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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
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第二十九話 大きく羽ばたきたくて

春斗達が、個人戦の覇者である布施尚之とオンライン対戦をする日、あかりは総合病院の待合室で、春斗達と一緒に琴音との交換ノートをめくっていた。

記憶を辿るように、あかりは楽しげに思い出をめくり続ける。

宮迫さんと、初めて交換ノートのやり取りをした時の思い出。

お兄ちゃんと優香さん、そして、私バージョンの宮迫さんが初めてチーム戦に出場したこと。

公式の大会の決勝戦で、みんなが敗北したと聞かされた時は、胸が張り裂けそうになった。

それでも、次の公式の大会の時は、私達のチーム、『ラ・ピュセル』が優勝したと聞かされてすごく嬉しかった。

そして、二学期から通うことになる中学校で出会った優希くんと友達になったこと。

いつか、優希くんと友達になったように、麻白とも友達になれるといいな。

どれを思い出しても、すべて鮮明に思い出すことができる。

それを証明するかのように、あかりは嬉しくてたまらないとばかりに、きゅっと目を細めて頬に手を当てた。そして、笑顔を咲き誇らせる。

その幸せでかけがえのない日々は、これからも紡がれていくことになるのだろう。

お兄ちゃんと優香さんーーそして、宮迫さんと一緒に。

あかりは交換ノートに、今日の通院のことを頑張って書き終えるとペンを置いた。そして、大きく深呼吸する。

今日はいよいよ、あの個人戦の覇者である布施尚之さんとのオンライン対戦だ。

あかりは、その時をーーそのバトルを想像する。

お兄ちゃんと優香さんは、そして、私バージョンの宮迫さんはどう戦うのかな?

布施尚之さんって、どんな人なんだろう?

想像は尽きない。

あかりは、これからおこなわれるオンライン対戦について、あれやこれやと想像する。

だけど、最後に行き着く答えは同じだ。

お兄ちゃん達に勝ってほしい。

あかりは切にそう願った。

ーーその時だった。

「雅山あかりさん、雅山あかりさん、一番診察室にお入り下さい」

突如、病院からの呼びかけが、春斗達の待っている待合室に響いた。

春斗と優香は立ち上がると、あかりが乗っている車椅子のハンドルを握りしめる。

「あかり、行くか」

「あかりさん、行きましょう」

「うん」

交換ノートをぎゅっと握りしめて嬉しそうに頷くあかりに、春斗は少し照れくさそうに頬を撫でる。

「父さんにも、ちゃんと今日のオンライン対戦のことは話しているからな。症状は良くなってきているとはいえ、たまに辛い発作があるみたいだからな」

「うん、お兄ちゃん、ありがとう」

春斗の言葉に、あかりはつぼみが綻ぶようにぱあっと顔を輝かせる。

春斗達が脳神経外科の診察室であるーー、一番診察室に入ると、春斗の父親が神妙な表情で声をかけてきた。

「あかり、今日は大丈夫なのか?」

「…‥…‥と、父さん、診察室に入るなり、いきなり、今日のオンライン対戦のことを聞くのはどうかと思うけど」

意外な春斗の父親の反応に、春斗は訝しげに眉をひそめる。

「すまない。今日の対戦のことが心配でな」

「それ、前の大会の時も、この間の校内見学の時も、散々同じようなことを言っていた気がするんだけどな」

「そ、そうだったか」

問いにもならないような春斗のつぶやきに、春斗の父親は視線をそらして言う。

「春斗さん、春斗さんのお父様、相変わらずですね」

「優香」

「優香、今のはな」

呆気に取られる春斗と春斗の父親をよそに、優香は噛みしめるようにくすくすと笑う。

「お父さん、私、今日は大丈夫だよ!」

「あっ、あかり、ちゃんと診察してからな」

あかりの全く根拠のないーーだけど、力強い言葉に、なんと答えていいのか分からず、春斗はもやもやしたものを押さえ込むように頭を抱える。

そんな中、笑みを堪えきれなくてたまらないとばかりに、きゅっと目を細めて頬に手を当てる看護婦達を見て、春斗はすでに残り少ない気力がぐんぐん目減りしていくのを感じていた。






