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想いのリフレイン  作者: 留菜マナ
公式トーナメント大会編
10/126

第十話 加速していく未来

「チームメイト?」

「そうそう」

春斗のつぶやきに、りこはあくまでも明るい笑みを浮かべて答える。

春斗は顔をしかめ、すぐに反論した。

「そ、そんな話、聞いたことないぞ!優香は俺と一緒に『チェイン・リンケージ』を始めたし、それにーー」

「何が目的ですか?りこさん」

春斗の言葉を遮って、唐突に優香が口を挟む。

優香が発した言葉に、りこは意外そうにぴたりと動きを止めた。

「確かに、あなたとは中学校時代からのご友人ですが、あなたとはチームを組んだことはもとより、ゲームをしたことさえもなかったはずです」

「むっー」

「なっ!」

きっぱりと告げられた優香の言葉に、りこが眉をはねあげ、春斗が大きく目を見開く。

「嘘をついてまで、あなたが春斗さんに興味を示すのは、大ファンで一目置く黒峯玄さんが、前の大会で春斗さんを認めていたからですか?」

最後に付け加えた言葉に、りこは目を丸くし、今度こそ吹き出した。

「あはっ、あははははははっ!さすがだね、優香」

ひとしきり笑いつくすと、りこは余裕ぶって浮かべた笑みを微かに引きつらせる。

「だって、あの憧れの黒峯玄さんがオンライン対戦のメッセージ上だけど、直々に呼び出した人だよ。どんな人なのか、興味を抱くに決まっているじゃん」

おどけた仕草で肩をすくめてみせたりこに、春斗は目を細めてみせた。

「まあ、でも、優香が一目置いているだけあって、面白そうな人だね 」

不意にかけられた言葉が、意味深な響きを満ちる。

春斗くんはーー。

言外の言葉まで読み取った春斗を尻目に、りこ達はステージ上のモニター画面に視線を戻すとコントローラーを手に取った。

遅れて、春斗達もコントローラーを手に取って正面を見据える。

「では、レギュレーションは一本先取。最後まで残っていたチームが優勝となります」

「いずれにしても、やるしかないか」

決意のこもった春斗の言葉が、場を仕切り直した実況の言葉と重なった。

「ああ」

「はい」

春斗の言葉にあかりと優香が頷いたと同時に、キャラのスタートアップの硬直が解けた。


ーーバトル開始。


対戦開始とともに、先に動いたのは春斗達だった。

春斗のキャラが地面を蹴って、りこ達との距離を詰める。

迷いなく突っ込んできた春斗のキャラに合わせ、りこのキャラはもう一人の仲間のキャラをかばうようにして前に出た。

りこのキャラの動きを確認すると同時に、あかりのキャラは急加速してりこ達へと向かってくる。

「ーーっ!」

反射的に、りこは自身のキャラの武器である槍で迎え撃とうとして、その瞬間、背後に移動したあかりのキャラに受けようとした槍ごと深く刻まれた。

少なくはないダメージエフェクトを撒き散らしながらも後方に下がり、何とか体勢を立て直すと、先程の違和感がある固定キャラの固有スキルであることに勘づいたりこは、咄嗟に優香のキャラがいる方向へと振り向く。

そこには、優香のキャラが自身の武器であるメイスを構えて立っていた。

優香の固有スキル、テレポーターー。

一瞬で自身、または仲間キャラを移動させる固有スキルだ。

しかし、一般のプレイヤーは移動させられる距離は短く、また、使用した際の隙も大きくなるため、滅多には使わない。

だが、優香は『ラ・ピュセル』に出てくるマスコットキャラ、ラビラビが使う瞬間移動のように、精密度をかなり上げたため、不可能とされた長距離の移動を可能にしていた。

「ーーさすがだね、優香」

不意に、りこが微笑んだ。

廃墟の市街地を舞台にしながらも、その穏やかな笑顔は太陽のようにどこまでも眩しい。

「でも、硬直状態の今は隙だらけだよ!」

嬉々とした声とともに、正面から突っ込んできた、りこのキャラに対して、春斗もまた優香を守るため、地面を蹴って優香のキャラのもとへと向かう。

あっという間に接戦した春斗のキャラとりこのキャラは、息もつかせぬ激しい攻防を展開する。

りこのキャラが繰り出す目にも留まらぬ突きは硬軟織り交ぜた春斗のキャラの短剣さばきにほとんど防がれ、連携技を駆使した春斗のキャラの絶妙な攻撃はりこのキャラの軽妙なバックステップのもとになかなか決定打を生み出せない。

