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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
エキシビションマッチ戦編
122/126

第百ニ十ニ話 強者の戦域②

「絶対に、俺達が勝ってみせる!」


あかりはそう言うと、すかさず自身の固有スキルを発動させる。

あかりの固有スキル、『オーバー・チャージ』。

自身、または仲間キャラの状態異常を解除する固有スキルだ。


「ここで決める!」

「ーーっ」


それにより、あかりは固有スキルを放った反動である硬直状態を解除すると、固有スキルを使用したことで無防備な夕薙のキャラに正面から一撃を浴びせた。

絶妙な力加減で振り下ろされたあかりのキャラの攻撃を、硬直状態である夕薙のキャラは為す術もなく食らう。

夕薙の固有スキル『戦域の守護者』は、硬直状態の時は使用することができないため、矢は全て地面に落ちていた。

あかりが考えた思惑どおりに事が進み、夕薙のキャラは次第に体力ゲージを減らしていく。


「面白い子ですね」


あかりの強い気概に、夕薙は不思議な感慨を覚える。

あかりと戦うことで、文月に挑んだ時の熱い気持ちが蘇ってくるようだった。

あかりと夕薙のバトルは、熾烈を極める。

既に、あかりのキャラは体力ゲージぎりぎりで、夕薙のキャラも体力ゲージが一割を切っていた。


『ーーアースブレイカー!!』


あかりは起死回生の気合を込めて、夕薙のキャラに必殺の連携技を再び、発動させる。


「いい手ですが、まだまだでしたね」

「ーーっ!」


だが、それは夕薙のキャラの硬直状態が解除された途端、宙に浮き、あかりのキャラに迫ってきた矢の連弾によって相殺された。


『流星光底!!』


あかりのキャラの必殺の連携技の終息に合わせるように、ほのかに淡く輝く無骨な弓が振る舞われる。

致命的な特大ダメージエフェクト。

体力ゲージを散らしたあかりのキャラは、ゆっくりと夕薙のキャラの足元へと倒れ伏す。


『YOU WIN』


システム音声がそう告げるとともに、夕薙の勝利が表示される。

一瞬の静寂の後、認識に追いついた観客達の歓声が一気に爆発した。


「勝ちましたか」

「くっ、負けた!」


夕薙とあかりの二人が、それぞれ同時に別の言葉を発する。


ーー宮迫さんが負けたのか。


そう確認する春斗を嘲笑うように、一瞬の静寂の後、認識に追いついた観客達の歓声が一気に爆発した。


「春斗、輝明。次に繋げることが出来なくてごめんな」


ぽつりとつぶやかれたあかりの言葉は、沈痛な響きを帯びていた。

あかりの悲しげな謝罪に、春斗は両拳を強く握りしめて露骨に眉をひそめる。


勝負の分かれ目の時に敗北したせいで、あかりがーー宮迫さんが苦しんでいるーー。


憧れの人を助けたくて、咄嗟に春斗はこう言った。


「あかり、大丈夫だからな」

「ーー春斗?」

「『エキシビションマッチ戦』は必ず、制覇してみせる。それにあかりは対戦をしていた時、全力でプレイしていた。厄介な固有スキルなんて、ものともせずにな」

「……春斗、ありがとうな」


必死に言い繕う春斗を見て、あかりは嬉しそうに笑った。

あかりは車椅子を動かしながら、観戦席から歩いてきた輝明と視線を合わせる。


「輝明、後は頼むな」

「ああ」


あかりがあくまでも真剣な眼差しで言うと、輝明は真剣な面持ちで手渡されたコントローラーを見つめる。


「あと、よろしく~」

「夕薙くん。もう少し普通に渡してもらえませんか?」


夕薙が投げやりに放り投げたコントローラーを受け取った四季寧亜は、不服そうに剣呑な言葉を返す。


「次は、輝明さんか」


春斗は、どこか昔を懐かしむようにそうつぶやいた。

あの時ーー『エキシビションマッチ』で感じた時のような頼もしさに、春斗は感嘆のため息を吐く。


「う~ん。単純に正面から相対したら、輝明さんに勝てるプレイヤーはいないかも」


ぽつりとつぶやいたりこが、そのプレイヤーの中に、プロゲーマーも入れていることは明らかだった。


「六戦中、ニ勝一分三敗。次、負けたら、俺達の負けか。まあ、輝明なら、この不利な状況を何とかしてしまいそうだな」


当夜の吹っ切れたような言葉に、隣に座っていた花菜は一瞬、表情を緩ませたように見えた。

無表情に走った、わずかな揺らぎ。

そして、無言の時間をたゆたわせた後で、花菜はゆっくりと頷いた。


「輝明が負けるはずがない」


それとなく、視線をそらした花菜は、まるで照れているかのようにうつむいた。


勝つか、負けるか。

勝敗がかかった『エキシビションマッチ戦』の七戦目。


春斗達は、輝明の背中から目が離せなかった。


「では、『エキシビションマッチ戦』の七戦目を開始します!」

「七戦目のバトル!」

「ついに副将戦だな!」


大会の会場で、実況がマイクを片手に叫ぶと、大勢の観客達は歓声を上げる。


「このまま、勝たせてもらいますわ」

「……なら、全てを覆すだけだ」


輝明は苦々しい顔で、寧亜を睥睨して言う。

輝明達がそう言い合ったと同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けた。

ーーバトル開始。


「……っ」


対戦開始とともに、輝明のキャラに一気に距離を詰められた寧亜は後退する間もなく無防備なまま、一撃を浴びせられる。

