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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
19/126

第十九話 あの日、誓った夢の探し方

ーー完全にやられた。

公式の大会が終わった翌日、春斗は机に突っ伏していた。

学校の授業中も休み時間も、春斗を支配するのは、『クライン・ラビリンス』に完敗したという事実だけだった。

拭いようもない敗北感にまみれながら、春斗は携帯や雑誌などで、ひそかにオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回、第二回の公式トーナメント大会の情報を集めていた。

そうしなければ、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦で優勝することはできない。

勝てないと断言できるだけの状況にある。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームであり、また、第二回公式トーナメント大会のチーム戦、準優勝チームである『クライン・ラビリンス』。

ーーそして、前回の大会で『クライン・ラビリンス』を破り、第二回公式トーナメント大会のチーム戦を優勝した『ラグナロック』。

その二チームが参加する、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦で 、俺と優香、そしてーー宮迫さんバージョンのあかりは、どこまで太刀打ちできるのだろうか。

「春斗さん、今度の休日なのですが、少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「優香」

頭を抱えて一人、思い悩んでいた春斗に対して、昼休みが終わる間近に、クラスメイトの少女ーー優香が殊更、深刻そうな表情で声をかけてきた。

「今度の休日に、あかりさんと一緒に行きましょう」

「今度の休日に、何かあるーー」

「さあ、みんな、席につけ!授業はとっくに始まっているぞ!」

「「はーい」」

春斗が立ち上がって何かを告げる前に、五限目の数学の教師が来てクラス全体を見渡すようにしてそう告げると、クラスメイト達はしぶしぶ自分の席へと引き上げていった。

「それでは春斗さん、また、後で」

「ああ」

丁重に一礼すると、そのまま、迷いのない足取りで自分の席へと戻っていく優香に倣って、春斗も自分の席に座る。

授業が始まると、春斗は先生によってホワイトボードに書き込まれる数学の公式などを眺めながら、先程の不自然な優香との会話を思い出す。

今度の休日、何かあるのか?

俺だけじゃなく、あかりも一緒に行くということは、もしかすると、『ラ・ピュセル』のマスコットキャラ、ラビラビ関係のことかもしれないなーー。

春斗が一人、思い悩んでいると、不意に春斗の携帯が震えた。

春斗が携帯を確認すると、先程、会話をしたばかりの優香からのメールの着信があった。


『春斗さん、今度の休日に、あかりさんと一緒に、黒峯玄さん達に会いに行きましょう』


そのメールの内容に、春斗は思わず、目を丸くした。

「…‥…‥黒峯玄達に?」

春斗がたまらず、そうつぶやくと、再び、優香からのメールの着信が来る。


『春斗さん、公式の大会が終わったら、黒峯玄さん達に会いに行くって、前に言っていましたよね。オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦に優勝するためにも、黒峯玄さん達、『ラグナロック』と一度、バトルしておきましょう』


「ーーっ」

そのメールの内容に、春斗は目を見開いた。

春斗は思わず、そのまま、立ち上がりそうになって、自分で自分の手を掴むことで抑え込む。

『今度は、俺がーーいや、俺達が勝ってみせる!』

あの日、ゲームセンターで、黒峯玄に対して叫んだ自分の言葉がーー、真っ白な記憶が蘇る。

五限目の数学の授業が終わり、六限目の授業が始まっても、春斗の頭の中ではずっと同じ想いが空転していた。


ーー俺は、何を悩んでいたんだろう。

みんなで優勝するっていうあかりの夢をーーいや、俺とあかりと優香、そして、宮迫さんの夢を叶えるために、俺達はチーム戦で優勝することを願っていたというのに、俺は何故、ずっと一人で悩んでいたんだろう。

