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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
エキシビションマッチ戦編
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第百八話 星を纏う

「俺達と輝明さん達、それぞれ二組に別れた上でオンライン対戦?」

「ああ」


輝明の部屋にて、当夜から思いもよらない提案を告げられて、春斗達はただただぽかんと口を開けるよりほかなかった。


「その、それって、もしかして『エキシビションマッチ戦』の方式で対戦するっていうことなのか?」


当夜からの突然の懇願に、春斗は思わず唖然として首を傾げた。


「俺は、雅山さん達と同じように、今回の『エキシビションマッチ戦』の方式で対戦するのは初めてだからーー」

「当夜、カケル、今回は話し合いだけだ。春斗達と一緒に対戦するのは、別の日にする」


どんな感じのバトルになるのか、楽しみだなーー。

そう告げる前に先んじて言葉が飛んできて、自身の想いを話していたカケルは口にしかけた言葉を呑み込む。

首を一度横に振ると、代わりにカケルは不思議そうに輝明に訊いた。


「輝明は、『ラ・ピュセル』と一緒に組むこと、気にならないのか?」

「でも、輝明、今回は、あかり達を含めた混合チームで『エキシビションマッチ戦』に挑まないといけない。少しでも早い段階で、対戦した方がいいと思う」

「うるさい!」


苛立ちの混じった輝明の声にも、花菜は淡々と表情一つ変えずに言う。

そこで、花菜は小首を傾げると、ふっとあかりと優香に視線を向けた。


「あかりと優香は、『エキシビションマッチ戦』の方式、体験したくない?」

「うん。してみたい!」


花菜が大した問題ではないように至って真面目にそう言ってのけると、あかりは両拳を前に出して話に飛びついた。

わくわくと間一髪入れずに答えるあかりに、春斗は困惑した表情でおもむろに口を開く。


「はあっ……。優香も、あかりと同じ意見なのか?」

「はい、春斗さん、申し訳ありません。私も、『エキシビションマッチ戦』の方式、体験してみたいです」


呆れた大胆さに嘆息する春斗に、優香は少し恥ずかしそうにもじもじと手をこすり合わせるようにして俯く。

渋い顔の春斗と幾分真剣な顔のあかりと優香がしばらく視線を合わせる。

先に折れたのは春斗の方だった。

身じろぎもせず、じっと春斗を見つめ続けるあかりと優香に、春斗は重く息をつくと肩を落とした。


「……分かった。だけど、あかりは今はもう一人のあかりじゃないし、体調も不安定なんだから、絶対に無理はするな」

「うん。ありがとう、お兄ちゃん」

「春斗さん、ありがとうございます」


苦虫を噛み潰したような顔でしぶしぶ応じる春斗に、あかりと優香はきょとんとしてから弾けるように手を合わせて喜び合った。


「輝明もいいよな?」

「……分かった」


当夜の即座の切り返しに、輝明は仕方なさげにーーだが、確かに笑みを浮かべてみせる。

輝明の了承を得た後、いそいそとゲーム機に歩み寄り、ゲームを起動させながら、カケルが嬉しそうに言う。


「今日はすごい日だな。春斗さん達との話し合いだけではなく、実際に『エキシビションマッチ戦』の方式を体験できるなんて」


カケルは視線を落とすと、どこか昔を懐かしむようにそうつぶやいた。


『デュエルマッチが選択されました!』


テレビ画面に響き渡ったシステム音声に、カケルはコントローラーを手にしてモニター画面を見据えた。


「そういえば、輝明、チーム編成はどうするんだ?」

「恐らく、先鋒は境井孝治だ。なら、今回は最初の四人と後半の四人を選出して、『エキシビションマッチ戦』に向けた対戦をすればいい」


輝明自身はそれで説明責任を果たしたと言わんばかりの表情をしていたが、春斗達も当夜達も視線をそらしていなかった。

春斗達のリアクションに、輝明はため息をついて付け加える。


「春斗。僕の方でメンバーを考えてはいるが、そのことで『ラ・ピュセル』のチームリーダーとしてのおまえの意見を聞きたい」

「ようするに、輝明はこのメンバーでいいのか、春斗達に確認したかったんだよな」


ざっくりと言った当夜に、輝明は少し逡巡してから頷いた。


「ああ」

