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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
エキシビションマッチ戦編
121/126

第百ニ十一話 強者の戦域①

引き分けーー。


春斗は噛みしめるようにつぶやくと、胸の奥の火が急速に消えていくような気がした。

同時にフル回転していた思考がゆるみ、強ばっていた全身から力がぬけていく。

まさに、熱くなった身体に冷や水をかけられた気分だった。

五戦中、ニ勝一分ニ敗。

春斗達、『ラ・ピュセル』と輝明達、『クライン・ラビリンス』が組んで挑んだ、プロゲーマー達とのバトル。

『エキシビションマッチ戦』のチーム戦を舞台にしたその勝敗は、春斗の予想を越えた結果に決した。


やっぱり、プロゲーマーの人達は強い。

だけど、俺達は、そんな人達と互角に渡り合っている。

でも、『エキシビションマッチ戦』を制覇するためには、俺と宮迫さん、そして輝明さんの三人のうち、あと二勝する必要があるのかーー。


「あかりさん、すみません。後はお願いします」

「ああ」


優香があくまでも真剣な眼差しで言うと、あかりは手渡されたコントローラーを握りしめる。


「夕薙さん、後はお願い致します」

「……そう言えば、次は俺の番でしたね」


のどかの言葉に、コントローラーを持った神無月夕薙は少し考え込むようにして頷いた。

そこで花菜は小首を傾げると、ふっとあかりに視線を向けた。


「あかり、神無月夕薙は要注意人物だから、気をつけて」

「ああ。花菜、ありがとうな」


不意に話を振られたあかりは、きっぱりとそう告げる。


「神無月夕薙は、プロゲーマーになってから間もないが、由良文月に次ぐ実力者と言われている」

「由良文月さんに次ぐ実力者……?」


静かな言葉に込められた有無を言わせぬ強い意思。

輝明の凛とした声に、春斗はたじろぎながらも疑問を投げかけた。


「『エキシビションマッチ戦』で対戦することになる八人のプロゲーマー達は、どのプロゲーマーも侮れない実力の持ち主だ」


あかりと夕薙。

輝明はこれから戦うことになる二人を垣間見ながら、鋭く目を細める。


「神無月夕薙か」


当夜の何気ない言葉を聞いて、花菜の表情に明確な硬さがよぎった。


「……由良文月と同様に、倒すべき相手」

「倒すべき相手?」


思いもよらない花菜の言葉に、春斗は不思議そうに首を傾げる。


「姉さんは、前回の『エキシビションマッチ戦』で初対戦した時にしてやられたんだよな」

「厄介。由良文月と同じように、こちらを翻弄してきた相手」


当夜のつぶやきを、花菜が耳聡く拾い上げた。


「翻弄ーー地形変化による固有スキルを使用してきただろう」

「同じことだから」


当夜の指摘に、花菜は心底不満そうに言う。


「地形効果を変動させる固有スキルか……」

「厄介な固有スキルみたいですね」


率直に告げられた春斗の言葉に、さらさらとセミロングの黒髪を揺らした優香が顔を俯かせて声を震わせる。


「では、『エキシビションマッチ戦』の六戦目を開始します!」


実況を甲高い声を背景に、あかりと夕薙は前を見据えた。

実況の六戦目開幕の言葉に、観客達はヒートアップし、万雷の歓声が巻き起こった。


「あかり、頼むな」

「あかりさん、お願いします」

「ああ」


春斗達の声援と同時に、キャラのスタートアップの硬直が解ける。


ーーバトル開始。


対戦開始とともに、先に動いたのはあかりだった。

あかりのキャラが接近してきた瞬間、夕薙のキャラはあえて下がらず、前に出る。

夕薙のキャラは自身の武器である弓を構えると、即座に三本の矢を放つ。


「ーーっ!」


弓から放たれた矢を、上体をそらすことでかわしたあかりのキャラは、予想外の出来事を目の当たりにして剣による反撃の手を止めた。

夕薙のキャラが放った矢が、まるであかりのキャラを追尾するように進路を変更したのだ。


「くっ!」


完全に虚を突かれたあかりは、その鋭い矢が自身のキャラに突き立つ前に、剣で弾き返したことで直撃を免れる。

その衝撃により、夕薙のキャラが放った矢はようやく地面に突き刺さった。


「もう少し増やした方が上手くいきますかね」


夕薙の声と同時に、五本の矢があかりのキャラに迫ってくる。


「ーーっ!」


