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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
エキシビションマッチ戦編
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第百十四話 消えないで、闘志②

「さあ、これより、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第四回公式トーナメント大会、チーム戦を勝ち上がってきたダブル優勝チームによる『エキシビションマッチ戦』を開始するぞ!」


実況を甲高い声を背景に、輝明達と合流した春斗達は前を見据えた。

実況による『エキシビションマッチ戦』開幕の言葉に、観客達はヒートアップし、万雷の歓声が巻き起こった。


「ついに『エキシビションマッチ戦』だな」

「はい。私達は輝明さん達とともに、由良文月さん達、プロゲーマーと対戦することになります」


『エキシビションマッチ戦』のステージに立つと、問いかけるような声でそう言った春斗に、優香は軽く頷いてみせる。

ーーその時だった。


「う、う~ん」


立派な寝癖がついた髪をかき上げながら、車椅子を動かしていたあかりが一つあくびをする。


「お兄ちゃん、優香さん、りこさん。そろそろ、宮迫さんにーーもう一人の私に変わるみたい…‥…‥」

「そうか」

「そうですか」

「そうなんだね」


隣に立っている春斗達にそう答えると、あかりは一度、人目のない場所に移動するために車椅子を動かし、くるりと半回転してみせた。だがすぐに、うーん、と眠たそうに目をこすり始めてしまう。

眠気を振り払うようにふるふると首を振ったものの効果はなかったらしく、結局、あかりは車椅子にぽすんと寄りかかって目を閉じてしまった。

そのうち、先程より少し大人びた表情をさらしたあかりが、すやすやと寝息を立て始める。

その様子を見て、春斗はほっと安心したように優しげに目を細めてあかりを見遣る。


「あかり……」

「ーーっ」


横向きに寄りかかっているため、車椅子から落ちそうになっているあかりの華奢な体を、春斗はそっと元の姿勢に戻そうとした。

だが、春斗はあかりを元の姿勢に戻すことはできなかった。

その前に、不意に目を覚ましたあかりがあわてふためいたように両手を左右の肘かけに伸ばして、車椅子から落ちそうになるのを自ら、食い止めたからだ。


「あかり、大丈夫か?」

「……春斗」


春斗に声をかけられたことにより、あかりはーー琴音はあかりに憑依したことを察したようだった。

あかりはきょろきょろと周囲を見渡し、自分の置かれている状況に気づくと、呆然とした表情で目を丸くした。


「今から、大会なんだな」


驚きの表情を浮かべるあかりの様子に、春斗は額に手を当ててため息をつくと朗らかにこう言った。


「ああ。今から、『エキシビションマッチ戦』のチーム戦が始まるんだ」

「そうなんだな」


春斗がざっくりと付け加えるように言うと、あかりはきょとんとした顔で目を瞬かせる。

そのタイミングで、りこが両拳を前に出して話に飛びついた。


「もう一人のあかりさん、頑張ろうね!」

「普通に、あかりでいいんだけどな」


りこがぱあっと顔を輝かせるのを見て、あかりは思わず苦笑してしまう。

あかりはドームのモニター画面に表示されている『エキシビションマッチ戦』の先鋒から大将までの組み合わせ表を見ると、不思議そうに小首を傾げた。


「プロゲーマー全員を制覇するのは厳しいだろうな。そういえば、四対四の引き分けだった場合はどうなるんだ?」

「その場合は、大将戦の勝敗で決まるみたいです」


戦局を見据えたあかりの疑問に、優香は厳かな口調で答える。


「大将戦の勝敗で決まるのか。責任重大だな」


大将戦の重要性を感じて、春斗は引き締めるようにまっすぐに前を見据えた。

『エキシビションマッチ戦』の舞台で戦うプロゲーマー。

そのうちの一人の姿を見た瞬間、春斗は息を呑んだ。


由良文月さんかーー。

以前の『エキシビションマッチ戦』で、『ラグナロック』のチームリーダーである玄と、『クライン・ラビリンス』のチームリーダーである輝明さんを倒したことがある、プロゲーマーの中でもトップクラスの実力者。

俺とは、かなり実力に差があったな。


不合理と不調和に苛まれた混乱の極致の中で、まじまじと決勝戦のステージを見つめていた春斗をよそに、優香は巨大モニター画面に映し出されている、これから戦うことになるプロゲーマー達の経歴と映像を的確に確認しながら言う。


