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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
エキシビションマッチ戦編
120/126

第百ニ十話 奇術師と独善者の戦い④

ーーバトル開始。


ぴりっとした緊張感とともに、バトルが開始される。


「たあっ!」

「ーーっ」


のどかのキャラは対戦開始と同時に、優香のキャラめがけて直上から連携技を放った。

裂帛の気合いを込めたのどかのキャラの連携技は、咄嗟に防ごうとした優香のキャラの防御を打ち破る。

ダメージエフェクトを散らした優香のキャラに対して、のどかはさらに必殺の連携技へと繋げた。


『飛天斬り!』

「ーーっ!」


一瞬のうちに静から動へ。

優香のキャラの目の前で、のどかのキャラは踊った。

優香のキャラが後退した分だけきっちりと踏み込んできた、後ろ溜めからの斬り上げ。

追撃とばかりの二度目の斬り上げに繋ぐ、容赦ない突きの連撃を受けて、優香のキャラは数メートル後方に吹き飛ばされる。

大きく吹き飛ばされた優香のキャラの体力ゲージは、一気に半分を切っていた。


「まだです!」


硬直状態に入ったのどかのキャラに対して、優香のキャラはここぞとばかりにメイスを振りかざして、必殺の連携技を発動させる。


『ーーメイス・フレイム!!』

「ーー!」


音もなく放たれた一閃が、のどかの操作するキャラを切り裂いた。

互いに特大ダメージエフェクト。

だが、優香の必殺の連携技による反撃は、優香のキャラと同様に、体力ゲージの半分のところまでで何とか凌ぎきられてしまう。


「……あっ」


次の瞬間、優香は息をのんだ。

硬直状態が解除されたのどかのキャラは、そこから一歩踏み込むと、硬直状態に入った優香のキャラに向かって高速の突きを放った。

優香は何も出来ないまま、自身のキャラが斬りつけられるのを目の当たりにする。

何の障害もないように大剣に斬りつけられ、体力ゲージを減らした優香のキャラは、硬直状態が解除された後、反射的にメイスで反撃しようとして、その出先を大剣の柄に押さえられた。

たまらず、バッグステップで距離を取ると、優香のキャラが後退した分だけきっちり踏み込んだ下段斬り上げを見舞わされる。

斬りつけられた優香のキャラは、少なくないダメージエフェクトを放出していた。


「……強いですね」


直前の動揺を残らず消し飛ばして、優香がつぶやく。


「でも、負けられません!」

「それは、私達も同じだから!」


一瞬のアイコンタクトの後、優香とのどかは同時にコントローラーを操作した。

ステージの真ん中でぶっかり合った二人のキャラは、一合二合と斬り結ぶ。

あっという間に離れた二人は、息もつかせぬ攻防を再び、展開する。


「……『エキシビションマッチ戦』にも、いないみたい」


お互いの隠しようもない余裕のなさを尻目に、観客席で姉のバトルを見守っていた少女ーー倉持ほのかは、ふっと寂しそうに笑うと一人、遠くへと視線を向けた。

ほのかが、ゲームをやっているのには理由があった。

優香達のバトルを見て、つい思い出してしまう。

このゲーム、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』を始めたきっかけを。

ーーオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』が発売された日、ほのかのクラスメイトの一人が失踪した。


