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―サイドA―

VTRには人がすっぽり入るぐらいのカプセルがいくつかある。

そのカプセルの中に副長を含めた七人が仮眠を取るかのような姿勢で並んでいる。

実際彼らは今現実世界にはいない。

特務課同士の模擬戦を行うために、バーチャルが作り出す仮想現実の世界へと旅立ったのだ。

七人が無事に仮想空間へと転移できたことを確認した三嶋は、ふぅと息をつく。


「さて、後はどうなるか…… だな」


VTR制御室にただ一人だけ残った三嶋は、そう呟いた。


***


その頃仮想現実空間では、七人の特務課がそれぞれバラバラな場所に転送されていた。


「とりあえず転送は無事できたみたいだな」


手足を降りながら体の感覚を確かめるのは海藤。

辺りを見渡してみると、塀に囲まれた民家が規則正しく並んでいる。

その様は日本によく見ることができる住宅団地そのものだ。


「これだけの住宅地だってのに人一人いないなんて、妙な感じだな」


苦笑しながら呟く海藤は、適当に他のメンバーを見つけるために道なりに進み始める。

直進したところで突き当たりに神社が見えた。

どこの神社だろうと鳥居を見てみるが、見たことのない名前だ。

おそらく、仮想現実が作り出した架空の神社だろう。

海藤は、何を思うのでもなく神社の石段で少し腰を下ろす。

普段はあまり吸わない煙草を懐から出して口にくわえると、火を点ける前にすぐに手に持った煙草を指先で弾く。


「やれやれ、気配を隠すのが下手だな」


そう言うと座っていた場所から飛びのく海藤。

直後に階段の上から無数の弾丸が飛来して石段を抉る。

海藤はすぐに石段の上を見据えると、そこには紫色のバンダナを巻いた金髪の男がいた。


「ヘッ、流石の反応速度じゃねぇか!」


「オレの始めの相手はお前か…… 八神!」


石段の上からいきなりの襲撃をしてきたのは八神周明。

海藤はデザートイーグルの銃口を石段の上の八神へと向けるが、八神は身を翻し、


「上がってこいよ海藤、こんな狭いところじゃなんだろ?」


そういい捨てて境内の方へと駆けて行く八神。


「望むところだ!」


海藤も八神の後を追って石の階段を駆け上がる。

そして境内に着いた時、目の前にはグロスフスMG3を構えた八神の姿が。


「さって、お前と戦うのは今回が初めてだな」


「……だな。だが手加減はできないぞ」


八神はその海藤の言葉を一笑する。


「そいつはこっちの台詞だ。

オレの天界武器、第六天界の名を持つZebul[ゼブル]の力を見せてやるぜ!」


そう言い放ち、構えた軽機関銃――Zebulを海藤目がけ連射する。

その破壊力は折り紙つきで、境内に生えていた大木さえもなぎ倒した。


「相っ変わらずの馬鹿力だな八神。