…‥…‥俺は、一人じゃなかったのにな。


春斗は拳を握りしめると、胸に灯った炎を再び、大きく吹き上がらせた。

それでも、どうしても漏れてしまう笑みを我慢しながら、自嘲するでもなく、吹っ切るように春斗はがりがりと頭をかいて、

「例え、相手がどんなに手強くても、俺達のチームが優勝するけどな」

と、一息に言った。

熱意に燃える春斗の様子を見て、優香が嬉しそうに、そして噛みしめるようにくすくすと笑う。


俺はーー俺達は絶対に、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦に優勝してみせる。

みんなの夢を叶えるためにーー。

そして、なによりーー誰よりも愛しい彼女のために。


六限目の授業が終わっても、止めどない春斗の想いのスパイラルは終わることはなかった。






「なっ…‥…‥!」

今度の休日に、あかりと優香と一緒に黒峯玄の家に行く約束をし、黒峯玄の家の前に立った春斗は自分でもわかるほど驚きの表情を浮かべていた。

その理由は、至極単純なことだった。

春斗達が赴いた黒峯玄の家は、まさに毒気を抜かれるほどの壮麗な高級マンションだったからだ。

「ここに、黒峯玄が住んでいるのか?」

「お、お兄ちゃん、黒峯玄さんが住んでいるマンションってすごいね」

冗談のような広大な敷地を前に、春斗だけではなく、車椅子に乗ったあかりも目を大きく見開き、驚きをあらわにする。

驚きににじむ表情のまま、春斗とあかりはおそるおそる優香を見遣った。

「黒峯玄さんのお父様は、経済界への影響力がかなり強い人物みたいです」

「そ、そうなんだな」

目を見開く春斗に、優香は当然のことのように続ける。

「以前、黒峯麻白さんが長期入院中、そして退院だという噂が話題になった際にも、黒峯玄さんのお父様に対して、ゲーム関係、そして、経済関係のマスコミの方々が殺到していたそうです」

「…‥…‥はあ。黒峯玄の父親って、そんなにすごい人なんだな」

優香の言葉を聞くと同時に、ふっと息を抜いた春斗は、あかりと優香とともマンションの入口へと向かう。

その途中、優香は先程、駅前でもらったチラシを見ながら、殊更、深刻そうな表情でこう言ってきた。

「あの、春斗さん、あかりさん。少し、よろしいでしょうか?」

「優香、どうかしたのか?」

「えっ?」

春斗とあかりの問いかけにこくりと頷いた優香は、何のてらいもなく言った。

「その、単刀直入に言います。黒峯玄さん達、『ラグナロック』との対戦を終えた後、お祭りに行きませんか?」

「なっーー」

予想もしていなかった彼女の言葉に、春斗は虚を突かれたように呆然とする。

優香は春斗達の方に振り返ると、一呼吸置いてから言い直した。

「今日、この近くで、お祭りがおこなわれますよね」

「ああ。そういえば、駅前でそんなチラシをもらったな」

春斗が口元に手を当てて考えると、優香は厳かな口調で続けた。

「そのお祭りで、『ラ・ピュセル』のマスコットキャラ、ラビラビさんのヨーヨーすくいをしている屋台があるそうなのです」

「…‥…‥ラビラビさんのヨーヨーすくい」

春斗の戸惑いとは裏腹に、優香は真剣な眼差しで視線を床に降ろしながら懇願してきた。

「お願いします。春斗さん達の力を再び、私に貸して下さい」

「…‥…‥優香は、本当に『ラ・ピュセル』のラビラビが好きだな」

「は、はい。ラビラビさんは可愛いです」

呆れた大胆さに嘆息する春斗に、優香は少し恥ずかしそうにもじもじと手をこすり合わせるようにして俯く。

「ラビラビさん、可愛いもの」

優香がそう告げた瞬間、あかりはぱあっと顔を輝かせて言った。 頬をふわりと上気させて嬉しそうに笑う。

その言葉を聞いた途端、優香は嬉しそうにぱあっと顔を輝かせて両手を打ち合わす。

「あかりさん、そうですよね。ラビラビさんは可愛いです」

「うん。ラビラビさんのヨーヨーすくいって、どんな感じなのかな」

『ラ・ピュセル』のラビラビ談義に花を咲かせる二人を前にして、春斗は黒峯玄達との対戦後、お祭りに赴いた際に起こる出来事の一環をふと思い浮かべてしまい、今更ながらにため息を吐いたのだった。

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