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-二章-[神社前]

制御室でシェイドが現れた頃、正体不明の敵に対面していた海藤と木原も、隊長の言葉を聞いて納得する。

だが、先ほどから海藤の調子が良くない。

おそらく先の戦闘が原因なのだろうが、このままでは――

と、そこで隊長から指示が入る。


『木原、海藤を今から制御室へと転送する。

お前の援護には私が回ることになるが、少し時間がかかる可能性があるのでそれまで耐えよ』


木原はその指示の意味をすぐに理解する。

VTR内では致命傷でも、一度現実に戻れば体力は全快するのだ。

確かにそうすることが一番無難な選択かもしれないが、海藤の回復を待ちながら二人で戦うというのは危険なのだろうか?

そんな木原の疑問を三嶋が予測していたかのように続ける。


『ちなみに海藤の回復を待つのは無駄だ。

高遠のセブンスヘヴンはそれによりダメージを受けた者の体力を徐々に蝕んでいく。

つまり、しばらく時間が経ったらどっちにしろ海藤はリタイアになるということだ』


そんな効果があったとは……

確かに海藤を見てみると、さっきまで八神と戦えるほど動いていたのに、もう立っているのも辛そうだ。

木原はそこまで知らなかったので、その三嶋の言葉で今のうちに海藤を現実世界に戻すべきだと判断する。


「分かりました、お願いします」


木原がそう返事をすると同時に、海藤の姿は跡形も無く消え去る。

さて、後は隊長がここに来るのを待つだけなのだが……


「流石に、大人しく待ってるわけにはいかないよね」


そう呟くと対するBLNを見据える。

三嶋がこちらに転移してくるまで、能力の全容が分からないBLNの相手を自分一人でしなければならない。


「さて、またせたね。

シェイドだっけ? ……覚悟してもらうよ」


木原はスッと目を細めて戦闘態勢に入る。


「へぇ、お姉さんが一人で僕の相手を?」


他のところにいる人間と全く同じ、黒づくめの青年は不敵に笑みを浮かべる。

木原は他のメンバーと比べてもほとんど無傷の状態。

相手がどれだけ強大かは分からないが、それでも負けるわけにはいかないと気合を入れなおす。

そして一歩踏み込み、軸足に力をかけると、


「僕の相手が一人で務まる――」


「どこ見て話してるの?」


木原はいつの間にかシェイドのすぐ後ろにいた。


「――!?」


咄嗟にその場から飛びのきShehaqimの一撃をかわすシェイド。


「……驚いたな、気配が全く読めなかったけど?」


「気配を読もうとしている限り、君に勝ち目はないよ」


ふと、シェイドは木原を見たが彼女の姿が霞んで見える。

不思議に思って目を凝らすも、確かにそこに彼女はいるのに、まるでいないように錯覚する。


「面白い……」


相手に不足はないと判断したのか、不敵な笑みを浮かべて懐から短刀を取り出し構える。

先に動いたのは木原の方だった。

相変わらずの存在感の無さでシェイドを翻弄する。

思わぬ方向から散弾が飛んでくるのをぎりぎりでかわしながら、


「チッ、存在が分からないってのは結構厄介なもんだね……」


一言呟き、見える範囲で木原の動きを追うシェイド。

だがシェイドにも持ち前の投影能力がある。

木原の姿を確認するとその場から姿を消し、瞬時に別の場所に姿を再形成した。


「なるほど、それが投影ね……。

どうやら、どちらが先に相手を捕まえるかで勝敗が決まりそうね」


木原は言った側からシェイドのすぐ後ろに回りこんで、銃口を背中に押し当てトリガーを引く。

が、直前でシェイドの姿は霧散して、木原のすぐ後ろで再形成される。

突き出された短刀をShehaqimの銃身で受け、再び距離を取る木原。

だが、その動きを読んで再びすぐ側でシェイドが姿を現す。


「気配を消す力も、目で追えれば何の問題も無い」


短刀を振りおろすシェイド。


「ま、確かにこの能力はどっちかというと奇襲に向いてるからね~」


その短刀を身をそらすことでかわすと同時にShehaqimを撃つ。

