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プロローグ 5


 お、終わった……。

 最後のカードを取り出してケースにしまって、ようやく仕事が終わった。

 長かった、本当に長かった。

 薄暗い部屋で、同じ体勢で見ていたせいか、目がチカチカして、体中がガチガチだ。

 ようやくこの面倒な作業から解放される。


「よし、天草先生に鍵を返したらさっさと帰るぞ」


「そうですね、明日からもあるんですもんね」


「は? 何言ってるんだ。この作業は終わりに決まっているだろ」


「シン君こそ何言っているんですか。まだ予選の映像しか見ていませんよ」


「……え?」


「地方大会や全国大会の映像はまだ見ていません。明日からはそっちを見ますよ」


「いや、だってリストはこれで終わり……げ」


 よく見ると画面はスクロールできる。

 下にいってみると、同じような項目がびっしりと並んでいた。

 しまった。

 いちいち切り替わるのが面倒だからって画面をロックしていたのが仇になった。


「マジかよ……」


「それじゃあ、明日からも頑張りましょう」


「ああ、やってやるよ。ちくしょう……」


 鍵を先生に返して、またマキナから鞄を引ったくって帰る……つもりだったけど、今日は少し早いからすぐに帰るのはやめた。


「マキナ、寄り道していくぞ」


「どこにですか?」


「それは……行ってから考える」


 とりあえずどこに行くか迷ったら、商店街に行けばいい。あそこなら、何でも大抵あるからな。

 学校近くの商店街は近くに特に大きな量販店があるわけでもないから寂れているわけでも、特に大きなイベントがあるわけでもないから繁盛しているわけでもない。いわゆる普通の商店街だ。

 ただひとつ言えるのは、この商店街は無駄に広い……と思う。近くには駅があり、俺たちがよく使うバス停もある。そしてカラオケボックスに全国的に展開しているファストフード店もある。それに俺は使わないけどホビーショップや模型店もあるから暇潰しには困らない。どこに行こうか目移りしてしまいそうだ。

 でも、俺にとって寄り道といったらやっぱりここしかない。


「ここ、ですか?」


 きょろきょろと商店街を見渡していたマキナ。まさかこの商店街に来たことが無いのか?


「ああ、ここだ」


 久し振りに来たな、ゲーセン。

 ここにはマキナが来てからは行っていなかったから、だいたい1ヶ月か2ヶ月ぶりか。

 なぜかマキナは俺の服を掴んで縮こまっている。


「本当に入るんですか?」


「ああ」


「うぅ……学校帰りに寄り道して、こんなところに入るなんて、不良の仲間入りです」


「大げさだなあマキナは。別にここに入ったからって不良になれるわけないだろ」


「本当……ですか?」


「そしたら毎月通っていた俺は悪名高い不良の親玉になっているだろ。戦争ケンカの無い日は大抵来ている叶多なんて総長だよ」


 いまだに後ろでビクビクとしているマキナを半ば引きずるような形でゲーセンへと連れ込んだ。

 大音量で流れてくる音楽に一瞬びくっとしたマキナだが、次の瞬間、まるで夢の世界に来た子供のように瞳を輝かせた。


「わあ……凄いです、音が大きいけど凄いです!」


「だろ?」


「シン君シン君、あれは何ですか? あっちも、あっちも!」


 マキナは周囲を見渡しながら、気になった筐体を指差した。

 ヤバい、いつもは大人びたマキナがこんなにも子供っぽい仕草をするだけで、目茶苦茶可愛く見える。

 いや、普段も十分に可愛いんだけど、なんか違う可愛さがある。


「あれはクレーンゲームだ、欲しい景品が無ければむやみにやらない方がいい。金だけ持っていかれるからな。あっちは俗に言うリズムゲームだな。画面に合わせてボタンを押したりするやつだ」


