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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
28/126

第二十八話 時計仕掛けのオンライン対戦

翌朝、あかりと春斗の母親と差し障りのない会話をした後、朝食を先に終えた春斗は自分の部屋へと入っていった。

あかりはまだ、春斗の母親とリビングで話している。何でも、琴音に変わる少し前に、春斗の部屋に行く予定らしい。

愛用のヘッドホンを装着してゲームの曲を脳内にリピートさせながら、春斗はまるで頓着せずにゲームを起動させる。

『チェイン・リンケージ3』。

その眼前のタイトル表記が消えると同時に、春斗はメニュー画面を呼び出してバトル形式の画面を表示させる。

「ーーさて、今日もやるか」

春斗はそう告げると、真剣な表情でゲーム画面を見据えた。

ふと脳裏に、ツーサイドアップに結わえた銀色の髪の少女ーー宮迫琴音の姿がよぎる。

気持ちを切り替えるように何度か息を吐き、まっすぐにゲーム画面を見つめた春斗は思ったとおりの言葉を口にした。

「『チェイン・リンケージ』。ーーもう一度、彼女と繋がるために」

春斗がそうつぶやいたと同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けた。


ーーバトル開始。


ぴりっとした緊張感とともに、バトルが開始される。

そして、春斗は自分だけの世界に埋没するように、ゲームにのめり込もうとしていたーーその時だった。

不意に、春斗の携帯が鳴った。

春斗が携帯を確認すると、優香からのメールの着信があった。

春斗はゲームを一旦、停止するとコントローラーを置き、早速、そのメールを読み上げる。


『春斗さん、昨日は突然、お邪魔してしまってすみません』


そのメールの内容に一瞬、優香が丁重に謝罪している様子を思い浮かべてしまい、春斗は思わず苦笑する。

そして、あらゆる思いをない交ぜにしながら、春斗は何気なくメールの続きを読んだ。

「ーーっ」

次の瞬間、春斗は目を見開き、思わず言葉を失う。


『春斗さん、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ3』のダイレクトメッセージを確認してみて下さい』


そのメールの内容どおりに、春斗は早速、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ3』のダイレクトメッセージを確認してみる。

そこには、あの布施尚之から、特定の日にオンライン対戦を許可するという驚愕のメッセージが届いていた。

『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で、上位のプレイヤーには、数多くの対戦の申し込みがある。

だが、上位のプレイヤーばかりに対戦の申し込みが集中しないように、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のランキング上位のプレイヤーには、任意に対戦の申し込み自体を制限することができた。