病院から帰った後、リビングで昼食を終えた春斗達は早速、オンライン対戦の準備をするために春斗の部屋に上がった。

今日の尚之とのオンライン対戦は、相手からの連絡待ちだった。

今日は、尚之の所属している陸上部がお昼までだということで、その後にオンライン対戦をすることになっている。

いそいそと前もって準備していたゲーム機に歩み寄り、ゲームを起動させながらあかりが嬉しそうに言う。

「もうすぐ、布施尚之さんとのオンライン対戦だね」

あかりは視線を落とすと、どこか懐かしむようにそうつぶやいた。

春斗があかりの視線を追うと、ゲーム機の近くに、琴音の大好きなペンギンのぬいぐるみと優香の大好きなラビラビのぬいぐるみが置かれていることに気づく。

テレビのスピーカーからは、ゲームのオープニングジングルが鳴り響いていた。

春斗は何気ない口調で訊いた。

「嬉しそうだな」

「うん。嬉しんだもの」

春斗の言葉に、あかりは嬉しそうに笑ってみせた。

「だって、お兄ちゃん達とあの布施尚之さんとのオンライン対戦は、夏休みの間、ずっと楽しみにしていたから」

「そうだったな」

てきぱきと手を動かしながら、周囲に光を撒き散らすような笑みを浮かべるあかりを、春斗は眩しそうに見つめる。

そんな春斗の隣では、優香が目を輝かせて、ゲーム機の近くに置かれているラビラビのぬいぐるみを見つめていた。

「う、う~ん」

その時、立派な寝癖がついた髪をかき上げながら、ゲームの準備をしていたあかりが一つあくびをする。

「お兄ちゃん、優香さん。そろそろ、宮迫さんに変わるみたい…‥…‥」

「そうか」

「そうですか」

隣に座っている春斗達にそう答えると、あかりはすぐにゲーム機から離れた。だがすぐに、うーん、と眠たそうに目をこすり始めてしまう。

眠気を振り払うようにふるふると首を振ったものの効果はなかったらしく、結局、あかりはいつものように、春斗にぽすんと寄りかかって目を閉じてしまった。

そのうち、先程より少し大人びた表情をさらしたあかりが、すやすやと寝息を立て始める。

その様子を見て、春斗はほっと安心したように優しげに目を細めてあかりを見遣る。

「あかり…‥…‥」

「ーーっ」

横向きに寄りかかっているため、床に落ちそうになっているあかりの華奢な体を、春斗はそっと元の姿勢に戻そうとした。

だが、春斗はあかりを元の姿勢に戻すことはできなかった。

その前に、不意に目を覚ましたあかりがあわてふためいたように両手を床に伸ばして、春斗の肩から落ちそうになるのを自ら、食い止めたからだ。

「あかり、大丈夫か?」

「…‥…‥春斗」

春斗に声をかけられたことにより、あかりはーー琴音はあかりに憑依したことを察したようだった。

あかりはきょろきょろと周囲を見渡し、自分の置かれている状況に気づくと、呆然とした表情で目を丸くした。

「今から、オンライン対戦なんだな」

驚きの表情を浮かべるあかりの様子に、春斗は額に手を当ててため息をつくと朗らかにこう言った。

「ああ。あかりが宮迫さんに代わる時間と、布施尚之さんがオンライン対戦できる時間の折り合いがなかなかつかなかったんだけど、今日、総合病院から帰った後に、布施尚之さんとオンライン対戦ができることになったんだ」

「そうなんだな」

春斗がざっくりと付け加えるように言うと、あかりはきょとんとした顔で目を瞬かせる。

優香はペンギンのぬいぐるみとラビラビのぬいぐるみを掲げると、誇らしげに笑みを浮かべてみせた。

「宮迫さん、見て下さい。ペンギンさんとラビラビさんのぬいぐるみです」

「ペンギンとラビラビのぬいぐるみがあるんだな」

いつもどおりの彼女のーー琴音の反応に、春斗はほっと安心したように、優しげに目を細めてあかりを見遣る。

「その、あかりに憑依したばかりで悪いんだけど、今から、布施尚之さんとオンライン対戦することになると思う」

「ああ。絶対に、俺達が勝ってみせる!」

「はい、勝ちましょう」

気を取り直した春斗の強い気概に、春斗に支えられて、ベットに座り直したあかりと隣に座っている優香が嬉しそうに笑ってみせたのだった。

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