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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
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第十一話 どこまでも可能性に懸けてみたい

翌日、春斗が学校に登校すると、クラスメイト達が一斉に話しかけてきた。

「おーい、春斗。ゲーム雑誌などに掲載されていた、あの記事はもう見たか?」

「あの記事?」

自分の席に着く前に話しかけられて驚く春斗に、先頭のクラスメイトの男子生徒が興味深そうに尋ねてくる。

「入院中だった、あの黒峯麻白さんが、ついに来月から『ラグナロック』にチーム復帰するんだってな」

「なっーー!」

到底、聞き流せない言葉を耳にした春斗は、焦ったように慌ててそのクラスメイトに詰め寄る。

「本当なのか?黒峯麻白さんが、来月から『ラグナロック』にチーム復帰する って」

「ああ。ネット上でも書かれていたし、間違いないだろう」

「そうなんだね。重体だったみたいだけど、チームに復帰、出来そうで良かった」

「そうそう。黒峯麻白さんが事故で入院したと知った時は、彼女が『ラグナロック』を辞めるんじゃないかって、ひやひやしたけど、ただの取り越し苦労だったよな」

そんな春斗の疑心を尻目に、クラスメイト達は当然のように会話を続ける。

入院中だった、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第二回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チーム『ラグナロック』のメンバーの一人、黒峯麻白が来月、チーム復帰予定であるという噂は、すでに春斗のクラスメイト達だけではなく他の生徒達の注目をも集めていた。

既に亡くなったはずの黒峯麻白が、来月から『ラグナロック』に復帰するという噂が流れている。

その矛盾した事実、真実のような嘘を紡ぐクラスメイト達に、春斗は戦慄してしまう。

「春斗さん、おはようございます」

「優香」

とその時、興奮冷めやらぬ男子生徒を押し退けるようにして、後ろにいたクラスメイトの少女ーー優香が殊更、深刻そうな表情で、春斗に声をかけてきた。

「放課後、少しお時間を頂いてもよろしいでしょうか?」

「優香はあの記事について、何か知ってーー」

「さあ、みんな、席につけ!ホームルームはとっくに始まっているぞ!」

「「はーい」」

春斗が何かを告げる前に、春斗のクラスの担任が来てクラス全体を見渡すようにしてそう告げると、クラスメイト達はしぶしぶ自分の席へと引き上げていった。

「それでは春斗さん、また、後で」

「ああ」

丁重に一礼すると、そのまま、迷いのない足取りで自分の席へと戻っていく優香に倣って、春斗も自分の席に座る。

始業のホームルームが始まると、春斗は先生によってホワイトボードに書き込まれる学校側からの知らせなどを眺めながら、先程の不自然なクラスメイト達との会話を思い出す。

既に亡くなったはずの黒峯麻白さんが、来月から『ラグナロック』に復帰するという認識になってしまっているのは何故なんだろう。

ゲーム雑誌などに掲載されていたっていうことは、既にゲーム雑誌に載っているっていうことだよな。

前に、あの噂ーー亡くなったはずの黒峯麻白さんが、事故で入院中だと、ネット上で噂されていたことと関係があるのだろうかーー。

春斗が一人、思い悩んでいると、不意に春斗の携帯が震えた。

春斗が携帯を確認すると、先程、会話をしたばかりの優香からのメールの着信があった。


『春斗さん、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第二回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チーム『ラグナロック』のことをネット上で検索してみて下さい』


そのメールの内容どおりに、春斗は早速、オンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第二回公式トーナメント大会のチーム戦、優勝チーム『ラグナロック』のことを携帯のネット上で検索してみる。

そこには、入院中だった黒峯麻白が、来月から『ラグナロック』にチーム復帰するという驚愕の事実がずらりと書かれていた。

「これって…‥…‥」

春斗がたまらず、そうつぶやくと、再び、優香からのメールの着信が来る。


『詳しいことは、あかりさんが入院している病院に行ってからお話ししますが、どうやら黒峯玄さんのお父様は黒峯麻白さんが亡くなったという事実を、入院中だということに塗り替えてしまったようなのです』


「ーーっ」

そのメールの内容に、春斗は目を見開いた。

春斗は思わず、そのまま、立ち上がりそうになって、自分で自分の手を掴むことで抑え込む。

始業のホームルームが終わり、一限目の授業が始まっても、春斗の頭の中ではずっと同じ問いが空転していた。


既に亡くなったはずの黒峯麻白さんが、来月から『ラグナロック』にチーム復帰する?

黒峯玄の父親が、黒峯麻白さんが亡くなったという事実を入院中だということに塗り替えた?


