クリスの救い
「あら、目が覚めたのね」
窓辺の前の椅子に腰かけていると、僕を船で見つけてくれた女性が部屋に入ってきた
手には、トレイを持ち、その上にフェナッツというこの地域名産の木のみを練って作られたパンと
湯気と良い香りを立てるコーンスープが載せられていた
「少しなにか食べた方がいいと思って起こしに来たのだけれど」
そう言って女性はトレイを僕の目の前の机に置いた
スープの湯気が僕の鼻腔をくすぐり、それは脳に伝わり、今まで感じる余裕のなかった空腹感が急に押し寄せる
貧血と疲れで手が震えるものの、少しずつスープを口に運ぶ
「おいしい…」
「そう、よかった」
凛とした表情で女性は微笑み、僕に質問をし始めた
「あなた、オルウェイから来たの?船で見かけた時に、もしかしたらって思ったのだけれど…」
「うん、父さんと母さんが、逃がしてくれて、あの船に乗ってたんだ」
僕を船で助けてくれたその女性も、どうやらここの尼僧みたいで、オルウェイを経由する前のタカトナという街に布教活動に行っていたようだ
「船がオルウェイを経由した時、街で只事じゃないことが起きてるなって思ったのだけれど、まさか王政への反乱だったなんて」
事のあらましは僕を診てくれた医者から聞いたと言い、驚きを隠せない様子だった
「私は、クリス・レメディアといいます。あなたは?」
「僕は、アラン・ティルキスです」
「そう、アランって言うのね。ねえオルウェイの反乱が収まるまでここの教会にいたらどうかしら」
パンをちぎって口に運ぶ僕にクリスはそう勧めてくれた
だけど、今の僕にはまだそんなことを考える余裕はなかった
故郷の崩壊、両親の心配…僕の考えることは、別の方に向かっていた