任意的にロックをかけることによって、上位のプレイヤーの負担を減らせることができる。

そして、黒峯玄のように、自分から対戦の申し込みをすることができるので、例え、上位のプレイヤーになっても、今までのようにスピーディーなプレイを楽しむことができた。

「これって…‥…‥」

春斗がたまらず、そうつぶやくと、再び、優香からのメールの着信が来る。


『詳しいことは、春斗さんの家に行ってからお話ししますが、どうやら宮迫さんが昨日、布施尚之さんに対戦してくれるように頼んでくれたみたいなんです』


「ーーっ」

そのメールの内容に、春斗は目を見開いた。

春斗は思わず、そのまま、立ち上がりそうになって、自分で自分の手を掴むことで抑え込む。

「…‥…‥こ、これって、やっぱり、あかりからもとに戻った後、宮迫さんがすぐに、布施尚之さんに頼んでくれたっていうことだよな」

春斗は、琴音が必死に頼んでくれている様子を想像し、途方もなく心が沸き立つのを感じた。


『うーん。一度、そのことを踏まえた上で、布施先輩と話してみるな』


ふと、春斗の脳裏に、昨日の悩んでいる様子の琴音バージョンのあかりの姿がよぎる。

春斗は拳を握りしめると、沸き上がる思いを押さえ、あくまでも自然な口調でこう告げた。

「な、なら、まずは、あかりと優香が来たら、布施尚之さんとのオンライン対戦についてのことを考えるか」

「春斗、ちょっといいかしら?あかりがそろそろ宮迫さんにーーもう一人のあかりに変わるみたいだから、春斗のところに行きたいみたいなの」

熱意に燃える春斗の様子をよそに、リビングから春斗の母親の声が聞こえてきた。


俺はーー俺達は絶対に、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦に優勝してみせる。

みんなの夢を叶えるためにーー。

そして、なによりーー誰よりも愛しい彼女のために。


だが、何度呼んでも応えない春斗に、業を煮やした春斗の母親が部屋に入ってきても、止めどない春斗の想いのスパイラルは終わることはなかった。






「えっ?お兄ちゃん、あの、布施尚之さんとオンライン対戦できるようになったの」

「ああ」

春斗の話を聞き終えると、部屋のベットに座っていたあかりは不思議そうに春斗に訊いた。

「宮迫さん、すぐに、布施尚之さんに頼んでくれたんだね」

「ーーっ」

図星をさされたように黙った春斗を見て、あかりは嬉しそうに続ける。

「ねえ、お兄ちゃん。布施尚之さんって、どんな感じだった?」

「い、いや、メッセージをもらっただけだから、どんな感じって言われても」

わくわくと誇らしげにそう告げられた意味深なあかりの言葉に、春斗の反応はワンテンポどころか、かなり遅れた。

得心したように頷きながら、あかりは言った。

「あはっ、宮迫さんは、あの、個人戦の覇者である布施尚之さんと互角に戦ったんだよ」

互角という単語を耳にした瞬間、春斗は戸惑っていた表情を収め、両拳を突き出すと激昂したように叫んだ。

「分かっているよ!」

「これで、布施尚之さんとオンライン対戦できるね。それに夏休みの間、お兄ちゃんと優香さん、そして宮迫さんで、二対一の対戦をすることになったから、今からすごく楽しみなの」

そう告げるあかりの瞳はどこまでも澄んでおり、真剣な色を宿していた。

そのことが、春斗を安堵させる。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦まで、時間はあまり残されていない。

だけど、俺達四人なら、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝という果てしなく困難な目標であっても、乗り越えられる気がした。

「ああ、そうだな」

内心の喜びを隠しつつ、春斗は微かに笑みを浮かべる。

春斗とあかりがこれからのことで話し合っていたその時、躊躇いがちなノックの音がした。

優香か?

