表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/6

プロローグ 6

 昨日の一件からマキナは俺を変な目で見るようになった。原因が俺にありすぎて、文句の言いようがない。

 ……くそっ、マキナのことを考えたら思い出してしまった。

 マキナの成長途上ではあるが健康的で白く艶やかな姿を……思い出したなんて言ったらマキナに殺されるから黙っておこう。

 いくらマキナに忘れろと言われてもあの光景は健全な男子高校生には眩しすぎる。

 おかげで今日はどんな白を見たってくすんで見えるし、柔らかいパンを掴んだだけで胸の感触を思い出してしまう。きっと桃なんて見たらマキナの形のいい小振りなお尻を思い出して顔を真っ赤にするだろう。


「はあ……」


「どうしたマコト?」


「いや、何でもない」


 昼休み、今日は久しぶりにマキナと別々に昼飯を食べている。

 昨日のことを考えると妥当と言えば妥当か。しばらくは一緒にいるだけで思い出してしまいそうだ。いや、家に帰れば嫌でも顔を合わせるんだけどさ。

 叶多は不思議そうに俺の顔を覗き込むが、すぐに購買で買ってきた惣菜パンを食べ始めた。

 食欲がないからとりあえず昼飯は叶多のコロッケパンを1つ奪い取って食べる。


「あ! おい、それは俺のお気に入り」


「それは悪かったな、早く食わないお前が悪い」


「普通に考えたら好きなものは最後まで取っておくだろ!」


 お前の普通はな、俺は好きなものは最初に食べる派だ。

 半分食べて残っているコロッケを一口で食べきる、やっぱり惣菜パンは冷めているとあまり美味しくない。

 マキナの弁当か、学食の方が美味くていいな。マキナの弁当は叶多に怪しまれるからあまり堂々と食べたくないんだけど。


「それよりマコト。お前、午後の授業最近出ていないけど、大丈夫なのか?」


「ん? ああ、天草先生に頼まれていることをやっているからな」


「神野さんと一緒にか?」


「……そうだよ」


 あまりマキナの名前は出さないでほしい、昨日のことを思い出すから。

 とはいっても昨日のことを叶多に言うわけにもいかないから、我慢するしかない。

 言ったら多分殺される、マキナとマキナを慕う野郎(バカ)共に。


「マコト、顔赤いぞ? 風邪か?」


「いや……何でもない」


 あー……駄目だ。何でもないのに昨日のことを思い出してしまった。

 あれは健全なお年頃の男子にとっては刺激が強すぎるからな、マキナの肢体(からだ)は眩しすぎる。


「ところでさ、お前いつになったら放課後の戦争(ケンカ)に付き合ってくれるんだ?」


「永遠に付き合う気はない」


「いいから付き合えよ、俺とお前の仲だろ」


「知らねえよ、俺とお前の仲だからって、やる必要はないだろ」


「なあ、やろうぜ」


「やらねえよ」


「やらないのかよ」


「やらないに決まっているだろ」


「お前とやる気はない」


「何の話をしているんですか」


 ふとそんな声に振り向くと、いつも通り和惣菜の定食を持ったマキナが、少し気まずそうに立っていた。


「別に、叶多が戦争ケンカに出ろってうるさいだけだよ」


「ちょっと今回はお前の実力が必要なんだ」


「的としてか?」


「馬鹿、戦力としてだよ」


「俺を戦力に換算するな。今の俺の実力じゃお前たち、負けるぞ」


 叶多だけじゃなく、マキナにも一緒に言う。

 そろそろ俺が戦いたくないってわかってくれればいいのに。


「なあマコト、前から言っているけどさ、お前の実力は俺が保証する。お前は立派に戦力になるんだって」


「気休めはいい、というよりも、俺を戦力にするな」


「だって、なあ。マコトは十分強いし」


「そうですよね、多分、この学年でも強い方なんじゃないですか?」


 そんなわけないだろ。

 俺は弱い。弱いに決まっているんだ。

