転換期(前編)
僕等は予想していた通りに、玉座の間へと連行されてきた
普段、オルウェイの街にいたとしても、王に謁見する機会などほとんどないのに
今日はこうして三人揃って王の前で跪かされている
「そちが、アラン殿か?」
下を向いたままの僕に王は、そう質問を投げかけてきた
頭を上げても良いといいつつ
「はい、わたくしがアランめでございます」
詳しい敬語が良く分からないけれど、真っ直ぐなまなざしで自分の存在を告げた
僕がなぜここに連れ戻されなければならなかったのか、今その理由がはっきりするだろう
「ティルキスの子息、アラン殿は本日からその身を王城で管理させてもらう」
王の口から告げられたのはその一言だった
その言葉に対して、僕よりもランシアが先に口を出した
「ざけんなよ!訳も分からずアランを差し出せるかよ」
とても王に対しての言葉とは思えぬランシアの無礼な態度に兵士たちはぴりぴりしていた
もちろんルイも…
しかし、王はそれに対して全く動じることもなく、ただ静かに告げた
「おぬしと、そこの尼僧どのは帰ってもよい。サンダリアの人間なのであろう?」
クリスとランシアの身元についても調査済みのようで、二人は帰還を促された
怒りで立ち上がろうとするランシアの腕をクリスが引く
振り返るランシアを黙って見つめる
「ここは、退きましょう」
「だけどよ…」
「いいから」
兵士に聞き取れぬほどの小声の会話で、ランシアはクリスに何か意図があるのだと思い
黙って頷いた
「では、わたくし共はこれにて失礼させていただきます」
余りにもあっさり撤退しようとするクリスとランシアに僕は急に寂しい気持ちになるも
本来なら、僕たちは出会うはずがなかった
いびつな出会いの終焉にいつまでも名残惜しい気持ちを押し付けるわけにもいかない
僕はただ帰ってきただけ、それだけなんだと無理やり自分を納得させる
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満足に別れの挨拶も出来ないまま、僕とランシア、クリスは別れることになった
「こっちだ」
そう言われ、僕はトボトボと、ルイの後ろを歩き、広すぎる場内の回廊を足音も立てずに歩く
「どうして、僕はこんなことになったんですか…」
蚊が飛ぶような小さな声で僕はルイに尋ねた
最も、まともな返答が返って来るとは思わないが…
しかし、その予想に反してルイは口を開いた
「お前を城に匿っておかないと大変なことになるらしいからな」
ボソリと一言つぶやき、その後の僕の質問に、ルイはなにも答えようとしなかった
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「おい、クリス、本当にアランを置いて帰っちまうつもりかよ」
城門を出て、見張りの目も届かなくなった辺りのところでランシアがぶっきらぼうに
クリスに声を投げつけた
その声とともに、クリスは足を止める
「帰るわけないじゃない」
強く拳を握り、歯を食いしばり、ランシアに向き直ったクリスが唸るように言った
「アラン君は、ちゃんと助ける。私に考えがあるの。とりあえず、夜まで宿で待ちましょう」
「城に忍び込むってか?」
得意気に笑って見せたランシアに、クリスも得意気に笑い返し
クリスの意図を読み取ったランシアも作戦乗り気満々で宿屋に向かった
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与えられた部屋は、とても豪華で、ベッドなんて三人分ぐらいの広さなのではないかと言うぐらい広く
ふかふかしている
クローゼット、戸棚のなかに、数えきれないぐらいの服が収納されている
「新品ではないが、お前なら着られるだろう。好きなものを着て、時が来るのを待て」
そう言い放ってルイは自分の役目を終えたとばかりに部屋を出て行こうとした
「あ、まって!…僕は、これからどうなるの…」
繰り返される僕の質問にルイは呆れたようにため息をついて出て行ってしまった
本当に…どうなるの?
大きな窓から、やせ細っていく街並みを見下ろし、僕は先を案じることしかできなかった