10kg近くあるMG3を片手で扱うなんてよ」


海藤はZebulの猛攻を避けながら続ける。


「けどな、どんだけ威力の高い得物でも当たらなければ意味がないぞ」


回避行動を取りつつもデザートイーグルを八神向けて発砲。

八神は驚くほど正確な海藤の射撃を、辛うじてかわしながら舌打ちする。


「やるじぇねぇか。

拳銃を取らせると右に出る者がいないというのは満更でもなさそうだな」


「今更だぜそんなの」


発砲により八神の隙を作った海藤は、今度は八神の馬鹿でかい得物に照準を合わせる。

軽機関銃というだけあってその銃身は通常の拳銃とは比べ物にならないくらい長く、その分狙いも定めやすい。


「っと、そうはいかねぇよ!」


そのことに気づいた八神は、Zebulを大きく振り回し海藤の狙いをかく乱させる。

だが海藤もそれぐらいの挙動は予測済みだ。

今度は無防備にさらけだされた八神の本体向けて発砲。

海藤の放った銃弾は、八神の体を貫通する。


「……ッ!」


八神が撃たれた場所を抑えて後ずさりする。


「お前は力はあるが、お世辞でも俊敏とは言えないからな。

それだとただの的だぜ?八神!」


立て続けに数発の銃弾が八神の体を貫通して、くず折れる八神。

これで勝負が決したと思った海藤は、銃口から立ち上る煙を吹いてその場から立ち去ろうとする。

――が、本当の戦いはここからだった。

油断した海藤のすぐ側をガトリング弾が奔り、目線の先にあった狛犬を木っ端微塵に破壊する。


「おいおい、まだこれからだろ?何帰ろうとしてんだよ」


振り返った海藤は、銃弾を体が貫通したにも関わらず平気でZebulを構えている八神を見て驚愕する。

間違いなく、放っておけば死に至る致命傷レベルのダメージを八神は受けているはずだが――

その八神はなんてことの無かったように中指を立てて海藤を挑発する。


「そういや、お互いの天界武器の名前は知ってるけど、能力は初見せになるよなぁ?」


そう言って撃たれた場所の服を捲り上げる八神。

見ると、確実に弾丸が体を貫通したはずなのに、何も無かったように傷口が塞がっている。


「八神、お前は――!?」


「安心しろ、ロボットなんかじゃねぇ…… れっきとした人間だ」


嘲笑うように応える八神。


「Zebulはオレの細胞の動きを活性化させる能力を持っている。

つまり―― これぐらいの傷ならすぐに自己回復できるんだよ!」


言うと同時に再びZebulを乱射する八神。

つまり、八神の言い分によると多少の傷はすぐに完治する自己再生能力を有しているらしい。


「厄介だな」


そう呟いた海藤は再びデザートイーグルで八神を撃つ。

だが、それを八神は避けようともせずにその身に受け、


「――ッ!やっぱデザートイーグルは効くなぁ。

だがお前、そいつは『.44Magnum』だろ?