「面白そうです。シン君、やってみましょう!」


 ぴょんぴょんと跳ねるようにしてクレーンゲームに近寄るマキナ。ガラスに息がかかるくらいべったりと張りついて、景品を探している。


「シン君、あれです。あれが欲しいです」


「ん、どれだ……」


「あのもふもふ、可愛いです!」


 マキナが数ある景品の中から指差したのは、有名なキャラクターではなく、毛むくじゃらの塊みたいな巨大なぬいぐるみ。可愛いか? あれ。


「どうやるんですか? 早くしないと無くなっちゃいます!!」


「マキナ落ち着け、あのぬいぐるみは簡単に取られはしない」


 大きさはざっと縦30㎝、奥行き15㎝といったところだろうか。

 引っかけられるアームの大きさからして、引っ張って取るのは難しいだろう。かといって掴むにもクレーンの力はそんなに強くないから、手に入れるのは困難を極めるだろう。

 それからマキナにやり方をレクチャーしたのはいいのだが、やはり初心者の付け焼き刃で大物が取れるはずもなく、30回ほどやったところでマキナはギブアップした。たかがぬいぐるみ1つに金をつぎ込みすぎだ。何回か惜しいときもあったが、その度にマキナがバンバンと筐体を叩くから、その振動でアームに引っ掻けていたぬいぐるみが落ちてしまう。そしてマキナ、筐体を叩くのはマナー違反だぞ。おかげで店員さんからものすごい形相で睨まれてしまったじゃないか。

 マキナはしょんぼりとした仕草で未練たらたらに筐体を見てから、とぼとぼとクレーンゲームの前を後にした。

 仕方ない、ゲーセンに嫌な思い出を残されても困るしな。

 携帯をパネルにかざして入金、欲しい景品を絞り込む。あの大物は俺も無理だ、巨大な景品なんてとれたためしがない。だけど、その近くにある小さいぬいぐるみなら……。


「ほら、マキナ」


「え……?」


 結構な額をつぎ込んでしまって、ベンチに座って落ち込んでいるマキナに小さな毛むくじゃらの塊、もといキーホルダーを差し出した。

 かく言う俺も苦戦して結構な額をつぎ込んでしまったが、マキナに比べたら僅かなものだろう。

 マキナはわあと口を広げて俺からぬいぐるみを受け取った。


「今度さ、まだぬいぐるみがあったら挑戦しような」


「……はい、ありがとうございます!」


 マキナはキーホルダーを大事そうに握りしめた。

 やっぱり、マキナは笑っていた方が可愛いよ……何思っているんだよ俺は。


「次はあれがやってみたいです」


「よし、とことん付き合ってやるよ」


 ただし、携帯の中身が空っぽにならない程度にな……無理だと思うけど。

 マキナはすぐにやりたいゲームを見つけると、その筐体に向けてスキップのようなステップで跳ねていった。

 俺はまるで初めて遊園地に来た子供を見守る親のような気分だ。


「シン君、これはどうやるのですか?」


「ああ、これはリズムゲームだな。画面の表示に従って画面をなぞるんだ。やるか?」


「はい、やってみたいです」


 まずは簡単なのと俺がいつも聞いている曲を選択してマキナが挑戦してみたのだが、


「え……? え! はいっ! やっ」


 下手くそすぎる。壊滅的にリズムがとれていないし、無駄に力が入りすぎていて全然曲に追いついていない。

 簡単とはいえこの曲はマキナにとっては難しかったか?


「…………もう一回! もう一回やります」


「やめておけマキナ、どう考えても泥沼にはまるだけだ……ていうか、ゲームの選択ミスだな。このゲームの難易度はかなり高いって有名だったのを忘れていた。初心者にはこっちの方が簡単だ」


 未だに未練たらたらなマキナを引っ張って、別のリズムゲームの筐体に向かった。

 これは本当に簡単だし、ボタンを押すだけだ。

 それに何よりも、


「マキナ、今度は協力プレイだ。手伝ってくれ」


 このゲームは2人で協力して楽しむことができるものだ。

 しかも操作するのは2人で1つの譜面だから、どちらかがミスをしてもどちらかがカバーできる。

 これならマキナでも楽しめるし、見ていてヒヤヒヤすることはないだろう……多分。


「え、でも……」


「ゲーセンなんて楽しんだもん勝ちだ。とことん付き合うって決めたんだから、少しは楽しませろ」


「そうですね……はい!」


 マキナは少し悩んでから、何か吹っ切れたかのようにいい笑顔だ。

 できればゲーセンの中ではその笑顔でいてくれ。俺の精神衛生上いいから。

 とりあえず入金して、また楽曲を選ぶ。リベンジも兼ねてさっきと同じ曲を選んだ。

 マキナがそれを見て少しびびって尻込みしたが、大丈夫だ。この曲は俺が何度もやっている曲だからな。全部とはいかなくてもリズムは覚えている。

 軽快なリズムとともに流れてくる星が中央に来るタイミングでボタンを押す。隣では相変わらずマキナが苦戦しているが、こっちでフォローすれば問題ないだろ。


「肩の力を抜け。これはゲームだ、遊びだ、完璧じゃなくていい。とにかく楽しめ」


「と、言われましても、難しいです……!」


 だけどまあ、リズム感の無いマキナは俺よりもワンテンポ以上遅れてボタンを押している。しかも無駄に力強くがちゃがちゃと、下手をすると筐体を壊してしまうんじゃないかという勢いだ。

