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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
35/126

第三十五話 彼が最強である所以

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦、本選二回戦のBブロック。

春斗達、『ラ・ピュセル』と輝明達、『クライン・ラビリンス』のバトルは今や、最高潮になっていた。そろそろ優越がはっきりする頃である。

「ーーっ」

「春斗さん!」

卓越された輝明と当夜のキャラの連携攻撃をさばききれず、体力ゲージぎりぎりの春斗のキャラをかばっていた優香のキャラは、次第に体力ゲージを減らしていく。

既に、春斗と優香のキャラの体力ゲージは一割を切っているのにも関わらず、輝明と当夜のキャラはまだ、半分ほどしか減っていない。

しかし、春斗は優香のサポートを得ながら、起死回生の気合を込めて、輝明のキャラに必殺の連携技を発動させる。

『ーー弧月斬・閃牙!!』

「ーーっ!?」

優香のキャラの援護を得て、真正面から一人で挑んできた春斗のキャラに、輝明は一瞬、目の色を変えた。

『ラ・ピュセル』のチームリーダーである春斗が、ここぞという時に放った土壇場での必殺の連携技。

それを、元最強チームであるチームリーダーはわずかにダメージを受けながらも正面から弾き、避け、そして相殺して凌ぎきった。

「なっーー」

春斗が驚きを口にしようとした瞬間、輝明は超反応で硬直状態に入った春斗のキャラに乾坤一擲のカウンター技を放つ。

「ーーっ!?」

音もなく放たれた一閃が、なすすべもなく春斗の操作するキャラを切り裂いた。

致命的な特大ダメージエフェクト。

体力ゲージを散らした春斗のキャラは、ゆっくりと輝明のキャラの足元へと倒れ伏す。

ーー負けた。

ーーだけど、まだ、チームとしては負けてはいない。

連携技を使うまでもなく、輝明のキャラに再度、必殺の連携技を凌ぎきられて倒されながらもーー春斗は何かを見定めるために息を吐く。

元より、春斗のキャラの二度目の必殺の連携技は見せ技。

春斗のーー春斗達の本当の狙いは、別にある。

「優香、今だ!」

直前の動揺を残らず吹き飛ばして、春斗は叫ぶ。

「はい、春斗さん!」

言葉と同時に、優香のキャラは当夜のキャラに背を向け、輝明のキャラがいる場所へと走り出しそうとする。

「逃がすとでもーー」

「いえ、逃げるつもりはありません!」

「なっーー!」

それは、当夜にとって、予想外な優香の言葉だった。

優香のキャラを捉え、弾き飛ばそうとした当夜のキャラの出鼻をくじくように、優香のキャラは振り返らず、反射的にその場に屈みこむ。

当夜のキャラの一撃は空を切り、屈みこんでいた優香のキャラはここぞとばかりにメイスを振りかざして、必殺の連携技を発動させる。

『ーーメイス・フレイム!!』

「ーーっ」

意表をついた優香のキャラによる、当夜のキャラへの時間差攻撃。

予想外な優香のキャラの攻撃に、体力ゲージを散らした当夜のキャラは、ゆっくりと優香のキャラの足元へと倒れ伏す。

「くっ…‥…‥」

「…‥…‥当夜、心配するな。さっさと済ませる」

悔しげに歯噛みする当夜をよそに、輝明のキャラは静かな声とともに戦闘に加わってくる。

屈みこんだ状態で必殺の連携技を発動させた反動で、がくんと体勢を崩したまま、硬直状態に入ってしまった優香のキャラは、輝明のキャラの連撃によってあっさりと吹き飛ばされてしまう。

