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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
17/126

第十七話 交差する信念

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式戦。

それは、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式トーナメント大会と同様に、『チェイン・リンケージ』のモーションランキングシステム内で正式にランキング入りを果たした者だけが出場できる仕組みになっていた。

あかりが退院して間もない頃、ドームで開催されるオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』のチーム戦に出場することになった春斗達は、そこでオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームであり、第二回公式トーナメント大会のチーム戦、準優勝チームの決定的な実力を目の当たりにすることになった。

「決まった!」

実況の甲高い声を背景に、観戦していた春斗達はまっすぐ前を見据えた。

「 Bブロック勝者は『クライン・ラビリンス』! 言わずと知れた、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームであり、また、第二回公式トーナメント大会のチーム戦、準優勝チームだ!」

「すごいな…‥…‥」

「…‥…‥かなり、手強そうですね」

実況がそう告げると同時に、春斗と優香の二人が、それぞれ同時に別の言葉を発する。

観戦していた観客達もその瞬間、ヒートアップし、割れんばかりの歓声が巻き起こった。

『YOU WIN』

春斗はドームの巨大なモニター画面上に表示されているポップ文字を見遣り、改めて、『クライン・ラビリンス』の勝利を実感する。

あの黒峯玄、率いる『ラグナロック』と互角に戦ったチームか。

そして、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式内で、最強チームだという呼び声もあるチーム。

初めて黒峯玄とバトルしたーーあのオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ3』のオンライン対戦での時のことを思い出し、春斗は途方もなく心が沸き立つのを感じた。

ーー今すぐ、このチームと対戦してみたい。

そして、この最強だと称されているチーム、勝ちたいーー。

やり場のない震えるような高揚感を少しでも発散させるために、春斗は拳を強く握りしめる。

「 みやーーいや、あかり、優香。この大会も、絶対に優勝しような」

「ああ。絶対に、俺達が勝ってみせる」

「はい、勝ちましょう」

春斗の強い気概に、車椅子に乗ったあかりと優香が嬉しそうに笑ってみせた。

「あの、宮迫さん。一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「ああ」

優香はあかりに向き直ると、厳かな口調で続けた。

「最近、少しお元気がないように感じられますが、何かあったのでしょうか?」

「悪い。…‥…‥今は言えないんだ。俺の方で、いろいろと事情があって」

なんだ、それは、そう続けようとした春斗の目の前で、

「分かりました」

優香は淡々と頷いてみせる。

思い悩んでいる宮迫さんの力になりたいーー。

優香の率直な答えに、春斗は思わず、熱くなりかけた思いを押さえて長く息を吐く。

「では、お話できる時がきましたら、教えて頂いても構いませんでしょうか?」

「ああ、ありがとうな、天羽」

吹っ切れたような言葉とともに、あかりはまっすぐに優香を見つめる。

「ーーそれにしても」

横に流れかけた手綱をとって、優香は春斗にだけ聞こえる声で静かに告げる。

「黒峯玄さん達は、今回の大会には出場されていないみたいですね」

「そうだな」

春斗達のブロックであるDブロックの対戦ステージまでたどり着くと、春斗は数日前に黒峯玄から語られた内容を思い返し、深刻そうに答えた。

「黒峯玄達、『ラグナロック』にも、いろいろと複雑な事情があるからな」

「…‥…‥黒峯玄」

春斗が発した何気ない言葉に、春斗達の横を歩いていた『クライン・ラビリンス』のチームリーダーである少年が反応する。

『ラグナロック』。

ーーその言葉をきっかけに、唐突に少年の脳裏に、あの日の光景がフラッシュバックした。






『ついに決着だ!第二回公式トーナメント大会、チーム戦の優勝チームは『ラグナロック』!!』


バトルの決着と同時に、実況のかん高い叫び声が耳に飛び込んできた。唖然とした表情で観戦していた観客達は再び、歓声を響き渡らせる。

だが、少年はそのどれも見聞きしていなかった。

ーー負けた。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームである自分達が、かって二回戦で敗退したチームである、『ラグナロック』に。

「僕達が負けた…‥…‥だと」

震えるような敗北感にまみれた少年の言葉に、チームメイトの少女は出会った時と変わらない無表情で淡々と言った。

「負けた、これ以上ないくらいに」

先んじて言い訳を封殺するとんでもないチームメイトに、少年の背中を嫌な汗が流れていく。

「完敗、惨敗、大敗、どれがいい?」

「ふさげるな!僕はどれも認めない!」

「なら、とりあえず、全部ーー」

憤慨する少年の言葉に対して、淡々と表情一つ変えずに言うチームメイトは、そこでふっと視線をそらした。

無表情に走った、わずかな揺らぎ。

「覆せばいい」

そして、無言の時間をたゆたわせた後で、戦姫の名を冠した少女はゆっくりとそう告げた。






「ーーああ。覆すだけだ」

独り言のようにそう言うと、少年は踵を返し、チームメイト達とともにその場から立ち去っていった。

車椅子を動かし、くるりと半回転してみせると、あかりは春斗達に向き直ってほろりと言った。

「俺、あいつとーー『クライン・ラビリンス』のチームリーダーの阿南(あなん)輝明(てるあき)と布施先輩が対戦しているのを、前に見たことがあるんだよな」

「…‥…‥布施先輩?」

「…‥…‥やばっ」

不思議そうに首を傾げた春斗に、あかりはしまったというように顔を押さえ、困り果てたようにため息をつく。

「あの、みやーーいえ、あかりさん。一つ、お伺いしてもよろしいでしょうか?」

「あっ、その…‥…‥」

優香は言い淀むあかりに向き直ると、厳かな口調で続けた。

「確か、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会の個人戦の決勝で初めて、布施尚之さんと対戦されたのですよね?それなのに、どうして布施尚之さんのことを『布施先輩』って呼んでいるのでしょうか?」