Shehaqimの散弾をまともに受けようとするのは無理だと判断し、その場から飛びのく。


「その得物は厄介だね、なかなか思うような近接戦闘ができないよ」


木原の得物は散弾を発射するショットガン。

散弾は発射されてから広範囲に銃弾が広がるので、迂闊に近づくと体に風穴を開けられかねない。


「なら簡単な話、遠距離からの攻撃に切り替えれば?」


木原は相手に遠距離の武器がないと知っていながら、あえてそういってみる。

その言葉にも動じずにシェイドは不敵な笑みを浮かべ、短刀を水平に構える。


「それは君も困るだろう?散弾銃は遠距離になるほど殺傷力は無いに等しいからね」


シェイドの突然の物言いに対して一瞬動きを止めるが、構わずShehaqimを構える。


「……へぇ、よく知ってるじゃない」


「しかも今となっては狩猟用がその大半を占める銃器として有名だ。

……君はこの場所に狩でも楽しみにきたのかな?」


クク、と笑い木原を挑発してくるシェイド。

だが、そんな安っぽい挑発に乗るほど彼女は単純ではない。


「意外とお喋りが好きみたいね。

私も喋るのは嫌いじゃないんだけど……アンタみたいなタイプは嫌いかな」


前言撤回。多少は乗ってるかもしれない。


「嫌いで結構。元々相容れないのさ、君らと僕では!」


シェイドは自らの隣に自分と全く同じ人物を作り上げる。

そして二人になったシェイドは別方向から木原に攻撃を仕掛けてくる。


「驚いた、投影にはそんな能力もあるんだ」


一人の攻撃を素早い身のこなしでかわし、もう一人の攻撃をShehaqimの銃身で受ける。

その隙に一撃目をかわされたシェイドが背後に接近する。

舌鼓を打って、木原は目の前にいるシェイドの短刀をまず弾き飛ばす。

そして休む間もなくその場で屈み、背後にいるシェイドの短刀による薙ぎ払いをかわす。


「やるじゃない――」


目の前のシェイドがその一言を言い終わる前にShehaqimを前方向けて発射。

それをサイドステップでかわすと、今度は背後のシェイドが短刀を垂直に振り下ろしてくる。

発砲したばかりの銃を即座に振り回して、その一撃を銃身で受け止める。


「いやぁ、男二人にモテるってのは辛いねぇ~」


苦笑いを浮かべた木原は、そのまま短刀を弾き飛ばすように銃身を振り上げ、その勢いを利用したバックステップで距離を取る。

と、その間にもう一人のシェイドが駆け寄ってきて、


「女性としては男に囲まれるというのは本望じゃないのかい?」


軽口を叩きながらも短刀を突き出してくる。

正確に顔面めがけて突き出された短刀は、微妙に回避が間に合わなかった木原の頬を掠めていく。

頬の切り口から滴る血液。


「まあ、たまにはそういうのもいいかもね。ただ――」


突き出された相手の右腕を咄嗟に掴んで引き寄せ、Shehaqimの銃口をその胸板に押し付ける。


「私にも男を選ぶ権利ってものがあるんだよ!」


散弾がバレルを滑走して発射される。

シェイドの体に突き刺さった弾丸はその体内で拡散し、数十発もの銃弾がシェイドの背中から抜けていく。

それと同時にホログラフィーが消えるように霧散する一体のシェイド。


「さって、これで一人撃破!」


だがそう思ったのも束の間、残ったもう一人のシェイドが新たに自分の分身を作り出していた。


「なにそれ、反則じゃない?」


しかめっ面でぼやきながらも気を取り直してShehaqimを構える。


「ククク、無駄無駄……

ひとりひとり倒していっても、こちらはいくらでも分身を作り出すことができるんだからね」


余裕な笑みを浮かべるシェイドだが、それには木原も不敵な笑みで答える。


「あ、そう。てことは一気に全員倒せばいいんだ?」


「君一人で果たしてそれができるかな?」


あくまで余裕な態度を崩さないシェイド。

それに対して木原はすっと目を細めると、


「……んじゃあ、ちょっと本気出しちゃおうかな」


今まで以上に木原の姿が認識できなくなる。


「……またそれか、同じことを何度やろうと――」


言うより早く木原の姿が一瞬ぶれたかと思うと、ひとりだったのが二人に、更に二人だったのが四人に増えていく。


