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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
31/126

第三十一話 この想いを伝えるまで

「お兄ちゃん、優香さん、すごい人だね」

春斗に車椅子を押されて、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会の会場にたどり着いたあかりは、感慨深げに周りを見渡しながらつぶやいた。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会当日、春斗達は新幹線とバスを乗り継いで、大会会場であるドームを訪れていた。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会。

それは、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式の大会と同様に、『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で正式にランキング入りを果たした者だけが出場できる仕組みになっていた。

『チェイン・リンケージ』のプレイヤーはもとより、大ヒットゲームの最大の公式大会ということで、全国各地から集まった参加者も、そして観客の数も半端なかった。

「本当、すごい人だな」

あかりの言葉に、春斗は頷き、こともなげに言う。

そんな彼らのあちらこちらから、他の参加者達と観客達の声がひっきりなしに飛び込んでくる。

その様子をよそに、優香は周囲を窺うようにしてから、こそっと小声であかりにつぶやいた。

「あかりさん、受付に黒峯玄さん達、『ラグナロック』がーー黒峯麻白さんがいます」

「えっ、麻白が?」

その言葉に、あかりはきょとんとした顔をした。

だがすぐに、あかりは春斗に向かって花咲くような笑みを浮かべるとありていに言い募る。

「お兄ちゃん、麻白に会ってきてもいい?」

「ああ」

あかりらしいまっすぐな言葉に、春斗はことさらもなく苦笑する。

春斗の返事を聞くと、あかりは大会受付の近くで、玄と大輝、そして、サポート役の人達と何やらやり取りをしていた麻白のもとへと車椅子を動かした。

その様子をぼんやりと眺めながら、春斗は少し照れくさそうに頬を撫でる。

「あかりが、黒峯麻白さんと友達になれるといいな」

「あかりさんなら、きっと大丈夫です」

「そうだな」

優香の花咲くようなその笑みに、春斗は吹っ切れた表情を浮かべて一息に言い切った。

「でも、こんなに参加者が多いと、予選は大変ーー」

「参加希望の方は、こちらにお並び下さい!」

でも、こんなに参加者が多いと、予選は大変そうだな。

そう告げようとした春斗の言葉をかき消すように、突如、大会スタッフの声が春斗達の耳に響き渡る。

「春斗さん、まずは受付に行って、参加登録をしましょう」

「ああ」

顔を見合わせてそう言い合うと、春斗達は足早に大会受付へと向かったのだった。






オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム登録を済ませた後ーー。

春斗達は予選がおこなわれるステージにたどり着くと、すぐ近くの休憩スペースに赴いた。

大会参加者用の休憩スペースは、複数のモニター画面と、対面にソファー型の椅子が置かれただけの部屋だ。

休憩スペースのドアを開くと、春斗達が前もって呼びよせていた人物達は、すでにそこで待っていた。

「黒峯玄と浅野大輝、そして…‥…‥」

「ううっ…‥…‥」

「黒峯麻白さん!」

玄の後ろに隠れて、おろおろとしている麻白の姿を目の当たりにして、春斗は知らずそうつぶやいていた。

「おまえら、いい加減、俺達のことをフルネームで呼ぶなよ」

春斗の言葉に、大輝はそっぽを向くと、ぼそっとつぶやいた。

「ごめん、その、玄、大輝、麻白」

「あ、ああ。…‥…‥その、春斗、あかり、優香」

春斗が言い直すと、大輝はどこか不服そうに投げやりな言葉を返す。

「あっ、大輝、照れている」

玄の後ろに隠れていた麻白に指摘されて、大輝は振り返ると不満そうに眉をひそめる。

「麻白、俺は照れてないぞ」

「大輝は相変わらず、順応性なさすぎだよ 」

「そんなことないだろう!」

麻白の嬉しそうな表情を受けて、大輝は不服そうに目を細めてから両拳をぎゅっと握りしめた。

「大輝らしいな」

笑ったような、驚いたような。

あらゆる感情の混ざった声が、玄の口からこぼれ落ちる。

「俺達も、玄達の隣の席に座るか」

「うん」

「はい」

きっぱりと告げられた春斗の言葉に、あかりと優香は嬉しそうに頷いてみせる。