 技術だってマキナみたいにうまく戦えるわけじゃないし、叶多みたいに立ち回ることもできない。

 俺だけの強みなんて、光輝を使えるってことくらいだ。

 だけどその光輝もライフル以外に旨味の無い、普通よりも少し強いだけのCAだからな。


「ていうかマコト、あのライフル俺に使わせろ」


「絶対嫌だ」


「えー、撃たせろよあの火力」


「黙れトリガーハッピーめ」


 ちなみにあのライフル、火力は凄まじいが、別に珍しい威力じゃない。

 世界大会ともなればあの火力の武器が普通に溢れている。

 じゃあ何が凄いのか。

 それは連射性能だ。

 もちろん普通のライフルみたいにガンガン撃てるわけじゃない。

 だけどあの威力の武器は、大抵一試合で1回の射撃が限度だ。

 理由はCAの構造にある。

 CAは背中に積まれているバッテリーで稼働する。

 バッテリーの容量の問題で大抵は2回、だけどその後の戦闘もあるから1回の射撃が限度になる。

 だけど俺の使うメガバスターライフルは違う。カートリッジによってエネルギーを賄うから、カートリッジという数的な制約はあるが実質無制限に撃つことができる。


「それに仮にお前にライフルを貸したとしても、叶多じゃ絶対に撃てない」


「どうしてだよ?」


「あのライフルはセキュリティが半端じゃない。俺じゃないと撃てないからな」


 メガバスターライフルは、親父が俺以外の奴に使えないように、複雑な認証システムを施してある。

 そのシステムは光輝と連動していて、網膜に虹彩、顔や耳の形の他に全指の指紋や毛細血管、脈のリズムや声紋、他にもあった気がするが、とにかく複数の生体認証システムによって俺だけを識別して起動できるようになっている。

 光輝自体にも同じようなシステムが使われているが、これほど複雑なものではない。


「それよりもマキナ、大会に出たいなら叶多と組めばいいんじゃないか?」


「大会って、CAバトルのか?」


「宙野君とですか?」


「そうだ。叶多なら、俺よりも実力があるし、何よりもバトルが大好きだ。意欲がゼロの俺なんかよりもよっぽど確実だぞ」


「でも、私はシン君と出たいんです」


「……どうしてだ?」


「シン君は、宙野君よりも強いからです」


「神野さん、それはちょっと傷つくぜ」


「でも、事実じゃないですか」


「うぐ……言い返せない」


 おいおい、どうして俺が叶多よりも強いんだよ。

 どう考えたって叶多の方が戦績があるし、放課後に戦争(ケンカ)しているから場数だって踏んでいるはずだぞ。

 ていうか、俺が参加しているバトルは大抵叶多が出ているんだから比較は簡単だろ。それをどう間違えたら俺が強いことになるんだよ。


「それに、シン君の勝率は宙野君よりも高いじゃないですか」


「それは俺の場数が少ないだけだ。数字は嘘をつかないのは事実だが、数字に惑わされちゃ駄目だ」


 これは俺の尊敬していた人の受け売りだけど。


「それなら、なおさらシン君は叶多君よりも強いことになりませんか?」


「……とにかく、俺を大会に、バトルに誘うな。授業なら嫌でも受けるけど、自分からバトルに関わりたくない…………もうすぐ昼休み終わる、先に行くぞマキナ」


「え? あ、はい」


 まだ昼飯を食べ終えていない2人を置いて、俺は食堂を出た。

 俺は戦いたくない、戦いたくないんだ。

 叶多よりも強いかと言われたら、最初は強かったと思う。現に初めて叶多と戦ったときは普通に勝ってしまったから。

 だけど、叶多はこの1年でかなり強くなった。

 俺が戦いたくないっていって戦いから遠ざかっていたのに対して、叶多は積極的に戦っていた。この経験の差は大きいだろう。


「あら、長谷川。ちょうどよかったわ」


 鍵を受け取りに職員室に入ろうとしたら、ちょうど出てきた天草先生と出くわした。ちょうどいい、何のことだ?


