魔の手
翌日、街を歩きたいと言う僕の希望をクリスはかなえてくれた
「私が案内してあげる」
そう言って彼女は僕の手を引いて連れ出してくれた
オルウェイほどの大きさの街ではないけれど、街中がのんびりしていて、緑も多く、時折、港から流れてくる潮風が、肌を心地よく撫でていく
≪ゴーン…ゴーン…≫
急に街中に鳴り響く鐘の音に、僕は驚いた
「あ、ビックリした?そういえば言ってなかったね。教会の鐘が昼と夕方に鳴るの。その音に合わせて街のみんなは仕事の時に、昼は休憩を取って夕方に仕事から帰るのよ」
「へえ、なんかここの教会ってすべてを管理しているみたいですごいね」
「うん。まあ、言っていることに間違いはないかな。実際に街の人々の生活は教会に管理されているし
でも、この街はそれでうまくいっているみたいね」
僕にはその言葉が少し皮肉に聞こえた
裕福な生活があってもオルウェイでは反乱が起きてしまった
人々が欲を持ちすぎてしまったせいであんな事になってしまった
それなら僕はこの街、サンダリアで生まれた方が良かった…
思わずそんなことを考えてしまった
他者を羨む気持ちなんて、満たされたオルウェイの生活の中で忘れていたはずなのに
大事なものを失って初めて気づいた気がした
「ん、おい、そこの少年」
街を二人で歩いていると、急に大柄の軍服姿の男に声をかけられた
「はい」
「お前、ティルキスのところの子どもじゃないか?オルウェイの商家の」
どうして、僕のことを知っているの?
それにこの軍服は、オルウェイの王国軍のものだ
「人違いじゃないでしょうか?彼はセルカディア教会の僧ですもの」
クリスが笑って冗談半分で反論する
「む、そうか、それは失礼したな」
男は去っていった
僕の心臓がずっと、鼓動を高鳴らせている
「あ、ありがとう、クリス」
「大丈夫よ。ああいう人って真面目に反論するより、冗談半分で笑って見せた方がすぐに降参してくれるの…だけど、この街にまでオルウェイの軍がいるなんて、気をつけなきゃね」
僕に与えられた心の平穏が、こんなすぐに奪われ始めるなんて…悲しみが胸を込み始めていた