玄達の隣の席のソファーに座った後、春斗は少し躊躇うようにため息を吐くと、ふと疑問に思ったことを口にした。

「そういえば、麻白のサポート役の人達はいないのか?」

「ああ。予選会場で待ってもらっている」

「そ、そうなんだな」

意外な事実に意表を突かれて、春斗は思わず言葉を詰まらせる。

少し間を置いた後、春斗は玄達に向き直ると、ずっと思考していた疑問をストレートに言葉に乗せた。

「そういえば、あの人達は何者なんだ?」

「さあな」

春斗の疑問に即答した大輝は、そのまま不満そうに淡々と続ける。

「あいつら全員、身元を明かせないとか言ってきてーー」

「身元を明かせない?」

春斗が不思議そうに首を傾げると、大輝は何故か、ごまかすように早口でまくし立てた。

「ーーあっ、いや、麻白が魔術で初めて生き返った時に、麻白と友達になった人達なんだよ」

「…‥…‥そうか」

冗談でも、虚言でもなく、ただの願望を口にした大輝に、春斗は穏やかな表情で胸を撫で下ろすと口元に手を当てて考え始める。

それにしても、麻白が魔術で初めて生き返った時に友人になった人達か。

それってつまり、あの人達は、あかりも麻白と同じように、あの少年の魔術によって生き返ったという事実を知っているということなのだろうかーー。

春斗が目を細め、更なる思考に耽ろうとした矢先、不意に、あかりはぽつりとこうつぶやいた。

「ねえ、麻白」

「えっ?」

麻白のその問いかけに、あかりは車椅子の肘掛けをぎゅっと握りしめたまま、恥ずかしそうにそうつぶやくと顔を俯かせる。

しかし、このままでは話が先に進まないと思ったのだろう。

あかりは顔を上げると、意を決して口を開いた。

「私、麻白と友達になりたい」

「あたしと?」

意外な言葉に、麻白は思わず唖然として首を傾げた。

あかりは嬉しそうに頷くと、さらに先を続ける。

「うん。私も、麻白と同じように魔術で生き返ったから、麻白が辛い時に力になりたいの」

「あの、麻白」

そんな二人の様子を見て、春斗はその疑問を口にするべきかどうか、一瞬、迷った。

しかし、こらえきれなくなって、春斗は意を決したように訊いた。

「その、魔術で生き返った影響で、記憶が欠落しているだけではなく、頭痛も起こっているって聞いたんだけど、大丈夫なのか?」

「うん」

「そ、そうなんだな」

必死に言い繕う春斗を見て、麻白は嬉しそうにはにかむように微笑んでそっと俯く。

「あの、心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ。春斗くん達が、憑依の間隔のサイクルをーーううっ、その」

思わず、口にしかけた言葉に、麻白ははっとした表情を浮かべ、あからさまに視線を逸らした。

麻白の慌てた様子に、春斗は少し怪訝そうに首を傾げながらも淡々と言う。

「もしかして、魔術を使う少年から、あかりについて何か聞いたのか?」

「う、うん。魔術を使う少年が、あかりも、あたしと同じように魔術で生き返ったことなどを、いろいろと教えてくれたの」

あくまでも彼らしい春斗の反応に、麻白はほっと安堵の息を吐くと、花咲くようにほんわかと笑ってみせる。

「あかり、これからよろしく」

「うん」

麻白の言葉に、あかりがぱあっと顔を輝かせるのを見て、隣で傍観していた優香は思わず苦笑してしまう。

「あかりさん、嬉しそうですね」

「うん。嬉しんだもの」

優香の何気ない言葉に、あかりは嬉しそうに笑ってみせた。

「優希くんと友達になって、そして麻白ととも友達になれて、すごく嬉しいの」

「そうでしたね」

周囲に光を撒き散らすような笑みを浮かべるあかりを、優香は眩しそうに見つめる。

玄は大輝とともに立ち上がると、いまだにあかりと楽しげに話している麻白の頭を、穏やかな表情で優しく撫でてやった。

「麻白、そろそろ行くか」

「うん」

麻白はほんの少しくすぐったそうな顔をしてから、嬉しそうにはにかんだ。

「玄、大輝、麻白。今日はよろしくな」

春斗はそこまで告げると、立ち上がり、両手を握りしめて一息に言い切る。

「今度は、俺がーーいや、俺達、『ラ・ピュセル』が勝ってみせる!」

「出来るのならな」

内心の喜びを隠しつつ、玄は微かに笑みを浮かべた。

「私達も負けません」

「うん」

春斗に相次いで、優香とあかりもきっぱりと告げる。

「ああ」

玄が幾分、真剣な表情で頷くと、休憩スペースのソファーから立ち上がった麻白は嬉しそうに顔を輝かせて言った。

「玄、大輝、春斗くん達とのバトル、楽しみだね」

「…‥…‥ああ、そうだな」

「そんなの、返り討ちにするだけだ」

玄と大輝は二者二様でそう答えると、踵を返して麻白とともにその場から立ち去っていったのだった。

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