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春爆竹  作者: ゆるゆん。
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発芽玄米おにぎりと初登校

本日の朝ご飯。


発芽玄米おにぎり、梅肉入り卵焼き、じゃこおろし、プチトマト、バナナ入りヨーグルト。


朝は、みんな食欲がないから、少しずつをワンプレートに。


小学生の朝は早い。3人でいただきますをして、トイレも忘れずにね。すぐに登校時間になる。


ヤスさんが出勤した後、萌と朝の短い作戦会議。

とは言っても、萌はほとんど話さない。

今日ママが萌として学校にいけば、萌の最近の不調の原因もわかるだろう。

萌は一昨日 病院で『学校行かないで』と一度言ったきりで、もうなにも、言わなかった。

観念したのか、それとも、私に全てをみて、気づいて欲しいのか。


ま、いいか。


『とりあえず、行ってきまーす!』

11歳の萌母さんが、手を振って見送ってくれた。



学校までの15分。

萌は何ヶ月か前から、1人で登校するようになっていたから、もちろん今日の私も1人。

私は、周りの子ども達を観察しながら歩いた。

無意識に知ってる子を探す。

萌と一番の仲良しだった彩芽はどうしているだろう?放課後は しょっちゅうお互いの家を行き来し、「大親友!」「うちら、さいきょー!」なんて書いた手紙をいつも萌は持って帰ってきた。



その彩芽からの懐かしい手紙に学校に着いてすぐ別の形で再会することになる。



萌の上靴に、小さく小さく折られた紙が入っていた。


ー水野萌様



 また 学校に来るなんて残念です。

 ずっと休んでてください。

 てゆうか、なんで 死ななかったの?

       

    彩芽 愛梨 珠理 苺 香音 梨華 凛 

    乃々美 理奈 奈央 桃花 桜 真央

    詩織 美雨 朋夏 仁子 玲央ー



一瞬にして怒りで胃のあたりが熱くなる。


クラスの女子全員の名前が書いてある。

全員で書いた?

でも、筆跡は一人分。

誰か仕切っている奴が必ずいるはずだ。

誰か先陣を切っていじめてる奴が。


とりあえず、トイレに隠れて、手紙を撮影しておく。証拠は残しておいた方がいいんだよね?

小学生は携帯すら自由に使えないなんて不便すぎ。

しっかし ムカつく。

くそガキどもめ、こんな手紙コソコソ書きやがって。

どうしたら、いじめはおさまるのか…

もちろんそれを考えて冷静に行動しなきゃいけないのはわかっているけど このまま何もしないでいられるわけがない。

腹の虫がおさまらないどころか煮えたぎっている。


制裁の手段を考えながら、教室へ向かった。

名案がまだ浮かばないのに、もう教室についてしまう。

中に入ってまずは真っ直ぐ彩芽に近づいていった。


『これ、彩芽が書いたの?』

さっきの手紙を 彩芽の顔の前に差し出す。

彩芽は言葉に詰まり、チラッと斜め後ろを振り向く。

クラスの他の女子もチラチラ、彩芽と、斜め後ろの女子を見比べている。

その様子から、彩芽が主犯格でないことがわかり、内心ホッとしていた。

萌は彩芽が大好きだったから、戻れるものなら戻りたいと思っているはずだ。

あんなに仲良かったのに。

どうして萌の味方になってくれなかったの?

どうして強い子の言いなりになってるの?


『ねぇ、彩芽。聞いてんだけど。』

私の二度目の質問に、彩芽はまた、チラチラと斜め後ろの福田玲央の様子を窺った。


『あんたが書いたのかって、聞いてんだよッ!!』

まだ斜め後ろをチラチラ気にする彩芽の仕草に

カッときて彩芽の机を蹴り倒してしまった。

机の中から、教科書やノートが散らばり、机の上に彩芽が苺と広げていた可愛いメモ帳は、ずいぶん遠くの床に飛んでいった。

朝から可愛いメモ帳見せっこして、楽しそうだね。

萌はいつから、そんな些細な楽しみを 奪われていたんだろう。

こいつらに。

その彩芽は肩を震わせているけど、大人気無いなんて思わない。

子どもの方が無知な分だけ、残酷だ。


次はお前だからな、と私は福田玲央を睨む。


さすがに いじめの主犯だけあって、怖じ気づくどころか睨み返してきた。

むしろその、全く子どもらしくない、狂気に満ちた不安な目をみてとったとき、私はその子の中に、大きくて深い闇が見えた気がした。


残念だけど、私は萌じゃないからね。

32歳をなめんなよ。


授業中も、小さな嫌がらせは続いた。


体育で、2人一組の体操をするときは もちろん余ったし、教室に戻ったら、筆入れの中の鉛筆の芯が、全て折られていた。

ついでに、消しゴムも無くなっていた。



ほうほう。

所詮、11歳、こんなもんかのぅ。

私は どこか他人ごとのように、のんきな部分があった。

とは言え、萌には、これはキツいだろう。

1人ぼっちで過ごす学校も、無視も、折られた鉛筆も。

消しゴムが無くなっても、新しいの買ってと私にいうことすら、できないかもしれない。


ちょうどいいタイミングで この事故が起こって良かった。

私が、萌の代わりに闘う。


親の介護を自分だけでやるのが辛いように、いじめだって、誰かと交代で、闘えばいい。

人は自分の悩みには敏感で弱いけど、他人の悩みには強くなれるものだから。



…しかし、面と向かってやってくれないと、反撃しずらいな。


帰るまでに、玲央を一発泣かせてから帰りたい。


奇襲をかけるしかないな。

私は5時間目の国語は上の空で、福田玲央奇襲大作戦を練っていた。


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