「今回、対戦することになるプロゲーマー達の中で、『境井孝治』さん、『神無月夕薙』さん、『由良文月』さんが要注意だと思います」

「そうだな」


困ったようにそう答えたあかりに対して、あかりの隣で決勝戦のステージを見つめていた春斗は胸のつかえが取れたようにとつとつと語る。


「優希くんがくれたパンフレットに書かれていた内容では、この三人がプロゲーマー達のチームの要なんだよな。プロゲーマーのチームは、八人で編成されている。先鋒は恐らく、今回も境井孝治さんだろうな」

「そうですね。境井孝治さんは可もなく、不可もなく、確実に勝利していくプロゲーマーだと思います」


問いかけるような声でそう言った春斗に、優香は軽く頷いてみせる。


「 みやーーいや、あかり、優香、今生。『エキシビションマッチ戦』、絶対に制覇しような」

「ああ。絶対に、俺達が勝ってみせる」

「はい、勝ちましょう」

「りこ、頑張るね」


春斗の強い気概に、あかりと優香とりこが嬉しそうに笑ってみせる。

そんな中、輝明達はドームのモニター画面に表示されている『エキシビションマッチ戦』の先鋒から大将までの組み合わせ表を見つめていた。


高野当夜vs

境井孝治


三崎カケルvs

千歳(ちとせ)涼海(すずか)


今生りこvs

水谷(みずたに)(りょう)


高野花菜vs

霜月(しもづき)(あらた)


天羽優香vs

倉持(くらもち)のどか


雅山あかりvs

神無月夕薙


阿南輝明vs

四季(しき)寧亜(ねあ)


雅山春斗vs

由良文月


『エキシビションマッチ戦』の舞台で戦うプロゲーマー。

そのうちのニ人の名前を見た瞬間、春斗達は息を呑んだ。


「霜月新さんって、霜月さんのお父さんの名前だったよな!」

「倉持のどかさんは確か、倉持のお姉さんの名前だな」

「では、霜月さんと倉持さんも、今回の『エキシビションマッチ戦』を見に来られているかもしれませんね」


春斗とあかりの驚愕に応えるように、優香は穏やかな表情で胸を撫で下ろした。


「みんな、手強そうだな」

「うん。実際、みんな、手強い」


カケルが念を押すように言うと、花菜は真剣な表情でしっかりと頷いてみせる。

そのタイミングで、先鋒戦のシミュレーションをしていた当夜は戯れに聞いてみた。


「なあ、輝明。俺を先鋒にしたのは、境井孝治が相手だからか。それとも、俺の固有スキルを存分に使える相手だったからか?」

「どちらもだ」


予測できていた輝明の答えには気を払わず、当夜は本命の問いを口にする。


「俺は一度、境井孝治に負けたのに、先鋒に選んでくれたんだな。輝明、本当にありがとうな」

「ああ」


当夜が感極まった表情で告げると、輝明は深々とため息をついて答える。


打倒、境井孝治ーー。


俄然やる気を出した当夜の思考を読み取ったように、花菜は静かに続けた。


「当夜、負けたら許さない」

「分かっているって。次に戦う時は、境井孝治に余計な真似はさせない。今度こそ、徹底的に叩き潰す」

「うん。プロゲーマー達は倒すべき相手だから」


察しろと言わんばかりの眼差しを突き刺してきた当夜に、花菜は真剣な表情でこくりと頷く。

そこで、花菜は小首を傾げると、ふっとあかりに視線を向けた。


「あかり、神無月夕薙は要注意人物だから、気をつけて」

「ああ。花菜、ありがとうな」


不意に話を振られたあかりは、きっぱりとそう告げる。


「春斗、由良文月の相手はおまえに任せる」

「は、はい」


静かな言葉に込められた有無を言わせぬ強い意思。

輝明の凛とした声に、春斗はたじろぎながらも頷いた。


「そしてーー」


プロゲーマー達を見据える輝明の真剣な表情が、一瞬でみなぎる闘志に変わる。


「今度は、『エキシビションマッチ戦』を制覇してみせる!」

「はい!」


輝明の決意に応えるように、春斗は両拳を強く握りしめる。


境井孝治さん。

神無月夕薙さん。

そして、あの玄と輝明さんに勝った由良文月さんか。

そんな彼らに、俺達はどこまで太刀打ちできるのだろうか。


これから始まる、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の『エキシビションマッチ戦』のチーム戦で行われる最強をかけた究極のバトルに心踊らせて、春斗は思わずほくそ笑んでしまう。


「よし、『エキシビションマッチ戦』、絶対に制覇しような」

「りこ、絶対に勝つからねー!」


春斗がそう言い切ると、りこは当然というばかりにきっぱりと答える。

彼女らしい反応に、春斗はふっと息を抜くような笑みを浮かべたのだった。

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