輝明のキャラがさらに追撃を入れようと踏み込んだところで、硬直状態が解除されたことに気づいた優香は輝明のキャラに一撃を放とうとする。

だが、苦し紛れに繰り出した優香の反撃は、ぎりぎりのところで、輝明のキャラに回避されてしまう。

「…‥…‥っ」

次の瞬間、優香は息をのんだ。

対峙していたはずの輝明のキャラが、自身のキャラに対して、大上段から刀を振り落とす姿を目の当たりにしたからだ。

カウンターのカウンター。

体勢を立て直し、大上段から振り下ろされた輝明のキャラの一閃が、わずかに残っていた優香のキャラの体力ゲージを根こそぎ刈り取った。

体力ゲージを散らした優香のキャラは、ゆっくりと輝明のキャラの足元へと倒れ伏す。

コントローラーを持ち、ゲーム画面を睨みつけながら、春斗は不意に不思議な感慨に襲われているのを感じていた。

ーーやっぱり、阿南輝明さんは強い。

ーーだけど、その強さは、あの個人戦の覇者である布施尚之さん、そして、玄とは違う強さだ。

布施尚之が個人戦の覇者であるのなら、黒峯玄は複数の相手と同時に戦うチーム戦に特化していると言えるかもしれない。

なら、阿南輝明はどうなのか?

その答えがこれだ。

一対一の戦いにも、複数のチームと同時に戦う乱戦状態の中でも、輝明は遺憾なくその強さを発揮した。

まさに、オールラウンドの強さに、春斗は驚愕の眼差しを送る。

「春斗、天羽!」

あかりはそう叫ぶと、輝明のキャラの下へ駆けつけようとして、こちらの行く手を阻むように大鎌を構えた花菜のキャラに眉をひそめる。

「雅山あかり、あなたの相手は私」

「ーーっ」

決意の宣言と同時に、花菜のキャラは巨大な鎌を再度、あかりのキャラに振りかざしてきた。

花菜のキャラと対峙していたあかりのキャラは、手にした剣で一撃を受け止めるも、予想以上の衝撃によろめく。

花菜のキャラの大鎌は凌いだが、代わりに一瞬前まではその場にいなかったはずの輝明のキャラに受け身を取った先を狙われ、二振りの斬撃が入る。

だが、あかりのキャラはダメージエフェクトを散らしながらも、反撃とばかりにあえて下がらず、前に出た。

「ーー!?」

あかりのキャラが突き入れた剣が、再度、振るおうとしていた花菜のキャラの大鎌を押しとどめた。

剣を振り払おうとする大鎌の動きに合わせ、あかりは絶妙な力加減で花菜のキャラを肉薄する。

剣と大鎌のつばぜり合い。

徐々に押し始め、あかりのキャラが優位に傾くと思われたそれは割って入ってきた輝明のキャラによって均衡が崩されてしまう。

『竜牙無双斬!!』

「くっ!」

最短で繰り出された輝明のキャラの必殺の連携技に、あかりは花菜のキャラを大鎌ごと押し出すと、大きく後退することでやりすごした。

『ーーアースブレイカー!!』

あかりの連携技の大技後の大技。

大技後の硬直の隙を狙ったにしては豪華すぎる技に、輝明は思わず目の色を変える。

誰が見ても完全なタイミングでのカウンターは、刹那、硬直が解除される瞬間を狙った輝明の絶妙なコントローラーさばきによって、体力ゲージぎりぎりのところまでで何とか凌ぎきられる。

驚きとともに大振りの技を誘導されたあかりに、輝明は再度、とっておきの技を合わせる。

『竜牙無双斬!!』

あかりのキャラが硬直状態に入ったことで、バトルの終わりが予測された連携技の大技は、しかし、すかさず、使った自身の固有スキルにより、あかりのキャラはぎりぎりのところで避けて体力ゲージを残した。

