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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
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第二十五話 校内見学と彼女の決意

ゲームセンターの公式大会で優勝することができた春斗達は、バス停にたどり着くと、ベンチに座って一息ついていた。

「今回は優勝できたな」

「はい。公式大会では、初の優勝です」

春斗が何気ない口調でそう告げると、優香は嬉しそうに膝元に置いている小さな優勝トロフィーをぎゅっと抱きしめる。

「それにしても大会の後、今生達がドームの公式大会の方を観に行くと言った時は驚いたな。確か、もう大会は終わっていたはずだろう」

「そうですね。黒峯玄さん達、『ラグナロック』が優勝したというナレーションが、大会が終わった後に会場内に流れていました」

問いかけるような声でそう言った春斗に、優香は軽く頷いてみせる。

「でも、りこさんはどうしても黒峯玄さん達の勇姿を一目みたいのだと思います」

「…‥…‥はあ。今生は本当に、黒峯玄のファンなんだな」

あっさりと告げられた優香の言葉に対して、春斗は呆れたようにむっと眉をひそめる。

その様子を見て、優香は少し困ったように頬に手を当ててため息をつくと、朗らかにこう言った。

「黒峯玄さんは、りこさんにとって憧れの人ですから。前の非公式の大会の時でも、黒峯玄さんに認められた春斗さんに対して興味を示していましたよね」

「ああ、そうだったな」

髪を撫でながらとりなすように言う優香に、春斗は穏やかな表情で胸を撫で下ろした。

「とにかく、今回の公式の大会が、俺達のチーム、『ラ・ピュセル』の公式戦、初優勝だ」

「ああ」

「はい」

きっぱりと告げられた春斗の言葉に、あかりと優香は嬉しそうに頷いてみせる。

すると、春斗はそんな二人の気持ちを汲み取ったのか、頬を撫でながら照れくさそうにぽつりとつぶやいた。

「ついに、公式戦で優勝することができたんだな」

「はい。公式戦、初優勝です」

照れくさそうにそう付け足した春斗に対して、優香は胸のつかえが取れたようにとつとつと語る。

そんな中、あかりは車椅子を動かしてバス停に載っている時刻表を見ると、不思議そうに小首を傾げた。

「そういえば、行きは列車だったのに、帰りはバスに乗るんだな」

「はい。春斗さんの家に戻る前に、特別支援学級がある中学校に寄ろうと思っています」

「特別支援学級がある中学校?」

優香の答えに、あかりは目を丸くし、驚きの表情を浮かべた。

戸惑うあかりをよそに、優香は先を続ける。

「あかりさんが、二学期から通うことになる中学校です」

「そうなんだな」

優香のその言葉を聞いて、屈託のない笑顔でやる気を全身にみなぎらせたあかりを見て、春斗は胸に滲みるように安堵の表情を浮かべる。

だが、すぐに、あかりは少し名残惜しそうな表情を浮かべると空を見上げた。

「俺はもうすぐ、あかりに変わるから見れないけど、俺とあかりがこれから通うことになる中学校に行くんだな」

「ああ。今日は、中学校自体はお休みだけど、あかりと宮迫さんがこれから通うことになる中学校を一度、見てみたくて校内見学をお願いしたんだ」

あかりの言葉に、春斗は昔を懐かしむように明るい笑顔で語る。

「そうなんだな」

「…‥…‥ああ。宮迫さん、今日は一緒に大会に出場してくれてありがとう」

吹っ切れたような表情を浮かべるあかりに、春斗はふっと息を吐き出した。そして引き締めていた口元を少し緩めると、さもありなんといった表情で言った。

「あかりに憑依したのが、宮迫さんで本当に良かった」

「うん?」

「何でもない」

困惑したように首を傾げてみせるあかりに、春斗はほのかに頬を赤くし、ごまかすように早口で言った。

「バ、バスも来たことだし、そろそろ行こうか?」

「ああ」

感慨深げに、あかりは遠目に見えるバスを見つめながら頷いた。

すると、春斗は赤面しながらも、バスに乗るために、あかりが乗っている車椅子のハンドルを恐る恐る握りしめる。

そんな二人の様子を、しばらく見守っていた優香は穏やかな口調でこう言った。

「春斗さん、宮迫さん、相変わらずですね」

「優香」

「天羽」

呆気に取られる二人をよそに、優香は噛みしめるようにくすくすと笑うと、付け加えるようにとつとつと語る。

「春斗さん、今日は中学校はお休みですが、確か、あかりさんの担任になられる方とお会いすることになっていましたよね」

「そうだったな。急ごう」

「ああ」

顔を見合わせてそう言い合うと、春斗達は足早にバスへと乗り込んだのだった。






「あなたが、雅山あかりさん?」

春斗達が特別支援学級がある中学校にたどり着くと、校門の前に立っていた一人の女性が柔らかな笑みを浮かべてこうつぶやいた。

「お母さんからお話は聞いていたのだけど、いろいろと大変だったみたいね」

「えっ?…‥…‥は、はい」

その微妙な言い方に、琴音からもとに戻ったあかりは分からないなりにとりあえず頷いてみせた。

「だいたいの事情は聞いているから、何か困ったことがあったら、私か、他のクラスの先生にでも話してね」

「あ、ありがとうございます」

お母さん、どんな説明をしたのかな?

