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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
エキシビションマッチ戦編
112/126

第百十ニ話 いつか全てが笑顔に変わるように

『エキシビションマッチ戦』当日、あかりは大会会場の前でノートをめくっていた。

そのノートは不思議なノート。

誰かとやり取りをしているわけではないのに、交換ノートとして成り立つ不思議なノートだ。

記憶を辿るように、あかりは楽しげに思い出をめくり続ける。


『宮迫さん。お兄ちゃん達から事情を聞きました。宮迫さんと麻白が同一人物なんて、すごくびっくりしました。でも、宮迫さんがもう一人の私で、麻白は私の大切な友達なのは変わりません。宮迫さん、これからもよろしくお願いします』


『あかり、ありがとうな』


あかりのメッセージの後に書かれていた、琴音からの返事は拍子抜けするくらい、あっさりとした内容だった。

そして、その字はいつもの見慣れた春斗や優香、父親の字ではなく、男子が書いたような少し雑な字だ。

だけど、ところどころノートはふやけており、涙の跡が見てとれる。


これを書くのに、琴音はーー進はどれだけ勇気を振り絞ってくれたのだろうか。


その文章を見て、あかりはくすりと笑みをこぼした。


『こんにちは、宮迫さん。お返事、ありがとう。麻白のお父さんが、宮迫さん達のことを認めてくれることを願っています。麻白と話したい時も、宮迫さんに伝えたら伝わるんだね。何だか、不思議な感じなの』


『そうだな。俺も、不思議な感じがする。あかり、これからもよろしくな』


そこまで読み終えると、あかりは空を仰ぎながら、こっそりとため息をつく。

まるで、違う相手と交換ノートのやり取りをしているような内容。

だけど、どちらも自分自身だ。


「私は、瀬生綾花さん、宮迫さん、そして麻白と心が繋がっているんだね。四人分生きているのって、みんなで一緒に生きているということになるのかな」


それを証明するかのように、あかりは楽しくてたまらないとばかりに、きゅっと目を細めて頬に手を当てた。そして、笑顔を咲き誇らせる。


その幸せでかけがえのない日々は、これからも紡がれていくことになるのだろう。

春斗達とーー琴音達と一緒に。

これからも、宮迫さんと一緒にいたい。


あかりは切にそう願った。


「あかり、そろそろ大会会場に行くか」

「あかりさん、行きましょう」

「うん」


宮迫さん、これからも一緒に歩いていこうねーー。


春斗達に車椅子を押されながら、あかりは誓いを告げるように想いを馳せたのだった。






「お兄ちゃん、優香さん、すごい人だね」


春斗達に車椅子を押されて、会場内に入ったあかりは、感慨深げに周りを見渡しながらつぶやいた。

『エキシビションマッチ戦』当日、春斗達は新幹線とバスを乗り継いで、大会会場であるドームを訪れていた。


『エキシビションマッチ戦』。


それは、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の公式トーナメント大会の個人戦の優勝者、準優勝者、チーム戦の優勝チーム、準優勝チームが挑戦できる大会だ。

『エキシビションマッチ戦』のルールは、公式トーナメント大会の時とさほど変わらない。

個人戦、チーム戦と分かれており、個人戦の優勝者、準優勝者は『エキシビションマッチ戦』の個人戦への挑戦、チーム戦の優勝チーム、準優勝チームは『エキシビションマッチ戦』のチーム戦へと挑戦することになる。

そして、明示されているレギュレーションも一本先取で、最後まで残っていた者が勝利することも同じだった。

だが、『エキシビションマッチ戦』は、通常の公式トーナメント大会とは違う決定的な対戦方式がある。

それはチーム戦でも、一対一で戦う団体戦の方式を取り入れていることだ。


先鋒から始まり、大将戦までの団体戦。


プロゲーマー達全員を倒せば、そのチームが勝利し、『エキシビションマッチ戦』を制覇することができる。

たとえ負けても、八人のプロゲーマー達のうち、最低でも四人以上を倒せば、そのチームが勝利することができた。

だが、四人以上負ければ、『エキシビションマッチ戦』への挑戦はそこで完全に終わることになる。

『エキシビションマッチ戦』の観戦には、チケットの購入が必須なので、観客は少ないのではないかと春斗は思っていた。

しかし、『チェイン・リンケージ』のプレイヤーはもとより、大ヒットゲームのプロゲーマー達の生のバトルが見れるということで、全国各地から集まった観客と取材陣の数も半端なかった。