「馬鹿な……これは、投影!?」


シェイドの顔から笑みが消え、木原の動きに対して警戒し始めた。


「惜しいな~。

これは残像って言うんだけどね、まあ一種の幻術みたいなものかな?」


シェイドの目の前に展開した八人の木原が一斉に口を開く。

おそらく八人のうちのどれかが本体なんだろうが、元々気配が無いためどれが本体かまるで分からない。


「さて、8対2になったけど…… この場合分が悪いのはどっちだろう?」


にっこりと笑ってとんでもないスピードで散開する八人の木原。

四人でひとりのシェイドを、更にもう一方のシェイドも四人の木原に囲まれる。


「Let's ShowTime!」


掛け声と共に八人の木原がShehaqimを構える。


「陽炎が作り出す幻影……君に見破れるかな?」


シェイドは、まずはこの包囲網を脱出しようと姿を消す。

だが、二人の姿が再形成される場所を見透かしたように待ち構えていた木原に、姿を現した瞬間Shehaqimで殴り飛ばされる。

同時にうめき声を漏らす二人のシェイド。

と、それぞれの先にはさらにもう一人の木原が待ち構えていて、待ってましたとばかりに銃口でシェイドの鳩尾を一突き。

嗚咽を漏らす間もなく再びShehaqimで殴り飛ばすと、その先に待ち構えていた二人の木原が同時にShehaqimを構える。

二人がトリガーを引き絞り同時発砲。

それぞれのシェイドは体の中心部に大きな風穴を空けて散っていった。

同時消滅を確認した八人の木原は、一箇所に固まってもとの木原未幸に戻った。


「これが私の切り札、【紅の幻影】――レッドファントム! ……ってね♪」


銃口を下げ、任務終了を確信した木原は、そのまま神社を後にしようとした。

……が。


「そうか、確かにこいつは切り札と言える技だな」


その背後には、確かに倒したはずのシェイドの声が聞こえた。

咄嗟に振り返る木原。

その目の前にいたのは…… 間違いなく、シェイド本人。


「いやぁ、今のは流石に効いたよ」


「……冗談。君って死なないわけ?」


何度倒しても復活するのならば、先に体力が尽きるのはこちらとなる。

特に木原は先ほど大技を繰り出したばかりなので、体力的にもそろそろ限界が来るだろう。

何しろこの必殺技は、まだまだ出しなれていないので体力の消耗が激しいのだ。


「さて、みたところさっきの大技でだいぶ消耗したみたいだね?」


不気味な笑みを浮かべながら短刀を持って近寄ってくるシェイド。


「まあ予想外に健闘したことだし、ひと思いに殺してあげるよ」


丁度シェイドがそう言った時、二人の間の空間が歪んで一人の男が現れた。


「ん?増援――」


シェイドが言い終わる前に現れた男は短刀を持つ手を掴み腹部に膝蹴り。

掴んだ手をとって一本背負いのように投げると右手に装着している漆黒の鉤爪でシェイドの心臓を貫いた。


「無事か、木原」


とんでもないスピードで復活したばかりのシェイドを屠ったのは特務課の隊長、三嶋啓二だった。

今まで自分が手こずっていた相手をあっという間に倒すその手腕を目前にして、木原はしばらく呆然としていた。


「その様子だと無事のようだな。……さて」


案の定シェイドは別の場所で再形成された。

だが、その顔にはあの不敵な笑みが消えていて、代わりに驚愕の表情が浮かべられていた。


「なんだ、貴様は……」


まるで雑魚を相手にするかのようにあっという間に自分を倒した男を前に、いささか怯えたような声で尋ねる。


「やはりそうか、貴様の投影の能力は……」


そう呟くと、通信端末に手を伸ばす。


「……この僕を無視するなんていい度胸だな」


先ほどとは打って変わってとんでもないスピードで三嶋に接近してくるシェイド。

三嶋は通信機越しに何かを喋りながら右手の鉤爪で相手の短刀をいなしている。

シェイドの猛攻をまるで感じさせないその三嶋の動きに木原は感嘆すら覚える。


「くそっ、この僕が遊ばれているだと!?」


通信が終わったのかひといきついた三嶋は、ようやくシェイドの方を見やる。


「今、各隊員に同時撃破の指示を出した。