一限目の授業が終わっても、止めどない疑問のスパイラルは終わることはなかった。






放課後ーー。

あかりが入院している病院に入ると、春斗は今朝、優香から送られたメールの内容を思い返し、不思議そうに尋ねた。

「優香。黒峯玄の父親が、黒峯麻白さんが亡くなったという事実を入院中だということに塗り替えたってどういうことなんだ?」

「黒峯玄さんのお父様は、黒峯麻白さんの死をなかったことにしたいのだと思います」

「ーーっ」

思いもよらない言葉は、春斗の隣を歩く優香から発せられた。

目を見開く春斗に、優香は立ち止まると淡々と言う。

「今朝、春斗さんのお父様から、メールを頂きました。黒峯麻白さんは、どうやら、この総合病院に入院していることになっているみたいです」

「なっーー」

驚愕する春斗に、優香が躊躇うように続ける。

「ですが、黒峯麻白さんの病室は面会謝罪になっていて、春斗さんのお父様さえも立ち入ることができなかったそうです」

「病院の医師さえも、立ち入ることができない病室か」

冗談でも、虚言でもなく、ただの事実を口にした優香に、春斗は口元に手を当てて考え始める。

それにしても、黒峯玄の父親は、亡くなった黒峯麻白さんをどうやって『ラグナロック』にチーム復帰させるつもりなんだろうかーー。

もしかしたら前に、あかりに会えば、黒峯麻白さんに会える、と告げていたことと何か関係があるのかもしれない。

「お兄ちゃん、優香さん」

春斗が目を細め、更なる思考に耽ろうとした矢先、不意にあかりの声が聞こえた。

顔を上げ、声がした方向に振り向くと、少しばかり離れたコンビニに、あかりが春斗達の姿を見とめて何気なく手を振っている。

コンビニで買ったと思われるゲーム雑誌を握りしめて、春斗達の元へと車椅子を動かして駆けよってきたあかりに、春斗は真剣な表情を収めて、穏やかな表情を浮かべる。

「あかり」

「あかりさん」

春斗と優香が相次いで言うと、あかりが両手を広げて嬉々として声を上げる。

「あのね、二人に見てほしいものがあるの」

「…‥…‥見てほしいもの?」

「う、うん」

春斗のその問いに、あかりはゲーム雑誌をぎゅっと握りしめたまま、恥ずかしそうにそうつぶやくと顔を俯かせる。

しかし、このままでは話が先に進まないと思ったのだろう。

あかりは顔を上げると、意を決して話し始めた。

「ゲーム雑誌に、宮迫さんの写真が載っているの」

「ゲーム雑誌に?」

意外な事実に、春斗は思わず唖然として首を傾げた。

あかりは嬉しそうに頷くと、さらに先を続ける。

「うん。来月、黒峯麻白さんが『ラグナロック』にチーム復帰するから、それにちなんで、今までのオンラインバトルゲーム『チェイン・リンケージ』の第一回、第二回公式トーナメント大会の個人戦、チーム戦の決勝の舞台の特集が組まれているんだよ」

あかりがぱあっと顔を輝かせるのを見て、春斗は思わず苦笑してしまう。

「嬉しそうだな」

「うん。嬉しんだもの」

春斗の何気ない言葉に、あかりは嬉しそうに笑ってみせた。

「いつか、私達のチームも優勝して、こんな風にゲーム雑誌に載ったらいいな」

「あかり、違うだろう」

「えっ?」

突然の春斗からの指摘に、あかりは呆気に取られたように首を傾げた。

春斗の代わりに、優香が優しげな笑みを浮かべて答える。

「第三回公式トーナメント大会で優勝したら、きっと載れます」

「う、うん!」

優香の言葉に、あかりは顔を上げると明るく弾けるような笑顔を浮かべてみせた。

日だまりのようなその笑顔に、春斗はほっと安心したように優しげに目を細めてあかりを見やる。

黒峯玄の父親が、どのようにして黒峯麻白さんを『ラグナロック』にチーム復帰させるつもりなのかは分からない。

でも、あかりが魔術を使える少年と宮迫さんのおかげで生き返ったように、黒峯麻白さんも何らかのかたちで生き返ることができたらいいな、と願ってしまう。

春斗はあかりと優香を横目に見ながら、少し照れくさそうに頬を撫でる。

「あかり、優香。この間のゲームセンターの大会で優勝したお祝いと、大会前にあかりがランキング入りを果たしたお祝いに、今度、みんなで一緒にショッピングモールにでも行こうな」

「うん」

「はい」

あかりと優香の花咲くようなその笑みに、春斗は吹っ切れた表情を浮かべて一息に言い切ったのだった。

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