一瞬前まではその場にいなかったはずの春斗のキャラの横切りを受けながらも、りこのキャラはここぞとばかりに執拗に槍を突き上げた。

「ーーっ」

予測に反した動きに、春斗のキャラは一撃を甘んじて受けてしまう。

高度な駆け引きと絶えず入れ替わる攻守の中で、りこはあかりのキャラによって他の仲間達のキャラが次々に倒されていくのを視界に収めると頬を膨らませた。

「もうー、春斗くんと優香だけでも大変だったって言うのに、春斗くんの妹はさらに激強じゃん!」

「りこ、相変わらずですね」

その場で屈みこみ、唇を尖らせるという子供っぽいりこの仕草に、優香はくすりと笑みを浮かべた。

「優香も相変わらずだね」

優香の言葉に満足そうに頷いたりこは、立ち上がるとコントローラーに手をかけながら言い放つ。

「でも、負けないから!」

「私達も負けません!」

自分に言い聞かせるような声と同時に、槍を構えたりこのキャラとメイスを振りかざした優香のキャラが対峙する。

手慣れた所作でメイスを回し、りこのキャラの巧妙な槍さばきをかわし続けながら、優香は冷静に機会を窺っていた。


ーーそして、その時は訪れる。


「春斗さん!」

りこのキャラの槍さばきをかわし続けていた優香は、裂ぱくの気合いを込めてそう叫んだ。

その言葉が合図だったように、後方に下がっていた春斗のキャラが戦闘に加わってくる。

優香のキャラに連撃を見舞っていたりこのキャラの技の終息に合わせて、春斗は必殺の連携技を発動させる。

『ーー弧月斬(こげつざん)閃牙(せんが)!!』

「ーーっ!」

急加速した春斗のキャラが『短剣』から持ち替えた『刀』で、りこのキャラに正面から一刀を浴びせた。

「短剣じゃなくて、刀!?」

予想外の武器での一撃に、りこは驚愕の表情を浮かべる。

春斗の固有スキル、武器セレクト。

それは、自身の武器を一度だけ、自由に変えることができる固有スキルだった。

音もなく放たれた一閃が、なすすべもなくりこの操作するキャラを切り裂いた。

致命的な特大ダメージエフェクト。

体力ゲージを散らしたりこのキャラは、ゆっくりと春斗のキャラの足元へと倒れ伏す。

そして少し遅れて、あかりのキャラの連携技の一撃が、最後に残っていたキャラに決まる。


『YOU WIN』


システム音声がそう告げるとともに、春斗達の勝利が表示される。

一瞬の静寂の後、認識に追いついた観客達の歓声が一気に爆発した。

「優香」

名前を呼ばれてそちらに振り返った優香は、コントローラーを置いたりこが必死の表情で優香達を見つめていることに気づいた。

「今度、戦う時は絶対に負けないからね!」

「はい。でも、私達も負けません」

片手を掲げて、りこがいつものように嬉々とした表情で興奮気味に話すのを見て、優香は思わず、苦笑する。

「…‥…‥勝った」

春斗は噛みしめるようにつぶやくと、胸の奥の火が急速に消えていくような気がした。

同時にフル回転していた思考がゆるみ、強ばっていた全身から力がぬけていく。

「春斗」

「みや…‥…‥いや、あかり」

名前を呼ばれて、そちらに振り返った春斗は、先程、コントローラーを置いたばかりのあかりを見た。

「やったな」

そう言うと、あかりは日だまりのような笑顔で笑ってみせる。

その不意打ちのような笑顔に、春斗は思わず、見入ってしまい、慌てて目をそらす。

「あ、ああ。他のプレイヤーのキャラを、あかりが押さえてくれていたからだよ」

「春斗さん、やりましたね」

ごまかすように人差し指で頬を撫でる春斗に、優香も続けてそう言った。

「デビュー戦、勝てたな」

「…‥…‥はい、優勝できました」

きっぱりと言い切った春斗に、優香は少し驚いた顔をして、すぐに何のことか察したように頷いてみせる。

「春斗さんが、すぐに私の考えに気づいてくれたからです」

「優香が、俺を信じてくれたからだ」

胸に手を当てて穏やかな表情を浮かべる優香を見ながら、春斗はあえて軽く言った。

「でも、宮迫さんバージョンのあかりの強さは別格だったけどな」

「そうですね」

どこまでも熱く語る春斗をちらりと見て、優香は穏やかに微笑んだ。

そして一呼吸置いて、優香は淡々と続ける。

「春斗さんとあかりさんと宮迫さんと一緒なら、本当に不可能はないですね」

「優香、違うだろう」

「えっ?」

突然の春斗からの指摘に、優香は呆気に取られたように首を傾げた。

春斗の代わりに、あかりが屈託のない笑みを浮かべて答える。

「天羽も、不可能はないしな」

「みや…‥…‥あかりさん、ありがとうございます」

あかりの言葉に、優香は顔を上げると嬉しそうに柔らかな笑顔を浮かべてみせた。

ふとその時、春斗は視界の端に、見覚えのある少年の後ろ姿を目にする。

「…‥…‥黒峯玄」

思わず、そうつぶやくと、春斗は不意に父親から告げられた、ある言葉を思い出した。


『黒峯さんは、あかりに会わせてほしいと言ってきた。あかりに会えば、麻白に会える、という意味の分からないことを告げてな』


あかりに会えば、黒峯麻白さんに会える?

そのまま、ゲームセンターから出て行ってしまった玄を見て、嫌な予感が春斗の胸をよぎった。

あの妙な噂といい、一体、どうなっているんだろうか ーー。

この上なく嬉しそうに笑うあかりと優香を見つめながら、春斗は漠然と消しようもない不安を感じていたのだった。

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