あかりの固有スキル、『オーバー・チャージ』。

自身、または仲間キャラの状態異常を解除する固有スキルだ。

それにより、あかりは必殺の連携技を放った反動である硬直状態を解除したことで、輝明のキャラの必殺の連携技の嵐から、何とか逃れることができたのだった。

「なっ!」

輝明は、自身の必殺の連携技を二度にも渡って凌がれたことに驚愕する。

だが、あかりのキャラの剣の矛先は、既に輝明のキャラに向かっていなかった。

輝明のキャラに反撃してくるとばかりに思われたあかりのキャラは、輝明のキャラを一瞥もくれず、まっすぐ花菜のキャラに攻撃を繰り出してくる。

『ーーアースブレイカー!!』

「ーー!」

音もなく放たれた一閃が、剣を押しとどめようとしていた大鎌ごと、花菜の操作するキャラを切り裂いた。

致命的な特大ダメージエフェクト。

体力ゲージを散らした花菜のキャラは、ゆっくりとあかりのキャラの足元へと倒れ伏す。

「雅山あかり」

自身のキャラが倒されたというのに、表情一つ変えずに振り返った花菜に、あかりは意図して笑みを浮かべてみせた。

「俺の相手は、花菜だろう?違うのか?」

「違わない」

あかりのつぶやきに、花菜は目を細め、うっすらと、本当にわずかに笑った。

「今回は私の負け」

淡々と言葉を紡ぐ戦姫の名を冠した少女ーー花菜は、髪をかきあげて決定的な事実を口にした。

「…‥…‥だけど、輝明にはーー『クライン・ラビリンス』には勝てない」

花菜がそうつぶやくと同時に、輝明のキャラは刀を振りかざしてきた。

刀による嵐のごとき斬撃に、あかりのキャラはあえて下がらず、前に出る。

「だったら、俺はーーいや、俺達は『クライン・ラビリンス』に必ず、勝ってみせる!」

「…‥…‥なら、全てを覆すだけだ」

短い会話の直後、輝明は距離をとり、急加速してあかりのキャラに再度、向かってくる。

そして、牽制で放ったあかりのキャラの連携技を、輝明のキャラは刀ですべて受け、また、逸らすことで回避した。

「なっーー」

あかりが驚きを口にしようとした瞬間、輝明は超反応で、あかりのキャラに乾坤一擲のカウンター技を放つ。

『竜牙無双斬!!』

「ーーっ!?」

音もなく放たれた輝明のキャラの必殺の連携技が、あかりのキャラを切り裂き、わずかに残っていた体力ゲージを根こそぎ刈り取った。


『YOU WIN』


システム音声がそう告げるとともに、巨大モニターに『クライン・ラビリンス』の勝利が表示される。

「つ、ついに決着だ!勝ったのは、『クライン・ラビリンス』!!」

興奮さめやらない実況がそう告げると、一瞬の静寂の後、認識に追いついた観客達の歓声が一気に爆発した。

「あ、阿南ーー」

「『ラ・ピュセル』」

ーー負けた。

そう確認するや否や、春斗は何かに急きたてられるように、輝明に声をかけようとして、先に口にされた輝明の言葉にぴくりと反応する。

「僕にここまでダメージを与えたこと、いずれ後悔させてやる」

「かなり、ダメージ、受けた」

「うるさい!」

苛立ちの混じった輝明の声にも、花菜は淡々と表情一つ変えずに言う。

そこで、花菜は小首を傾げると、ふっとあかりに視線を向けた。

「雅山あかり、次は負けない」

「ああ」

不意に話を振られたあかりは、きっぱりとそう告げる。

そんなあかりのリアクションに、花菜の隣に立っていた当夜はため息をつくと、不服そうにこう言った。

「…‥…‥天羽優香。次に戦う時は、余計な真似はさせない。今度こそ、徹底的に叩き潰す」

「私達も負けません」

察しろと言わんばかりの眼差しを突き刺してきた当夜に、優香は真剣な表情でこくりと頷く。

春斗はそんな二人に苦笑すると、ため息とともにこう切り出した。

「今度は、俺達がーーいや、『ラ・ピュセル』が勝ってみせる!」

「…‥…‥なら、全てを覆すだけだ」

対戦中に告げた言葉を残して、輝明は踵を返すと、チームメイト達とともにその場から立ち去っていったのだった。

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