「鍵を受け取りに来ましたよ」


「今日は別のことをしてもらうわ」


「何です?」


「演習よ」


「……サボります」


「文句は許されないわよ、授業であなたは戦うのだから」


「誰とです? 言っておきますけど、俺の実力は先生も知っている通りそれほど強くないですからね」


「それは行ってからのお楽しみ、と言いたいところだけど、一応規則だから教えるわね」


 先生が言う規則というのは、授業でCAバトルを行う場合には、前もって対戦相手の情報を公開するというものだ。

 普段は校内の掲示板に映し出されるのだが、休憩時間に見たときは無かったから急に決まったのだろう。


「あなたは1人でドローンと戦ってもらうわ、それを中等部の生徒たちに披露するの」


「嫌です」


「ちなみに高等部からの入学希望者も来るわ」


「話を聞けよ」


「あなたが出ればこの1年の成績を保証してもいいわよ」


「実技の成績は大丈夫のはずですけど?」


「実技だけじゃないわ、一般科目もよ」


「……いいのかよ、ただの演習1回で」


「もちろん、あなたが出ればの話だけど」


 正直、成績の保証はありがたい。

 最低限出ている実技はともかく、得意とはいえない一般科目まで保証してもらえるのは嬉しい。


「わかった。出ますよ。1つ貸しですからね」


「ええ、いいわ」


 こうして、俺は正直やりたくはないのだが、後輩たちの前で演習をすることになった。


「シン君」


「ん? マキナか」


 今日の予定が変わったことを食堂に伝えに行こうとしたら、ちょうど良くマキナがいた。


「聞いていただろ、今日の作業は中止。変わりに俺は後輩に戦闘を見せることになった」


「うー、何で私の時は断ったのに先生のは受けちゃうんですか?」


「仕方ないだろ、あれは授業だし、参加すれば俺の成績が保証される。正直、俺はあんまり一般科目の成績がよくないからな」


「授業なら、出てくれるんですね?」


「強制だったらな、できれば普通の練習はサボりたい」


「じゃあ、今度誰かを相手にして模擬戦をしましょう。もちろん授業なら受けてくれますよね?」


「嫌だ」


「どうしてですか?」


「それは強制じゃないだろ。それに対戦相手にでも選ばれない限り、挑戦者側は基本的に全員の同意が必要になる。どうしても俺を練習試合に参加させたいなら、相手に頼んで対戦相手にしてもらうか、俺を対戦相手に選んで、戦うかのどちらかだな」


「じゃあ、そうします。今度宙野君に頼んで私たちと対戦してもらいましょう」


「勘弁してくれよ……」


 それからマキナと別れて更衣室に向かい、体操着に着替えて会場に向かう。

 会場であるドームにはまだ人がまばらで、後輩たちはまだ来ていなかった。

 ちょうどいい。今のうちに準備をして体を暖めておこう。

 CAの装着は……みんな来てからの方がいいだろう。好きなやつにはヒーローものの変身シーンに見えて良いらしい。

 ……それよりも、ついこの間試験でドローンと戦ったばかりなのに、また戦うことになるのか。正直言って面倒だ。だからといって対人戦をしたいのかというわけではない。できることなら戦いたくない。それが本音だ。

