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春爆竹  作者: ゆるゆん。
23/27

萌 ごめんね。

目が覚めると、薄闇の中だった。


頭が痛い……


ソファに横になって眠っていたようだ。

からだを起こすと頭がガンガンした。

「いたー…」

独り言がでる。と同時に思い出した。

玲央に切りつけられた顎。

しかし手を当てると驚いたことに傷がない。

動揺して 慌てて鏡に駆け寄り更に動揺することとなる。


桃だ。


自分だ。


私。 私の顔。私の手に私の足。


歓声をあげた。興奮して ひとしきり はしゃいでしまった後、我にかえる。

萌は…?


家には誰もいない。携帯は私が入った萌が持ち歩いていたから無い。


家の電話から、ヤスさんの携帯にかける。

番号を押す指が自分の指であることに喜びを感じる。

11歳のそれと比べると、ガサガサで、しわっぽい私の指。それでも自分の指が愛おしかった。


「はい」

ヤスさんの声を自分の耳で聴く喜び。


「戻ったよ。桃。戻った…」

最後は涙声になってしまった。


「マジで。俺いま病院。萌はクラスの子に彫刻刀でやられてさ。市立病院だから とりあえず早くきて。」

玲央に切りつけられた傷は出血のわりに浅かったが、当たり所が悪く脳震盪を起こして何度か吐き、今は眠っているらしい。

目が覚めたら、萌も、萌であるはず。


いや、吐いて吐いてしていた萌も、すでに萌に戻っていたはずだ。私にその記憶はない。


タクシーに乗り込んで、ハタと自分をみる。


なんちゅう服じゃー…


トップスは 大きい黄色のスマイルのプリントされたTシャツ、下は チェックのミニスカートだ。

恥ずかしー!!

萌いつの間にかこんなの買って、家で着てたんだね!

恥ずかしい!もちろんスッピンだし!


もちろん ヤスさんは そんな私を見て失笑、でも、涙目で抱きしめてくれた。

本当はすごく心配してくれてたんだって実感する。


そして病室のベッドで眠っている萌。


顎に大きなガーゼを当てられて、点滴もしている。萌ごめん。守ってあげられなかった。

大切な大切な萌の体を預かっていたのはママだったのに。

萌が怒っていた通り、ママ、玲央にばかり気を取られていたんだね。

ごめんね。

女の子なのに、顔に怪我をさせてしまった。

いじめと闘うとか、玲央を助けたいとか、調子にのってた自分を心から恥じた。

後悔で、涙が止まらない。


「傷は、残らないって、先生が。」


ヤスさんが、声をかけてくれる。

「個室だし、今日は付き添っていいって。今日はさ、3人でいよう。」


私は萌の手を握ったまま、すがるように泣いた。




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