クリスの想い
「残念ね、あなたたちの求めるティルキスのご子息はもうここにいませんけど?」
ひとまず、アラン君を地下に逃がした私は軍の人間に向き直った
「ほう、いい度胸だ。それが王国軍に対する反逆だと思わないのか?」
「たとえ、王国に逆らおうとも…」
私はセルカディアの像の目の前に向かって歩き、もう一度軍の方に向く
「セルカディアの意に従うまでですから」
少し切なく、でも自分のしていることに間違いはないと胸を張って言い放つ
すると、軍の後方から、別の年老いた尼僧の声が響いた
「クリスさん、その者たちに逆らってはいけません!先ほど、僧が何人も刺されてしまいました…」
衝撃的な発言に、クリスは少し気が揺らぐ
「なんて野蛮なことを…どうやらあなた方はオルウェイでの反乱を止めるために、人々を殺め、多く血を見過ぎてしまったようですね。きっと、セルカディアも嘆くでしょうね」
私は像に触れ、軍の人間を憐れんだ
神ではない、実際の人間、セルカディアは多くの功績を遺してくれた
それなのに、争いは止まらない
人間は人を救うことも、殺せることも出来る
ならば、どうして人は慈善の限りを尽くさないのかと、悲しくなる
「すまんなお嬢さん、俺らは死人のしたことは信じない性質だからな」
そう言って、軍の人間は私の首元に刃を向けてきた
「さあ、ティルキスのガキはどこに行ったか、吐け!」
「ここで吐いてしまえば、私が今まで生きてきた意味、この教会に尽くした意味が失われてしまうでしょう?」
私は、決して皮肉ではなく、自分の人生を振り返るように、後悔の無いように、優しげに、海を見るような静かな表情で軍の人間にそう伝えた
これが、私の発する最後の言葉だと確信して