「悪い。…‥…‥実は、布施先輩は俺のチームメイトの兄であり、そして、チームメイト達の学校の先輩でもあるんだ。だから、俺もチームメイト達と同じように『布施先輩』って、呼んでしまっているんだよな」

布施尚之と知り合いなのか、そう続けようとした春斗の目の前で、

「そうなんですね」

優香は淡々と頷いてみせる。

宮迫さんと布施尚之の関係が知りたいーー。

優香の率直な答えに、春斗は再び、熱くなりかけた思いを押さえて長く息を吐く。

「そう言えば、宮迫さんのチームメイトの方に、布施尚之さんと同じ名字の方がいましたね」

「ああ」

吹っ切れたような言葉とともに、あかりはまっすぐに優香を見つめる。

「先程の話の続きなのですが、結局、布施尚之さんと阿南輝明さんの対戦は、どちらが勝ったのですか?」

「布施先輩だな」

「そうなのですか。個人戦の覇者は、伊達ではないですね」

率直に告げられたあかりの言葉に、さらさらとセミロングの黒髪を揺らした優香が顔を俯かせて声を震わせた。

「…‥…‥そうだな」

優香の言葉に思案するように視線を逸らした春斗は、横目で車椅子に乗っているあかりの方を窺い見る。

その視線に気づき、振り返ったあかりは、きょとんとした表情で首を傾げてみせた。

「春斗、どうかしたのか?」

「あっ、いや、何でもない」

あかりの言葉に、ほのかに頬を赤らめた春斗はうつむくと、たまらずそのまま、視線をそらした。

オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームであり、また、第二回公式トーナメント大会のチーム戦、準優勝チームである『クライン・ラビリンス』。

そしてーー、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第二回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チームである『ラグナロック』。

そんな彼らと、俺と優香、そしてーー宮迫さんバージョンのあかりは、どこまで太刀打ちできるのだろうか。

これから始まる、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦の優勝をかけた最強のバトルに心踊らせて、春斗は思わずほくそ笑んでしまう。

チームのために。

そして、なによりーー誰よりも愛しい彼女のために。

春斗は胸に灯った炎を大きく吹き上がらせた。

それでも、どうしても漏れてしまう笑みを我慢しながら、自嘲するでもなく、吹っ切るように春斗はがりがりと頭をかいて、

「まあ、それでも、俺達のチームが優勝するけどな」

と、一息に言った。

あくまでも屈託なく笑ってみせる春斗に、あかりは不思議そうな表情で目を瞬かせてから、強気に微笑んでみせる。

「ああ。この大会も、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第三回公式トーナメント大会のチーム戦も優勝ーー」

「さあ、お待たせしました!ただいまから、Dブロックを開始します!」

何かを告げようとしたあかりの言葉をかき消すように、突如、実況の声が春斗達の耳に響き渡る。

実況のDブロック開幕の言葉に、観客達はヒートアップし、万雷の歓声が巻き起こった。

「春斗さん、あかりさん、まずはDブロックを勝ち越しましょう」

優香の決意のこもった言葉と同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けた。


ーーバトル開始。


対戦開始とともに、先に動いたのは春斗達だった。

春斗のキャラが地面を蹴って、対戦相手達との距離を詰める。

迷いなく突っ込んできた春斗のキャラに、対戦相手は後退する間もなく無防備なまま、一撃を浴びせられた。

春斗のキャラに一撃を浴びせられたことにより一旦、その場を退こうとした対戦相手の出鼻をくじくような形で、あかりは相手の背後を取ると、対戦相手が振り返る間も与えずに続けて斬撃を放ってみせる。

「…‥…‥強い」

開始早々、仲間の対戦相手のキャラの体力ゲージをいともあっさりと削り、容赦なく彼らを追い詰めていく春斗達に、対戦相手の一人は愕然とした表情でつぶやいた。

「ーーっ!」

しかし、その動揺も突如、自分のキャラの目の前に、あかりのキャラが現れたことでピークを迎える。

反射的に彼は自身のキャラの武器で、あかりのさらなる猛攻を迎え撃とうとして、その瞬間、背後に移動したあかりのキャラに受けようとした武器ごと深く刻まれた。

あかりはさらに一振り、二振りと追撃を加えてから後退すると、先程の違和感がある固定キャラの固有スキルであることに気づき、咄嗟に優香のキャラがいる方向へと振り向く。

そこには、優香のキャラが自身の武器であるメイスを構えて立っていた。

優香の固有スキル、テレポーターー。

一瞬で自身、または仲間キャラを移動させる固有スキルだ。

しかし、一般のプレイヤーは移動させられる距離は短く、また、使用した際の隙も大きくなるため、滅多には使わない。

だが、優香は『ラ・ピュセル』に出てくるマスコットキャラ、ラビラビが使う瞬間移動のように、精密度をかなり上げたため、不可能とされた長距離の移動を可能にしていた。

チーム戦は個人戦と違い、複数のチームと同時に戦う可能性が非常に高い。

必然的に一対一の戦いは少なくなり、不慮の一撃というのも増えていく。

しかし、そんな乱戦状態の中でも、春斗達は的確かつ確実に相手を倒していった。

「あれが、次の対戦相手…‥…‥」

そのバトルをぼんやりと傍観していた少女は、こともなげにこう続ける。

「黒峯玄達が気にしているチーム、『ラ・ピュセル』」

『クライン・ラビリンス』のチームメンバーの一人。

戦姫の名を冠した少女は目を細め、うっすらと、本当にわずかに笑ったのだった。

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