 軽く動いて体を暖めているとぞろぞろと中等部の制服を着たやつらが入ってきた。なかには違う学校の制服を着ているのもいる。


『今からCAの戦闘を見せるわ。戦うのはあなたたちの1つ先輩よ』


 その言葉に観衆の注目が一気に集まる。

 あーあ、こんなに注目されるならやらなければよかった。


『そして、あなたたちが来年から着けることになるCA、それがこれよ』


 そんな先生の言葉を合図に一般モデルのCAを装着する。できれば光輝は使いたくない。

 装着が完了すると同時に「おお」という歓声が聞こえた。


『彼にこれから戦ってもらうのはターゲットドローンといって、主に試験や訓練で戦うものよ。それほど強くないし、彼には物足りないかもしれないね』


 いや、どんなCAを使おうとも俺には面倒くさいですって。期末試験の設定よりも弱ければ問題は無いけどさ。

 ドローンが量子展開される。数は8。先生、1人で片付けるにはいささか多い気がするんですけど。

 文句を言っても何もなるわけじゃないから、とりあえず武器を構えて臨戦態勢、ビームピストルをいつでも撃てるようにする。


『それじゃあ、始めるわね』


 そんな先生の合図で俺は動き出す。

 とはいってもすぐに攻撃するほど慌てる必要はない。ドローンも見せるために弱く設定されてあるだろうからそうそう攻撃はしてこないだろう。

 なんて思っていた矢先、ドローンの一体が俺に向けてビームの弾丸を撃ってきた1発ではなく、何発も。

 慌てて回避するが、俺を追いかけて撃ってくる。

 力負けしないように撃ち返したいのだが、どうにも弾幕が濃すぎてタイミングを逃してしまう。

 手加減無しかよ、これじゃあ期末試験の方が楽だったぞ。

 それでもこのままってわけにはいかないから、無理矢理出て撃ち返す。

 何発か撃ったから1発はあたるだろう。案の定1発が吸い込まれるようにあたる……はずだった。

 あたりそうになったドローンはタイミング良く動いてこちらの攻撃を回避した。

 そのままドローンたちは一斉に動き出していた。ちくしょう、タイミングを誤ったか。

 別れたドローンの1機を追いかける。ばらばらに動いているなら1機ずつ片付けるだけだ。

 ピストルをサーベルに持ちかえて接近上段から叩きつけようとしたのだが、


『An enemy be cautious in 1 plane and an attack from the back( 背後から敵が1機、攻撃に警戒してください)』


 CAからの警告通りにビームの弾丸がとんでくる。背後からの奇襲によって俺の思惑は外されてしまった。


『Watch the circumference, it's circled( 周辺警戒、囲まれています)』


「マジかよ……」


 囲まれたせいで逃げ道がない。頭の中では警報が鳴りっぱなしでうるさくてたまらない。

 早く何とかしたいのだが、どうにも決定打を持っていないこのCAじゃあ打開が難しそうだ。先生め、俺の実力を勘違いしているだろ。おそらくこれは2年生が使うタイプのAIだ。それをもうすぐ学年が上がるからって俺みたいな落ちこぼれの1年に使うなんてどうかしている。


「とりあえず隠れて様子を見る。一番安全な場所までナビゲートしろ」


『Search..., there are no places where... is safe(検索中……安全な場所はありません)』


「なら近くで敵の攻撃を6割以上回避できる場所だ。無ければ確率を落としてもいい」


『Re-search..., there is no....(再検索中……ありません)』


「……一番安全な場所の確率は?」


『38%』


「そこでいい、少しでも安全な場所を通るようにしてナビゲートしろ」


 再び隠れて様子をうかがう。

 だけどこれは時間稼ぎでしかないだろう。

 上級生用の思考ルーチンならばきっと場所を変えて俺を狙ってくるはず。

 だけど俺にはそれしか方法がないから、頭の中に流れ込んでくる移動ルートに従って、敵の攻撃を避けながら指定された場所まで移動する。

 指定された場所についたのだが、そこで提示された確率は13%。おいおい、さっきよりもかなり下がっているじゃないか。

 しかも壁際ぎりぎりに来てしまった。確かに背後からの攻撃は防げるけど、これじゃあ回避が難しい。


「次だ、安全なのは右か? 左か?」


『 The right is safe only 1%(1%右が安全です)』


 それなら、右に行くようなフェイントをいれながら左に回避する。瞬間恐ろしいほどの弾幕が右側に襲いかかってきた。

 人工知能に頼った回避まで防いでくるとか、強すぎるだろドローンのAI。

 このまま避けて避けて避けまくって反撃のチャンスを狙いたいのだが、このままだと俺の体力が尽きるのが先だろう。

 どうにかして打開策を考えないと。


「今、CAを解除したとして、何秒なら攻撃が来ない?」


『 It can't be recommended to take off 0% and our machine(0秒です。当機の解除は推奨できません)』


「だろうと思った」


 そんな注意を受けている間にも攻撃がとんでくる。確かに、この弾幕の中、視覚情報の強化を解除するなんて死にに行くようなものだ。

 光輝のライフルを使いたいのだが、我慢するしかない。

 天草先生め、最初からこのつもりでやっているな。だったら最初から言えよ、断るから。

 後輩たちがどんな様子で見ているのか確認したいのだが、そんな余裕はない。

 ドローンは前衛と後衛に分かれて射撃を繰り返す。前衛は構わず連射、俺の逃げ道をなくし、後衛が少しでも安全な場所を潰してくる。止まってしまえばそこに後衛からの的確な射撃がとんでくるから結局動くしかない。

 叶多かマキナでもいれば話は違うんだけどな、会場にいないやつのことを話しても仕方がない。

 とりあえ攻撃の隙を見つけないとな。

 滑り込むようにして障害物の陰から別の障害物へと移動する。

 一瞬、弾丸が足先を掠めたがダメージ判定は無し、助かった。

 さて、ここからどうやって倒すか。


「おい、今CAを解除したら被弾する確率は?」


『It's 34%. Release of our machine isn't recommended here.

