「いや、次も俺達が勝ってみせる」

春斗達とりこ達は互いに向かい合うと、不敵な表情を浮かべながら、しばし睨み合ったのだった。

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