 これじゃあ判定以前の問題だ。壊れそうで怖いし。


「じゃあ画面を見るな、俺のリズムに合わせろ」


 こうなれば最終手段だ。画面に会わせてボタンを押すというゲームの趣旨を本気で無視した作戦。

 全力でこのゲームを楽しんでいる人からは大ブーイングを受けそうだけど、恨むならマキナのゲームセンスの無さにしてくれ。


「は、はい!」


 マキナの視線を感じながら、ボタンを押す。

 そのタイミングでマキナもボタンを押すからタイミングはほぼ同時で、さっきまでとは段違いのスピードでスコアが加算されていった。

 このゲーム、目標点が1人でも達成できるようにかなり低く設定されているのに、2人でも同じ目標点だから、2人だととても簡単に、しかも2人で同時にボタンを押すとボーナスで更に得点が入るから、最終スコアがインフレ気味に上がってしまっている。

 1人でのハイスコアは12万点程度だが、2人のハイスコアは100万点に追い付く勢いだ。

 さっきまではリズム感ゼロだったマキナだが、俺のタイミングに合わせることで高得点を弾き出している。

 最初会ったときは協調性の無い暴走女だと思っていたけど、本当は違う、空気を読むことはできなくても、相手の呼吸に合わせられる凄いやつだったんだな。


「……よし、こんなもんだな」


 点数を確認すると……68万点。妥当な点数だな。

 言い方は悪いが、最初にマキナが足を引っ張っていたせいで全然得点が延びていない。

 まあ、初心者のマキナに高得点を求める時点で間違っているけど。


「どうする? もう一回やるか?」


「もうリズムゲームはいいです、十分楽しめましたから。次は……あれをやりたいです」


 それから、レースゲームやパズルゲームを携帯の中身が空っぽになるほどに全力で楽しんだ俺たちは、半ば後悔しながらも満足してゲーセンを後にした。


「ちょっと使いすぎちゃいましたね」


「だな。でも、ゲーセン楽しかっただろ」


「はい!」


 マキナが良い笑顔で返事をする。その顔がドキッとするくらい可愛くて、ついときめいてしまった。

 くそっ……反則じゃねえか。


「ふふっ……」


 マキナは何がご機嫌なんだか、キーホルダーを握りしめたまま微笑んでいる。たぶん、気づいてないだろうけど鼻唄までしちゃってさ。


「バスの時間は、あと一時間くらいあるか……」


「そうですね。どうしましょう」


「……歩くか」


「歩くんですか?」


「寒いよな」


「ですね」


「じゃあ、どうする?」


「お金は……無いです」


「じゃあ……」


「……歩くしかないですね」


 辺りは薄暗く、雪もちらちらと降っているから寒い。温かい飲み物が恋しいぜ。

 携帯の残高を見てみても、よかった。コーヒー一本くらいなら買える。

 ちょうどよく自販機を見つけて飲み物を選ぼうとしたけれど、そこで気づいた。マキナが隣にいるんだった。


「マキナ、飲み物買えるか?」


 ふるふると首を横に振るマキナ。

 仕方ない。

 お茶を選んで自販機から取り出すと、


「ほら、マキナ」


 マキナにお茶を投げ渡した。

 マキナは慌ててお茶を受けとると、よくわからない顔できょとんとしている。


「これ、シン君のじゃ……」


「いいんだよ。寒いだろ、飲め」


 自分のやったことがとても恥ずかしくて、ついついぶっきらぼうに振る舞ってしまう。

 これで本当にすっからかんだ。


「じゃあ、後でお代を……」


「いらないよ、そのくらいなら」


「え、でも……」


「気にするな」


 またマキナから鞄を引ったくってさっさと帰り道を歩く。恥ずかしい、恥ずかしくて恥ずかしくてたまらない。

 やらなきゃよかったと後悔しているけれど、やらなきゃやらないで余計に後悔してしまいそうだ。

 マキナはその場に少し立ち止まっていたが、お茶を一口飲むと、小走りで俺に追い付いてきた。


「晩御飯、どうしましょうか?」


 周囲は薄暗いを通り越してもう夜のとばりが下りてしまっている。

 時計を確認すれば……もう早いときだと食べ終わっている時間じゃないか。


「そうだな、食ってくか」


「でも、お金なんて無いですよ? どこで食べるんですか?」


「安心しろマキナ。俺にはただで食べられるあてがあるんだ」


 と言ってついたのは、マンションのすぐ近くにある定食屋。もう閉まっているけど構いはしない。

 扉を手動で開けて中に入ると、


「悪いね、もう閉店なんだ。また明日来てよ」


 なんてがらの悪そうなオッサンが食器を洗いながら軽いノリで話しかけてきた。