「本当、すごい人だな」


あかりの言葉に、春斗は頷き、こともなげに言う。

そんな彼らのあちらこちらから、他の観客達の声がひっきりなしに飛び込んでくる。

その時、不意に、りこの声が聞こえた。


「優香、春斗くん、あかりさん!」

「今生」

「りこさん、こんにちは」

「りこさん」


大会の会場ステージで、ゲーム関係の取材を受けながら、りこは春斗達を視界に収めて歓喜の声を上げた。

マイクを持ちながら楽しげに軽く敬礼するような仕草を見せたりこに、春斗とあかりと優香はひそかに口元を緩める。

春斗は名誉チームのリーダーであるりこの取材で盛り上がっている周囲の様子を見渡すと、ずっと思考していた疑問をストレートに言葉に乗せた。


「もしかして、輝明さん達も、今生と同じように取材を受けているのか?」

「そうそう。輝明さん達は、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回公式トーナメント大会の時から『エキシビションマッチ戦』に参加しているから大注目されているんだよ」

「そうなんだな」


おどけた仕草で肩をすくめてみせたりこに、春斗は困ったように眉をひそめてみせる。

すると、りこは決まり悪そうに意識して表情を険しくした。


「春斗くん達も、黒峯玄さん達、『ラグナロック』に勝利してなおかつ、輝明さん達、『クライン・ラビリンス』と一緒にダブル優勝したから、すごく注目されているんだからね」

「そ、そうなんだな」


意外な事実に意表を突かれて、春斗は思わず言葉を詰まらせる。

そんな中、春斗の背後から殊更、深刻そうな声が聞こえてきた。


「はあ~、やっと終わったな」

「『エキシビションマッチ戦』のインタビューは、輝明と花菜がメインで、俺達はほとんど見ているだけだったな」

「俺達へのインタビューは、『エキシビションマッチ戦』の意気込みだけー。何でだろうな。輝明と姉さんは大人気なのに、同じチームである俺達には何の音沙汰もないなんて、絶対におかしいよな」


自信に満ち溢れて断言する当夜の姿に、カケルは思わず、苦笑してしまう。

思い悩んでいる当夜を前にして、春斗は声をかけるのを躊躇うように眉をひそめてみせる。


「あ、あの、当夜さん」

「おっ。春斗、待たせてごめんな」


春斗達の存在に気づいた途端、当夜は芝居かかった仕草でそう言ってのけた。


「今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくな」


春斗が手を差し出すと、当夜は真剣な表情で握り返した。

その様子を、絶え間なく眺めていた花菜は神妙な表情のまま、輝明に振り返った。


「輝明。チーム全員、揃っている」

「ああ」


輝明がふてぶてしい態度でそう答えると、花菜は意味ありげな表情で春斗達を見る。


「輝明、インタビューの最中、春斗達のところに行きたそうだった」

「うるさい!」


苛立ちの混じった輝明の声にも、花菜は淡々と表情一つ変えずに言う。

そこで、花菜は小首を傾げると、ふっとあかりに視線を向けた。


「あかり、負けは許されないから」

「うん」


不意に話を振られたあかりは、きっぱりとそう告げる。

そんなあかりのリアクションに、カケルの隣に立っていた当夜はため息をつくと、不服そうにこう言った。


「よし、りこ。『エキシビションマッチ戦』では、プロゲーマー達を徹底的に叩き潰すぞ!」

「りこ、頑張るね!」


察しろと言わんばかりの眼差しを突き刺してきた当夜に、りこは真剣な表情で告げる。

りこがいつものように片手を掲げて、嬉々とした表情で話すのを見て、優香は思わず、苦笑してしまう。


「カケルさん、今日はよろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


優香の決意に応えるように、カケルは両手を握りしめ、一息に言い切る。

春斗はそんな三人に苦笑すると、ため息とともにこう切り出した。


「『エキシビションマッチ戦』、絶対に勝ち進んでみせる!」

「……ああ、全てを覆すだけだ」


決意のこもった輝明の言葉に、春斗はプロゲーマー達と対戦した時のことを想像し、途方もなく心が沸き立つのを感じていたのだった。

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