これから
「やっぱり、街を出ることにするよ」
しばらく考え、僕はそうランシアに伝えた
「そっか」
ランシアも静かにそう答えた
教会に戻ってしまえばみんなの気持ちを台無しにしてしまう
つらい決断だったけれど、今はそうするほかになかった
「俺も付いていくから、安心しろ」
「でも、良いの?街から出て行っちゃっても」
付いてきてくれるのはありがたかったけれど、ランシアにはきっとこの街でやるべきことがあるんじゃないかと僕は心配になった
「大丈夫だって。お前に着いて行った方が楽しそうだし、もうこの街にいる必要は俺にはないしな」
楽しげに言っているはずのランシアの表情が少し寂しげに見えた
「ありがとう」
「それで、行くって、どこに行くんだよ」
ランシアの問いに僕はまた疑問を抱えてしまった
きっと港にもオルウェイの兵士はいるはずだから海路での移動は無理だろう
「近くに、別の街ってない?」
もう少し身を隠せる場所がいい
しばらくすれば騒ぎも収まる、今はただそれを待つだけしかできない
「あるぜ。こっから一日かけて歩けば山を切り開いてつくられたノウゼンって街がな。内陸に向かうから港はないけど、いいのかよ?」
心配するランシアに僕は頭を縦に振った
「大丈夫だよ。しばらく身を隠せられればいい。騒ぎが収まったらまたここに戻って、どうして僕が追われているのかを確かめるから」
その提案にランシアも納得し、僕は彼の案内で歩き出すことになった
やさしい緑の草原が当てもなく続いている
人っ子一人見当たらないのは、きっとどの街も平和で、外に出る必要がないからなのかもしれない
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街を出たのは夕方だったために、夜はすぐに来てしまった
「そろそろキャンプしようぜ」
今まで裕福な暮らしをしていた僕にとって、野宿なんて初めてだ
「あ、悪ぃ、お前、折り畳みのテントって持ってないんだっけ」
ランシアが自分のカバンから折り畳みのテントを取り出しながら僕に尋ねてきた
僕はクリスが渡してくれたバッグを探ってみるも、テントらしきものは見当たらず…
「ないみたい。でも寝袋はあるから僕は外でいいよ」
軽く断って準備した薪に火を灯す
「そんなわけにはいかねえよ。ちょっと狭いけど、お前チビだから二人で使っても大丈夫だって」
「あー、チビって言ったな!」
背の低さは僕にとって大きなコンプレックスだ
少なくとも、ランシアとは頭一つ分ぐらいの身長差がある
「あはは、悪ぃ、悪ぃ。でもお前も怒ったりするんだな」
「え?」
質問の意図が読めず、思わず聞き返す
「いやさ、サンダリアの地下で最初見た時は死んだような顔してたからさ、こいつ、ちゃんと感情があるんかなって思ったわけ」
死んだような顔…か
たしかにそうだったかもしれない
もし一人で逃げ出して、ランシアと会わなかったら…いや、それ以前にクリスとも会えていなかったら僕は本当に死んでいたかもしれない
「僕だって怒るし、笑うし、悲しむよ。でも、ありがとう。テント一緒に使おう」
クリスやランシアに出会えたことは感謝しなきゃ
そのためにはいつまでも落ち込んでいてはいけない
そう思い、僕はまた一つ夜を乗り越える