疑問に思いながらも、あかりがあたふたしながら頭を下げると、あかりの担任はにっこりと穏やかに微笑みながら、学校の裏口の扉を開けると校内へと入っていく。

「あかり」

あかりの担任に連れられて、校内を歩いていた春斗が、そんなあかりに対して小声で呼びかけた。

「確か、母さんは、あかりが病気の影響で二重人格に近い状態になってしまっているということを、先生に前もって話していたはずだ」

「それ以外のことも、春斗さんのお母様がうまくフォローされていらっしゃるみたいです」

「あっ…‥…‥」

春斗と優香の言葉に、あかりは口に手を当てると思わず唖然として春斗達の方を振り返った。

気まずそうに視線をそらした春斗に、不意をつかれたような顔をした後、あかりは穏やかに微笑んだ。

「うん、ありがとう。お兄ちゃん、優香さん」

「ああ」

「はい」

独り言のようにつぶやいた春斗と、てらいもなく頷いた優香を見て、あかりははにかむように微笑んでそっと俯く。

目的の場所であるあかりの教室にたどり着くと、あかりの担任は一度、教室内を見渡した後、春斗達の方へと向き直る。そして、率直にこう告げた。

「ここが、雅山さんの教室になります。今日は学校がお休みなので誰もいませんが、いつもはもう一人、男の子がいます」

「そうなんですね」

二学期から始まる学校生活に、あかりが嬉しそうに心を踊らせていると、不意に春斗は不思議そうにつぶやいた。

「あかりを含めて、二人だけなんだな」

「はい。他に、特別支援学校があるからだと思います。でも、特別支援学校は、送迎バスがあるとはいえ、春斗さんの家からだと少し遠いんです」

「そうか」

優香の補足に、春斗は顎に手を当てると思案するように視線を逸らす。

あかりには、下半身不随による歩行障害、小学生中学年並みの学力と文字が上手く書けないなどの学習障害、そして宮迫さんに度々、憑依することを考えて精神障害があることになっている。

ただ、宮迫さんがあかりに憑依している時は、歩行障害以外、実際は問題なくなるのだが、宮迫さんが憑依している時間は四時間のみであり、それも決まった憑依の間隔があるため、普通の中学校の授業内容では厳しいのではないか、と父さんと母さんは考えたのだ。

そんな中、あかりは車椅子の肘掛けの上に置いた手を握りしめると、うずうずとした顔であかりの担任に声をかけた。

「あの、もう一人のクラスメイトの名前を聞いてもいいですか?」

「はい。高野(たかの)優希(ゆうき)くんです」

あかりの担任がその言葉を口にした瞬間、春斗は思わず、目を見開いた。

「なっ!高野優希くんって、もしかして、高野花菜さんと高野当夜さんの弟なのか?」

「あら、二人とは知り合いなの?」

あかりの担任の驚愕に応えるように、春斗はこくりと頷いてみせる。

「はい。前に、ゲームの公式の大会のチーム戦で対戦したことがあるんです」

「そうなのね。高野くんはね、雅山さんと同じく歩行障害がある子なの」

顎に手を当てて物憂げに嘆息するあかりの担任の瞳が、春斗と優香の隣で同じく物寂しそうにしているあかりへと向けられた。

「高野くんは少し、おとなしい男の子だから、大変かもしれないけど、仲良くしてあげてね。雅山さん、もしよかったら、夏休み前にーー明日の終業式に、学校をもう一度、見学してみる?」

「「ーーっ」」

「はい、行ってみたいです!」

あかりの担任の思いもよらない誘いに、春斗と優香が不意をうたれように目を瞬き、あかりは両拳を前に出して話に飛びついた。

「あ、あのな、あかり。学校に通えるといっても体調はまだ万全じゃないだろう。それに明日は、俺達も終業式があるから、途中までは母さんが着いていくとはいえ、学校内には一人で行くことになる」

「お願い、お兄ちゃん!私、ずっと前から、学校に通ってみたかったの!」

春斗が呆れたような声で言うと、飛びつくような勢いであかりは両拳を突き上げて頼み込んできた。

渋い顔の春斗と幾分真剣な顔のあかりがしばらく視線を合わせる。

先に折れたのは春斗の方だった。

身じろぎもせず、じっと春斗を見つめ続けるあかりに、春斗は重く息をつくと肩を落とした。

「…‥…‥分かった。だけど、絶対に無理はするな」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

苦虫を噛み潰したような顔でしぶしぶ応じる春斗に、あかりはきょとんとしてから弾けるように手を合わせて笑ったのだった。

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