(34%です。ここでの解除は推奨されません)』


「わかった、解除する」


『It's dangerous, please cancel to release, dange……(危険です、解除を中止して下さい、危険で…………)』


 忠告を無視してCAを解除する。

 そして光輝を装備する。後輩ども、これは真似するなよ。


『起動を確認。指示をどうぞ』


「ライフルの準備、それと、確実に敵を制圧できる射線の確保。それとその場合、カートリッジは何発使うか」


『了解しました。選定を行います。選定には時間を要します』


「早めに頼む」


 AIの支援が受けられない間、自力で安全なルートを考えて逃げ回る。

 弾丸がガンガンととんでくる中を強引に抜け、少しでも弾幕の密度が少ない方向を選んで攻撃を回避する。

 だけどまあ、かなり優秀なAIに少しずつ追い詰められていくわけで、致命打は無いものの着実にダメージを負っていった。

 ゲージで表されている俺の体力は半分どころか限界ギリギリを示していた。


『選定完了しました』


「遅せえよ」


『座標を指定します。ルートに従って移動し、ライフルを展開してください』


「成功確率は?」


 無論そんな確率に意味などない。 

 結局、突き詰めると成功か失敗かの二択しか存在しないのだから。


『28%です。成功確率の上昇には敵機の破壊が必要不可欠となります』


「それなら座標までの一番安全なルートを選定し続けろ。そしてその座標を常に出し続けろ」


 光輝から示されるルートに従い、時に危険そうだったら別の道を選びながら座標へと向かう。


『前方に敵機1。回避してください』


 目の前には、ライフルを構えたドローンが1機。

 回避? いや違う、ここは戦うべきだ。

 腰背部に架けられているビームサーベルを抜くと、床を蹴って右側に大きく回り込む。普通なら壁側に回り込むようなことはありえないのだが、今回ばかりはそうもいってられない。

 ライフルの死角になるように回り込むと、案の定ドローンは俺を狙うために向き直る。

 その隙が俺にとって最大のチャンスになる。サーベルでドローンを殴り飛ばす。

 撃墜判定が出たドローンは壁に激突して停止した。今回は再び起き上がることはないだろう。


『危険です。次回からは指示に従ってください』


「いいから座標を出せ、ノロマ」


『……自己診断中………処理速度の低下はありません』


「そういう意味じゃねえよ」


 本当にこのAI、返答のバリエーションが多すぎて対応に困る。

 親父はこういうところにこだわりすぎだ。別に世界共通言語の英語だけで十分なのに、日本語で情報が入ってくるようになっている。

 今どき幼稚園児でも英語は喋られるだろうが。


『目的地に到着しました。ライフルを展開してください』


「………いや、駄目だ。ここじゃあ距離が短すぎて力場を貫通する。もう少し距離をとれる場所を探せ、最悪撃ち漏らしてもいい」


 この距離だとギリギリ力場を貫通する。そして俺の目の前には中等部の生徒たちが何も知らずにこの試合を観戦している。力場である程度減衰されるとはいえ、最悪怪我じゃ済まされないぞ。

 それにライフルの使用を提示したのは俺だけど、よく考えたら失明の危険もある。同級生(バカ)共はどうでもいいが、これから入ってくる新入生を下手に危険にさらす必要はない。


「………作戦変更だ、サーベルで敵を倒す。近い敵から片付けるぞ」


『作戦変更、了解しました。一番近い敵の座標を転送します』


 そう言われて送られてきた敵の位置は………背後!?

