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春爆竹  作者: ゆるゆん。
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上靴マヨネーズ

翌日 登校すると、上靴がマヨネーズだらけになっていた。


『おぉ!斬新!』

私は呟いた。

なかなかないよね、上靴にマヨネーズ。


一応、携帯で撮影してから玲央の靴箱をチェックする。

まだ来ておらず、静かに上靴が並んでいる。


ふふふ。無防備だね。


自分の上靴は大丈夫とでも思ってるのかな。


私は玲央の上靴を取り出し、足を入れた。

うん。悪くない。


名前が書かれていないところもいい。


私はペンケースからマジックを取り出し、大きく名前を書く。

『水野萌』


これで今日の上靴には困らない。



何食わぬ顔で教室に入り、席についた。

玲央の子分の詩織と美雨が、こっちを見て、なにかコソコソ話している。

マヨネーズの犯人はあの2人か。


そこへ なにか苛立った様子で、玲央が入ってきた。

もちろん足元は裸足である。

私は思わず吹き出してしまい、慌てて窓の方に顔を逸らした。



『上靴、返してよ!』

玲央が迫ってきた。



『なんの話?』

私は キョトンとしてみせて、玲央の顔を覗き込む。


『早く返してよ!!』

玲央はしゃがみ込んで 私の足に履かれた自分の靴に、手を伸ばしてきた。

同時に私の足は 玲央の顔面を蹴り上げた。


『あっ、ごめ~ん!大丈夫!?』

私は また、玲央を覗き込んだ。

玲央は鼻血を流して 涙目になっている。


『鼻血出ちゃったの、ごめんね?』

真っ赤な玲央の血とは対照的に、私の心は、どんどん冷ややかに凍っていった。



始業のチャイムとともに、担任教師がやってきた。


玲央は助かったといわんばかりに担任に、

『先生!水野さんが私の靴はいて返してくれません!!』と告げ口した。

アホかこいつ。

マヨネーズの事、忘れたんかい。


担任は怪訝そうな顔で私に近づいてくる。

『水野さん、そうなの?』

私の席の前まできて、そう尋ねてきた。


『違います、これは、私の靴です。』

私は大きな声で、丁寧に、嘘をついた。

『福田さん、なにか勘違いしてるみたいで、困ってるんです。』

私は 靴に書いた名前を見せた。


担任は困惑しているようだ。


玲央の方に向き直り、

『水野さんはそう言っているけれど…?』

担任はそう言った。


『でも、萌の上靴は…』

詩織が言いかけて口をつぐんだ。


『水野さんの上靴が、なぁに?』

担任が詩織に聞き返す。


詩織は俯いて何も言えない。しまったと思っているのだろう。それを玲央が睨みつけている。


『あれ!?福田さん、鼻血出てるじゃない!保健室で手当てしてらっしゃい。』

玲央の鼻血に気付いた担任は、玲央を保健室へ行かせた。

教室を出ていく玲央、ペタペタと裸足の音がしている。


『結局どっちの靴なわけ!』

『俺 下駄箱スゲー汚かったの見たー!!』

『知ってる!マヨだべ!!』


男子達は、くちぐちに、はやし立てた。

担任、ますます困惑。


女子は全てを知っているくせに、黙ったままだ。

それは、直接意地悪をしてくる玲央達より、よっぽど卑怯な行為に、私には見えた。


『ひとまず、朝の会、始めます、日直さん!』

担任がそういってその場を収める。


朝の騒動は、ひとまず終了。


騒動は収まっても、いじめは相変わらずだ。


この学校では《全員遊び》なるものがあった。

休み時間をクラス全員で楽しみましょうねという趣旨のものである。

クラスの結束を目的としている。


今日がその、全員遊びの日だった。

たいていの場合、その日は鬼ごっこである。


今回は手つなぎ鬼。

読んで字のごとく、鬼が手をつないで追いかけるのだが、これがまた、厄介だった。


玲央が、ある通達を回していたのだ。


『萌とは手、つながないことね!』


それは女子の間に、するすると伝わってゆく。


自分が命令し、それがクラスの女子全員を支配している。

トップは自分である。

それが玲央の歪んだ自己肯定なのだろうか。


玲央の通達のおかげで、女子は見事に誰一人として手をつないでくれなかった。


必然的に手をつなぐのは男子だけになる。

それをみてニヤニヤ、クスクスと笑う玲央達が目障りだった。


『萌さ~男子と手ぇつないで、喜んでたよね!』

終わり際には そんな言葉まで聞こえてきた。

『ホントホント!感謝してほしいよね~ウチらに!』



そして すれ違いざまに玲央が私に耳打ちした言葉は衝撃だった。



『インラン』



!!!?


今、淫乱って言った?


淫乱って!?


これにはビックリした。

小学5年生が どうしてそんな言葉知っているのだろう?萌なら、この言葉を耳打ちされても、悪意を感じるだけで、意味はわからないだろう。


いや、玲央も意味まではわかっていないのかもしれない。


全てがそうなのだ。


悪口の意味も、無視も、仲間外れも。

子どもたちは、いじめの本質などわかっていない。


ただ、面白いから、ただ、気に入らないから、ただ、権力のある子どもが怖いから…


深くなんて考えていないのだ。

わからないまま、いじめの波に飲み込まれ、流されていく。


そして、いじめられる側は、時には死に追い込まれる程に 深い深い苦しみを味わう。



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