あかりのキャラが向かってきた矢を全て避けると、今度は追尾せずに、そのまま地面へと突き刺さった。


「増やす?」

「ようこそ、僕の戦域へ」


あかりの問いかけに、夕薙はあかりのキャラによる緊密な連携を避けながら即答する。


「なっ!」


不意に地面に突き刺さった矢が怪しい光を帯びた気がして、あかりのキャラは反射的に大きくその場を離れる。

それは、あまりに普段から逸脱した大袈裟な避け方だった。

しかし、あかりの判断は、結果的に正しかったことがすぐに証明される。

矢は次々と被爆し、とてつもない衝撃が周囲一帯を襲った。


「くっ!」


爆発による衝撃波が、後退したはずのあかりのキャラをも吹き飛ばす。

あかりのキャラは、少なくないダメージエフェクトを放出していた。

恐らく、あのまま、あの場所にいたら、もっと体力ゲージを削られていただろう。


「……強いな」


直前の動揺を残らず消し飛ばして、あかりがつぶやく。


「どうも」


夕薙が即座に放った矢は、あかりのキャラを包囲するように位置取った。

まるで意識を持っているような立ち回り。

次々と増え続ける矢の包囲網。

夕薙の固有スキル、『戦域の守護者』。

それは矢を自由自在に操り、停止した矢を被爆させることができる固有スキルだ。

自身のキャラはダメージを受けず、回数制限以内ならいつでも使用することができるため、かなり厄介な固有スキルの部類に入る。

しかし、夕薙の固有スキル、『戦域の守護者』は、武器の予測不能な動きに対応しなくてはならないため、コントロールが非常に難しい。

その行動パターンを把握し、使用者の思惑どおりに動かすためには、相当の習練が必要になる。


この規格外な地形効果を変動させる固有スキルを使えるのは、僕の知る限り、あとは布施尚之くんだけでしょうか……。

ーーいや、由良さんがいましたね。


文月と初めて対戦した時を振り返る度に、夕薙は言い知れない感情が蘇る。

夕薙は怯まず、怯えず、正面から真正面に挑み、そのとてつもない強さに完膚なきまでに敗北してーー心から感激した。

二刀流の白銀の鎧に身を包んだ女性を操作しながら、卓越された動きと神業に近いそのテクニック。

完敗してなお、尊敬の念を抱かせる超然とした佇まい。

ゲームの世界にしろ、何にしろ、常軌を逸した超越的存在というものが確かに存在するのだと、夕薙は思った。


「逃げ場はないな」


予想をはるかに越えて築かれる矢の包囲網を見据えながら、あかりはふっと息を抜くような笑みを浮かべる。


このまま戦っても埒が明かないな。

優希からもらったパンフレット、そして、輝明達の話で、この固有スキルについて知っていたけれど、想像していた以上に厄介だ。

この固有スキルに打ち勝つには、あの方法しかないか。

ならーー。


「試してみるか」


言葉とともに、あかりのキャラは剣を手に地面を蹴った。

矢の猛攻を受けながらも、夕薙のキャラのもとへと一気に接近する。


「ーーっ!」


受けの姿勢を取った夕薙のキャラを見据え、互いの間合いに入る直前であかりのキャラは立ち止まる。

そして、牽制するように連携技を地面に放った。


「ん?」


あかりのキャラの連携技が放たれると同時に、夕薙のキャラの動揺がはっきりと感じ取れた。


連携技の空打ちーー。


それも地面に向かって放つという明らかなミス。

それが『エキシビションマッチ戦』で起きるという不可解な事態に、夕薙は目を丸くした。

そして、それゆえに、そこに埋めようもない隙ができる。


『ーーアースブレイカー!!』


言葉とともに、あかりが間隙を穿つ。

瞬間の隙を突いたあかりのキャラの必殺の連携技に、ターゲットとなった夕薙のキャラもまた、まっすぐに攻撃を繰り出した。


『流星光底!!』


あかりのキャラの必殺の連携技に合わせるように、ほのかに淡く輝く無骨な弓が振る舞われる。

連携技の大技と連携技の大技。

あかりと夕薙の必殺の連携技が同時に放たれる。

剣と弓。

刀身の長い剣を持つあかりのキャラが優位に傾くと思われたそれは、あかりのキャラに迫ってきていた矢の連弾によって拮抗した。


「ーーくっ」

「……っ」


それぞれ、体力ゲージを減らしたあかりと夕薙のキャラは、その場から大きく吹き飛ばされたのだった。

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