 慌てて振り返ると今にも撃ってきそうなドローンが1機。ライフルをかわすように右斜め前に大きく踏み込むと、すれすれを弾丸が掠めた。

 あ、危なかった。一瞬判断が遅れていたら撃墜判定が出ているところだった。

 そのままドローンに向かって踏み込んでサーベルで殴る。

 あと6機か。

 おそらく、ドローンは数が減ったことで墜とされないように思考パターンを変えてくるだろう。

 ここからはさらに面倒になるな。

 ……ったく、面倒は嫌いなのに。

 じゃあ負ければいいじゃないかと甘い誘惑が俺を誘うのだが、それは嫌だ。

 結局俺も叶多バカ側の人間なのかもしれない。負けたくないんだよ、どうせ戦うなら勝ちたいんだよ。

 とりあえず牽制目的でライフルを構えてみると、案の定ドローンは撃たせないように弾丸を撃ってくる。予想通りに予想以上の攻撃をしてくる。弾幕の密度が8機のときとほぼ同じってどういうことだよ。


「敵のパターンが変わってもやることは同じだ。データを転送し続けろ」


『了解しました』


 とはいっても体力は限界だから1発もあたることはできない。

 あたらなければどうということはないのだが、今の俺の技量でそんな芸当ができるものなのか。

 集中すればなんとかなるかもしれないが、そんな回避に集中したって結局攻撃できなければじり貧だ。かといって直感で回避するわけにもいかない。勘に頼ってあたってしまえば元も子もないからな。


『一番近い敵との相対距離算出。攻撃の成功確率は……』


「そんなもの2分の1でいい。どうせ命中率なんてあてにならない」


『敵機の体力を表示しますか?』


「やれ」


『了解しました』


 ドローンの上に緑色のゲージが表示される。どうせ一撃で倒すし、1発もあてていないから体力は満タンだろうけど。

 ますますゲームみたいになったな。おかげで緊張はなくなった。これはゲームだ。負けてもいいけど負けたくない。


『表示されている体力はあくまで参考値です。正確な情報の表示には中央端末へのアクセスが必要不可欠です』


「いらない、それよりも弾幕が薄くて、ドローンの懐に踏み込める場所を検索し続けろ」


『既に算出は完了しています』


 表示されたルートは3つ、それも攻撃の成功確率はほぼ同じ。平均は約34%ってところか。俺の技術を加味すると実質成功確率は20%前後だろう。

 それでも十分だ。少しでも成功する確率があるということは、2分の1で攻撃があたるということだ。

 一番右側にいるドローンに狙いを定め、距離を積めるように大きく踏み込む。

 弾幕がとんでくる間もなく一気にサーベルの距離へと近づいた。ドローンが応戦する間を与えずにサーベルで突き刺した。

 突き刺してもビームは刺さらないから、正確には突き立てたという方が適切か。

 とりあえずあと5機。まだ半分も減らしていないじゃないか。後輩ども、俺が特別弱いだけであって他のやつはそこそこ強いからな。間違っても幻滅したり、上級生を打ち負かそうとか思うんじゃないぞ。


「次だ、AIの上を行くぞ」


『敵機を飛び越えるのは危険です』


「そういう意味じゃねえよ」


 光輝のバカなAIは返答は多いのに例え話が通用しない。そのくらいは学習してくれよ、無理だろうけどさ。

 そんなとんちんかんな返答をしながらも仕事だけはきっちりとやってくれるこのAI。だから俺は文句が言えない。言いまくっているけど。

 先程から攻撃を受けないためにも動きまくっているのだが、どうもいまいち安全な攻撃パターンが転送されてこない。というよりはドローンが意図的に攻撃させないように動いているみたいだ。

 考えすぎだとは思うのだが、上級生用のものとは戦ったことがないからどういう動きをするのか、自分はどういう動きをしていいのかがわからない。

 ドローン自体は俺たちが戦っているものと全く変わりがない。一撃一撃は鋭く的確でも、行動自体は同じはず。だったら次の動きは予測しやすいか?

 いや、安易な考えはまずいだろう。だけど俺にはそれ以外に付け入る隙はない。


「おい、過去のドローンとの戦闘データと今現在戦っているドローンとの行動パターンの照合をしろ。弾幕の濃さや攻撃の正確さは対象に入れるな」


『了解しました』


「少し予測の精度を落としてもいい。早めに照合を完了させろ」


『照合に入ります』


 さて、俺はこれから光輝のサポートがほぼ受けられない状態で攻撃を避けなければいけない。

 避けきれるのか? いや、避けなければいけない。

 だからさ……、

 この戦い、勝ってやるよ。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