「そうなんですね」

「ねえ、お兄ちゃん、何だかすごいね」


春斗と優香があくまでも真剣な眼差しで頷くと、ソファに座っていたあかりは明確な事実に気づいて声を震わせる。


「何がだ?」

「あのね、お兄ちゃんと輝明さん、それにりこさん。私達、混合チームには、チームリーダーが三人もいるの」


あまりにも唐突な問いかけに理解が追いつかない春斗を尻目に、あかりは信じられないと言わんばかりに両手を広げて目を見開いた。


「言われてみれば、確かにそうだな」

「うん!お兄ちゃん達、すごい!」


言いたかった言葉を見つけたらしいあかりは一気にそう言うと、子供のように無邪気に笑いかける。


「はははっ。あかりが楽しそうで良かった」


両手を握りしめて言い募るあかりに熱い心意気を感じて、春斗は少し照れたように頬を撫でてみせる。


「チームリーダーが三人か。確かにすごいよな」


瞬間的な当夜の言葉に、花菜は一瞬、表情を緩ませたように見えた。

無表情に走った、わずかな揺らぎ。

そして、無言の時間をたゆたわせた後で、花菜はゆっくりと頷いた。


「……うん。チームリーダー、三人勢揃いはすごいと思う」


それとなく、視線をそらした花菜は、まるで照れているかのようにうつむいてみせる。


「輝明様、今生りこ様がお見えになりました」


春斗達と輝明達がこれからのことで話し合っていたその時、躊躇いがちな声がした。


「分かった。通してほしい」

「かしこまりました」

「ここまで案内してくれてありがとう」


輝明がそう告げた瞬間、先程の使用人と聞き覚えのある声とともに輝明の部屋のドアが開いた。


「優香、春斗くん、あかりさん、遅くなってごめんね」

「今生」

「りこさん、こんにちは」

「りこさん」


輝明の部屋に入ってきたりこは迷いのない足取りで春斗達の前まで歩いてくると、春斗達を視界に収めて歓喜の声を上げた。

楽しげに軽く敬礼するような仕草を見せたりこに、春斗とあかりと優香はひそかに口元を緩める。


「今生。その、来たばかりで悪いんだけど、今から『エキシビションマッチ戦』に向けて、前半の四人、後半の四人に分かれて『エキシビションマッチ戦』の方式で対戦することになったんだ。それぞれ二組に分かれて対戦することになると思う」

「そうなんだね」


気を取り直した春斗の強い気概に、りこは穏やかな表情で胸を撫で下ろした。


「で、輝明、肝心の『エキシビションマッチ戦』のメンバー編成はどうするんだ?」

「先鋒は当夜、おまえに任せる」


当夜の疑問に、輝明は深々とため息をついて答える。

まあ、当たり前だなーー。

そんな自信過剰な当夜の思考を読み取ったように、花菜は静かに続けた。


「当夜、負けたら許さない」

「わ、分かっているって。次に戦う時は、プロゲーマー達に余計な真似はさせない。今度こそ、徹底的に叩き潰す」

「うん。プロゲーマー達は倒すべき相手だから」


察しろと言わんばかりの眼差しを突き刺してきた当夜に、花菜は真剣な表情でこくりと頷く。


「二番手はカケル」

「俺?」


輝明の言葉に、カケルは目を丸くし、驚きの表情を浮かべた。

意味を計りかねて戸惑うカケルをよそに、輝明は先を続ける。


「カケルは今回、初めてプロゲーマー達と対戦することになる。だが、カケルの堅実な戦い方は、プロゲーマー達を翻弄することができるはずだ」

「輝明、ありがとう」


輝明の称賛に、カケルは決意するようにコントローラーを握りしめた。


「三番手はりこ。四番手は花菜、五番手は優香、六番手はあかり、七番手は僕がする。そしてーー」


そう前置きして、輝明から告げられたのは、春斗にとって想像を絶する内容だった。


「大将は春斗、おまえに頼みたい」


「お、俺が『エキシビションマッチ戦』の大将!?」


あまりにも衝撃的な提案を突きつけられて、春斗は武者震いをするように肩を震わせる。

だが、すぐに、初めて文月と対戦したーーあの特別授業の時のことを思い出し、春斗は途方もなく心が沸き立つのを感じた。

今度こそ、由良文月さんにーープロゲーマー達に勝ちたい。

そして、『エキシビションマッチ戦』を勝ち進んでみせる。

やり場のない震えるような高揚感を少しでも発散させるために、春斗は拳を強く握りしめたのだった。

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