「来たのが俺でも言うのかよ、大将」


「ん? なんだ、シンじゃねえか。どうしたんだ、最近顔を見せないで」


「ちょっと事情があってね」


「んで、隣の嬢ちゃんは何だ?」


 びくっと反応したマキナは少し警戒しながら俺の後ろに隠れて、


「は、初めまして。神野マキナと申します」


「おうおう、そんなかしこまることはねえよ。ほら、あれだろ。シンのこれ」


 って言って大将は小指を立てた。

 マキナはそれの意味がわからないのか、ちょこんと首を傾げた。


「違う違う。マキナとはそんな関係じゃないよ」


「隠すことはねえよ。シンが女連れてきて、その女を名前で呼ぶなんて、そりゃあもうれっきとした彼女じゃねえか」


「か、彼女!? ち、違いまひゅ。私とシン君がつっつつ付き合っているなんて」


 いつも思うが、噛むほど動揺することか、これ?


「いやあ、いねえいねえ。わかった、シンがしばらくうちに来なかったのは彼女の飯を食っているからだろ」


「…………まあ、理由は間違ってないな」


「お、意味深な発言だな」


「別に深い意味なんて無いよ」


「で、今日は何の用だい?」


「飯作るの面倒臭いし金無いからさ、何か作ってよ」


「仕方ねえなあ、今日はそっちの可愛い嬢ちゃんに免じて作ってやる」


「可愛いだなんて……その、ありがとうございます」


「適当に座って待ってな」


 既にテーブルの上にあげられている椅子を戻して座る。マキナも俺にならって対面するように座った。


「気さくな方ですね」


「だろ、最初にここに入ったときはカタギの店じゃないと思ってビクビクしたもんだぜ」


「聞こえてるぞシン、俺はまっとうな人間だ。そこらのヤクザと一緒にすんな」


「でもヤクザよりも恐いんだよな」


「なんだとぅ?」


 おお恐。それからしばらくして大将が運んできたのは俺にはちんまりとした焼き魚定食、マキナには……、


「おい、えこひいきじゃないのか?」


 今揚げたであろうコロッケの定食、俺のなんて焦げてるし、なんか冷めてる。きっと失敗したやつをそのまま乗せただけだろう。


「そりゃお前、お前みたいな普通の野郎と可愛い嬢ちゃんがいたらどっちをひいきする?」


「そりゃあまあ……だな」


「だろ?」


 何かうまく丸め込まれた気がするが、まあいい。とりあえず腹も減ったし、食べるとするか。


「食うぞマキナ」


「そうですね、いただきます」


「……いただきます」


「なんだ? いつもは言わねえシンが挨拶するとは、明日は雨でも降るんじゃねえか?」


「うるせえな大将、俺の勝手だろ?」


「おうおうガキがいきがっちゃって。さ、嬢ちゃん食べてくれ」


「はい。あ、シン君、このコロッケ半分食べてくれませんか? 私一人じゃ食べきれないんです」


「いいのか?」


「はい」


 マキナがほかほかのコロッケを半分に切り分けて俺の皿に乗せてくれる。


「おいおい、それは俺が嬢ちゃんのために揚げたやつだぞ」


「申し訳ありません、私一人じゃあまり食べられないんです」


「お、おう。調子狂うな」


 それから晩飯を食べ終えた俺とマキナは礼を言って出ようとしたのだが、


「礼なんていらねえ、いらねえ。どうせ余りもんだからな……ってか俺には明日の準備があるんだ。とっとと帰った帰った」


 なんて言われて店を追い出されてしまった。まあ、どうせいつものことか。

 日も落ちてからしばらくしているせいで寒い。肌を刺すような寒さではないけれど、寒いものは寒い。

 俺とマキナはそんな寒さから逃げるような早足で部屋へと戻った。


「ただいま」


「ただいま戻りました」


 部屋に戻ると、寒くて寒くてたまらない。まず真っ先に暖房を入れる。

 マキナは律儀に手を洗い、うがいをしてから寝室へ戻って着替えるが、俺はそんなこと面倒だから制服の上着を投げ捨てて、ネクタイを緩めるだけだ。

 腹いっぱいでそこそこに疲れたから、次第に暖かくなってきた部屋にいると眠くなってきた。

 ……無理だ、我慢の限界。マキナには悪いけど先に風呂入って寝よう。


「え……」


 脱衣場の扉を開くとそんな声が聞こえた。

 このとき、マズいと思ってはいたのだが、眠気が勝っていて正常な判断力を失ってしまっていた俺は、無意識で顔を上げてしまった。


「し、シン君……」


 その視界の先にあったのは、淡雪のように白く染み一つ無い、それでいて健康的な乙女の柔肌。とっさに両手とタオルで体を隠し、前屈みになっているせいで余計に扇情的なラインを醸し出していた。