見れば、時刻は朝の十一時を回ったところであった。

優香と落ち合う時間までは少しあるが、先程、インターホンが鳴って誰かが来たようだったので、その時に来たのかもしれない。

「優香なのか?」

「はい」

春斗がそう言った瞬間、聞き覚えのある声とともに春斗の部屋のドアが開いた。

春斗の部屋に入ってきた優香は迷いのない足取りで春斗達の前まで歩いてくると、春斗達の目の前で丁重に一礼した。

「春斗さん、あかりさん、おはようございます」

「ああ。おはよう」

「おはよう、優香さん」

春斗とあかりに一礼したことによって、乱れてしまった黒髪をそっとかきあげると、優香は紺碧の瞳をまっすぐ春斗達へと向けてくる。

「あかり、優香、今日からよろしくな」

「うん」

「よろしくお願いします」

どこまでも熱く語る春斗をちらりと見て、あかりと優香は穏やかに微笑んだのだった。






「…‥…‥あ、あの、宮迫さん。昨日、ありがとうな」

あかりと優香の二人と春斗で、二対一の対戦を数回ほど終えた後に、あかりが琴音に代わったことに気づいた春斗は開口一番、そう告げた。

「昨日?」

憑依した途端にそう告げられて呆気にとられたようなあかりを見て、春斗もまた決まり悪そうに視線を落とす。

「おかげで、布施尚之さんとオンライン対戦できるみたいなんだ」

「そうなんだな」

春斗のその言葉を聞いて、あかりは思い当たったというようにぽろりと言った。

「宮迫さん、ありがとう」

「宮迫さん、ありがとうございます」

「あ、ああ」

照れくさそうに頬を撫でるあかりに、春斗と優香は予期していたように顔を見合わせると穏やかに笑った。

春斗は人差し指を立てると、さらに言葉を続ける。

「あの、宮迫さん。良かったら、今から俺達と対戦しないか?」

「対戦?」

あまりに唐突すぎる春斗からの誘いに驚いているのか、ツインテールを揺らしたあかりは明らかに戸惑った顔をしていた。

春斗はごまかすように頬を撫でると、さらに言葉を続ける。

「あっ、その、今まであかりと優香の二人と俺で対戦していたんだけど、もし宮迫さんが良かったら、今度は俺と優香の二人と宮迫さんで、対戦を続けたいなと思って」

「そうなんだな」

宮迫さんとのバトルに、今度こそ、勝ちたいーー。

あかりの率直な答えに、春斗は思わず、熱くなりかけた思いを押さえて長く息を吐く。

「まあ、今のところは、俺の全勝だけどな」

「なら、次からは、俺が勝ち越してみせる」

春斗が態度で勝ちを報告してくると、あかりは当然というばかりにきっぱりと告げた。

彼女らしい反応に、春斗はふっと息を抜くような笑みを浮かべると、優香に視線を向ける。

「優香、絶対に勝とうな」

「はい。春斗さん、勝ちましょう」

「いや、次は俺が勝ってみせる」

春斗と優香、そして、あかりは互いに向かい合うと、不敵な表情を浮かべながら、しばし睨み合った。

不意に、春斗はゲーム画面に視線を戻すと、コントローラーを構え直して早速、チーム変更を選択する。

あかりも軽くため息を吐き、右手を伸ばした。コントローラーを手に取って正面のゲーム画面を見据える。

「レギュレーションは、チーム全員が一本先取されること、そして、時間制限なしでいいかな?」

「ああ」

春斗の言葉にあかりが頷いたと同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けた。


ーーバトル開始。


ぴりっとした緊張感とともに、春斗のキャラがまっすぐ、あかりのキャラをまるで睨んでいるようにして短剣を構える。その後方には、優香のキャラが自身の武器であるメイスを構えて立っていた。

対するあかりのキャラは軽く首を傾げると、春斗達のキャラを静かに見つめた。

まさに、一触即発の状態ーー。

そんな中、先に動いたのは、あかりのキャラだった。

「ーーっ!?」

春斗のキャラは手にした短剣であかりのキャラの初撃を受け止めるも、先程までのあかりの一撃とは違い、予想外の衝撃によろめく。

続く彼女のキャラの追撃に対応が遅れるも、春斗はその斬撃を間一髪のところで回避してみせる。

しかし、あかりの追撃はそれで終わらなかった。

あかりのキャラはすかさず春斗のキャラの懐に入り込むと、二度目の斬撃を春斗のキャラに見舞わせた。

ガクンと体勢を崩した春斗のキャラにあかりのキャラがさらに追撃を入れようと踏み込んだところで、優香は自身のキャラのメイスで、そんな春斗をサポートしようとしたのだが、それは彼女に読み切られていた。

半身そらしただけで回避したあかりのキャラが、斬り下ろしの一撃を優香のキャラに見舞わせる。

春斗はたまらず、バックステップを用いて、優香のキャラとともに、彼女のキャラから大きく距離を取った。

「…‥…‥さすがに強いな」

「…‥…‥強いですね」

春斗の言葉に、優香はコントローラーをぎゅっと握りしめる。

「でも、バトルは始まったばかりです。なら、これから、いくらでも状況を覆すことができるということです」

「ーーっ」

優香の強い気概が、春斗の耳朶を叩く。

「…‥…‥そうだな。オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦に優勝するためにも、俺達はここで立ち止まってなんかいられないな」

優香の言葉に、春斗は自分に言い聞かせるようにきっぱりと告げた。

そして、春斗と優香のキャラは連携技を駆使しながら、どこまでも迷いなく、あかりのキャラに向かっていった。



こうして、夏休みの間、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦に向けて、春斗達のゲームの特訓が開始されたのだった。

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