オレを粉砕するつもりなら『.50AE』ぐらいを用意しときな!」


ガトリング弾が地を奔る。


「……『.50AE』は好きじゃないんでな。

あの反動はオレ向きじゃない」


そう短く応える海藤は、銃を構えて八神に駆け寄る。


「ついに捨て身か?いいぜ、望むとおりにしてやるよ!」


突っ込んでくる海藤に狙いを定めてトリガーを引く。

だが、それを海藤は咄嗟に姿勢を低くしてかわし、さらに速度を上げて八神に接近する。

そして――


「テメェ……」


「なるほど、副長の言った言葉が理解できた。

……と、同時にチェックメイトだ八神。

確か、今回は通常一撃死となる攻撃はお前の能力も通用しないんだったよな?」


八神のコメカミに冷たい鉄の塊が押し当てられる。


「お前は一撃の破壊力はあるが、その分動きが大振りすぎる。

現に懐に入られるとこの様だ」


その言葉に八神は諦めた様子も無く応える。


「ヘッ、それで勝ったつもりかよ?」


その負け惜しみとも取れる言葉に海藤は肩をすくめる。


「この状態で勝算があるのなら是非とも教えてもらいたいもんだな」


もうこれで終わりだとトリガーに力を込める海藤だが、それより速く手にもつデザートイーグルが何かに弾かれた。


「――ッ!?」


海藤は思わずその場を飛びのく。


「よぉ、遅かったじゃねぇか」


そう言ってため息をつく八神の後方…… 神社の陰から人影が現れる。


「やれやれ、助けてあげたのにその言い草ですか?」


出てきたのは銀髪の青年、高遠元。

彼は先ほど海藤のデザートイーグルを弾いた短機関銃――OICWを下ろして八神の方へ歩み寄る。


「流石ですね海藤。周明一人では歯が立ちませんでしたか」


あくまでも落ち着いた物腰で海藤の方に顔を向ける高遠。

だがその闘気は何もしてなくても十二分に伝わってくる。


「さて、今度は私も貴方の相手をしてあげましょう」


そう言う高遠に、威圧感に負けまいと海藤はあくまでも着丈に振舞う。


「ああ、八神一人じゃ物足りなかったところでな。丁度良かった」


「テメェ、言ってくれるじゃねぇか……!!」


八神は今にも飛びかかりそうな形相で海藤を睨みつけるも、それを高遠に制される。


「では周明、見せてあげましょうか、彼に」


「ああ、吠え面かかせてやるぜ!」


まずは様子見とばかりに高遠が海藤目がけ発砲。

だがその狙いはそこまで正確ではなく、いくつかはその場から動かなくても外れるほどだった。


「ヘッ、そんな腕前じゃオレを捉えるのは無理だな」


「なるほど、では――」


OICWのFCS(火器管制システム)が作動し、照準の誤差を補正する。

そして先ほどとは打って変わって驚くほど正確な射撃が海藤に向けられる。


「なんだと!?」


高遠の持つOICWには最先端のFCSがついているため、照準の補正など他の銃器では手間がかかるものを一瞬にしてやってのけてしまう。

そして調整は済んだのか、今度は高遠が銀色のコートをなびかせて海藤に駆け寄る。

八神はというと、その場に留まって海藤向けてZebulを連射する。

Zebulの直線的な攻撃をかわし、高遠を迎え撃とうと拳銃を発砲するも、全てかわされる。

高遠は幼い頃から光を失っていて、目から入る情報を頼りにはしていない。

だがその分他の感覚が研ぎ澄まされているので、気配だけで物体との距離を測ることができるのだ。


「チッ――!ホントは見えてるんじゃないのか?その目!」


海藤がそうぼやくのも無理は無いほど高遠の回避は完璧で、尚且つこちらに向けて発砲してくる。

八神の軽機関銃よりは殺傷能力が低いとはいえ、高遠の短機関銃も連射が効く分油断ができない。

いつの間にか海藤のすぐ側までよってきた高遠は、OICWを海藤に向けるがそれを海藤は咄嗟に拳銃で弾く。

だがそれでも高遠は怯まずに、海藤の脇腹にミドルキックを入れ、そのダメージで一瞬怯んだところをOICWで殴り飛ばす。

すぐさま高遠は左に跳躍して、その射線上にいた八神が待っていたとばかりにZebulを連射。


「やっべぇッ!」


咄嗟に地面を転がって避けるが、そこを再び高遠は追撃する。


「貴方を誘いましょう、果て無き至高天の世界へと!」


高遠の持つOICWが一瞬光ったと思った瞬間、海藤から全ての感覚が消えうせる。


「な――ッ!」


「セブンスへヴン!!」


高遠がそう叫ぶのと同時に、それぞれ赤や青といった色をした光の矢のような物体が七本、全方位から海藤の体に突き刺さる。


「がはっ!」


海藤の体中をとんでもない衝撃が貫き、その場で崩れ落ちる。

と同時に海藤に先ほどまで失われていた感覚が戻ってくる。


「回避不可能な無の境地――

私のOICW――Araboth[アラボト]は伊達に第七天界の名前がついているわけではないんですよ」


そう言って、止めと言わんばかりに海藤にArabothを向ける。

だが――


「やべぇぞ元!後ろに跳べ!」


後方で援護していた八神が高遠に叫ぶ。

八神の指示通り咄嗟に後方に跳躍すると、高遠がいた位置に何かが奔る。

視認はできない高遠だが、その研ぎ澄まされた感覚ですぐに銃弾と判断。

しかもこれは――散弾?