輝明のキャラは、寧亜のキャラが立て直す前を見計らって一振り、二振りと追撃を入れてから離れた。

しかし、寧亜も負けじと、自身のキャラの武器である大槌(おおづち)を叩き込んだ。

しかし、電光石火の一突きは、輝明のキャラの刀にあっさりと弾かれてしまう。


「この子、厄介ですわね」


寧亜はたまらず、移動系の固有スキルを使用して、大きく距離を取る。

寧亜の固有スキル、『ワープ・リンク』。

一瞬で自身、または仲間キャラを移動させる固有スキルだ。

優香の固有スキルと似た部類のものだが、移動させられる距離は『テレポーター』より短く、また、何度でも使用することができる。

使い勝手は、硬直状態でも使用することが可能で、何度でも使用できる『ワープ・リンク』の方が高いだろう。

しかし、優香の『テレポーター』は、『ラ・ピュセル』に出てくるマスコットキャラ、ラビラビが使う瞬間移動のように、精密度をかなり上げたため、不可能とされた長距離の移動を可能にしていた。


「ならーー」

「見るのはそちらか?」

「……っ!」


言葉とともに、輝明のキャラの連携技が間隙を穿つ。

瞬間の隙を突いた輝明の連携技に、ターゲットとなった寧亜のキャラはダメージエフェクトを散らしながらも、ここぞとばかりに必殺の連携技を発動させる。


『ーープリズムホール!!』

「ーーっ!」


寧亜が、ここぞという時に放った土壇場での必殺の連携技。

それを、輝明はわずかにダメージを受けながらも正面から弾き、避け、そして相殺して凌ぎきった。


「なっーー」


寧亜が驚きを口にしようとした瞬間、輝明は超反応で硬直状態に入った寧亜のキャラに乾坤一擲のカウンター技を放とうとした。


「ーーっ!」

「今ですわ!」


だが、その前に、寧亜は固有スキルを用いて瞬間移動する。

硬直状態でも使用できる『ワープ・リンク』の持ち味を生かす。

しかし、固有スキルを使ってまで逃げに徹した寧亜のキャラを、硬直状態が解除されても輝明は追ってこなかった。


「すごいな……」


その冷静さに、春斗は驚愕の眼差しを送る。


「負けられませんわ!」


答えを求めるように、寧亜のキャラが一瞬で間合いを詰めて、輝明のキャラへと大槌を叩きつける。

迷いのない一閃とともに、寧亜のキャラの強烈な一撃を受けて、輝明のキャラはわずかにたたらを踏んだ。

しかし、輝明のキャラはすぐに立ち直ると、追撃とばかりに斬撃を繰り出してくる。


「まだですわ!」


それらを弾き凌ぎ、体力ゲージが危険域に達しながらも、寧亜は表向き、焦りを見せつつ、虎視眈々と一発逆転の機会を窺っていた。


『ーープリズムホール!!』

「ーーっ!」


寧亜は起死回生を込めて、固有スキルを用いて輝明のキャラの背後に回り込む。

寧亜は即座にコントローラーを操作して、輝明のキャラに必殺の連携技を浴びせた。

予測不能な瞬間移動による不意討ちは、輝明のキャラの体力ゲージをごっそりと奪う。

輝明は視線を落とすと、自身のキャラに小さな音を響かせて刀を下段に構えさせる。


「四季寧亜。僕にここまでダメージを与えたこと、今すぐ後悔させてやる」

「ーーっ」


静かな言葉に込められた有無を言わせぬ強い意思。

輝明の凛とした声に、春斗は思わず、目を見開く。


「これは……」

「これってーー」

「おっ、輝明、やる気満々だな」


緊張した面持ちでモニター画面を見つめるあかりと優香をよそに、当夜は余裕の表情をみせる。

だが、それも、輝明のキャラの固有スキルーー『真なる力の解放』によって放された、もう一つの必殺の連携技を見るまでだった。


「ーー『始祖・魔炎斬刃』!!」


その声は、否応なく、春斗達の全身を総毛立たせる。

次の瞬間、何が起こったのか、対戦していた寧亜にも分からなかった。

ほんの一瞬前まで、輝明のキャラと対峙していた寧亜のキャラは、次の瞬間、見えない刃によって切り刻まれ、叩きつけられ、焼きつくされた後、そのまま、数メートル先まで吹き飛ばされていた。

その必殺の連携技ーーそれだけで、残っていた寧亜のキャラの体力ゲージすべてを根こそぎ刈り取られていた。


驚愕する暇もない、一瞬とも呼べない、ごくごく短い時間。

常識ではあり得ない現象。

不条理そのものの現象は、けれど、『最強のチーム』のリーダーである、目の前の少年には、これ以上なくふさわしい。


荒廃した未来都市のバトルフィールドに立っているのは、一人の剣豪のような風貌の男性。

白と青を基調にした軽装の鎧のような衣装を身に纏ったーー輝明のキャラが、伸ばした右手に刀を翻らせ、この上ない闘志をみなぎらせている。

輝明の固有スキル、真なる力の解放。

それは、固有スキルを使用することで一度だけ、別の必殺の連携技を使うことができる固有スキルだった。


「ーーなっ」

「言ったはずだ。全てを覆すと」


何かを告げようとした寧亜の言葉をかき消すように、輝明はこの上なく、不敵な笑みを浮かべた。


『YOU WIN』


システム音声がそう告げるとともに、輝明の勝利が表示される。


「輝明のもう一つの必殺の連携技、何度見てもすごいな!」

「輝明さんって、やっぱり激強だよね!」


興奮さめやらないカケルとりこがそう告げると、一瞬の静寂の後、認識に追いついた観客達の歓声が一気に爆発した。

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