無限の宇宙、自由なランチ
45分かけて、奇襲大作戦を練ってみたが、名案は浮かばなかった。
ドラマや漫画では、水をかけるとか、ゴミ箱のゴミをかけるとか、インパクトある場面では、髪を切ってみせたりしているけど…
それをしたところで、なにかが 良い方向へ進むのかと思うと、闘争心は一気に萎えた。
かといって このまま帰る気にもなれなかった。
私には、いじめにあって、やられっぱなしになっている子どもの気持ちはわからない。
なぜ、大声を上げて反撃しない?
もしくは、全速力で逃げればいいと、私は思う。
帰りの会も終わり、私は下駄箱の陰で、玲央を待った。
足元には、水をはったバケツがある。
しばらくして、玲央、詩織、美雨の笑い声が聞こえてきた。
心臓が速くなり、体が強張る。
音だけで様子を探り、タイミングを計った。
そして、下駄箱の陰から飛び出した私は、玲央の顔めがけてバケツの水を全部かけた。
びしょ濡れになって あ然としている玲央に、横に立っていたために これまたびしょ濡れの玲央の子分、詩織、美雨に、間髪入れずに捨てゼリフを吐いた。
『これ以上くだらないいじめを続けるなら、こんなもんじゃ済まないからな。』
『お前らの人生、グチャグチャにしてやる。』
それだけ言って、走って逃げた。
本当は、どうやって人生グチャグチャにしてやるかなんて、知らないけどね。
『こーわっ!』『女子恐っ!!』
男子の騒ぐ声が聞こえる。
先生にチクられたり、これ以上騒がれては面倒くさいから、とにかく、逃げた。
走って走って家に着くと、萌はソファで毛布にくるまって眠っていた。足を曲げて、その膝を腕で抱えるようにして。
そんなに小さく縮こまらなくていいんだよ。
もっと、足も腕も伸ばして、大の字になって眠ったらいいのに。
私はその寝顔を見ながら、今日、学校であったことを 萌になんて話すか考えていた。
知りたくないかな。
聞いてくるかな。
結局、萌は何も聞かなかった。
私も、何も話さなかった。
夜は萌とカレーを作ることにした。一日中何もしないより、ひとつでも、仕事というか、やるべきことがあった方がいい。
小さな頃から、料理に興味があり、萌はそれなりに料理ができた。
夜ご飯担当は萌ということにした。
ちなみに昼ご飯も、私は用意しなかった。
毎日、好きなものを食べて、と私は言った。
手作りするなら、冷蔵庫の中身は使っていいから。
お金は渡さなかった。
今日のランチは棚にストックしてあったカップヌードルだったようである。
だんだんと、自由を味わって欲しかった。
パスタひとつにしても、1人きりで、好きな具材、好きな味付けに、自由にしていい。
食べる場所だって、好きにしていい。
きっとそれが、今の萌の、息抜きになるはずだ。
何をするのも、自分で選んで決めていい。
世界は広く、宇宙は無限だ。
どこへだっていけるんだ。
狭い教室で、手足を縛られるような息苦しさの中で、自分のつま先しか見えてない萌。
顔をあげて?
空の色をみて、緑の匂いを嗅いで?
一日一日、景色は風にのって流れているんだよ。