上岡進くん。

いつしか、捜査の手も行き詰まってしまった、同じクラスメイトだった、太陽のように輝いていた男の子。

上岡くんと話していると、どこか不思議な感じがして、何だか落ち着かないのに、一緒にいて心地よい気がした。


ーー誰かを好きになるのは、ほんの些細なことでごくありふれた感情なのだと思う。


あの頃を振り返る度に、ほのかはそう感じている。

あれが恐らく、ほのかにとっての初恋だったのだろう。


どうすれば、上岡くんの心を留めておけるのかーー。


進が行方不明になったと聞かされた後、ほのかが考えて思いついたのは、至って平凡極まりないものだった。


『ゲームを覚えたら、上岡くんとまた、会えるかもしれない』


既にプロゲーマーとして活躍していたのどかの手ほどきを受けながら、ほのかは自身のチームを結成し、やがて、進によく似た雰囲気を持つ琴音に巡り合った。


「上岡くんと宮迫さん、今頃、どうしているのかな?」


ほのかは記憶を辿るように、巨大モニターへと視線を巡らせる。

同時に最愛の人との想い出を、ほのかは脳裏に思い描いていく。

それは、高校の入学式の時に、クラスのみんなで一緒に写真を撮った時の出来事。


『よし、みんなで写真、撮ろうぜ』

『いいな!』


クラスのみんなに誘われて、進は集合写真を撮るためにみんなのもとに駆け寄る。

進が明るい顔でピースサインを形作ると、周りのみんなも進の肩に手をかけ、 晴れやかな表情を浮かべていた。


『何だか、すごい男の子だな』


談笑する生徒達で溢れ返っている進の近くで、ほのかは声をかけるのを躊躇い、恥ずかしそうに顔を赤らめる。


それから、少し日が経ってーー。

高校に入学して間もない頃、初めてスイーツショップに誘ったのは上岡くんだった。


『いろいろな種類のケーキを買うんだな』


様々な種類のケーキが並んでいるショーケースを眺めながら、進が疑問を抱いた。


『うん。私、ケーキ、大好きだもの』

『倉持らしいな』


ほのかが自身のケーキ好きをアピールすると、進はことさらもなく苦笑する。


『上岡くんはケーキ、好き?』

『うーん、普通だな』


進の何気ない答えに、ほのかは少しむくれ面で続けた。


『じゃあ、今日から上岡くんもケーキが好きになりますように』

『はあ~、倉持のケーキ好きは半端じゃないよな』


眉根を寄せて真剣な調子で祈るほのかに、進は呆気に取られたようにため息を吐く。

進との思い出は、どれを思い出しても、すべて鮮明に思い出すことができる。

それを証明するかのように、ほのかは楽しくてたまらないとばかりに、きゅっと目を細めて頬に手を当てた。そして、笑顔を咲き誇らせる。


「……また、公式の大会に出て探してみようかな」


ふっと息を抜くように笑うと、ほのかは一人、遠くへと視線を向ける。


もしかしたら、上岡くんと宮迫さんが、どこかの大会に出場しているかもしれない。


そんな淡い期待を込めて、ほのかは今も何気なく、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』をしている。

だけど、本当はただ、夢中になっているだけかもしれない。


上岡くんと宮迫さん。

二人と接点が持てる、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』にーー。


ほのかの切ない想いとは裏腹に、優香達のバトルは苛烈さを増していた。


「ここはーー」


言葉と同時に、優香のキャラはのどかのキャラに背を向け、別の場所へと走り出しそうとする。


「逃がさーー」

「いえ、逃げるつもりはありません!」

「えっ?」


それは、のどかにとって、予想外な優香の言葉だった。

優香のキャラを捉え、弾き飛ばそうとしたのどかのキャラの出鼻をくじくように、優香のキャラはその場から姿を消した。

優香のキャラが固有スキルを使って背後に回り込んだことで、のどかのキャラの一撃は空を切る。

優香の固有スキル、テレポーターー。

一瞬で自身、または仲間キャラを移動させる固有スキルだ。

しかし、一般のプレイヤーは移動させられる距離は短く、また、使用した際の隙も大きくなるため、滅多には使わない。

だが、優香は『ラ・ピュセル』に出てくるマスコットキャラ、ラビラビが使う瞬間移動のように、精密度をかなり上げたため、不可能とされた長距離の移動を可能にしていた。


『ーーメイス・フレイム!!』


不意を突いた優香のキャラは、ここぞとばかりにメイスを振りかざして、必殺の連携技を発動させる。


「瞬間移動ーーそれなら!」

「ーーっ」


意表をついた優香のキャラによる、のどかのキャラへの時間差攻撃。

だが、のどかは優香のキャラの必殺の連携技が自身のキャラに放たれる前に、優香のキャラに対して下段からの高速斬撃を繰り出した。

それぞれ、体力ゲージを散らした優香とのどかのキャラは、ゆっくりとその場に倒れ伏す。


『YOU DRAW』


システム音声がそう告げるとともに、引き分けによる判定結果待ちが表示される。


「ーーっ」


想定外の展開に、観客達は残らず静まりかえる。

次いでリザルト画面に移行し、優香とのどかのキャラ、双方の体力ゲージのどちらが早く削り取られたのかをシステムが調べ始めた。

そして、判定の結果、同時にダメージを受けたと判断されて、優香とのどかの引き分けが宣告させる。


「つ、ついに決着だ!なんと、今回は引き分けという予想外な結果だ!!」


興奮さめやらない実況がそう告げると、一瞬の静寂の後、認識に追いついた観客達の歓声が一気に爆発したのだった。

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