 そんな白い肌とはうらはらに、整った顔は潤った果実のように真っ赤に染まっている。


「よ、ようマキナ」


 なんて冷静に返事をするけど、そんな余裕は全く無い。

 その美しくも神々しい肢体に見惚れてしまい、目が離せない。


「こっ、の……ヘンターイ!!」


 なんて言葉の後に声にならない悲鳴をあげながら……可愛らしい小ぶりなお尻が見えて、回し蹴り!?

 慌てて姿勢を低くして回避したのだが、そのままマキナはその綺麗なおみ足を持ち上げて……、


「シン君は……破廉恥ですっ!!」


 強烈なかかと落とし。

 破廉恥なのはお前の格好だよと心の中で毒づきながら、天井を見上げ、そのまま意識を失うことができればよかったものの、人間の体はそこまで脆いものじゃないわけで、むしろ痛みで意識は覚醒してしまっている。


「シン君の! エッチ! 変態! 破廉恥!」


 なんて俺に罵声を浴びせながらその足で顔を踏み潰すマキナ。こういうのが趣味なやつには嬉しくてたまらないんだろうけどさ、俺にはそんなアブノーマルな趣味はないから痛いだけでたまらない。

 とっさに顔を横にしたから、頬を蹴られるだけで済んでいるのだが、そのまま正面を向いていたら鼻を潰される勢いだった。いや、正面向いている方が目の保養には良いんだろうけどさ。


「悪い、俺が! 悪かったって!」


「そんなに! 私の! 裸が、見たいんですか!?」


 健全な男子高校生なら、誰でも見たいだろうよと口に出そうとして、引っ込めた。

 そんなこと言ったらマキナの怒りが更に爆発するだけだ。


「マキナ、落ち着け。これは、事故だ」


 とっさに伸ばした手が、偶然マキナの足を掴んだ。

 マキナはじたばたと抵抗するけれど、冷静さを失っている、さらに体を隠そうとしている分、力が入っていない。


「いいか、落ち着……け?」


 どうにかしてなだめようと、マキナの方を見た俺が間違いだった。

 見えた、見えてしまったよ。

 タオルという神秘のヴェールがはらりと落ちてマキナの白く美しい裸体が。恐らく星光うちの男子であれば一度は拝みたいであろうマキナの全身像が。


「落ち着けま……せ、ん……?」


 マキナも俺の様子に気づいたようで、ふと自分のことを見る。

 そして真っ赤な顔はさらに赤く紅く染まっていって、


「は、うぅ……あぁ……うぁ……」


「ま、マキナ?」


 マキナは壊れたプレーヤーのような声をあげながら物凄い馬鹿力で俺の手を振りほどき、


「し、シン君の……」


 両足をバネにして高く飛び上がり、


「待て! やめろ、話せばわかる!!」


「バカぁー!!」


 俺の顔めがけて全力で飛び込んできた。

 迫るマキナの両足、素早く両腕を交差させて防御の構え。

 顔への直撃だけはどうしても避けたかった俺は、無意識にその腕を跳ね上げたせいでマキナがバランスを崩して倒れてきた。


「痛ってえ……ん」


 マキナがバランスを崩して倒れてきたのはわかる。

 だから俺の上にマキナがいるのもわかる。


 Q.俺の顔にあたっているマシュマロのように柔らかく、そして温かいこの物体は何だ?


 そんなの……決まっているよな。

 女の子の体でそれに当てはまる部分なんて1つしかない。


 A.それはマキナの……、


「シン君……ど、どこ触っているんですか」


 もう1つQ.俺の手はどこを触っているんだ?


 腹の辺りにある瑞々しい桃のような物体を握っている俺の両手。

 その感触は手に吸い付くようでとても気持ちが良い。

 ああ、わかってしまった。


 A.マキナの小さくて可愛らしい、


「こっ、の……ヘンターイ!!」


 お尻と胸……、


 その後目の前に広がっていたのは、すべすべとしていたマキナの手のひらだった。

 神様、いったい俺が何をしたっていうんだよ……。



 




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