逃走劇・2
「付いてくるって、そんなダメだよ!」
「なんでそう否定すんだよ」
素性も知れぬ人と行動を共にすることは出来ないし、そもそも、そんな人を危ない目に晒すわけにはいかない
「だって、僕、軍に追われているんだよ!?理由はわからないけれど…だからそんな危ないことに君を巻き込むわけないはいかないよ。ただでさえ教会の人に迷惑をかけてしまったと言うのに…」
「軍ね、上等じゃん?俺さ、そういうハラハラすること、体験してみたかったんだよね。こんな退屈な街じゃそんなことも起きねえし」
どうやらこの人には何を言っても火に油みたいだ
僕は少しため息をついて、降参した
何を言っても火に油なのも理由だけど、その人は話半分で既に荷物の準備をしているからだ
「わかったよ。でも逃げるだけだから、危ないことはしないでよ?」
「わかってるって。んで、お前、名前は?」
「僕はアランだよ、君は?」
「俺はランシア。よろしくな」
僕より大きな手が、握手を求めてきた。
僕はそれに応え、お互いに向き合い、頷く。
ランシアの名の由来は『槍』にあるみたいで、小さな荷物とは不釣り合いの槍を背に提げランシアは歩き出した
「そういえば、お前って年いくつなんだよ」
「僕は16だよ。ランシアは?」
なんでも聞きたがる、好奇心旺盛なランシアの質問に僕はふと思い返した
(そういえば、クリスは僕に年齢とか、聞いてこなかった。きっと戦地になった街から僕の身の上を案じて深く事情を聞かず、自然と距離を取ってくれていたのかもしれない…)
「俺は18だ。とっくに学校出て仕事する年なんだろうけどさ、まともに学校に行ってなかった俺を雇いたがる奴なんていないし、なによりめんどくせえ」
暗い廊下に、ランシアの明るい声が響く
今の意気消沈した僕にとってランシアの賑やかさは、僅かばかりの助けになったかもしれない
************************
歩き続けると、廊下の終わりが見えてきた
今度はちゃんと正面に扉があり、開ける
埃臭さとも、不快な寒さともこれで決別できる、と期待を込めてドアノブを回した
************************
外には草原が辺り一面に広がっていた
どうやら街の外に出たみたいだ
淡紫の花々が爽やかな風に揺れ、久々に見る、街の外の自然の景色に僕はしばし時間を忘れた
「実はサンダリアは小高い丘に段階的に煉瓦を敷き詰めた街だから、地下から抜けるとこうやって街の下に出てくるんだぜ」
ランシアの説明が、時間を忘れかけた僕を現実に引き戻した
「んで、どうするんだよ、これから」
その質問がさらに僕に現実を認めさせる
「どうしよう、このままクリスや、教会の人を放っては置けないし」
でもだからといって街に戻ったらクリスの善意が無駄になってしまう
しばらく立ち尽くす二人を撫でるように風が通り過ぎた