「やっほう♪正樹ってばまだ生きてる?」


戦場で発するとは思えない明るい声で死に掛けの海藤に呼びかけるのは、木原未幸。

どうやら彼女もこの近辺にいたようだ。


「木原……ッ!?」


高遠は木原の乱入に驚きを見せる。

八神が教えていなければ確実に今ので死んでいた――

だが高遠が驚いたのはそんな生死のことではない。

彼が一番驚いたのは、『自分が木原の存在に気づかなかった』という事実だ。

彼は目が見えない分、全ての感覚が他の特務課の面々を凌駕しているはずなのだが――


木原は二人に銃口を向け、牽制しながら海藤の方へと駆け寄る。


「体が仮想現実から消滅してないってことは、まだ生きてるよね?」


海藤に確認するように問いかける木原。


「……辛うじてな」


体の痛みを抑えながらゆっくりと立ち上がる。

『この様子だと骨は何本かいっているかもな』とまるで人事のように苦笑する。


「やれやれ、呆れた丈夫さですね……」


高遠が皮肉っぽく言う。

彼としては今のが最大の大技。

アレを受けて立ってくるなんてよっぽどの頑丈さだ。


「さてと、一応二対二になったわけだけど、どうする?」


木原が高遠と八神に尋ねるように問うが、応えは決まっている。


「貴方もまとめて葬るだけです」


そういう高遠だったが、明らかに様子がおかしい。

不審に思った八神は、高遠の元へと駆け寄る。

そして高遠から八神に向けて開口一番に出た言葉は――


「周明…… 今、”彼女はどこにいる”んですか?」


「なんだと……?」


もちろん冗談で言ったのではない。

苦悩するように辺りの気配を読み取ろうとする高遠だが、その度に頭を抱えている。

八神は目線をまっすぐに向けると、明らかに高遠のすぐ目の前に木原がいる。

その距離はまだ開いているが、せいぜい数メートルほどだ。

だが、高遠はそれを感じ取れてない?何故、彼ほどの感覚の持ち主が……


「あぁ、そっか。

元って目が見えない分気配を感知するのに長けてるんだっけ?」


あっけらかんと言うのは高遠を困惑させている張本人の木原。

今目の前で喋っているというのに、高遠はどこから声が聞こえてきたのかを探す。


「だったら私とは相性最悪だね~」


言うと木原が八神の前からいなくなる。

いや、正確には――

八神の目には確かに木原の姿が映っているのに、その存在が感じられないのだ。


「馬鹿な、テメェまさか――」


「そのま・さ・か♪

ごめんね~、私ってば完全に気配を消すことができるんだ」


微笑むと同時に目の前の木原が”いなくなる”。

それは彼女が高速に動いているため目に捉えられないというわけではない。

実際そういう表現が正しいほど完全に彼女の持つ存在感というものが無くなったのだ。

まだ辛うじて目で追うことができる八神だが、高遠はもう完全に困惑している。

高遠の代わりに八神がZebulを木原に向けるも、その銃身に今度は別の方向から弾丸が突き刺さる。


「お前の相手はオレだぜ…… 八神!」


「チッ、こんの死に損ないがぁ!!」


先に弱っている海藤の方をしとめようと、Zebulの銃口を海藤に向ける。

だが、海藤は不敵な笑みを浮かべると、


「そういや、こいつの紹介がまだだったな……

散々痛い目に合わせてくれたお返しだ。

今度はこのデザートイーグル、第四天界の名を持つMachonom[マコノム]の力を見せてやるぜ」


そう言うと銃のスライド部分に左手をかけて、


「ゲイル・モード起動!

見せてやるぜ、陣風の鷲の実力を!!」


ゲイル・モードが起動したMachonomから、通常では考えられない速射性で弾丸が放たれる。

ただでさえ回避行動が不得意な八神はその攻撃を一身に受ける。

悪態をついて海藤を睨もうとするが、もう既に彼はすぐそこまで来ていた。

手にしたMachonomの銃口の周りを旋風のようなものが取り囲み、


「これで止めだ、ゲイル・イーグル!」


そう海藤が叫ぶと同時に八神を中心として凄まじい衝撃波が巻き起こる。

その衝撃波は辺りを巻き込んで、周囲の木々を揺らす。


「周明!?」


嵐のように荒れ狂う突風の中で相棒の名を叫ぶ高遠。

そして巻き起こる風が落ち着きを見せた頃に目に入ったのは、仁王立ちに立つ八神とそのすぐ目の前で片膝をつく海藤。

しばらくの沈黙の後、八神は顔に苦笑いを浮かべる。


「……ヘッ、こいつはすげぇな。

一瞬で十発以上の鉛玉を撃ちこみやがった……」


未だ喋れるのは彼の自己再生能力の強さ故だろうか。

その頃三嶋が管理するモニターには、八神に『DEAD』の文字が照らし出されていた。


「すまねぇ元。オレはここでリタイアみてぇだ」


そう言うと、まるで砂が風によって吹き飛ばされるように八神周明の姿が消滅した。

と、そこで高遠は我に返る。相方の心配をしている場合ではなかったのだ。

OICWを調整してなんとか木原を迎え撃とうとするも全て空振り。

木原はそんな高遠を見かねてか、ゼロ距離まで接近すると得物のベネリM4を高遠に押し当てる。

その時、高遠は観念したようにふっと笑って、


「ここまでですか……」


そういい残し、木原が持つ第三天界の名を与えられた赤暗色のベネリM4――Shehaqim[シェハキム]の前に散った。

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