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春爆竹  作者: ゆるゆん。
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入れ替わり。

意識が戻った私がいたのは どこかの病院の病室だった。

2人部屋のもう一つのベッドには知らないおばさんが寝息をたてている。


萌。萌は?


起きあがると目眩がした。

咄嗟にベッドの手すりを掴み、目眩が静まるのを待つ。

頭がガンガンする。


目を瞑ると 事故の瞬間 飛び散った血飛沫の映像が蘇ってきた。

不安が、恐怖が、焦燥が、全身を駆け巡った。


まだ頭はクラクラしたが、焦りが先にたち、私はベッドから飛び出した。

瞬間、金属のぶつかり合う激しい音が病室に響く。

点滴棒が倒れ、針を無理やり引き抜いた私の腕からは血が飛び散っている。

点滴をしていたことに気づいていなかった。

白いシーツに、赤い沁みが点々とついたのを見て、心臓がドクンと強く鼓動した。

その鼓動によって一気に心臓から血液が流れていくのを感じる。


廊下に出ても看護士さんの姿は見つからなかった。

ナースステーションを探す。



するとヤスさんが立ち話をしている。

ヤスさんは、私の夫であり、萌の父親である。

夫をさん付けで呼ぶと なんか変とか、年上なのとか よく言われるが、出会ってからずっと、ヤスさんは、ヤスさんだ。

ちなみに同級生。



走り寄って声をかけようとして、しかしすぐに足が止まった。

ヤスさんと話している女性が自分にそっくりだったのだ。

まじまじと女性に見入る私。

うわー。うわー。

なにあの人。なんで。

一瞬 萌を探していることすら忘れてしまうくらい、それは衝撃的な、同時に、不思議な光景だった。


女性は私に気づいて こちらに近づいてくる。

私に、私が、近づいてくる。


『ママ?』


???


ママ?私があなたの?


『萌だよ。萌なの、ママに見えるけど、萌なの。』


私のからだ、私の声、でも、萌の話し方だ。

少し鼻にかかる、甘えた萌の、話し方。


『ママ、見て?』

『ママ、萌になってるんだよ?わかる?』

助けを求めてヤスさんを見たけれど、ヤスさんは、きょとんと私を見つめ返しただけだった。

そうだった。

ヤスさんは、どんなことにも動じない、動揺することのない人なのでした。

そこが、ヤスさんの、一番好きなところ。



萌はそんな私の手を引いて、大きな鏡の前に立たせた。

萌さん、ずいぶん冷静なんだね。

慌てているのは、私だけみたいだ。



鏡には、萌の言うとおり、萌が、萌になっている私が、映っている。


『ママと、萌、入れ替わったみたい』

萌が言う。

『入れ……替わった…みたいだね?』

心臓がまたドクンドクンと鼓動を打ち始めている。

萌の、心臓。

でも、それを感じているのは、私、桃だ。



『テレビで、やってるじゃん!あの、アニメでさ。あれと同じだよね?ママ、わかんない?』


『いやいや それはわかるけど!!そんなの、そんなドラマもアニメも映画も、何度も見てるけど!!

昔から、いっぱいあるからね!でも、そんなの空想でしょ?フィクションでしょ?』

受け入れることができずに、でも、だってを繰り返す私に、ヤスさんは、こう言った。


『萌…いや、桃か?昼飯じゃね??俺なんか買ってくるわ』


相変わらず動じない男、ヤスさん。

今日も、どっしりして、ピクリとも動揺してないみたい。



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