貴様の命運も尽きたな」


そう、制御室、学校前、そしてこの神社に現れたシェイドを全て同時に撃破することで投影の無限再生を破ることができるのだ。

通信越しの感覚では、どうやら副長の藍沢はこのカラクリに気づいていたようだが――


「さて、この任務で重要なのは同時撃破だ。

……時間が来るまで少し遊んでやろう」


そう言うと左手に装着してある篭手からも鉤爪が伸びてくる。

三嶋の両手に装備しているのは第一天界の名を冠するShamain[シャマイン]。

その姿は、鴉を思わせる漆黒の光沢を持つ篭手と四本の鉤爪。

鉤爪は一尺ほどにもなる長さを持ち、爪と篭手はいかなる衝撃でも防げるほど硬質な素材でできている。


「接近戦か、面白い!」


短刀を構えたシェイドが猛スピードで近寄ってくるも、その場にただ立ち尽くす三嶋。

そして無防備なその体に短刀が振り下ろされたかと思ったが、


「……遅いな」


次の瞬間短刀を持つシェイドの右腕がShamainにより貫かれていた。


「があぁっ!?」


思わず叫び声を上げるシェイド。

三嶋はそれを横目で見て突き刺したほうの爪に付着した血を振り払うように振る。

……が、相手は投影された「影」に過ぎないので、勿論その爪に血は付着していない。


「安心しろ、まだ殺しはしない……

ここで一度殺してしまうと全ての計画が狂うのでな」


まるでいつでも殺すことができると言わんばかりの三嶋の物言い。

その言い方が彼の逆鱗に触れたのか、怒りを顕にするシェイド。


「……いい度胸だよ、貴様は初めに殺す!」


シェイドから巻き起こる殺気。

だがそれでも三嶋は平然としてShamainを構える。

――瞬間、爪と短刀が弾けあい、飛び散る火花。

金属と金属がぶつかり合う甲高い音が神社中に響く。

だが、間違いなく今の戦況を有利に進めているのは三嶋のほうだ。


「……チッ!」


シェイドも理解し始めていた。

自分が押されているのは偶然ではなく、確実な実力差。

初めて会ったその瞬間にシェイドが瞬殺されたのは、シェイドが弱かったのではなく、この男が強すぎたのだ。

だが、だからといってこの勝負を投げはしない。

こちらにも、こちらのプライドと言うものがある上、この投影の能力がまだ健在なのだ。

何度死のうが負けることは無い。

やがては向こうの体力が落ちてきて――


「……!?」


シェイドが思案を巡らせていると、突如自分の体が不思議な感覚に襲われる。


「(しまった、分身がやられたか)」


その瞬間三嶋が今まで以上の速度で迫る。


「制御室のグループが貴様の分身の撃破に成功したようだな」


その言葉でシェイドは驚きを顕にする。

確かに分身が消える時に一瞬体に変化が起こるが、この男はそれを見逃さなかったと言うのか。

なんという観察力、そしてなんという――


「ということで、終わりだ」


三嶋が一言だけ言うと、シェイドの短刀を左の鉤爪で弾き飛ばし、右手の鉤爪で体を串刺しにする。

と、そのまま左右の鉤爪で敵の肢体をバラバラに切り裂いた。

ホログラフィーのように散っていくシェイド。

三嶋はそれを見ることもなく、木原の方に歩み寄っていく。


「おそらく、藍沢も同じタイミングで撃破に成功したはずだ。

……任務完了、ご苦労だったな」


労いの言葉を投げかけ、三嶋は通信機で何やら話し始めた。

どうやら、制御室にいる海藤がVTR内に散っている特務課のメンバー達を、現実世界へと戻す手続きをとっているようだ。

制御室との通信が終わったら、再び通信端末を操作して今度は別の人間と連絡を取っている。

おそらく、副長の藍沢とコンタクトを取っているのだろう。

最後に、「後のことは任せた」と言って通信を切り終えたその頃、彼女の体に変化が現れた。


「転送が始まったみたいね……」


そう呟く木原の姿が、徐々にうっすらと霞んでいく。

三嶋は、木原が完全に消えるまで、ただその場で見守っていた。

これから再び始まる闘争を前にして、昂ぶる気持ちを落ち着かせるように――

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